自分を好きになる方法/本谷 有希子

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本谷さんの、今年けっこう、話題になった小説です。
自己啓発本のようなタイトル。
しかし小説。
それも意味深ですかね?


本谷さん、劇作家だけに、構成がなかなか凝っています。

主人公はリンデ(日本人)。
16歳のランチタイム、
28歳のプロポーズ前夜、
34歳の結婚記念日、
47歳のクリスマス、
 3歳のお昼寝時間、
63歳の何も起こらない一日。

全て、リンデという女性の、一日の出来ごとが、一章ずつ続いていきます。

テーマは、まさに彼女の、
「自分を好きになる方法を探し続け、それは自分とぴったりくる他人を探し続けることだと信じ、そして63歳まで他人とすれ違いまくり、しかもそれに気がつかない生きざま」。

47歳で既にその予兆はありましたが、63歳で彼女は、宅配便の配達人が再配達に来るのを待つことが、精神のよりどころと化す日常を送っています。

もはや彼女が期待できる、自分にぴったり来る他人という存在は、「宅配便の再配達人」しかいなかったという現実。

再配達にきた配達人との、擬似会話を心の中で繰り返すリンデ。
妄想の中で、彼女にどこまでも寄り添う再配達人。
・・・完璧な日常。

妄想と現実が、おそらく最期まで、交わらないであろう、リンデの人生。


怖いっすね・・・よくぞこんな物語を思いついたものだと思う。


でもこういう人ってよくいるよね。
自分もうっかりすると、妄想会話を心の中で繰り広げてしまうタイプなので、ほんと気をしっかり持って、現実と折り合っていく人生をおくらなくては。
と、年の瀬に背筋が伸びる思いです。
大げさ?いやホントに。

それくらい怖い小説でした。


でも本谷さんの筆致は、「リンデ」という乙女な名前を、てらいなく主人公につけてしまうように、とても女子に優しく、繊細かつ美しいです。


その心地よい文体に導かれ、するすると63歳のリンデの一日まで追っかけてしまうと、極めて冷徹な世界に、いつのまにか片足を突っ込んでいるという・・・。

この読者の持っていき方って、劇作家と兼任する方にありがちな性格というか。
観客を油断させて、作者の世界に巻きこんでしまうズルいやり口というか(褒めてます)。


なら、リンデはどうしたらよかったの?ってとこまでは、本谷さんはここでは描いていません。
この不親切っぷりもなかなかだと思う。


という訳で、思ったより面白い小説でした(上からですみません)。


来年も本谷さんの新作が出たら、また読んでみたいと思います^^