約1年前に始まったこのブログ、
プレオープン状態の頃に、
こう書きました。
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「ピグとはいったいなんだったのか」
という哲学的テーマを
社会学や経済学的に分析するところから
ブログを始めるつもりだったのが、
「なんか面倒くさくなったからやめた」
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「当時は大変だったよ」 by ピグミィ
ちょっといきなり巨大なテーマに挑むには、
ハードルが高すぎましたなwww
あれから1年経った今、重い腰を上げて
1年越しの宿題にかかってみたいと思います。
アバターとしてのピグ
強いてひと言でくくるとすれば、ピグとは
「アバターSNSを中核に置いたソーシャルゲーム」
でしょうか?
自分の似顔絵、分身であるアバターをゲームに使うものは
歴史が長いものにニンテンドーのMii(ミー)などが挙げられます。
このMiiを中核にして前面に押し出したゲームで
最初に知名度を得たのが「トモダチコレクション」かと思いますが、
これはピグに遅れること約4カ月の2009年6月リリース。
Mii自体の開発の源流は2000年ぐらいまで遡れるそうで、
トモダチコレクション以前のゲームにも実装されていましたが、
2009年2月にサービス開始されたピグとの
相関関係を想像するのも面白いですね。
ただ時期的に「アバター」という概念が
世間に認知される頃合いだったのかもしれません。
ジェームズ・キャメロン監督のハリウッド映画
「アバター」の公開も2009年ですから、
このあたりも符合しますね。
アバターとしての「ピグ」のデザインの魅力によって
システムとしての「ピグ」のヒットにつながった、
ひと言で言えば「ピグはかわいい」
それは非常に万人受けするもので
「可愛い」というよりも
世界共通語になった「Kawaii」の方がしっくりするほど
普遍性をもった魅力的デザインであると思います。
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仕事の上でも社内レポートなどにはピグ画像をつかっていたT氏。
年配の上司に「なんだこれは、ずいぶん可愛いではないか」と言われた。
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コミュニケーションツール
TwitterやFacebook、LINEなどの
SNS(ソーシャルネットワークサービス)では、
発言者、投稿者を識別しやすいように
アイコンが使用されます。
第45代米国大統領ドナルドJ.トランプ氏のTwitterアカウント
このアイコンにアバターを使用するというのが、
ピグの中核サービスになるでしょうか。
アバターを介してユーザー同士がリアルタイムでチャットする。
アバター作成機能やチャットルームを無償で提供することで、
ユーザー数を拡大させ、
「話相手が欲しいときに話相手がいる」という
いわば「流動性が高い」環境を整備。
(深夜帯に会えたピグともsatoさん)
既存のSNSでも同様ですが、
ユーザー間のコミュニティを形成をさせることで
サービスは活性化します。
ピグでも個別のチャットルームの他に、
大型の共用チャットルーム(公式エリア)を別に作成し、
(常に賑わっていた「グッピグ広場」)
そこでイベントを開催したり
魅力的なコンテンツを提供することによって
多数のユーザーのアバターを集客し、
ユーザーに出会いの場を提供することによって
コミュニティを形成しやすい環境も整備。
(要は「仲良し」を作りやすくする、ということです)
この基幹コミュニケーション機能であるアバターを用いたチャットの他に、
・Twitterに相当する「つぶやき」
・LINEに相当する「トーク」
・YouTubeやTikTokに相当する「ピグチャンネル」
など、様々なコミュニケーション機能も随時追加・強化されてゆき、
ユーザーは自分のスタイルに合わせたチャンネルを選択することができました。
アバターへの付加価値付与
アバターの数が増えれば、
ユーザーは自分のアバターの差別化を望むのは
当然の流れになります。
アバターの顔部分だけではなく、
服装ですとか、
チャットルームの内装などを
他人とは違うものにしたいというのは
自然な欲求です。
個性の発揮ですね。
また自分のアバターやチャットルームに愛着を覚えれば、
ユーザーの定着やプレイ時間の長時間化が期待でき、
それは基幹サービスでの「流動性」の
強化につながります。
ピグはこの付加価値部分を大幅に強化していました・・・
・・・って、強化というか、むしろその部分だけでも
じゅぶん遊べるレベルまでに進化しましたね、
本質部分のチャット機能が霞んでしまうぐらいに。
アバターの服装変更機能「きせかえ」は、
幼少の頃に着せ替え人形で遊んだ経験を持つ女子ピグにとっては
興味関心を大い惹かれるでしょうし、
チャットルームのデコレーション機能「もようがえ」は、
女子ピグにとってはドールハウス、
男子ピグにとっては模型ジオラマ作りに相当し、
いずれもこの部分だけでも大いに遊ぶことができました。
(T氏がピグ活動でいちばん好きだった「もようがえ」
これらのアイテムの販売することで
事業継続性の骨幹である収益を担保できます。
更に、それらアイテムのコンセプトやデザインに訴求力があれば
収益性はさらに高まります。
これについてはデザイナーの才能やセンスに関わる点ですが
ピグに関しては優れていたと評価してよいでしょう
(異論はあるかもしれませんが、T氏個人はそう評価します)。
(ピグの中での服飾ブランドも現れた。
この手法は現行のピグパーティーで強化されている)
アイテム販売チャンネルは、
支払い額に対して正当な対価を与える通常の販売と
ユーザーの射幸心をターゲットにしたガチャを平行させ
購入層の拡大を図っていました。
(ガチャはクジ運・・・)
これら新作アイテムがリリースされる際は、
ポップアップストアとしてのエリアも同時公開されるのが通例で
販売促進と集客の相乗効果を狙っていたと思われます。
(最後の新規公開ポップアップストア「ブラックビースト広場」)
特に集客力を高めるためのイベント開催も
頻繁に行われていました。
(「あつまれチャレンジ」はポップアップストアでも開催された)
また無課金ユーザーを冷遇することは
「流動性」の確保の観点から得策ではありません。
無課金ユーザーにも、
ログインボーナス、ガチャの初回分無料化、
各種ポイント交換、参加型イベントのインセンティブなどの手法で
アイテム入手の手段を提供していました。
(スクラッチカードも一種のポイント交換制度)
強化されたミニゲーム
ユーザーのプレイ時間の長時間化を促進するには
システム内に「ミニゲーム」を搭載するのも効果的です。
これはピグに限らずオンラインゲーム全般で
よく使われる手法です。
ただし、更新が無い定常型のゲームでは、
時間が経過すれば陳腐化が進み、
ユーザーに飽きられてしまう傾向は否めません。
PCピグでも初期から実装されていた
その実例に挙げられます。
(めんこ広場)
公開からしばらくは非常に盛り上がった技術的革新ゲーム
「ぐるっとさがして!にゃんきゃっち」ですら
終盤では過疎化を免れませんでした。
その一方で、ゲーム内で定期的にイベントを開催し
付与されるインセンティブを更新しますと、
基本ゲーム設定はそのままでも、
陳腐化を回避することが可能になります。
PCピグでこのタイプだったゲーム
ピグカジノ、ピグつり、ピグパズルが
最後のイベントまで活況を呈していたのはその好例と言え、
ピグパズルに至っては、
PCピグ終了後もスマホ版で継続中という
ヒット作になりました。
ゲーム機能についても、
無課金ユーザーの冷遇は得策ではありません。
無課金でも時間と労力をかければクリアできる環境にしつつ、
その時間と労力を惜しむユーザーには
クリアが容易になるアイテム(アソート)を販売する方式の方が
プレイするユーザー数を確保でき、
最終的な陳腐化を避けることができます。
この方式は、つりゲームに傾向が強く表れ
後発のパズルでより強化されていました。
パズルが生き残った要因のひとつと考えます。
また先着個数限定のインセンティブを設定することで
アソートの売り上げ向上を図ることができます。
これらのゲームイベントインセンティブは、
参加者だけが得ることができるアイテムとなりますので
他のアバターとの差別化を望むユーザーに対しては
強い訴求力を持つことになります。
ただし、イベント開催のたびに新規インセンティブを用意することは
運営サイドでの労力コストの増大につながりますし、
インセンティブのクオリティ如何によっては
コストに見合う収益を上げられない可能性もありますね。
(運営デザイナーのはんころもちさんと
彼女が関与した先行インセンティブの着ぐるみ)
「にゃんきゃっち」でもイベント開催方式が構想されていた形跡が窺えるのに
実際は実現しなかった(できなかった?)のは、
それが原因かと推測しています。
このようにヒット作、残念ながら陳腐化してしまったもの、
と差異はありますが、
ミニゲーム機能が強化されていたのも
PCピグの特徴に挙げられるでしょう。
PCピグってコミュニケーションツール?それともゲーム?と
明確な線引きを難しくしている要因です。
負の側面
このように様々なタイプのユーザーが
広く楽しめる環境を整え、
数多くのユーザーを獲得したPCピグでしたが、
その結果として不良ユーザーをも
取り込んでしまったのは
負の側面と言えるでしょう。
アカウント乗っ取り、
不法ツール使用など
重大な違法行為から、
気に入らないユーザーへの粘着行為や
誹謗中傷など
嫌がらせも少なくありませんでした。
とくに学校が長期休みになる期間になると
増加する傾向が顕著で、
ベテランユーザー達はそういった時期になると
警戒を強めたものでした。
T氏も冬休み期間中の「クリスマスシンフォニー号」で
言い掛かりの粘着された経験がありましたが、
プロフィールパネルを見たら
高校生だったようでした。
特に嫌がらせの中では、
仲の良いユーザーが部屋に置いてくれた
差し入れとしての消費アイテムを
無断で消費してしまう「食い逃げ」が多発し、
T氏自身も何回も被害を受けました。
(このような不良ユーザーのピグの外見は
「いかにも」というのが多かったのも特徴。
確信犯だったと思われる)
ユーザーたち自身も対策を色々としていましたが、
この件については他の件とは違って
運営サイドが対策に消極的だったのは不可解でした。
抜本的な対策が打ち出されたのは、
PCピグのサービス終了の告知が出る直前のことで
(2019年3月5日。終了告知の一週間前)、
結局は終了告知が出た後は不良ユーザーたちも
潮が引くように姿を消したことを考えれば、
対策が遅くに失したと言わざるを得ません。
ピグパーティーとの比較
これらPCピグの特徴は、
後発の類似サービス「ピグパーティー」と比較すると
より鮮明になります。
ピグパーティー(以下ピグパと略します)は
アバターのデザインはピグに酷似していますが
連携はしていない全く別のサービスと言えます。
PCピグ末期にはピグのユーザーをピグパへ誘導するために
一時的に連携が図られましたがその作動状況は劣悪で
明らかに仮設システムを無理矢理に実装したことが窺えました。
もともと連携は全く考慮されていものだったのでしょうね。
まずピグパは、バイオスをスマートホンに限定したアプリで稼働します。
対してPCピグは、パソコンブラウザ上で稼働するシステムで
動作はFlash Playerに依存します。
同種の動画系プラグインのJavaやSilverlightと比較して
ファイル容量や汎用性、動作の安定性、使い勝手などの観点から見て、
ピグのサービス開始の2009年時点では
妥当な判断だったと思います。
ただその10年後に命取りになったわけですが・・・
外部ファイルに依存するPCピグは、
その外部ファイルと一蓮托生の運命を背負ったわけです。
その点、OS以外は自己完結しているアプリであるピグパは
その懸念はありません。
(スマホに最適化されたピグパの縦長画面。
後発のアプリ版ライフはタブレット端末対応の横長になった)
PCピグからピグパへ引っ越したユーザーが
第一に感じたのは「狭い」だったのではないでしょうか。
大きなモニターに表示させるPCピグに対し、
スマホの小さな画面に最適化したピグパにとっては、
(ピグパ開始時にはタブレット端末は一般的ではなかった)
PCピグ級の広大なエリアはオーバースペックです。
このエリアの狭小化によって、
システム全体のサーバー負荷は
大幅に軽減されていると推測されます。
多数のアバターを集客する共用エリアの
規模や数もPCピグと比較して大幅に低下しています。
とくにPCピグで見られたポップアップストアの公開は激減し、
アイテム販売促進は代わって動画フライヤー(チラシ)を
ログイン時に強制表示させる形式を取っています。
(効果的なフライヤーの制作は、
エリア制作とは別種の難しさがあると想像する)
PCピグでの多数のエリアの存在は、
サービス過剰だったという判断だったのでしょうか?
(または期待するほどの効果が無かった、ということか?)
またピグパではエリアサイズの縮小と共に、
割り当てられるチャットルーム(お部屋)の数も
1ユーザー1室に限定されていて増加の余地は無く、
サイズの拡張余地も乏しくなっています。
PCピグでのアイテムの多彩さの象徴のひとつであり、
同時に動作を重くする原因だったアニメ効果付き家具アイテムも全廃。
またPCピグでのミニゲーム類も大幅縮小され、
定常型が1つだけ。
イベント開催型ゲームは全廃されています。
これらの措置により、サーバーへの負荷は大幅軽減され
大幅な運用コストダウンが達成されたと思われますが、
システム全体で構成する世界は大幅に小さくなってしまいました。
ピグパは、PCピグが持っていた大きな冗長性を縮小させ
大幅に合理化を進めたシステムと言えそうです。
ただ悪いことばかりではなく、
運用コストダウンによって、
ユーザーも無課金でも秀逸なデザインのアイテムを
入手しやすくなっています。
無課金ユーザーにとっては、
PCピグよりも遥かに楽しめる環境と言えるでしょう。
バイオスが手軽なスマホであって、
パソコンを自分で自由に使えない
未成年・学生でもアクセスが容易です。
この結果として、
ユーザー間での「格差」が
生じにくい環境が作りだされていると感じています。
もし格差が生じるとすれば、
それはユーザーの能力やセンスなど
誰もが認めざるを得ないものであって、
反感を生じやすい「貧富の格差」は
発生しにくいと感じます。
PCピグでの迷惑行為の数々を思い出すと
ピグパの「治安」は良好に感じられるのです。
ユーザー層が大幅に若年化したにも関わらず、
治安が改善したというこの現象は、
貧富の格差は社会の健全性を阻害する要因であるという、
仮想空間での社会実験として興味深いですね。
結論;ピグとはなんだったのか?
「昔むかしにPCピグという
今は滅んでしまった大きな国があってな、
たくさんの人々がいて
みんな幸せに暮らしていたんじゃ」
パソコン版ピグとは、
仮想空間に生まれた社会性を持った大きなひとつの世界。
その世界でユーザーたちは分身であるアバターを介して
長い時間を過ごし、
その自分の空間を居心地の良いものにするため努力し、
価値観を共有する友と語り合い、
働いて(ゲームイベントに参加して)対価を得、
まるで生活するかのように時間を過ごしていました。
多数の人々が集う社会ですからそれぞれに個性があり、
その個性を表現する手段がありました。
多様性を持った社会。
多様性は社会の活力になります。
笑ったりして楽しいことが多かったですが、
多様性ゆえに矛盾や社会問題も起き、
時には迷惑行為に泣いたり、怒ったりすることもありました。
ただそんな時も、友人たちが駆け付け
一緒に怒ったり、慰めてくれたりしてくれました。
嫌な出来事でさえも
友との感情のうねりを共有する機会に昇華しました※
※これはT氏が迷惑行為を許容するものではありません。
そのような解釈も可能である、とご理解ください。
10年間の月日をかけて進化と成熟を遂げ
爛熟期を迎えていた社会性のある世界。
その広大な世界であるが故に
内側で自己完結していたその世界は
外部の変化に対しては脆弱で
それゆえに滅び去りました。
決して内部から崩壊したわけではありません。
「歴史の彼方に消えた世界ですが、
その存在意義はかつての住民にとっては大であり、
記憶や思い出は色あせるものではありません。
この先も語り継ぐ者がいることでしょう」
「伝説は終わり、歴史が始まる」
「銀河英雄伝説(田中芳樹;徳間書店)」の結びの言葉
ピグ運営会社、サイバーエージェント社の株価動向から
ピグ終了に至った分析をしたこともあります。
よろしければご一読を。