【あらすじ:Cinemarcheよりの引用(→☆)。 この映画は、ストーリーの意外性等で観客を引っ張る作品ではないので、以下、通しで結末まで記述しております。これをお読み戴いてから、映画をご覧になっても、映画が貴方に与える感銘・感動には何ら影響無いものと思いますが、読む、読まれないは、ご自身で判断下さい。】
とても仲が良い、20歳の女子大生の典子(黒木華)と従姉妹の美智子(多部未華子)は、一生をかけて身につける何かを求めて、一緒に茶道教室に通い始める。
通う先は典子の母(郡山冬果)がただものではないと見込んだ、大きなお屋敷に一人で暮らしている初老の女性、武田先生(樹木希林)の教室。そのお茶室には「日日是好日」と書かれた大きな掛け軸があった。2人は意味はもちろん読み方にも悩む始末。
細かい茶道の作法を教えていく武田先生。それに対して一つ一つに意味や理由を問いかける典子と美智子に、武田先生は「先ずは、そういう風に決まっていることだから、取り敢えずと身につけていくように」と諭す。「お茶はまず形から、そこで出来た入れ物に、心を後から入れるもの」だと言われた2人は、稽古に通う日々を続ける。
大学卒業後、2人は別々の進路を歩むが、お茶の稽古は続ける。美智子は商社に入社するが、典子は希望の出版社に正社員としての採用は叶わず、アルバイトとして働く日々。
ところが、ある日会社を辞めた美智子は、田舎に帰り、見合いをして、さっさと結婚してしまう。美智子の決断力と行動力に、典子はどこか羨ましさを感じる。
一方の典子は、出版の仕事を求めつつも、なかなか中途採用もかなわず、やがて、30歳を過ぎて初めて家を出て、一人暮らしをしながらのフリーライターとして日々を過ごすことになっていた。
気が付くと、お茶の教室では古株になったにもかかわらず、工夫や進歩がないと先生に厳しい一言も受けてしまう。憧れの、武田先生の親戚の雪野(鶴田真由)には遠く及ばず、ずっと下の後輩として入ってきた10代のひとみの持つ素質に驚かされてしまう日々だ。
相手の裏切りで結婚にも失敗した典子、更に父親(鶴見辰吾)が病に倒れ、そのまま亡くなってしまう。
典子も先生も年を取って日々を過ごしていく中で、それでもお茶を続ける典子は、やがて何でもない日々、お茶を楽しめる幸せの素晴らしさを改めて感じていくのだった。これが、すなわち「日日是好日」なのだと、44歳になった典子は悟った。
【感想】
また、素晴らしい映画に出会った。本作品も、早速、本年日本公開映画「私のオススメ作品」に追加したい。:「君の名前で僕を呼んで」「孤狼の血」「ファントム・スレッド」「スリー・ビルボード」「レッド・スパロー」「ザ・シークレットマン」「ペンタゴン・ペーパーズ」「英国総督最後の家」「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」「タリーと私の秘密の時間」「きみの鳥はうたえる」「散り椿」「500ページの夢の束」「LBJ ケネディの意志を継いだ男」「負け犬の美学」「日日是好日」 (鑑賞順、評価順にあらず。)
映画の場面が変わる度に、「大寒」だとか「立春」だとか、そのときの二十四節気が字幕で出る。二十四節気は古代中国の戦国時代(紀元前5~3世紀頃)に作られたものだそうだが、それから24~26世紀後の現代で、時々TVのニュースでも話題にし、カレンダー等にも使用しているのは、日本ぐらいのものではないだろうか。現代の共産党支配下の中国でそれらがあまり生きているとは思えない。
四季の移り変わりをもっと細かく、日本人の感受性に合った二十四節気。まさに毎日が好日だ。
典子(黒木華)のナレーションで「世の中には、すぐに判るものと、すぐに判らないものがある。」と言う。後者の代表的なもののひとつが、茶道と言う訳だ。
もうひとつ、典子にすぐ良さが判らず大人になって良さが判ったものが、フェデリコ・フェリーニ監督の名作映画「道」(1954)。これは、森下典子の原作にもあるのか、それとも監督の大森立嗣のフェリーニへのオマージュなのか。いずれにしても、フェリーニの映画からの引用は無く典子の語りだけだが、映画ファンには嬉しい場面だ。
武田先生(樹木希林)が、典子と美智子(多部未華子)に言うのは、「頭で考えないで、自分の手を信じなさい。」 反復練習が大事だということ。これなど、スキーを含むスポーツ全般に通じるだろう(笑)
瓜ざね顔の典型的日本美人と言っていいのか、黒木華が美しい。今一番旬で売れっ子の女優のひとりだろう。本作では、20~45歳を演じているが、髪形とメイクの雰囲気を変えているだけと思うが、違和感はない。
美智子(多部未華子)は、望洋とした典子に比べ、自分で決めて、すぐ行動に移す現代的キャラ。典子との対比が面白く、多部未華子も好演と言って良い。
樹木希林演じる武田先生は、空気の様な存在感。こういう先生が、かつての日本には沢山いた様に思うのだが。
何気無い日常にこそ幸せがある。先日観たアメリカ/カナダ映画の「タリーと私の秘密の時間」(2018)でも、ベビー シッターのタリー(マッケンジー・デイヴィス)がに育児に追われるマーロに向かって言う、「子供たちに毎日決まった時間に同じことの繰返し。 それが、子供たちにとっては貴重で大事でかけがえのない時間なのよ。」と。本当の幸せとは、世界中どこでも同じなのだろう。
最後に:樹木希林さんは、この9月15日にこの世を去られてしまいました。希林さんは、膨大な数の映画、TV、CM等に出演されており、まだ物心のつかぬ幼児を除いて、希林さんの出演作を1つも観たことが無いという日本人はひとりも居ないのではないでしょうか。正に国民的女優だと思います。これからも様々な映画の中で、貴女にお会い出来るでしょう。改めてご冥福をお祈り申し上げます。
【スタッフ、キャスト等】
監督・脚本:大森立嗣
原作:森下典子の自伝的エッセイ「日日是好日-お茶が教えてくれた15のしあわせ」 (2002)
音楽:竸武裕子
撮影:槙憲治
美術:原田満生、堀明元紀
キャスト:
典子(黒木華)
武田先生(樹木希林)
美智子 典子の従姉(多部未華子)
典子の父(鶴見辰吾)
雪野(鶴田真由)
典子の母(郡山冬果)
上映時間:1時間40分
日本公開:2018年10月13日 現在公開中の劇場はこちらをご参照下さい。(→☆)
鑑賞日:2018年10月17日
場所:新宿ピカデリー
No.9600 Day 3391