ウェールズ生まれの | kyupinの日記 気が向けば更新

ウェールズ生まれの

コナン・ドイルの推理小説を読んでいると「いかにもウェールズ生まれの・・」という表現が出てくる。僕はシャーロック・ホームズシリーズは受験勉強の息抜きに、高校3年の夏から秋にかけて読破した。現在は推理小説やSFものはほとんど読まない。

この「ウェールズ生まれの・・」という言葉は「気性が激しい」女性を評しているようであった。まさに感情的になると、「火が出るような性格」である。「ウェールズ生まれ」はコナン・ドイルの本を読む限りでは女性への表現に見える。ウェールズはコナン・ドイルの時代は炭鉱地帯だったので、日本風に言えば五木寛之の「青春の門」の世界だったような気がする。そういう風に考えると雰囲気が伝わってくる。

非定型精神病は、一般には統合失調症、躁うつ病、てんかんのどれにも分類できない疾患群を示すようであるが、どれにも分類できないというより、むしろどの要素も持ち合わせていると言った感じの疾患である。このブログでは非定型精神病と分裂感情障害(統合失調感情障害)を分けているが、一般には1つにまとめられている。だから区別している方がおかしいと言える。

非定型精神病は国により、あるいは精神医学の伝統により、捉え方が異なっており確立しているものとは言えない。また医師によれば非定型精神病や分裂感情障害という診断をほとんどしない人がいる。これらはおそらく大学医局ごとの診断基準の伝統による。うちの大学ではこのような診断はしていなかったような気がする。当時の助教授が「僕は診たことがありません。」と言っていたからである。ところが、「分裂感情障害」の診断は存在していたので、僕にとってこの2つは同じものには思えないのである。

非定型精神病の診断をしない場合、どこに分類されるかと言うと、おそらく双極性障害であろう。僕は非定型精神病を「躁うつ病」と診断されているならあまり文句はない。非定型精神病の人はプレコックス感がない上に接触性の障害がみられないことや、非定型精神病の典型的な家族のあり方は双極性障害のそれに似ているからである。

非定型精神病は3つの疾患の要素を持ち合わせているが、遺伝的には全く別の独立した疾患である。家族歴を調べると、非定型精神病の家系には同様な病型を見ることはあるが、統合失調症の人がほとんどいなかったりする。統合失調症と診断された人がいたとしても、誤診か、あるいは典型的な統合失調症とは異なるのであろう。

非定型精神病は活発に幻覚妄想などの精神症状が出現している時、まさにシュナイダーの1級症状が見られる。これは過去ログでも触れている(参考)。だから、このような時に初診すれば、統合失調症と診断される場合もある。しかし寛解に至る経過や寛解の程度などが統合失調症とは異なるので、時間が経てば統合失調症とは異なる疾患であることが気付かれるであろう。

急性期が過ぎ、その時にも対人接触性が拙劣だとか、幻聴が残遺しているとか、あるいは情意の鈍麻などの欠陥症状が残った場合、それは非定型精神病と言うより「非定型の色彩を持つ統合失調症」と言った方が実際をよく反映している。このような統合失調症の人は、家族のあり方が非定型精神病や双極性障害のそれに近かったりするので、いわゆる典型的な統合失調症とは異なると思われる。

「非定型精神病」研究で日本で最も有名な満田氏は、この欠陥症状の残遺した非定型精神病を「中間型」として扱っていたが、後に遺伝形式の類似性から、最終的には非定型精神病に含めている。これが正しいかどうかは診断学によると思うが、治療的には非常に重要な点と思われる。なぜなら、このようなタイプの統合失調症の人はリーマスやデパケンRなどの気分安定化薬が非常に有効なことがあるからである。

患者さんの家族に誤解されやすいのは、非定型精神病の急性期の著しい興奮、幻覚妄想状態、昏迷、夢幻様状態の治療は統合失調症の治療に準じること。だから急性期が過ぎて欠陥症状が残っていた時、それは薬物治療のやり方がまずかったというより、病型がそうであった確率がはるかに高い。僕は薬のためにそんな風になったと思える患者さんに遭遇したことがない。(参考

非定型精神病は双極性障害に最も近いこともあり、薬物治療的にはリーマス、デパケンR、テグレトールなどの薬物が重要である。その中でも特にリーマスがポイントだと思っている。リーマスが有効な人ではかなり良好にコントロール可能な人がいる。デパケンRの方がリーマスより合う人ももちろんいるが、リーマスが合う方がデパケンRが合う人に比べ治り栄えが優れることが多い。これはリーマスの精神科薬物としての本質的なパワー、これは神経に及ぼす毒性でもあるが、おそらくデパケンRよりは上回るからであろう。(デパケンRで治療する方が予後不良と言う意味ではない)

非定型精神病の特徴
① 急激な発症、周期性の経過。著しい欠陥症状を残さない。
② 病前性格は、易感性、几帳面、頑固。
③ 病像は、意識、情動、精神運動性の障害が支配的であり、幻覚は感覚性が著しく、妄想も浮動的、非系統的なものが多いこと。(シュナイダーの1級症状に類似)
④ 身体的要因を持つこと。(広い意味の器質的背景、これは内分泌系も含む)


この中で特に注目したいのは病前性格である。非定型精神病の人は、上では「易感性、几帳面、頑固」とあるが、その他にも、気性が激しい、黒・白をはっきり言う、言い出したら聞かない、人に耳を貸さないといった感じの表現ができる。負けず嫌いで、客観的に見て負けていてもそれを認めなかったりする。彼女(彼)たちは感性で生きているように見える。また、わりあい友人も多いが、人の好き嫌いがあり、ちょっと気にいらないことがあると突如、絶交したりする。こういう点でシャーロック・ホームズの「ウェールズ生まれ」という言葉はまさにぴったりと思う。その視点では、手乗り文鳥もきっとウェールズ生まれに違いない。(参考

(続く)

参考
非定型精神病の人の彼氏
待合室の若い女性患者
家族
3人目の女性患者(その2)
やっぱり母親というのはすごいよ
リーマス中止による奇跡的病状安定についての考察