「なぜ癌になったのか?」「癌の原因は何か?」という問いは多くの患者が抱く疑問かも知れない。
発癌の議論は広範かつ複雑なので今はスキップし、ここでは発癌の「場所」について整理してみる。
既に癌に罹患した者には無駄な議論の様に思われるかも知れないが私は重要だと感じている。

(生物のド素人の私がネットで調べた感じでは)細胞分裂は概ね添付図の様な手順で起こるらしい。
cell

DNAの「タンパク質生成に必要なプログラム」は核内でメッセンジャーRNA前駆体に転写される。
その後イントロンと呼ばれる「つなぎ」が省略されエクソン領域が連続的に並んだm-RNAになる。
この「プログラム」に基づき3塩基に1つずつアミノ酸が収集されタンパク質が合成される。

DNAは全ての細胞に共通である。にも関わらず、心臓、肝臓、肺、筋肉、、、といった様々な
臓器が存在するのは「エクソン部分の発現の仕方」が異なるからである。発現したりしなかったり、
あるいは発現の順番が違ったり等、それぞれの発現機構が細胞分裂を通して維持される事に拠る。

これは分化と呼ばれ、癌患者には極めて興味深い概念である。すなわち低分化癌や未分化癌が転移
(すなわち他臓器に定着)しやすいのは、分化度の「若い」細胞であるほど他臓器に進化しやすい
からと想像する事もできる。

現在、発癌の「場所」に関する議論の主流は「DNA突然変異説」の側にあるかも知れない。
80年代初めに癌遺伝子が発見されて以降、現在までに100種類以上?が発見されている。
P-53癌抑制遺伝子の不活性化などの「現象」もあたかも「全てを解くカギ」の様な期待を持たれ、
ネット上や書籍で高頻回に使い廻されている。

私自身もネット等で癌の調査を開始後、1ヶ月間くらいは「何かの原因で突然変異が起きたんだな」
と納得していた。が、治療を進め調査範囲を広げる事で少し異なったイメージを持ちつつある。

突然変異説に対する最も大きな疑問は私を含め、多くの癌が「非一様」であるという現実である。
仮に「滅多に起きない」突然変異が起こり癌が生じたとしたならば、恐らく癌はもっと「一様」
ではないだろうか?癌が「ソフトウェア」の異常ならそれに応じた「同じ製品」を作るハズである。

勿論ソフトの問題が原因で生産機械が「不安定な」誤作動を起こす様な事もあり得る。
しかしエクソン発現機構などの「ハードウェア側」の不具合と考える方が自然な場合もある。
少なくとも「発癌の場所」として「DNAの突然変異」と結論付けるのは短慮に過ぎる気がする。

癌に関するインチキ商品・病院の説明では多くの場合「癌はDNAの異常が原因、、」と結論
付けている。将来の研究の結果「DNA説」に落ち着く可能性もあるが私には「古臭く」感じる。
現段階ではDNA異常は発癌の「結果」である可能性も捨てきれない。10年位昔ならともかく、
もう少し上手に人をだますなら表現を改めた方が良いのでは?と思ってしまう。
抗癌剤の分子量については前回記事で列記したが、私のように「原発はでかく、遠隔転移も数十個」
という患者は初回治療において、どういう考え方と抗癌剤で望めばいいのだろうか?
これについても「正解」を示すことは出来ないが、私の「1失敗例」を紹介する事はできる。

「失敗」というと主治医に怒られそうであるが、仮に今から2007年3月に戻る事が出来るなら、
私が選択するレジメンは「タキソール+カルボプラチン+アバスチン」の最大量投与である。

このレジメンは国内では保険適用ではない。2007年の後半になり、やっと国内臨床試験が
始まったという感じではないだろうか。勿論、私もがんセンターの主治医も初回投与時に
知らない訳では無かった。が、当時(今も?)このレジメンに踏み切る環境には無かった。

がんセンターでの診療は恐らくムリである。仮に私の勝手な判断を受け入れてくれる病院が
あったとしても治療費は恐らく100~150万円/月程度の全額自己負担になるであろう。
6ヶ月程度実施すれば(入院を控えたとしても)総費用は600~700万円という計算になる。

「でかい原発」は場所によっては生命に対する直接的な危機を及ぼす。しかも成長が早いと
まさに「次の周期」で致命傷になりかねない。緊急避難的に縮小を狙う事が必須となる。
未承認薬を含め、現状の分子標的剤単独では10cmオーダーの固形癌を1cmにする事は難しい。

PETでFDG集積度が(注射後1時間のphaseで)5~10程度以上あればやはり初手は細胞殺傷系
の抗癌剤で縮小を狙う。ここまでの私と主治医の考え方は正しい。しかし、
アバスチンを併用すれば、より高い効果が得られたと考える。血管新生阻害という作用機序は
細胞周期に影響しない為、充分に上乗せ効果が期待できる。

肺腺癌の中には集積度が3~4という低活性度の組織もある。その場合細胞殺傷効果は落ちる。
今なら「(イレッサ?or)タルセバ+アバスチン」と言った感じではなかろうか?
分子標的剤との併用においても「異なる」ターゲットを狙う事でより高い効果が期待される。

アバスチンが肺癌において(あるいは他固形癌においても?)基本レジメンになる事は恐らく
間違い無いと思える。2009年認可が噂されるが何故2006年で無かったのか?全く理解できない。

もしも適正な認可がされていれば2007年3月時点において、私の主治医はかなりの経験を蓄積
していたと期待できる。結果として私はより適切な投与を保険適用内で試行出来たはずである。

私の「失敗」は厚労省のデザインした薬事行政の範囲で「人生最大の敵」に挑んだ事である。
そこでは私も主治医も「実力の半分も発揮できず」闘う事を強いられている。
もしも「次のチャンス」があれば600万円費やしても自費診療を行うつもりである。
血液脳関門は90年代以前は「脳への薬物流入を遮断するフィルター」として考えられていた。
しかしながら近年になって脳の毛細血管に存在するP-糖蛋白などによる「積極的な排出機構」
という考え方が定着してきた様である。そういう意味では「関門」という表現は正確ではない。

事実「じゃあ抗癌剤を脳に直接投与すれば?」というアイデアもあったが結局失敗した様である。
抗癌剤の個人差の記事で述べた様な「排出」機構が働き、偏った平衡を維持していると考えられる。
「フィルターの向こう側」に流しても結局排出されるので効果が出ないのである。

では脳転移には抗癌剤は効かないのだろうか?当然私も「答え」を持っている訳では無いが、
以下の「いい加減な考え方」をしている。不備等については是非ご指摘頂きたい。

細胞膜の薬剤排出機構でもP-糖蛋白は重要な役割を果たしている。脳の場合は毛細血管自体に
同様の機構があるとの事なので抗癌剤の効き目は更に落ちると思われる。一般的な推論として、
「分子量500以下であること」が脳にも作用し得る最低要件では無いかと想像する。

添付図は肺癌に関係する主な抗癌剤の分子量を列記したものである。
mol

例えば、悪性リンパ腫の治療には(最近はリツキサンも含め)有名なCHOP療法が用いられる。
・シクロフォスファミド 分子量279.10
・ビンクリスチン    分子量923.04
・アドリアマイシン   分子量579.98
・プレドニゾロン    分子量578.79
このうち脳リンパ腫にも作用する可能性があるのは「プレドニゾロンだけ」と言われている。

一方、脳腫瘍の一部では脳血管関門の働きが弱まる事が知られており、シクロフォスファミドを
含むアルキル系や白金系抗癌剤の効果が期待されているとの事である。この理解から言える事は、
・分子量が大きい薬剤はほぼ可能性は無い。目安は分子量500前後以下?
・脳転移に作用するとしても、原発と比べ相対的な効果は恐らく低い。
・そもそも原発に効かない様ではほぼ脳転移には作用しない。
・ただし脳転移の「場所」によっては脳腫瘍と同様の「関門機能の低下」が起こり、
 結果としてシスプラチン等が作用する事もあり得る?(恐らくそんな幸運?の確率は低い)。
といった感じではないだろうか?

イレッサは著効すると2~3年作用が続く事も珍しく無い。しかしその場合でも脳転移は起こる。
これは分子量が比較的大きい事がネックになっているのかも知れない。通常、分子標的剤の効果は
「現状維持+α」という理解である。「良くフィット」しても脳転移までは制御できない様である。

小細胞肺癌ではイリノテカンorカルセド併用で寛解が得られる事も珍しく無くなった。しかし
その場合でも脳転移は起こる。これらの「肺には効く」抗癌剤は分子量が大きい。併用される
シスプラチンは脳転移に作用する可能性もあるが単剤では原発すらも寛解する事は稀である。

その事情はカルボプラチン+タキソールにもあてはまる。タキサン系は有望ではあるが、
分子量が800以上あり、恐らく厳しい。カルボプラチンがよほどフィットすれば別であるが、
脳転移のリスクは考えておくべきであろう。ただ、

卑近な例で「イレッサが奏効し2年制御後脳転移。カルボプラチン+タキソールに変更」という
ケースがあった。その時は「先ずは原発を抑えにいったのかな?」と解釈したが、当面放射線の
予定も無く、もしかすると「カルボプラチンの脳転移への効果を期待」したのかも知れない。
(勿論、他患者の事であり主治医に詳細は確かめていない)

また添付図の分子量だけを見ると患者としてはTS-1とジェムザールが期待される。
しかし両方とも新しめの薬ではあるが肺癌に対して単剤では「やや弱い」という印象があり、
原発によほど著効すれば別だが、脳転移を抑える程の力があるかは疑問である。
2000年頃を境に国内でも多少は効く抗ガン剤が使われる様になって来た。
しかし投与の現場では「抗癌剤には個人差があります。奏効率は○○%です」という説明がなされ、
効果が落ちてくれば「癌に薬剤耐性がつきました残念ですが、、」と言い渡される。

患者にとって重要なのはその「中身」である。抗癌剤が効く為の最低条件?は前回記事で列記した。
投与した薬剤が円滑に患部に届けられるのは重要である。しかしそれだけで効果が上がるほど問題は
簡単ではない様である。

添付図は最も基本的な細胞代謝の考え方である。
代謝

1つの重要かつ複雑なハードルは細胞膜の機能であろう。単なる浸透膜と異なり様々な酵素が配置
され細胞内外の物質の出入りを調節している。

イオンポンプやイオンチャネルは薬剤耐性や個人差の問題に対し(素人目にも)重要に思える。
しかしながらそれらの役割、数、機能、活性度の制御、等は未だ研究の途にある様である。

生体は非常に巧妙である。最近の研究では「低分子化合物を排除する」ポンプもあるそうである。
抗癌剤治療においては邪魔な感じもするが本来は「有害物質を解毒する」高級な機能である。

肝臓癌や腎癌、肺癌など、常日頃から「外界のモノを取り込み処理する」器官はもしかすると
こういった高度な機能が強いのかも知れない。その結果、抗癌剤治療がより困難になっている、
と想像する事もできる。

また同じ臓器で見ても細胞膜の(膜に含まれる酵素の)機能にこういった個人差があるのは
充分考えられる。抗癌剤を補強する様な「イオンポンプ補助剤」などが開発されるのが理想では
あるが、当分は無理な様に感じる。結局、患者にはどうする事も出来ないのだろうか?

現段階での私の結論は「正常状態を維持する」ことしか思いつかない。
・例えばコレステロール過多は細胞膜の(動きを阻害し)流動性を悪くする様である。
・また血漿中のアルブミン低下は組織液を引っ張れなくなり浮腫や胸水を起こす要因になる。
・さらにカリウム、ナトリウム、塩素などの電解質バランスは細胞膜内外の電位構造を決める。

細胞付近のこれらのパラメータが採血結果とどの程度相関しているかはまた議論があるが、
実際的には血液検査のデータから類推するしか無い。これらのデータが「正常値」に入る様
調節するのが今やれるせいぜいの対策かも知れない。

勿論この「正常値」が抗癌剤の効果に対して「最適」かどうかも本当は判らない。
しかし殆ど指針が無い現状にあって「当てずっぽう」な戦略はリスクが大きすぎると考える。

もしも許されるなら毎日毎日、全国の病院で回収される膨大な血液データを私は知りたい。
抗癌剤が効く人、効かない人のデータを整理し、癌腫や治療内容、年齢、イオンバランス、
コレステロール、、、等々データを整理すればあるいは「抗癌剤の効果を上げる」ヒントが
見つかるかも知れない。

少なくとも私の場合の1例を見ると「良く効いた時期」と「殆ど効かなかった時期」がある。
これについても情報を整理する必要がある。
薬剤耐性の正体を把握できれば(癌以外も含め)化学療法は飛躍的な発展を遂げるはずである。
この問題でも「正解」は誰も持ち合わせていないだろう。が、患者である私は考え続ける必要がある。

前回記事では「耐性」の正体として「突然変異説」は考え難いと評価した。
次に議論されるのが「体質」の差、もしくは変化である。

元々酒に弱い人が習慣的に飲酒をする事で強くなったり、逆に久しぶりに飲むとすぐ酔っぱらって
しまう等の現象を我々は良く知っている。これはアセトアルデヒド等の代謝を司る酵素の活性度が
上がったり、元に戻ったりする事に拠る。こういった生体反応なら数ヶ月程度で起こる事もある。

例えばTS-1やイレッサなどの経口抗癌剤は大変便利ではあるが肝機能障害が一つのハードルと
なる。しかし数ヶ月程度の「間」をおいて投与すれば意外と再奏効したりする。これは肝臓代謝
における体質変化は起こったがターゲット臓器の組織耐性は発現していないから、とも考えられる。

では腸で吸収する過程をスキップした点滴薬についてはどういった機構が関与するのだろうか?
抗癌剤が「効く」為の条件を列記すると、
・血漿(血液)中の薬剤濃度・分布、
・血管から組織液への浸透量、
・組織液から癌細胞への浸透量、
・癌細胞中の薬剤の滞在時間、
・腫瘍細胞の分裂周期、
・腫瘍細胞の薬剤代謝(排除)能力、
・腫瘍細胞の化学的な遮蔽?能力、
・+α(想像もつかない様な何か)

等が考えられる。ヒトの体内の生体機構・酵素・平衡状態などは未知の部分も残されており、
結論めいたモノを得るのは困難である。しかしながら薬剤を出来るだけ多くデリバリーし、
出来るだけ長く滞在させる事で、より大きな効果が得られる事は「相対的」には正しそうである。

また(まともな抗癌剤が開発させて以降は)細胞分裂周期が早い癌ほど奏効しやすいという事実も
上記の考え方がそれ程「的はずれ」で無いことを示唆している。

では私の場合、抗癌剤治療終盤で体質が変化したと思えば良いのだろうか?
そもそも「体質」と一括表現される上記作用の中の「関連するどの物質が」「どの程度」変化
したから、6コース以降「全く」効かなくなったのだろうか?まだ理解が足りない様である。

余命宣告通り短期間の治療後死ぬのであれば、耐性の正体が突然変異だろうが体質変化だろうが、
あるいは他の原因だろうが問題では無い。しかし寛解を目指す私にとっては現象が「不可逆的な」
遺伝子レベルの変化なのか「可逆的で一時的な」変動なのか?は大問題である。

「根治」に向けたロードマップの設計に大きな影響がある。更に調査が必要である。
薬剤の耐性には、
・経口薬に対する肝臓の「代謝耐性」と、
・ターゲットとなる臓器そのものが獲得する(もしくはそもそも保有している)「組織耐性」
に分類できる。

経口投与された薬品は腸で吸収される。但し一部は全身に行き渡る前に肝臓で解毒され腎臓を介して
排出される。(自然物質由来も含め)合成された化学物質は身体にとっては「毒」だからである。

薬を分解する酵素の活性度は元々遺伝レベルの個人差がある。薬が効きやすい人や効きにくい人が
居るのはその為である。「代謝耐性」は肝臓酵素の活性レベルの「増強」だと考えられている。
薬の長期服用で効果が落ちたり、同じ効き目を維持するのに増量が必要になるのもこの為である。

経口投与となるTS-1やイレッサには代謝耐性も関係すると思われるが。ここでは広く普及する
点滴薬について議論する。直接血液中に投入する抗癌剤については「組織耐性」が問題になる。

例えばシスプラチン(カルボプラチン等他の白金製剤も同様であるが)は中心プラチナの両側
の塩基が「シス型」結合している。これがDNA2重鎖の両方にとりつき架橋を形成し細胞分裂を
阻害する。化学反応のポテンシャル自体には個人差は無い。薬剤がDNAに届けば一定の割合で
期待される反応が起きるはずある。

またパクリタキセルは細胞質の中の微小管、つまり「治具」に作用する。微小管は細胞分裂の際、
「ひも状」の手になり核の分裂を促進する。タキソールはこの微小管をムダに結合させ、肝心の
細胞分裂の際に材料不足にする事を狙っている。これも薬剤が細胞質の中に取り込まれれば反応
自体は起こると考えられている。

「抗癌剤が効く人or効かない人」の議論は重要なので別記事で述べる。ここでは「獲得耐性」
に絞って話を進める。すなわち「抗癌剤治療を2~3コース実施する事で多少効いていた薬剤が
効かなくなる事」として説明される場合が多い。これは本当だろうか?

例えば私には抗癌剤は良く「効いた」。しかし0.1%は生き残り「中心部だけから」再発した。
「耐性」の話をする際、しばしば「癌細胞に突然変異」が起こった、と考える様である。が、
私はそれには賛同出来ない。

一般に癌化は5回程度のゲノム的置換が重畳され起こるとされている。多くの癌は年齢に
よりリスクが上昇する。その程度が概ね年齢の4乗から7乗に比例している事からの推定である。
仮に、ありきたりな抗癌剤に相当な置換作用があると譲歩しても、DNAの化学ポテンシャルを
変えたり、細胞質の成分比率に影響するようなゲノム的な突然変異が起こる為には少なくとも
数回以上の「刺激」and/or「細胞分裂」が必要では無いだろうか?

足の速い肺癌ですら1回の細胞分裂に要する時定数は1ヶ月、乳がんなら100日である。
突然変異による「最初の1粒」が生成するのはどんなに控えめに考えても3~4ヶ月、
癌種によっては1~2年後の事である。

さらにその「1粒」が代々「耐性」を受け継ぎ観測に掛かる大きさ~Φ5mm程度になるまでには
25回程度の細胞分裂が必要である。一般的な肺癌の成長速度から考えても最低2年程度は
要する。さらにもう1歩の譲歩を加え、耐性を持った細胞が一粒でなく多数あり、それらが
一斉に成長を始めたと考えてもその「成長」が見えるのは「年」のオーダー以降である。

少なくとも私のケースや多くの再発例とはタイミングが合わない。
私は2007年4月から8月までの抗癌剤治療によって寛解判定を受けた。治療後のPETでは、
原発部にFDGmax~2程度の集積があったが充分に活性度が下がっている事も確認された。
しかしながら追加の7コース目を重ねたにも関わらず再発した。

結局、癌は「何」が「どの様に」作用し、あるいは作用せず、治癒しないのだろうか?

勿論、この問いに対する解答は誰も持ち合わせていない。MDアンダーソンやがんセンターの
ホームページを見たり、ブログや掲示板を検索する事で「治し方」が判る様なら誰も苦労しない。
「奇跡の水」とか「○○治療法」「癌に効く食品」等の公告やウソ体験談に至っては論外である。

本ブログでも恐らく「解答」を示すことは出来ないと考えている。ただ、より効率良く、
より安全に、寛解に近づくルートを開拓する事を目指すだけである。私の目標である寛解
の定義は「判らない事は幾つかあるが、何故だか再発せずに長期生存している状態」である。

Goldie JH, Coldman AJ, et al Cancer Treat Rep66: 439~449, 1982. の仮説では、
「腫瘍細胞は時間がたつと薬剤耐性を持ち増殖する」という立場を取っている。
化学療法の考え方には諸説あるが、殆どの標準治療はこの仮説を基礎としている。

すなわち、
・単剤で作用が期待されるものを組み合わせ多剤投与する
・異なる作用機序、副作用を持つものを選ぶ
・できるだけ短い間隔で投与する

私が投与した白金製剤+タキサン系の組み合わせも、この20年以上も昔の原理に基づいている。

卵巣癌、乳がん、小細胞肺癌(など、反応が期待される疾患)に対し短期間・大量抗癌剤投与
が試みられ高い奏効率が得られることが判った。が、結局生存率には寄与せずブームは去った。
結果、90年代後半に「どんなに奏効しても抗癌剤単独では治癒しない」という理解が定着した。

しかしながら80年代はシスプラチンとシクロフォスファミドくらいしか「効く」とされる薬剤は
無かったハズである。Goldie-Coldmanの仮説はその頃に得られたモノである。
その後、ありとあらゆる物質について研究がなされ、90年代後半になり、やっとパクリタキセル
が出回る様になった程度である。薬物耐性に関する「常識」はそれ程多くの「可能性のある」
組み合わせによってフォローされているとは思えない。

また、昨今の状況を見るとカルボプラチン+パクリタキセルの初回治療後、second lineとして
ドセタキセルを用いる事も珍しくない。私と主治医との議論でも「前回あれだけ効いたのだから
同じ作用機序を持つドセタキセルで?」という話にもなり1つの候補となっている。

もしGoldie-Coldmanの仮説に従うならば、すっかり「耐性のある」私の再発癌にドセタキセルは
効果は期待できない事になる。が、少なくとも我々はそうは考えていない。

この古い仮説は確かに標準治療の原則的な基盤になっている。「薬剤耐性」説は再発や治癒しない
ことを説明する際に最も簡単で便利な考え方である。しかし私にはかなり定性的で脆弱に思える。
癌患者にとって睡眠が重要である事は異論が無いであろう。エビデンスなど必要ない。しかし、
がんセンターの18階に入院する様な特別な階級を除き、殆どの患者は4人部屋になる。
他病院では6人~8人部屋もあり得る。病院という所は「よく眠れない」様にできている。

患者の半数はいびきをかく、また4人部屋に入ると24時間点滴の患者が必ず1人か2人は居る。
シスプラチンの腎毒性を防ぐため生理食塩水や電解質を流し続ける。体重が1.5kg以上増加すると
利尿剤も使う。当然トイレに何度も行く。輸液器の誤作動でアラームが鳴りナースコールにもなる。

勿論、点滴の御本人は大変に気兼ねしている。こちらも怨んでいる訳ではない。大変な病気にかかり
辛い治療をする気持ちは本当に良く判る。が、一晩に3~4回も起きるのは治療にも触りもある。

私の解決策は結局「耳栓」しかなかった。黄色いスポンジ状のやつを2セット持参する。
睡眠剤は(これも何故か看護師から必ず奨められるが)私は使わない。他患者の話では、
昼間もボーッとしたり、どうも心身のリズムを崩す様である。

私の場合は耳栓により何とか起きずに済むようになった。寝てて無くす事もあり得るので
予備も用意した。入院自体、疲れるモノであるが睡眠が取れる様になるとかなり負担は減る。

病院で「眠れない」と申告すると速効で「眠剤」を持ってくるが、私は間違いだと思う。
先ずは耳栓を常備し眠れない患者には試させてみるべきである。それで済むなら薬は必要ない。
癌患者にとって何を食べ、また食べないかは非常に重要である。しかし病院では特に指導は無い。
通常癌は診断にかかった時点で10mm程度の大きさになっている。ここからの腫瘍成長速度は速い。
今更体質改善をしても「遅い」という理屈である。

また「癌にかからない為」に推奨される食事や生活習慣はあっても「癌になってしまった」患者
が取るべき対策は禁煙以外に無いとされている。エビデンスの無い事を指導する訳にはいかない。

「タバコの発ガンリスク」という最も簡単なエビデンスを得るのに人類は100年を要した。
某国のタバコ会社に至っては今日になっても尚、この科学的事実すら認めようとしていない。
野菜が良いのか?肉が良いのか?香辛料は?、、結果が出るのは数十年後のことである。

しかし、癌患者は明日の朝食から全て自己責任で決定してゆかねばならない。
マクドナルドや吉牛にするか?、あるいは玄米と納豆か?誰にも責任は取れない。自由である。

詳細は後日紹介するが私の場合は生野菜と果物である。納豆と豆腐も毎日100g以上は採る。
さらに1日に3L以上の尿を排泄する。宿便や便秘も無い為、相当な量の便も出す。
がんセンターも放医研も「病院食」は私には全く不足である。とても治療を継続出来ない。

またどうしてもベッドで横になる時間が長く運動不足にもなる為、便秘になりがちになる。
私の抗癌剤治療の記事でも述べたが、これらは「治療そのもの」と同じ重要性がある。
私は割と早い時期に「ぶっちゃけた」。主治医と看護師に説明し一切の病院食を止めた。

全て弁当か外食である。最初は看護師等が何度も何度も「ご親切に」病院食を奨めにくる。
栄養のバランスとか消化とか、何度断っても病院食を食べさせようとする(本能がある?)。
こちらも出来れば期待に沿いたいと思うので最初は我慢して病院食を試みた。しかし、

栄養、消化、排便、味、等、どの側面から考えても抗癌剤治療中の患者には適切では無い、
通常の病院食と同じ論理で構成されており、明らかに研究不足だと思う。

幸い、国立がんセンター中央病院には19階にスカイレストランがある。朝食は680円で
ビュッフェ形式となる。生野菜とみそ汁、納豆類が自分の治療や体調に合わせて摂取できる。
また、昼、夜も、豆腐料理のメニューなどもあり、数日であればなんとか凌げる。

特にお勧めなのは「フレッシュオレンジジュース」¥850円である!!
病院のレストランなのでどのメニューも市中よりは高めである。が、この850円は突出している。
恐らく末期癌患者にでもならなければ決して注文する事はないであろう。しかし、である。

私はこれ以上に美味いオレンジジュースを国内では飲んだ事が無い。スイスかフランスあたりの
「ちょっと高め」のレストランで運が良ければ飲めるオレンジジュースに匹敵する。
しかも繊維質もたっぷり含まれていて、入院中の排便はこのオレンジジュースに頼る部分が大きい。

築地近辺に立ち寄る機会のある方には「お勧め」である。
前回記事をもって、ここまでの治療経過についてやっと一区切りを付ける事ができた。
・2007年3月   :確定診断
・2007年4月~8月:国立がんセンター中央病院において抗癌剤治療、寛解
・2007年9月~11月:経過観察・原発部再発
・2007年12月  :放医研病院において重粒子線治療
・2008年1月~  :経過観察

当初は「余命半年程度」、「明日死んでもおかしくない」などと評価された病状も現在は安定し、
診断後1年を経過した段階で自らの病気について研究を継続できている。

これまで本ブログは「試験運転」と位置づけていた。が、今後は(当面「癌」関連に限定するが)
患者や患者家族の目に触れる機会の多いリンク集、掲示板、ランキング等に紹介するつもりである。
「患者の役に立つ事」と「私の治療の参考にする事」が当面の本ブログの主目的である。

尚、2008年2月には肺転移巣の再発も確認され現在対応中である。治療内容・推移をまとめるには
しばらくの期間が必要なので治療経過の「後編」は後日紹介していきたいと考えている。

今後暫くは、
癌の理解、治療方法、薬剤、疫学、統計、食事、予防・検診、医療(費)、患者からの提言(遺言)
などの各テーマについても言及してゆきたい。下らない情報や間違いなども混じる恐れがあるが、
ブログをご覧の皆様方からご指摘・ご批判など頂く事で正しい情報の整理を目指したい。