単極性、双極性の激うつ対策本部 | kyupinの日記 気が向けば更新

単極性、双極性の激うつ対策本部

うつ状態が薬物療法でどうしてもうまく改善しないとき、どのような治療をすれば良いのだろうか?

単極性か双極性かあるいは非定型精神病かで異なるように思うので、疾患別に考えなくてはならないかもしれない。このブログの「双極2型の激うつとECT」で出てきた男性患者の治療がヒントになる。この患者さんの難治性うつ状態はECTでコントロールできた。モーズレイの精神科治療のガイドライン(2001)年版では、1st choice、2nd choiceとして以下の方法が挙げられている。(順不同)

1st choice
リーマス付加
十分に確立されている。約半数において有効。文献により十分に支持されている。

ECT
十分に確立されている。有効。文献で十分に支持されている。
(一般の評判が悪い)

○ベンファラキシン高用量(本邦未発売)
普通、忍容性良好。(SNRI。世界でリスパダールに近い売上高を誇る。文献の支持が乏しい。吐き気と嘔吐、離脱症状がよく起こる。)

○トリヨードサイロンニン付加
普通、忍容性良好。文献の支持はそこそこ。

○トリフトファン付加(本邦未発売)
有害作用として、好酸球増多筋痛症候群あり。(Lトリプトファン参照)

2nd choice
○ピンドロール付加
忍容性良好。十分に研究されている。
(βブロッカーは一般にはうつ状態の副作用を持ち、やや矛盾しているような感覚がある)

○デキサメサゾン
忍容性良好。短期間。(これも感覚的には相当に処方しにくい)

○ラモトリジン付加または単剤(本邦未発売)
おそらく有効。(発疹の危険。文献が乏しい。難治性てんかんの薬。近年、催奇形性について警告が出されている)

○高用量の3環系
例えばトフラニール300mgなど。米国ではよく用いられる。安価。(心電図異常の危険あり。注意してほしいのは、この300mgと言う量は西洋人向けであること、日本人の上限はもっと下がる。)

○MAOI+3環系
1960~1970年代に広く使用。
(危険な相互作用の潜在性。一般的でなくなっている)


他に「その他の治療法」というカテゴリーがある。これはきちんとした文献になっていないが、場合によれば試す価値があるといったものであろう。

その他の治療法
ブプロピオン1日300mg付加(本邦未発売)
商品名は、ウエルブトリン(抗うつ剤)、ザイバン(禁煙薬)。抗うつ剤および禁煙の経口薬。抗うつ作用の機序についてははっきりわかっていないが、再取り込みを阻害しノルエピネフリン及びドーパミンの作用を増強させる。ノルエピネフリンの再取り込みの阻害作用によりタバコの禁断症状を減じる

○ ブスピロン1日30mg付加
抗うつ剤の効果が補強されると言われる。
(本邦未発売。同系統としてセディールがある)

○クロナゼパム(リボトリール)夜間0.5~1mg付加

ミルタザピン15~30mg毎晩付加
(本邦未発売、 NaSSAの1つ。商品名はレメロン)

○モダフィニル1日100~200mg付加
スマートドラッグのひとつ。ナルコレプシーの治療薬であるが、フランスやアメリカの軍隊でも戦略的に兵士に使われているらしい(長時間の飛行、諜報活動)。厳密な意味での中枢刺激薬ではない。

その他、リスパダールやジプレキサの処方を推奨している。


上記の1st~その他の中で、ずば抜けて有効な治療法は間違いなくECTであろう。ECTは文献でも支持されている上に有効率も高い。

「双極2型の激うつとECT」で出てきた男性患者さんやその他の難治性の患者さんの治療経験を通して、うつ状態を改善するECT以外の有効な方法を挙げてみる。これは僕の個人的な意見であり、文献になっているかどうか、あるいはエビデンスがあるかどうかまでは知らない。

○デパケンR付加
これは案外有効。デパケンは抗うつ作用はリーマスより劣るような感覚があるが、デパケンを追加するだけで、少なくとも激うつまでは落ちなくなる患者さんがいる。

○チラージンS追加
これは上にも出てくるが、定番といえる方法。しかし効果的にはいまひとつのことが多い。

○ビタミンB6
稀に効いているとしか言いようがない人に遭遇する。

○エゾウコギ
爆発的な力まではないが、結果的にはなかなか良いという感じ。手に入りにくいのが難点。

○エビリファイ1.5mg付加
これは他の抗うつ剤に追加して用いる。激うつがよくなる人たちがいる。確率がわりあい高い。基本は1.5mgか3mg。ときに6mg必要な人がいるが少量で問題ない。

○リボトリール
これも定番。激うつ状態での動悸が良くなるなど自覚症状を改善することがある。

○デパス付加
思わず笑ってしまう方法。3環系の大量(例えばトリプタノール200mg)を服用してる患者さんの激うつにデパス2~3mg付加でずいぶん良くなる人がマジでいる。なぜなんだ! しかしデパスは次第に耐性のため以前より効かない感じになるので長期では難しいのかもしれない。

○バッチフラワーレメディ付加
普通は憂うつに使用する「マスタード」なのだろうが、必ずしも花言葉どおりにはいかない。まったく関係なさそうなレメディが良い場合がある。抗うつ剤をすべて中止し、バッチフラワーとリボトリールだけで良い場合もある。メリットは副作用がほぼないこと。高価なのが難点。

○非定型抗精神病薬
ジプレキサ、セロクエル、リスパダール、ルーランはいずれも可能性があるが、特にジプレキサ、ルーランは期待できる。病状悪化と副作用には注意を要す。

○定型抗精神病薬
クロフェクトンクレミンオーラップなど。


なお、セントジョーンズワートなどは単独で使うことが多いし、効果の強さの点で激うつに効くとは言い難い。漢方薬は補助的に使うことがあるが追加して難治性のものが改善することは滅多にないと思われる。

上の中では、「エビリファイの少量」が傑出している。エビリファイは統合失調症でない人、特に単極性うつ病の人に投与する場合、失敗率がむしろ低い。たぶん病状悪化の方向性が狭いからであろう。単極性の人ではエビリファイが失敗したからと言って幻聴や独語が出てくることはない。しかし非定型精神病や分裂感情障害の人の場合、悪化の方向性が単極性の人たちよりやや広いので、統合失調的な症状が出現し中止せざるを得ないケースもある。

ピュアな双極性の場合、それほど失敗しないという印象。理由はたぶん、エビリファイは躁状態にも有効だからであろう。また、双極性や単極性の人たちにはエビリファイの大量を処方することがないことも関係しているように思う。

問題は、使い続けるかどうか迷う軽度の有害作用が出ている時である。例えば頭痛。この場合、患者さんと今後の身の振り方を話し合う。多少頭痛が出ていても、激うつが改善している方が100倍マシなので続けたいという患者さんが多い。

かなり迷う有害作用はエビリファイによる不眠である。不眠は眠剤を増やして対応するが、この不眠については個人差があり、中止せざるを得ないほど酷いときはそうするより他はない。有効例でもエビリファイで睡眠時間が2時間短縮したという患者さんもいた。睡眠障害でエビリファイが継続できるかは、その程度によると思う。

参考
双極2型の激うつとECT
魅惑のスタビライザー、エビリファイ
デパケンR
子供の頃から希死念慮が続いている人
双極性障害適応状況(アメリカ)