ペスト | kyupinの日記 気が向けば更新

ペスト

これは「ハメルンチャルメラ」の続きである。

いつだったか、ディスカバリーチャンネルで、14世紀中頃のイタリアの貿易船について紹介されていた。主に、貿易船がいかに簡単な作りあったとか、その貿易船が海から発見されたとか、そのような内容であった。

当時、中国との貿易を盛んに行っていたが、14世紀の半ば、その貿易船の積荷の中にネズミが迷い込み、そのままイタリア、メッシーナに上陸したのである。それに付いていたノミがペストを西ヨーロッパに持ち込み、大流行するに至った。当時の文献では、ヨーロッパの人口の50%、またイタリアの全人口の60%がペストで死亡したという。(ただ、この時は実は「エボラ出血熱?」だったという意見もある)

この大事件は、実は、現代社会の特に欧米と日本のマイルドな器質性精神疾患の相違と関係しているような気がしている。(言い換えれば、日本人と外国人の発達障害?の所見の相違)

実はペストがヨーロッパで流行したのは、14世紀が最初ではなく、6世紀頃のようである。14世紀の大流行時には、なぜかユダヤ人はあまりペストにならない傾向があり、ユダヤ人の仕業とされて虐殺も行われたらしい。つまり、ユダヤ人の生活習慣や遺伝的な要因により、わりあいペストの感染から守られていた可能性がある。しかし、ユダヤ人もかなりの人が亡くなったと推測される。

当時の西ヨーロッパの人々はその後、アメリカ大陸やオーストラリアなど新大陸に移住したため、今のヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアの人々は、つまりペストの生き残りの人たちということになる。これは当時、今もそうだが、ヨーロッパが陸続きだったことが大きい(ドーバー海峡を越えてイギリス、アイルランドにも大流行が及んだ)。

それに対して、日本ではペストが大流行した歴史はない。これは、日本の野ネズミには元々ペストを持つノミがいなかったことがある。日本の森には天然にペスト菌は存在しないのである。

ところが、南北アメリカ大陸、中国、中央アジア、アフリカの国々の森には今もペスト菌を持つ生物が存在しているので、何かの拍子に流行が起こってもおかしくはない。ハメルンチャルメラのエントリでは、テリ造が731部隊が細菌兵器でノミをばら撒いたという話をしているが、もし日本でそれをされていたら、終戦後の不衛生の時代に大流行が起こっていた可能性もある。それにいったん山にいる野ネズミにペスト菌のノミが移った場合、永遠にそれを駆除することはできない。

日本で流行らなかった理由は島国であることが大きいが、当時、北里柴三郎氏が香港で腺ペストの病原菌を発見したこともあり、日本に1899年に初めてペストが入った時、東京市が予防のためにいち早く対応したことによる。(ネズミを買い上げるなど)だから、野ネズミにまで感染ノミが広がらなかったのである。

ペストとコレラのいくつかの相違の1つは、ペストはヒトだけでなく家畜やペットなどにも感染し死に至らしめること。それに対し、コレラは自然界ではヒトだけの感染症といわれる。あと、死亡率などもかなり違う。死亡の経過もペストはペスト菌そのものにより死亡するが、コレラは主に重篤な下痢のために脱水で死亡する。

だからペストは一時的侵襲で死亡するのに対し、コレラは二次的な侵襲で死亡するといえる。当時から、コレラの感染に対し食塩水や海水を薄めて飲むなど、ある程度の対処法があった。治療をしないと死亡率が高いが、脱水を防ぐだけで致死率が相当に低くなるのである。ここが僕がコレラが二次的と言う理由である。

また、コレラはあんがい歴史がない。コレラでも悪性度が高いアジア型は古くから存在していたようであるが、大流行をし始めたのは19世紀からである。コレラが死亡率がそこまで高くないことと、歴史の浅さがペストの影響ほどではない根拠である。(発疹チフスなども、致死率や大流行の歴史を見るとペストほどではない)

また、「腺ペスト」の名前だが、リンパ節がおかされ腫れて痛むことから来る。これはリンパ節がかつて腺の1つと考えられていたためこう呼ばれるが、現代的にはちょっとおかしい。医師で「リンパ腺」と言う人はいない。この名前はそのまま慣習で使われているのであろう。

なお、ペストは「腺ペスト」がほとんどであるが、他に「敗血症ペスト」と「肺ペスト」がある。肺ペストは稀な病態であるが、他の人に感染を広げやすいため、非常に重要なタイプと思われる。ペストは最終的に全身に多くの皮下出血斑が出現するため、黒死病と言われる。

いずれにせよ、当時の衛生状態とはいえ、ペストのように多くの国々で短い期間で人口が半分になるとか、そのような巨大な感染症はなかった。

現代社会の白人はペストの生き残りであるが、日本人はそうではない。(重要)

(この話にはもちろん続きがある)

参考
ハメルンチャルメラ
徒然なるままに浪費癖とギャンブル癖を考える
ペスト