レキソタン | kyupinの日記 気が向けば更新

レキソタン

一般名;ブロマゼパム

抗不安薬。強力な抗不安作用を持つ。半減期は8~19時間。レキソタンは古い薬で僕が精神科に入ったときは既にあった。が、よく考えてみると、僕の卒業以降に発売された抗不安薬って、メイラックスくらいしかないような。日本は抗不安薬、睡眠薬はあまりにも品目が多いと思う。まぁこれはこれで良いんだけど、未だにほとんど処方したことのない薬もあるんだな。レキソタンは、1mg、2mg、5mg、細粒があるが、僕は未だかつて1mgの錠剤は見たことがない。レキソタンは割線が入っているし、2mgと5mg錠だけで良いような気がする。レキソタンは15mgまで処方できる。薬価は古いわりに微妙なところで、2mgは7円くらい、5mgは17円くらいする。もちろんジェネリックも出ていて、これは5mgでも10円もしない。


レキソタンは比較的、副作用が多く現代的ではない。眠さ、ふらつきは比較的出やすい抗不安薬に入る。(メイラックスに比べると副作用が明らかに目立つ)ただ、飲み慣れるとそれほどではない。力価的にはメレックス、ワイパックスなどより弱い薬なんだが、多いミリ数が投与されることがわりに多く、また副作用的に重いので効果が大きい抗不安薬に見える。だから以前には、強迫神経症やボーダーラインのようなやや重い神経症によく処方されていた。現実には、今でもかなり処方されている薬剤と思う。レキソタンには活性代謝物もあるらしいが、僕はこれについては詳しくない。


レキソタンとセパゾンの2つはやや特別な抗不安薬の印象はある。それには理由がある。1985年頃に精神科治療学という精神科雑誌が創刊された。この創刊号で、統合失調症の初期になにを処方するかという特集というか論文があった。厳密には統合失調症の初期でなく、その直前の時期(臨界期)の処方なのだが。この内容について簡単に言えば、統合失調症になるかならないかギリギリの時期には、不眠、不安、抑うつなどの精神症状だけでなく、便秘、下痢、吐き気、嘔吐、発汗、蕁麻疹などの自律神経の乱れが出現する。彼らの考え方によれば、これらの自律神経症状は精神病にならないための身体の最後の抵抗、砦なんだという。しかしそのタイミングで、強い抗精神病薬を投与してしまうと、それらの自律神経症状が押さえ込まれて、すみやかに統合失調症に移行するらしい。こういう時期に投与するのにふさわしい薬物は、セパゾンとレキソタンと書かれていた。確かにその視点で見るとセパゾンとレキソタンは鎮静的な薬物なので、そのような時期には比較的に適切であろうとは言えた。抗精神病薬の中で唯一安全な薬物があり、それはフルメジンなのだと言う。フルメジンが安全な理由は謎である。


この論文はかなりオカルトっぽい内容なのだが、書いている人がなにしろこの業界では天才と言える人なので、レキソタンとかセパゾンを処方するたびにこのことを思い出したりした。こんな考え方は、ほんとうなのだろうか?と思っていたが、後に精神科の経験を積むうちに、そんなことはありえないとは言わないが、あまり神経質にならなくても良いと思うようになった。なぜなら統合失調症はそのタイミングでは、ほぼ来院することはないからだ。そのような危険な状況で例えばセレネースを投与しても、それほど経過は違わないように見える。むしろセレネースやトロペロンなどの力価的に強い抗精神病薬は安全のように僕は思う。少なくとも僕は経験上、抗精神病薬を投与したために統合失調症が発症したのは見たことがない。


とにかく、そのような話題があったこともあり、レキソタンはちょっと特別な伝説の抗不安薬なのである。