IT従事者のうつ状態 | kyupinの日記 気が向けば更新

IT従事者のうつ状態

ITに従事する人々はしばしばうつ状態を始め、精神変調を来たす人が多いように見える。IT従事者といっても多岐に渡っているが、このエントリでは年がら年中パソコンと向き合っているような人たちを言っている。うちの病院はそこまでの大都会には所在していないのでそれほどではないが、首都圏だと大変な数の患者さんがいそうである。

なぜIT関係者がメンタルヘルスに変調を来たしやすいかだが、以前は単にその労働環境が悪いのではないかと思っていた。納期に間に合わせるために数日連続で徹夜をしていたとか、バグを直すのにうまくいかず、時間に追い詰められ、ハードな仕事を続けていたなどの話を聞いたことがあるから。

あと、パソコンそのものの問題。電磁波を発する上にバーチャルな極めて狭い空間も関係しているのかもしれない。物理的、身体的に視野が広がらないというのもありそう。またパソコンの仕事は光源を見つめ続ける業務でもあり、その辺りも脳に影響しているような気がする。かつてはブラウン管だったので今より悪かったと思う?が、現在の液晶はそこまでは悪くないにせよ、画面をスクロールする際のチラツキなども悪いのかもしれない(←これは自信なし。)

もう少し環境を吟味すると、この業界はしばしば上司に無理難題を言う変な人がいることもありそうだ・・(参考

実際、本人に付き添ってきた上司が、これからの業務上の本人へ配慮の仕方を聴きにきたはずなのに、全然、本人のfollowになっていない・・というのも目撃する。遂に、目の前で本人を叱責し始め、

セコンドは下がって!
あんた、何しに来たの?(みたいな・・)

といった経験もある。あのような環境では心が折れてしまっても仕方がない。

今回のエントリではIT従事者のうつ状態の治療をアップしている。読者のみなさんには参考になると思う。この治療には現代的薬物療法と代替療法の見事なほどの融合がみられる。

その青年はうちの病院に初診したが、当初は他のドクターにかかっていた。主訴は、

不眠。
頭がボーとする。
集中力が乏しい。
気力がない。
食欲もない。


といったところである。希死念慮も当初からずっとあったらしい。きっかけとしては、IT関係の仕事で多忙を極め、業務の面で上司と意見の相違があり悩んでいたこともある。現代的なうつ状態で内因性の雰囲気はやや乏しく、最近言われるようになった「非定型うつ病」や「新型うつ病」と呼ばれるものかもしれない。もちろん、「非定型うつ病」「新型うつ病」は僕は認めていない。まず名前が変だし。

これはあえて言えば、器質性うつ病性障害である(実際にこの病名がICD10にある。しかし診断基準に沿うものではなく、名前的にはピッタリ表現されているといった感覚)。

不眠も入眠困難や早朝覚醒ではなく、寝ても熟睡できず、すぐに目が覚めてしまうという。イライラし、気分が落ち込み、憂鬱もある。上司は言っていることは正しいが、やっていることは真逆な感じで困り果てていると言う。

仕事を休めなどといわれるが、実際は仕事の納期に追われ、休むどころの話ではない。全然休養がとれない。夜22時に仕事が終わればよい方で、よく深夜1時頃まで仕事をしている。土日も仕事が溜まっているため出勤することの方が多い。

しかし、彼は自責的でも他罰的でもなかった。これほどの状況なら、上司をメチャクチャに叩いても良さそうなものだがノーコメントなのである。その点でもちょっと不思議な雰囲気のうつである。

抑うつ、意欲低下、アパシー、希死念慮が前景であった(自責的なら内因性っぽいし、他罰的なら神経症っぽいと感じる)。無気力、無感動など、ある種の情緒が障害されているからこそ、何もコメントがないようにも見える。ここが少し違う。(注;上司を叩いたから器質性が否定されるものでもない)

また、彼はアスペルガー的でもない(特にコミュニケーションや自閉性において)。器質由来のうつ状態の雰囲気があったとしても、それをすべてアスペルガーとして良いはずはない。アスペルガーやその他の広汎性発達障害は「ファジーな器質性疾患」の1タイプに過ぎないから。

器質性と言ってもいろいろなのである。このブログでは、近年この辺が診断的にグチャグチャになっていることをよく指摘している。(参考

当初の主治医はドグマチールやメイラックスなどを少量処方している。しかし経過は芳しくなく、2週間目からパキシル20mgが併用されていた。またソラナックスなどのベンゾジアゼピンも併用されている。投与された日には希死念慮が昂じる感じで落ち着かなくなったらしい。通院1ヶ月目でも意欲が全然湧かない。その後パキシルは30㎎まで増量されている。

僕が彼を診察することになったのは偶然である。彼のIT関係の友人がちょうど僕の患者さんであり、その友人が僕に診察を受けるように勧めたらしい。そういう経緯で主治医交代になった。彼が初診してちょうど2ヶ月目であった。このパターンは珍しい。最初に診た時の印象だが、

一見して顔色が悪い
独りで考えごとをする。
時々いなくなりたいと思う。(消えてしまいたい)
集中できない。考えられなくなる。
気分がすっきりしない。
仕事をする時に手が震える。
(パソコンを使うときに尚更そうなる)
いつもぼーとしている。


本人の性格を聞くと、明るく社交的で気は強い方だという(見た目にはそんな感じではないが、本人がそう言っている)。最初は平凡にアンプリットを上乗せで50㎎処方し、パキシルを30㎎から20㎎へ減量してみた。

ドグマチール 50㎎
パキシル   20㎎↓
アンプリット 50㎎↑
アモバン   7.5㎎
メトリジン  4㎎
ソラナックス 0.6㎎
アレグラ   120㎎


その2週間目の様子だが、予想より思わしくなかった。この程度の量なのに3環系抗うつ剤の副作用が出過ぎているのである。彼は思っていたより抗うつ剤に強くない。この辺りの所見も彼が広汎性発達障害やファジーな器質性疾患であることを推測させる。

彼の話では、口の渇き、便秘があり、めまいがするという。気分はあまり良いとは言えない。それでも仕事は続けていたらしい。集中力が持たないという。少し撤退し、パキシル、ドグマチールの減量は継続。リボトリールを併用する。まず全般に薬を減量する方針とした。今後は必ず1週間ごとに再診するように伝えた。

ドグマチール 25㎎↓
パキシル   10㎎↓
アンプリット 25㎎↓
リボトリール 0.5㎎
アモバン   7.5㎎
メトリジン  4㎎
ソラナックス 0.6㎎
アレグラ   120㎎


20日目
体調はそこそこ良くなっているが、夜中に友人が電話をかけてくると意味が通じない。夜中に外出して記憶がない。立ちくらみは減りましたねという。口の渇きもほとんどない。不安感はある。職場ではいつも緊張状態です。少しリラックスするためにレスキューレメディーを勧めてみた。彼は薬に弱いからである。ところが、そのようなホメオパシーの治療は自分で既に試しているという。僕はとりあえずレスキューレメディーを飲んでみたらと言った。

西洋薬のうちドグマチール中止。パキシルは更に減量し、アモバンをドラールに変更している。たいした変更ではない。

パキシル   5㎎↓
アンプリット 25㎎
リボトリール 0.5㎎
ドラール   15㎎↑
メトリジン  4㎎
ソラナックス 0.6㎎
アレグラ   120㎎


30日目
身体がジンジンするというので、パキシルの離脱であろうことを説明し、しばらく我慢しておくように伝えた。

その数日後
仕事に行くと、気分がとてつもなく沈む。しかし身体の痺れみたいなものは次第に取れてきている。口の渇きは今はそれほどはない。仕事のストレスが酷い。集中力が出ないという。

性格や子供の頃のことを聞いてみた。幼い頃からとても活発な子で、運動神経は抜群という。(運動神経はメチャクチャ良い方で、なんでもできる万能型らしい)思い切ってトレドミンを併用する。これはいかにもうまくいきそうにないが、SSRIも3環系も増やせそうにないので仕方がない。

トレドミンは、このブログではあまりエントリがないが、使うことは使っている。トレドミンは副作用が少ないというより、3環系抗うつ剤とSSRIの双方の欠点を中途半端に持ち合わせている抗うつ剤と思う(参考)。SSRI的な焦燥感や希死念慮を惹起することが稀ではないし、頻脈や高血圧などの自律神経系の副作用も稀ではないからである。これで効果が優れるならまだ良いが、効果も中途半端なので個人的に評価が低いのである。実際、レメロンのエントリで触れた世界ランキングでも効果の点でジェイゾロフトなどに比べても低い順位になっている。(それでも面白い患者さんがおり、いつかアップしたい)

トレドミン  50㎎↑
アンプリット 25㎎
リボトリール 0.5㎎
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎
メトリジン  4㎎
ソラナックス 1.2㎎


40日目
体調はたいして変わっていない。仕事中と寝る前に少し悪いという。かえって悪いかもしれないという。まだ良いか悪いか判断できない。一応、トレドミンを100㎎まで増量してみる。

トレドミン  50㎎から100㎎へ増↑
(他変更なし)


47日目
立ちくらみはたまにあるくらいです。昼は眠い。仕事は全然集中できない。夜に何度も目が覚める。

アンプリットは25㎎より増やせないなら意味がないと思ったので中止。思い切ってトレドミンを150㎎まで処方。夜間不眠に対する効果も考慮しテシプールを併用する(参考)。

トレドミン  150㎎↑
テシプール   2㎎↑
リボトリール 0.5㎎
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎
メトリジン  4㎎
ソラナックス 1.2㎎


54日目
昼はずっと憂鬱な感じです。ちょっとクラッとすることもある。頭痛と立ちくらみがあります。今は半日だけ仕事をしている。これまでの治療経過では、薬の反応性が悪すぎると言えた。

なに、この人・・
の世界であった。


この人はSSRIやSNRIではうまくいかず。かといって、3環系抗うつ剤での治療も容易ではない。薬に対し脆弱だからである。

一般に、彼のようにファジーな器質性色彩のある希死念慮を伴う「うつ状態」にはブプロピオンが良いケースがある。これは僕の友人を治療中に、絶望の淵で発見した。ブプロピオンは抗うつ剤および嫌煙薬として使われるが、かつてカプランのハンドブックでADHDにも良いと書かれてあるのを見た記憶があった。ブプロピオンの添付文書では作用機序などはunknownと書かれているが、ノルアドレナリンとドパミンを増やすと言われており、ノルアドレナリンとセロトニンを増やすSNRIとは作用点が異なる。

日本人的な器質性うつに対しブプロピオンは使いやすい抗うつ剤だが、いくつかの欠点を持つ(今回のエントリでは長くなるので概略しか触れない)。とりあえずやや難しいタイプの器質性うつの65%くらいの人で有効。合う人はその日かその翌日には自覚症状が改善するのが特徴で、このような人はかなり見込みがあると感じる。パニックを伴う人には向かない。おそらくブプロピオンの副作用に「けいれん」があるからであろう(参考)。また、パニックにカフェインが悪いのと同じようなメカニズムがあるのかもしれない(参考)。

希死念慮には効果的だが、初期に好転反応的な衝動が出ることがある。アップ系なので眠くならず感覚的に透明な薬物である。過食系の人たちにも有効で体重増加を来たさない抗うつ剤でもある(参考)。合わない人は不眠が出たり、イライラ感が昂じたりする。パニックの人は悪化することが多いと思うが、あまりそういう人に処方しないので確率まではわからない。

ウェールズの人は失敗することがあるが良いこともある。ウェールズの人では器質性が明確かどうかより、いったん少し改善しその後の対応の方が重要のような気がする。また成人の広汎性発達障害の人やアスペルガーの人にはあまり使っていないが、良かった人も悪かった人もいる。ブプロピオンはアップ系なのでこのような人たちではイライラ感が昂じる場合もありうる。この診断をあまりしない上、彼らにはたいした数は処方していないこともあり、確率までは不明だ。

双極性障害のべったりのうつ状態には成功率が良くはない。これはたまたま僕が処方した人が難しい人だったからかもしれない。ウェールズの人に良い人がいるので、全員無理だとは思わない。上手くいきづらい原因としてブプロピオンは嫌煙薬にも使われているほどで、比較的ライトな抗うつ剤だからかもしれない。パワーはそこまでないのである。

有効性の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①ミルタザピン(レメロン)     24.4
②エスシタロプラム(レクサプロ)  23.7
③ベンラファキシン(エフェクサー) 22.3
④セルトラリン(ジェイゾロフト)  20.3
⑤シタロプラム(セレクサ)     3.4
⑥ミルナシプラン(トレドミン)   2.7
⑦ブプロピオン(ウエルブトリン)  2.0
⑧デュロキセチン(シンバルタ)   0.9
⑨フルボキサミン(デプロメール)  0.7
⑩パロキセチン(パキシル)     0.1

⑪フルオキセチン(プロザック)   0.0
⑫レボキセチン(Davedax)      0.0

受容率(忍容性)の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①エスシタロプラム(レクサプロ)  27.6
②セルトラリン(ジェイゾロフト)  21.3
③ブプロピオン(ウエルブトリン)  19.3
④シタロプラム(セレクサ)     18.7
⑤ミルナシプラン(トレドミン)   7.1
⑥ミルタザピン(レメロン)     4.4
⑦フルオキセチン(プロザック)   3.4
⑧ベンラファキシン(エフェクサー) 0.9
⑨デュロキセチン(シンバルタ)   0.7
⑩フルボキサミン(デプロメール)  0.4
⑪パロキセチン(パキシル)     0.2

⑫レボキセチン(Davedax)      0.1

この表のソースだが、2009年のLancetによる。元々、12の比較的新しい薬の相対的な評価であり、古い薬物、例えばアナフラニールやアンプリットは対象に入っていないことに注意。青くハイライトした薬剤は日本で発売されているものである。12のうち4つしかないので、このランキングは日本人を対象にした研究はわずかしか含まれていない。このランキングを見ると、ジェイゾロフトは有効性、忍容性のトータルの面でかなり優れていることがわかる。反面、日本で大量に処方されているパキシルはそれほど良い薬ではないこともわかる。特に忍容性の面で低いランキングなのは痛すぎる。

この表で特筆すべきは、ブプロピオンは有効性という指標ではそれほどではないが、忍容性の点で優れた抗うつ剤ということであろう。重要なポイントはブプロピオンはSSRIではないこと。

ブプロピオンの治験経験者の友人の話では、平凡なうつ状態の90%の患者さんに有効であったと言う。しかもその中の15%の人は禁煙できたらしい。僕の患者さんではブプロピオンで禁煙もできた人は存在しない。しかし減煙できた人はそこそこいる。ブプロピオンはパニックや非定型精神病のように器質性由来でもすべての人に良いわけではないのが特徴と思う。長期的視点では簡単でわかりやすい薬物ではない。

SSRIはマイナス感情を改善すると言っている人がいるが、僕はそうは思わない。SSRIはマイナス感情をむしろ増幅することも多いと思う。私見だが、ブプロピオンの方がSSRIより器質性のマイナス感情をずっと改善する。ブプロピオンは希死念慮に関係が深いセロトニンへの影響があまりないのがポイントである。(参考

ブプロピオンの欠点の1つで、しばらくして効果が落ちてくるというものがある。これは直感的には薬物に脳が馴化するからのように思われる。しかし、治療の難しい人にしかブプロピオンを処方していないため、難しい人だからそうなるのか、器質性なのでそういう経過になるのか、ブプロピオン自体にそういう傾向があるのかよくわからない。

僕はブプロピオンは効果が落ちてきてからが治療の本番のように感じる。それからが腕の見せ処だと思う。ブプロピオンの有効な人は効果が落ちてきても元に戻ることはなく、うつ状態が扱い易くなる傾向がある。つまり、治癒や寛解の方向にブプロピオンは方向付けするようなところがあるのかもしれない。

彼はこのままでは埒があかないため、思い切ってブプロピオンを処方することを決断。150㎎処方しトレドミンを諦め50㎎まで減量する。

ブプロピオンを使わなかった場合、ほとんど薬物を中止しエゾウコギなどを処方し食事療法をしていたと思う。彼に限ればブプロピオンがなかったとしても、なんとかなったような気がしている。僕の友人の方が、彼の10倍難しいと言えた。彼は難しい患者さんの中ではまだ易しい患者なんだと思う。真に困難なのは、僕に絶望感を与える友人のような人である。あのクラスは難しい中でも更に難しい人だと思う。(参考

ブプロピオン 150㎎↑
トレドミン  50㎎↓
テシプール   2㎎
リボトリール 0.5㎎
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎
メトリジン  4㎎
ソラナックス 1.2㎎


2ヶ月後
仕事に行くときついが、家ではけっこうゆったりできるようになったという。今の薬では「眠れないことはない」という言い方。立ちくらみはほぼ消失したらしい。家では読書やテレビを観ている。食欲はあまりない。

外から見た範囲では以前より良くなっているようには見える。飲んだ翌日、そう良くはなかったと言うので、ブプロピオンの反応性が良い人とは言えないと思った。7日目には少しはマシになっているように見えるので、他を大幅に減量し、やや失望気味にブプロピオンを300㎎まで処方する。

ブプロピオン 300㎎↑
テシプール   2㎎
リボトリール 0.5㎎
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎
ソラナックス 1.2㎎


67日目
ちょっとは良くなっている。5割くらい良いです。今までは何もやりたくはなかったけど、少し意欲というか積極性が出てきた。口渇はほとんどないけど食欲もない。仕事は辞めさせられてしまったという。劇的改善とは言い難い。エビリファイも考慮する。

74日目
うつ状態は少しずつ改善している。しかし夜はあまり眠りが良くない。口の渇きも便秘もないです。睡眠が良くないため、テシプールをテトラミドに変更。(ブプロピオンはアップ系のため不眠の副作用が稀ではない)。リボトリールを1㎎まで増量。家ではデザインをしている。少しずつできるようになった。少量だけエビリファイを追加してみた。

ブプロピオン 300㎎
テトラミド   30㎎↑
リボトリール  1㎎↑
エビリファイ  1.5㎎↑
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎
ソラナックス 1.2㎎


81日目
意欲は出ているけど、呂律が回らないという。夜はまあまあ眠れるようになった。今は、前よりは眠気が来ますという。テトラミド、エビリファイ、ソラナックス中止。リボトリール減量。不必要と思える薬は減量する。シンプルにしてみた。

ブプロピオン 300㎎
リボトリール  0.5㎎↓
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎


90日目
時々、頭がクラッとするのが悪いですね。体調は7割ほどですかね、といった感じ。見た目にはそう悪いようには見えないが、実感はそれほどではないらしい。ブプロピオンは1ヶ月使ってこれなので、一定の成果は収めたが、もう一工夫必要と感じた。(彼はブプロピオンがむしろ効かない方だと思う。SSRIや3環系、4環系よりずっとマシだけど。何がマシかというと深刻な希死念慮が減少していること。)

ブプロピオンを225㎎に減量し、エゾウコギとマイタケをダブルで勧める。できるだけマイタケを毎日摂るように食事指導。以下の処方をしばらく変えず、代替療法の効果を観察することにした。

ブプロピオン  225㎎↓
リボトリール  0.5㎎
ドラール   15㎎
ハルシオン  0.25㎎


マイタケとエゾウコギは作用点が同じ部分もあるが、そうでない部分もある。マイタケのような強いキノコは何か脳から神経伝達物質を出させていると感じる。僕はこれを食べて3日目くらいに脳内でドパミンか何か得体の知れない物質が放出されているような不思議な多幸感を体験したが、これを実感できた患者は未だかつていない。

アスペルガーと正常の間の人々」に出てくる女性患者さんにはこの「マイタケ療法」を薦め、予想していたよりずっと有効であった。これを「マイタケ毒キノコ療法」と呼びたい。結局、毒キノコで笑い出したり、あるいは幻覚を体験するのは、キノコの成分がある種の脳内伝達物質に扮装するか、直接伝達物質を放出させていることに他ならない(参考)。マイタケはその伝達物質?がうつ状態の枯渇状態を緩和するというか、マッチしているんだと思う。そう考えると薬理作用的にはわりあい辻褄があう。だから毒キノコ療法なのである。(注;マイタケは食用です。毒はない)

これは癖になりそう・・

と思ったが、数回食べた後に激しい下痢、顔面蒼白、血圧低下で食べられなくなった。これはアレルギー化したのか、キノコの繊維成分が自分の腸に合わなくなったのであろう。徐々にひどくなったので、アレルギーが疑わしい。1回だけ試しにもう一度食べてみたところ、更に深刻な状態に至った。顔面真っ青、冷や汗、吐き気、激しい下痢で、嫁さんが泣き出す始末であった。とにかく、もうマイタケは食べられなくなったので、身体の出来の悪さに泣いた。実は僕のように中毒症状が出て治療できなくなった人は他にいないのである。マイタケの良い点は、安価でカロリーが低い上に味も良いことだと思う。(ソテーにするとゴハンがいけます)

実は、マイタケについては、このブログの過去ログにはないが、読者の人にはずっと以前に薦めたことがある。

かぼちゃさん
トレドミン主体の処方に変わって

amebiyoriさん
投影法とタロット

捨てネコさん
火曜日の不調とベンゾジアゼピン

97日目
そう悪くもないけど、良くもないです。本を読んでいても長くは集中できない。パソコンも続かないですね。

104日目
体調が良くなってきた。朝が少しきついけど。今は昼間は自分の好きなことができる。物を作っています。いつもマックを使っている。デザインを少々。表情だけだとかなり良くなっているように見える。

118日目
体調は良いです。食事はあまり入らない感じ。希死念慮は30%くらい残っている。(参考

「内因性うつ病」と彼のような「器質性うつ状態」の希死念慮の相違は、内面の重篤さと外見がパラレルになっていないことだと思う。だからこの世の中には深刻な希死念慮をかかえながら働いている人がたくさんいる。この点が極めて器質的だし、同時に現代的だと思う。

129日目
眠剤は飲まなくても眠れるようになりました。ハルシオンもドラールも必要ない。エゾウコギとマイタケが効いている感じ。今は希死念慮は5%くらい。ほとんどないに近い。エゾウコギが特に効いている感じがするという。

最近は外出して映画を観に行ったりもする。バッチフラワーは今は全然使っていない。マイタケは頑張って1週間に3~4日は食べている。ブプロピオンは役割を終えつつあり200mgまで減量する。

ブプロピオン  200mg↓
リボトリール  0.5㎎


145日目
気候の変化でちょっと調子が切れ切れです。良いときもあれば悪い時もある。死にたいとかそういうのはない。自分としては季節の変化も関係があるように思うと言う。ずっと良かったのにここ1週間が悪いらしい。

ブプロピオンがヘタレてきたこともあるように思った。ブプロピオンは処方後数ヶ月すると効果が減弱することが多い。この際にブプロピオンは増やしてもそこまで良くはならない。そんな時、僕はブプロピオンをむしろ減量し対応している。ブプロピオンは長く使っていると、用量依存性がそこまではなくなるように見える。それでもなお少しだけ処方する。少しでも使っていることに意味があるのである(たぶん)。ブプロピオンは離脱症状はほとんどないように見える。

その意味では、特に難しい患者さんではブプロピオンは決定打にならないことの方が多い。ププロピオンを使ったとしても、その後、種々の処方テクニックは必要のようなのである。その点でブプロピオンは不思議な薬だと思う

今一度、少量のエビリファイを追加してみる。なぜうちの病院に来たのか、今頃になって聞いてみた。「電話帳で調べた」という。

あると思います!参考

ブプロピオン  200mg
リボトリール  0.5㎎
エビリファイ  1.5㎎


160日目
病気は3割くらい残っている感じ。体調は良いのは良いけど、気分が乗らない。集中力が今ひとつ。エゾウコギは良い感じ。眠りは良い。短時間は集中できるが長い時間は無理ですね。家族からはすごく良くなっていると言われる。自分としてはまだまだですね。マイタケは今でも食べてますよ。

174日目
今はきつくはない。やっとパソコンでデザインでもしてみようかと思い始めた。朝は5時半に目覚める。目覚めは悪くない。食事はあまりとれないですね。タバコは吸わない。希死念慮はないという。エゾウコギとブプロピオンを飲み始めて希死念慮が消えた。

188日目
気分はそこそこ良いけど身体が重い。疲れやすいという。エゾウコギは飲んでいるけど、バッチフラワーは飲んでいない。マイタケは今はあまり食べていない。食欲はあまりないですね。

これはひょっとしたら、ブプロピオンが食欲を抑制しているのではないかと思い始めた。ブプロピオンを200から150㎎に減量。ブプロピオンは過食系の肥満した人にも悪くない選択肢である(参考)。しかしその効果は決定的とは程遠い。実はブプロピオンと他の薬物のコンボが良いのである。これはかなり軽症化した症例がいくつかあり、いつかアップしたい。基本的に過食系の人は難しい。だいたいカウンセリングでダメだった人ばかり相手にしているので、これでもまだ健闘している方だと思う。

ブプロピオン  150mg↓
リボトリール  0.5㎎
エビリファイ  1.5㎎


188日目
食欲がだいぶん出てきた。眠りが浅いです。薬は今くらいで良い感じ。顔色はかなり良くなっているように見える。マイタケはともかくエゾウコギだけは続けるように伝える。今の調子は60%~70%らしい。そろそろ仕事に就きたいという。就職活動を始める。

202日目
先週はとても良かったけど、今週はそれほどではないですね。調子がとてもよい日もあれば、たまにぱっとしない日もあります。パソコンはもともと好きではない。自分は文系なのか理系なのかわからない。でも理数はだめですね。マイタケは週に2回ほどしか食べていない。

234日目
最近はよく外に出ている。今は希死念慮は全くない。エゾウコギやマイタケも前ほど摂っていない。自分ではかなり回復しているように思う。高校生くらいの自分に戻った感じ。99%回復していますね。

ブプロピオン  150mg
リボトリール  0.5㎎
エビリファイ  1.5㎎


この処方は簡潔で、数学の答えのような美しさがある。

(おわり)

(ボツ原稿から。これは以前に書いたものだが、未発売の薬物が出てくるためボツにしていた。ところがちょっと気が変わり、少し書き加えてアップすることに。読者の方にメールでいろいろアドバイスするのに、このエントリがアップされていないとワケがわからないと思ったため。)


参考
「IT従事者のうつ状態」の補足
人をうつに陥れる達人
器質性うつ状態と広汎性発達障害
自○に追い込まれるような発作は・・
シェリング・プラウとレメロン
抗うつ剤と睡眠
彼女は髪を鮮やかな紫に染めた
カフェインとパニック障害
抗うつ剤の体重増加について
ウェールズ生まれの
希死念慮の謎
エゾウコギの銘柄と効果について
単極性、双極性の激うつ対策本部
アスペルガーと正常の間の人々
マジックマッシュルーム
30%の希死念慮とは
希死念慮とアパシー