器質性うつ状態と広汎性発達障害 | kyupinの日記 気が向けば更新

器質性うつ状態と広汎性発達障害

書籍否定は納得できるのだが否定論にはそれなりの内容を書くべきでは? 例えば病名に意味はないとか具体的にほしいですね。薬売りと言われないような内容のが。

発達障害は統合失調症の免罪符ではない」のコメント欄で、「もんちゃん」という読者の方から上のような質問を頂いている。今日のエントリはそのアンサーである。

過去ログでも時々出てくる、軽微な脳障害、つまり軽度の器質性障害は実際に画像で見えるわけではない。しかしその精神所見の普遍性から、見えなくても「そういうものが推定できる」といった文脈で過去ログでは書いている。この器質性の引き起こす精神症状で特徴的なものの1つは、

なにげなく自分に言われたことを悪意に受け取る。

ということであろう。これは100%あるわけではないが、仔細に精神症状を観察しているとそういう精神所見がみられるのがわかる。これはある種の認知の障害ではある。

ものの見方が性悪説的で、人間関係がうまくいかない原因になっている。

非定型精神病、特にウェールズタイプの人にも同様な精神所見が見えることがあるが、これはたぶん、内因性でありながら、同時に器質的色彩を持ち合わせているからと思われる。

アスペルガーなどの広汎性発達障害はもちろん、そう呼べない範囲の一般人に近い人たちもそのような所見が見られることがある。これは一見、コミュニケーション障害のようにもとれるが、そう単純なものといえない。コミュニケーションの問題で片付けるには、詳細に触れておらず漠然としすぎている。

診察時、100%と言って良いほどこちらの質問を理解しており、受け答えもしっかりしている青年が、日常生活では上のような精神所見を持つため、周囲の者との円満な人間関係が保てず平穏な生活ができないでいる。

これはコミュニケーションの障害というより、むしろ「器質性の2次妄想的な精神症状のため日常生活に困難さがみられる」と言った方が、本来の精神症状を正確に表現している。無理にコミュニケーション障害と見なすからおかしなことになるのである。

ある少年は、「盗聴器をしかけたい」と強く訴えていた。理由を聴いてみると、「自分の悪口を言っているのは間違いないのでそれを確認したい」と言うのである。この人が統合失調症なら精神科診断的にはそれで完結している。しかし彼は明らかに統合失調症ではない。それにいろいろ聴いてみると、その少年がそのように訴える理由がわりあい理解できるのである。これは器質性の2次妄想的所見である。

「盗聴器をしかけたい」と「盗聴器をしかけられている」では大違いなのであった。

ある成人の患者さんは、30歳過ぎまでは問題なく過ごしていたのに、ある時、この症状が酷くなり職場でうまく仕事が出来なくなった。これは元々その所見が軽度にあったのだが、ある時、ストレスで生活対応力が落ちてきてそんな風になってしまった。また結婚を契機にそういう風になった人もみる。

結婚後は2人で生活するわけで、さまざまな場面で、お互いギブ&テイクであることを理解しておかないといけない(←婚活をしている人は注意)。

自分だけで生活するのとはストレスがまるで違う。そのようなストレス下で、上記の器質性色彩の2次妄想が出現しやすくなるのである。しばしば夫婦喧嘩の原因になっている。しかも尾を引く。奥さんの(仲直りのための)話を悪意に受け取り、更に関係が悪くなるからである。そこまでいくと修復は困難になり離婚になることも稀ではない。

個人的に、アスペルガーというからには「社会的自閉性」なる所見が明確でないと話にならないと思う。それまで普通に生活してきた人が、そういう一見、コミュニケーションの問題に見える障害にぶち当たったからといって、安易にそう診断したり告知したりするのは間違っている。

確かに幼い頃からの生活歴を聴取すると、一見そのような風に見えるようなエピソードがあったりするが、どんな人だって、そういう事件の1つや2つはあるもので、すべてをアスペルガーないし広汎性発達障害的な証拠にするには意訳過ぎていると思う。アスペルガーは自閉症の文脈で扱うべきで、日本のようにADHDの組み合わせで論じるのは少し変だ。そのような器質性疾患という視点で見ると、アスペルガーを乱発する必要はなくなる。(参考

病前性格が明らかにウェールズの人であり、生来、社交的なのに、アスペルガーの診断を受けているような人を診たことがあるが、まさに診断基準を鵜呑みにして診断したからであろう。DSM4のアスペルガーの診断基準ほど酷いものはそうそうない(特にB。この中で1つあれば良いらしい)こういう人は往々にして積極的なタイプのアスペルガーかADHDと診断されているのであろうが、間違っているのは自明であろう。

アスペルガーの診断基準

A.以下のうち少なくとも2つにより示される対人的相互作用の質的な障害:
(1)目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互反応を調整する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害。
(2)発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。
(3)楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(例えば、他の人達に興味あるものを見せる、持って来る、指さす)を自発的に求めることの欠如。
(4)対人的または情緒的相互性の欠如。

B.行動、興味および活動の、限定され反復的で常同的な様式で以下の少なくとも1つによって明らかになる:
(1)その強度または対象において異常なほど、常同的で限された型の1つまたはそれ以上の興味だけに熱中すること。
(2)特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。
(3)常同的で反復的な衒奇的運動(例えば、手や指をぱたぱたさせたりねじ曲げる、または複雑な全身の動き)。
(4)物体の一部に持続的に熱中する。

C.その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている。

D.臨床的に著しい言語の遅れがない(例えば、2歳までに単語を用い、3歳までに意志伝達的な句を用いる)。

E.認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動、および小児期における環境への好奇心などについて臨床的に明らかな遅れがない。

F.他の特定の広汎性発達障害または統合失調症の基準を満たさない。


この診断基準はあまりにも漠然としている。現代社会では、上のような所見は特に精神科に受診するレベルの人、つまり精神的に悩んでいる人にはありがちなので、その程度の安易な診断基準なら、占いの世界となんら変わりがない。

個人的にアスペルガーは自閉性ないし社会的自閉性を重視しており、最初に書いたような2次妄想的な色彩は器質性というだけで疾患特異性がないため単に「器質的所見」として扱っている。これをコミュニケーションの問題と捉えると、すぐに広汎性発達障害系の方角に行ってしまうのである。

過去ログでは器質的なものを持つ人たちの表現型は「うつ状態」が最も多いとか、たまに「双極性障害に見える」とか「統合失調症状態」を呈することもあると書いている(参考)。またしばしば幼少の頃から「希死念慮を伴いやすい」ことも指摘している。また、暴力性や攻撃性が強い人もいる。(参考

広汎性発達障害の専門家の人たちが陥っている罠は、実は同じような患者さんばかり診ていることから来るような気がする。彼らは、精神科業界内の狭い範囲の専門バカ状態になってしまっているのであろう。彼らは広汎性発達障害の子供や成人例ばかり診ているので、それ以外の種々の器質性疾患の診る機会が一般精神科医より少なくなっている。それはそのような患者さんが殺到して、長い期間の予約待ち状態になっているのでやむを得ない面ももちろんある。実はここに大きな問題点がある。

広汎性発達障害の専門家はCO中毒後遺症の子供、脳に寄生虫が巣食った青年の精神症状、農薬自殺未遂の後遺症が残った若者、初発の進行麻痺の患者、成人のクリプトコッカス脳炎、あるいはヘルペス脳炎の後遺症、前方型認知症、種々の症状精神病、薬物性疾患(麻薬なども含む)がいかなる精神症状を呈していたかをあまり知らない。また、措置鑑定や簡易鑑定の対象になる人たちを詳しくは知らない。書籍で読んでいたとしても、臨床的なライブ感覚に乏しいのである。もちろん診る機会がほとんどないからだが、そのことが診断的発想の広がりが乏しい原因になっている。またこれらの患者の専門家である以上、患者さんや家族が耐えられないようなことは相当に言い辛いという心理も働く。彼らに捨てられたら、干された専門家になってしまうからである。(参考

いつか過去ログで、広汎性発達障害の暴力性および触法性の話を書いた際、一部の読者さんから滅茶苦茶叩かれたが、その時の一連のエントリでは他の器質性疾患にそれが見えるのに、同じ器質性の問題を抱える広汎性発達障害だけに全くないと主張することは、科学的にもおかしいと指摘している。

実際にそういう事件が全く起こっていないなら話がわかるが、しばしば新聞を賑わわせている。それを隠そうとすることは、少なくともサイエンスに関わるもののすることではない。(過去の新聞社サイトの事件内容はすぐに削除され、時間が経つと詳細が全然わからなくなっている。誰かが消すように苦情を言っているからであろう。)

そのエントリで叩かれた理由だが、一般の読者からはやはり彼らが文脈が捉えられないからという理解が多かった。まあそのレベルの人もいるが、器質性の「人の話を悪意に捉える」という精神症状が発現している部分も大きいと考えた方が合理的である。もちろん、その結果、こちらに対して攻撃的になるのであろう。

これはまさに彼らの一般社会での対人関係の困難さを映し出しているように見える。

実際、アスペルガーと診断されている人たちの中のいわゆる文系の人で読解力にも問題がなく、読書家で「わたしは小説家になりたかったんですよ」という人を時々見るが、こういう人は一般的な感覚でのコミュニケーションの問題はほとんどないように見える。しかし社会的には困難さを抱えているのである。これは発達障害というより、やはり器質性の精神所見による困難さを抱えているといった方が理解しやすい。広汎性発達障害の家族も同じ広汎性発達障害があると言うより、この所見が軽微に存在する人もいるからこそ、学校の先生とトラブルになったり、モンスター化するのである。そういう所見がない家族はそのようなタイプの対応にはならない(自分の子供に不利益になることが予測できるので自重される)。

海外では広汎性発達障害では犯罪はほとんどないという論文があるが、それは海外だからである(その地方の都市化の程度や人口密度も関係があると思われる)。欧米人は日本人とは行動パターンが異なる。日本の実勢に沿わない論文を持ってきて議論する方が間違っている。(これは体格、食事の忍容性、宗教、文化とも関係が深いと考えられる)(参考1参考2参考3参考4

ストーカーは極めてアスペルガー的な犯罪であるが、これは実際に事件にもなっているし、本来の精神症状を考慮してもなぜそうなるのか極めて理解しやすい犯行でもある。アスペルガーには暴力がないという主張する人たちに、

ストーカーは暴力ではないんですか?

と逆に聞きたい。ストーカーは彼らの標的に対する執着性と相手がどんなに怖い思いをしているか思いやれないことから発生している。

専門家からはアスペルガーには暴力性がないとまでは言っていないという反論があるかもしれない。彼らによれば、彼らの暴力性は周囲のいじめや対応のまずさや置かれた環境によるものがほとんど全てなんだという(生来性でないならそういう文脈になる)。

これは、物心ついたときに既に他害性のある子供や、そういう履歴がない突如発病したように見えるアスペルガーのストーカー等の暴力行為が説明できない。こういう事象を他の原因に求める他罰的な解釈が、一層、広汎性発達障害の家族と周囲の人たちの溝を深めることを過去ログでも触れている。(「赤」のコメント欄

普通、広汎性発達障害でなくても、器質性色彩のある人にはしばしば希死念慮があるし、違った表現型の「暴力性」が存在している。基本的にアスペルガーの診断を乱発するから話がおかしくなっている面が相当にある。

広汎性発達障害の家族の中には、自分たちはまだ良いとして、他人に怪我をさせないか冷や冷やしながら生活している人たちもいる。広汎性発達障害の暴力性を否定している、あるいは否認している専門家は、そのような家族に果たして明確なアドバイスができるのだろうか?という疑問はある。

死刑になるような重大な殺人事件では、脳内にCTやMRIで捉えられるほどの非特異的器質性異常がみられることがしばしばあるという。またそのような残虐な犯行をした犯人には希死念慮があることも良くみられる。

つまり、殺人事件の中でも特に重大犯罪と希死念慮には深い関係があるのである。(別にアスペルガーがそうだという意味ではない。一般的な器質性背景がその原因になっていることがあるという意味)

そのような文脈から、僕はアスペルガーでもかなり重篤な人たちはともかく、曖昧な人たちをそう診断するのは間違っている可能性が高い上に、意味もないと思うようになった。

一般の人が書物を診て、自分はひょっとしたらアスペルガーかもしれないと思うほどのレベルの人、書物起因性のアスペルガーの人たちは「本物も偽物もない」のである。

僕が安易にアスペルガーと診断せず、また告知もしないのは、上に書いたことが大きいが、もう少し別な理由がある。

ある患者さんにアスペルガーと告知した場合、高学歴かあるいはそうでなくても知能レベルが高い人たちは、やがて脳内にある変化が生じる。彼らは、凝り性と言うか、その疾患について徹底的に調べるからである。これが統合失調症との決定的な相違でもある(疾患に対する構えの相違ともいえる。これは個人的に「過剰な病識」と呼びたい)。

アスペルガーとわかった時、その疾患特性が脳内で整理されて、ある意味、その特徴に磨きがかかる(最初の段階)。

今まで曖昧だった疑問が氷解して、少しはある種の歪んだ自信は持てるかもしれない。浮遊した状態だった人たちが、地面に足をつけるのである。高学歴なアスペルガーの人たちは、施設に入っているIQ70~80あたりの人たちをもともと問題にしていない。彼らにとって、その施設の人たちもアスペルガーではあるのだが、彼らと同じような疾患、つまり同類の人たちとは思っていないからである。

彼らは生来性にヒエラルキー的な考え方に陥り易い。

アスペルガー専門の医師を理想化する面があるので、特定の専門医を誇大視し、一方、以前は賞賛していたのに、他の専門医をダメだとか、何もわかっていないなどと酷評するようになる。それは一般精神科医と広汎性発達障害専門医の差も同様であろう。(このあたりも攻撃性といえる)

また、両親や周囲の人たち、あるいは芸能人などのアスペルガー的色彩やその相違に気が付くようになる。同じ診断を受けているのに、ちょっと学歴が低いとか、知的レベルが低いなどの理由でネグレクトする。あるいはより社会適応が良さそうな人には、彼らはアスペルガーとは言えないなどと言い始める(これはある意味当たっている。社会地位がずば抜けて高い人は疾患が問題にならなくなるからである)。(参考

この最初の部分、いわゆる賞賛とこきおろしのパターンは「境界性人格障害」の診断基準に出てくる精神所見とそっくりである。だから、状態像的には彼らが「境界型人格障害」と診断されてもおかしくはない。

しばしばアスペルガーはお互いに仲良くやれない。それは精神症状や学歴、収入、社会適応などが千差万別であり、個人的な苦悩にも差があるからであろう。(このレベルでは、負けず嫌いだとかヒエラルキー的な思考パターンが邪魔をする)

結局アスペルガーと診断されたことが、とりあえず治療的になっていない。わかったところで、彼らがすぐにはセルフコントロールができるようにならないからである。実際、自分はアスペルガーだなどと言い、堂々と他の人に迷惑をかけている人もいる。「アスペルガーだから仕方がない」という個人的解釈はもちろん間違っている。

また社会的問題としては、アスペルガーの人は視野狭窄になる上に、特定の人を理想化もするので新興宗教などに嵌りやすい点が挙げられる。教祖のカリスマ性に嵌るのである。これは知能が高くても柔軟な判断力が欠如しているからであろう。

そういえば、ニュージーランドではある高知能のアスペルガーの青年が、ある闇社会に利用されてパソコンのウイルスを作らされるという有名な事件が起こっている。これは単独犯とはいえないので珍しいパターンと思う。日本で起こっている世間を騒がせた大事件はほとんどが単独犯である。逆にいえば単独ではない事件は、カルトにはまって兵隊として犯罪に利用されるか、このように闇社会の人たちに利用されるパターンくらいしかないような気がする。

実は、広汎性発達障害は1歳時点では男女比、1:1程度の発現率という意見があるらしい。これは臨床医による指摘である。これが本当なら、従来の常識を覆すものである。一般に「男性が多い」ということはよく知られている。もともと女の子は生まれた時点の脳の成熟度が高いといわれており、その点でも少し矛盾する(参考)。

しかし、その後、男女の差が広がるという。ところが、思春期を過ぎる頃から女子も追いついてくる。一般に考えられているほど男女差は大きくなく、結局は6:4くらいだという。これが本当なら、アスペルガーの原因物質?がいかなるものかに影響を及ぼす大事件のような気がしている。

僕は、アスペルガーとはいえない器質性疾患の人たちには、今回のエントリの最初の部分を説明している。それでけっこう「腑に落ちた」という返事も貰っているし、人によると「原因がわかって良かった。気持ちが救われた。」などと涙ぐむ人もいるので、そんなものかとこっちの方が拍子抜けだったりする。ショックを受ける人が意外に少ない。このように自分で悩んで来院するレベルの人に、本当かどうかもわからないようなことを告知する意味があるかどうかは疑問だ。

本人が納得できる説明があれば十分なのである。なぜなら、このレベルの人は本物も偽物もないことも大きい。

現実的な点を挙げれば、アスペルガーと診断されてしまうと、この疾患は始まりも終わりもないので、生命保険に入りにくくなるデメリットがある(全く治療を受けていない人は証拠がないので問題なく入れる。治療中の人は入れないか、入れたとしても条件付になるであろう)。安易にアスペルガーと診断されても皆が思うほどのメリットはない。

器質性疾患があると言われた方がずっとマシである。なぜなら、これなら治癒がありうる上に、映像的に見えない器質性疾患なので症状がなくなればそれで終わりだからだ。(参考1)(参考2)(参考3

このエントリでは、安易にアスペルガーと告知されることの良くない面も指摘している。

参考
精神科の診断の偏向について
ウェールズ生まれの
統合失調症っぽくない妄想
希死念慮とアパシー
精神疾患と暴力、触法性
ルカによる福音書10章38~42節
社会的な目線での統合失調症とアスペルガーの共通点
短期決戦に構える
アトピーによる精神病状態
古典的ヒステリーは器質性疾患なのか?
アスペルガーと正常の間の人々
エストロゲンと精神疾患
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パキシルは幻聴に効くのか?