〇『良心の呵責』とは

「週刊ビッグコミックスピリッツ」2021年40号に載った読切漫画。浄土るる先生は短編漫画を発表している漫画家で、作品の前衛性と独自性により話題を呼んでいる。デビュー作は『鬼』という読切である。

 

 

〇本作のポイント

・主人公である「遠藤れん」と、主人公の友達である「清水古夏」がメインキャラクター。

 

・冒頭ページの「可愛い友達がいる。」「すごく可愛かった。」では現在形と過去形が使い分けられている。「可愛かった」と過去形なのは彼女が事故により顔を怪我したため。

 

・本作に限らず「週刊ビッグコミックスピリッツ」2021年40号に載っている漫画は吹き出しの中の文に読点・句点がついている。これは『BLEACH』や『NARUTO』などといったジャンプ漫画とは対照的。

 

・「そうだった ごめんね…」というコマでは一瞬、顔面全体が包帯のようなもので覆われているように見えるが、実際は目や口が描かれていないだけなのだろう。これは主人公が「もう許して…」と呟くコマでも同様。

 

・教師「授業、退屈だね。」主人公「はい…あッ、いや…すみません。」というコマなど、ギャグシーンとしてクスリと笑えるコマもある。

 

・主人公「はい…あッ、いや…すみません。」のコマ以降、読者はどこまでが作中における現実世界で、どこからが精神世界なのかを自ら判断する必要がある。

 

・「なんでそんなに、楽しそうなんだろう。」というコマではメインキャラ二人が宇宙の中に居て地球の上に乗っているかのごとく描かれているが、地球というモチーフは浄土るる先生初の単行本『浄土るる短編集 地獄色』の表紙でも採用されている。

 

・「ママ、プリクラが何か知ってるの?」というコマでは、主人公が眼鏡をかけているように見える。

 

・コマ割りでは縦線と横線だけでなく斜め線も使われている。デビュー作『』と比べて斜め線の使用率があがっているが、斜め線を使ったコマ割りは読者に緊迫感を抱かせる効果がある。

 

・一概に笑みと言っても、狂気や皮肉を孕んだ「影のある笑顔」と、「屈託の無い笑顔」とがあるが、本作では両方の種類の笑みが描かれている。そのことは、顔面の一部が包帯のようなもので覆われていても口を記号的に描く手法を使えばキャラクターの笑みを表現しやすいことと関係があるのかもしれない。

 

・浄土るる作品は『鬼』など毒親が登場するものが多い。だが、よく読むと主人公の親と清水古夏の親は毒親っぽさに差がある。前者はまだ常識的な言動の範囲内にとどまっているが、後者は自分の子供に対して直々に「勉強もピアノもスイミングも何も出来ないから要らない」と言い放つ異常性を漂わせている。

 

・「友人が一人しかいない者にとっての友人」と「友人が複数人いる者にとっての友人(の中の一人)」の差が本作におけるテーマの一つか。

 

・最終ページの最後のコマでは古夏が主人公を抱きしめている。古夏と主人公に大きな身長差があるのは、主人公の精神世界における古夏の姿が描かれているため。主人公と、小学生の頃のまま身体的変化が止まっている「(主人公の精神世界内の)古夏」との対比が見事である。