本谷有希子「嵐のピクニック」を読みました。
嵐のピクニック/講談社¥1,365Amazon.co.jp本谷さんの2013年大江健三郎賞受賞の短編集。これは・・・マジで突き抜けて面白かったです。実際、読みながら「わははは!!」と何度も声に出して笑ってしまいました。鯨井統一郎ぶりの読書体験(←褒めてます)。どれもこれも、期待を下回らなかったのですが、特に面白かったのは。「悲しみのウェイトトレーニー」「Q&A」「彼女たち」「ダウンズ&アップス」「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」の、5編です。「悲しみのウェイトトレーニー」は、地味で平凡な主婦だと自分で自分を思いこみ、がんじがらめに生きてきた女性が、TVで格闘技を観て、思う存分引き締まった筋肉に浸りたいと、自らボディビルダーを目指す、というお話。しかしその夫は、彼女の2倍ほど膨れ上がった体型を観ても、何が起きたか全く気付かず。男は女が髪型を変えても分からない、なぜなら自分の事しか興味がないから。ついに彼女は夫の前で、マイクロビキニ1枚になり、見事な肉体を見せつける。「これが本当の私なのよ」と。きっと私みたいな大人しい女は、ジェットコースターなんか嫌いなはず。と自分で決め付けて、遊園地に行っても、一人だけジェットコースターに乗らなかった少女の頃と、今の私は違う、と彼女は思う。一皮むけた彼女は、やっと、ボディビル特有の、ポージングが堂々と出来るようになる。・・・・。すんごい荒唐無稽な話ですけど、彼女の心情変化に説得力があり、読ませるんですよ。自分で自分の殻を突き破ったときの、世界が反転する感じを、ボディビルという飛び道具を使って、鮮やかに描いていて凄いな~と。いやホントに。「Q&A」コレ、面白かったわ!!主人公は、女性誌の人気コラムニスト。ただし齢80歳超、編集部に説得され、病院のベッドの上で、女子読者からの最後の恋愛相談にこたえる、怒涛の85ページ特集、という設定。一問一答、いちいち笑えるんですけど、珠玉だったのが、「暴力をふるう彼氏と別れられません。」という質問に、「決闘を申し込みましょう。夜中の河原に呼び出して、徹底的に殴り合うのです。」というやつ。生死の境をさまようまで耐え抜く。あなたならきっと耐えられる。最終的に死んだふりをしていると、そういう男は、怯えてろくに確かめもせず逃げ出すはず。そうなれば、いなくなった喜びにうちふるえましょう、と。・・・この、しょーもない男と別れるときに「決闘を申し込む」ネタが次の「彼女たち」に受け継がれていて。強い女が好き、な男たちの願望をあびて、リアルに強い女になり、彼氏やパートナーに決闘を申し込む新種の女性が続出して。というお話。「ダウンズ&アップス」は、成功したデザイナーが、お世辞と批判を交互に浴び、結局どちらも、相手の気を引きたい行為に変わりはなく、ならお世辞のシャワーを浴びている方が気持ちいいや、と気付くというお話。これまた軽薄を装って、結構深い話だなーと。「いかにして私が(以下略)」は、服やの店員が、試着室に入ったまま出てこないお客を、延々1日以上、相手する話。お客は最終的には、宇宙人だったか?みたいなネタなんですけれども、この服やの店員の、徹底的にお客に付き合う!!という姿勢が、物凄く清々しくて、読んでいて気持ちが良かったです。最終的にこのお客に似あうのは、空に舞い上がるピクニックシートなのでは?みたいなオチも、広がりがあってステキだなあと。なんか感想を書いていてもこちらがおかしくなったような気がしないでもないですが、本谷さんの才能は唯一無二な気がする。別役実さんとか、劇作家の普遍性に通じる奇妙さというか。作家の想像力で、読者をどこまでも遠くに放り投げる力技を、しっかり持ってる方ですね本谷さん。素っ頓狂にも目立ちたがり屋にも思える立ち位置の作家さんかもしれませんが、私はとても好きでした。