むかしむかし、或る国には最高裁国民審査という制度があった。
これは、有権者が政治家を決める選挙のついでに、最高裁判事の国民審査を行うという制度である。
「この判事をやめさせたい」という希望があれば、その判事に×をつけて用紙を提出し、希望がなければ何も書かずに用紙を提出するという仕組みで、×が半数を超えた判事は不信任多数となり、最高裁判事の資格を失うことになる。
最高裁国民審査という制度が始まって70年以上もの年月が経っているにも拘らず、この制度によって失職した最高裁判事はいない。
その国には流般(るぱん)という政治家がいた。
流般は祖父の代から続く世襲議員で、親の政治基盤をもとに与党ナンバーツーの立場を得ていた。
彼は改革というワードが大好きで、何か大きな制度改革は出来ないだろうかと毎日のように考えていた。
そんな或る日、彼は金融業を題材にした漫画を読んだ。
その漫画には「最高裁国民審査の制度を不信任の判事に×を付ける方式から、信任の判事に〇を付ける方式に変更すべき」との主張があった。
彼は「なんて抜本的な改革なのだろう」と感嘆し、実際に最高裁国民審査のスタイルを×を付ける方式から〇をつける方式へと変更させた。
そのニュースは新聞やネット等で大きく報じられた。
そして、4年後、国政選挙が行われ、方式変更後初となる最高裁国民審査が行われた。
その結果は驚くべきものとなった。
なんと、最高裁判事全員が不信任となったのであった。
どの判事も信任票は3割ほどあったのだが、誰一人5割を越えなかったのだ。
この珍事は世界的に話題となり、大手メディアは発生原因を探るべく街頭インタビューなどを行った。
調査の過程で、「最高裁国民審査の方式変更は確かにマスコミ等で大々的に報道されていたものの、政治経済に関心のない有権者の大半はそのニュースをそもそも知らなかったり、正確に理解していなかったりしていた可能性」などが浮上した。
また、「どの判事が信任になろうが不信任になろうがどうでもいいけど、十数人に対して、いちいち〇を書くのはめんどくさかったから、何も書かないまま用紙を提出した」とニュース番組の取材者に言い放った人もいた。
聞くところによると、この珍事の影響で流般は有権者からの支持を少し失ってしまったそうである。
(完)