古典的ヒステリーは器質性疾患なのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

古典的ヒステリーは器質性疾患なのか?

古典的ヒステリーとは転換や解離などを言う。一般にはヒステリーは神経症疾患とされているが、僕はそうは思っていない。

古典的ヒステリー=器質性疾患

典型的なヒステリーは、臨床的には器質性局面の方がむしろ多く遭遇する。例えば、脳炎や頭部外傷、重い身体疾患などである。

いつだったか、NHKのドキュメンタリーで、既婚男性が突然行方をくらまし、その後長い時間を経て、全く別の土地で生活し妻も子供もいたことが放映されていた。一般の人は、「記憶喪失」と思うかもしれないが、精神科的には「ヒステリー」であろう。この場合、ヒステリー遁走が生じその後も長くその状態が続いていたと思われる。

彼はたしか広島の人で原爆による放射能後遺症のために極めて重い貧血があったという。(この身体的疾患のために長期間続いていたと思われる)これはおそらく症状性疾患のヒステリー、つまり器質性疾患である。

僕はECTの直後、見事なほどのガンサー症候群が出現したのを見たことがある。この人はガンサー症候群の軽快に連れて劇的に回復していった。これは脳に通電したことによる器質性障害に由来するヒステリーであろう。

てんかんの人であたかもヒステリーのような遁走が生じる事があるが、これはまさしく脳の局在病変から来るヒステリーと思われる。

いつだったか、てんかん発作中に車で(何百km)ずいぶんと遠くまで行ってしまったという学会発表か何かを目撃した(僕が25歳の頃)。それは脳外科のドクターによるものだったので、発作により生じたと言う文脈であったが、発作中に安全に何百kmも車を運転することは難しく、これも今、考えればてんかん患者さんのヒステリー遁走的なものと思われる。

実は僕の患者さんでこれと同じような病態になる人が1名だけいる。彼女はそのような状態になると最低30kmは変な場所に行くが、事故が起こったことはない。信号無視もしない。ただ、彼女はどこをどういう風に走ったのかよく憶えていない。曖昧なのである。

この所見はてんかんやうつ状態の治療につれて次第に起こらなくなったが、今後、全く起こらないとは限らないと思う。現在は日本も開けてきており、てんかんでもコントロール良好なら車の免許がとれる。

僕は典型的な全生活史健忘を何度か目撃した事があるが、非常に興味深かったのが、生き別れになり消息すらわからなかった兄弟が白骨死体で発見されたことを告げられた男性である。この人は告げられた瞬間から、ヒステリーが生じていた。これはまさに心因性に見えるが、僕はそうは思わない。

彼は高齢だったので動脈硬化などの脳器質変化が既に存在しており、そういう背景もあって心理的ショックの際にうまくコントロールできなくなったものと思われる。つまり脳が相対的に「その事件を告げられること」に耐えられなかったのであろう。その瞬間、新たに器質性変化が加わったのである。あたかも何もないような状況でヒステリーが生じるように見える場面でも、その状態ではたぶんなんらかの形で器質的異常が生じていると思う。

だから、心因性健忘は存在しない。(←けっこう真面目に言っている)

「カウンセリングで治る人がいるではないか」と言う反論があるかもしれない。しかし、その議論は不毛だ。なぜなら、「器質性疾患」は必ずしも自然経過で治らないわけではないから。器質性疾患が治らないという考え方は間違っている。(参考の最後のパラグラフ)

幼い頃に虐待を受けた人たちは、発達障害に似た病態を呈することがある。これは、長い間の虐待による脳障害に由来する。生来性の器質性異常と精神症状が似ている理由だが、同じような脳の障害のあり方だからかもしれない。このなぜそうなるか?の答えは明快にできないが、臨床的にはそうなのである。

このように虐待を受けた人たちは解離やリストカットなどの自傷行為、希死念慮が生じやすい。

特に自傷行為、希死念慮は器質由来の暴力行為が自らに向かっているケースと考えられる。基本的に日本人は器質由来の暴力性が自分自身に向かいやすいと思う。(例えば発達障害=器質性障害の人たちの慢性的な希死念慮など)。実際、世界的にも日本人は人口比自殺者の多い国になっている。(年間3万人以上というのはとてつもない確率である)

この自らに暴力性が向かいやすい理由だが、おそらくいくつかの原因がある。これは本来、日本人は「切腹」などの文化があったことや、宗教的な影響もあるような気がしている。日本人の自殺とアメリカ人の自殺では決断する段階から全然違うと思う。(日本人は自殺を決断しやすいと言う意味)

これらの人たちに見られる慢性的な空虚感も、心理的に説明されているようであるが、これは主に前の方の脳の器質性障害から来ると思われる。なぜなら、本人にフィットした薬物療法であまりにも短い期間で急激に良くなる人が存在するからだ。何もカウンセリングをしていないのに・・

幼少時に虐待を受けた女性が、結婚後、自分の子供を虐待することがある。これは幼少時のトラウマとかなんとか言われているが、これが正しいかどうかはともかく、基本的に僕はそういう考え方をしない。

これは脳の器質性変化に由来する暴力性(他害性)であろう。(過去ログ参照)

レイプなどの1回限りの心的外傷と幼少時からの虐待の決定的な相違は、虐待は時間があまりにも長期間続いていたということである。来る日も来る日も・・だから慢性的な障害が積み重なり脳障害の程度も重い。また第二次世界大戦中のユダヤ人収容所の体験も同様に考えられる。

虐待を受けた人たちのヒステリー症状(解離など)は、だから器質由来の精神症状と言うことになる。そういう風に考えた方が臨床の多くの点で辻褄が合う。器質性疾患と扱われないのは、画像診断で何も見えないからである。

心の傷=脳の傷

心は心臓ではないのは誰にでもわかる。だったら何処なんだ?というと、脳しか考えられない。

ヒステリーを呈する人は脳になんらかの傷があるとしか思えないのであった。