ドイツでは「医療者の報酬」と「器具・薬品業界の利益」及び「医療水準」の3要素が同じ
テーブル上で包み隠さず議論され、科学的、合理的に配分が取り決められている様である。

当然「いずれも医療費の範囲で有限」だが、議論の過程でムダと不正が削られる為、
結果的に「負担に見合った医療水準」が国民にも供与されている様に思える。

日本や米国では医師(会)と業界の取り分が大きく、さらに所管官庁OBと族議員に利益が
還流される。政・官・業・医の関係者からするとドイツの公正で、合理的で、科学的な、
透明性の高い医療制度だけは死んでも取り入れる訳にはいかない。

岡嶋道夫氏(東京医科歯科大名誉教授)の報告には参考となる点が多い。
また心臓血管外科医の南和友氏講演資料なども非常に的確だと思う。
他に財務省・厚労省資料も沢山あるが恐らく上記2氏の報告が最も「正直」に思える。

前提として、
・ドイツ(人口8200万人)の国民医療費の対GDP比は約10%で日本よりも2%程高い。
(「保険料率は日本の2倍」と揶揄されるが、実際は所得制限がありそれほど高くない)
・殆どの国民(90%以上)は医療に満足しており医療制度は機能している。
・常に医療制度改革と補修を繰り返しており、エンドレスに修正を重ねている。
・医師(会)は国民から尊敬されており、国家ではなく医師主導で医療制度は統制されている。
・医療は公的なモノと考えられており、医師の待遇は(苦労の割には)良くない。
などの点が日本とは違う様である。以下に(受け売りですが)ドイツの医療制度を羅列する。


ーーーーーーーーーーーーー<以下、ドイツの医療制度>ーーーーーーーーーーーーーーーーー
<医師・病院>
1.就業中の医師総数は約31.5万人。保険開業医は約12万人、病院医は約15万人
2.「病院」数は約2000施設。「平均医師数75人/施設」(日本の4~5倍)
3.医師の年収は開業医がやや高いが大体700~1000万円程度(ほぼ日独の研究者レベル)
4.医師の就労時間は「週間54~57時間程度」
  (ドイツでは相当に働く部類だが日本の研究者と比べると「普通以下」)
5.医学部で6年+専門教育で更に5~7年を要する。開業には専門医の資格が必要
6.開業できる医師数は専門・地域ごとに「数値的に」調整され、偏在は生じない
7.開業医は救急業務に協力する義務がある。医師の定年は68歳。
8.さすがに最近はやや医師不足気味なので医師の労働条件は緩和される傾向にある
9.医局制度や学閥は無い。臨床的に優れた医師は「臨床教授」と認定され指導にあたる
10.病院の診療の質・コストは第三者により全て評価され、優劣が公開される。
11.日本に比べ、医師数は多く、病院の施設数は少ない。つまり病院の集約化と
   専門化が進んでおり「24時間365日のアクセス」が可能となっている。
12.患者は専門病院に集約される為、専門医教育と技術力維持が効率的に実現している。

<診療報酬>
1.国民は「疾病金庫」と呼ばれる保険者(日本で言う健康保険組合)に加入する。
2.疾病金庫は日本の様に「診療報酬を言われるがままに病院に支払う」事務ではなく、
  診断の相談、予防医学の推進、病院の評価+選別(推奨)、病院評価の公開、
  組合員の勧誘、レセプトのチェック+審査、医師協会との交渉、、などを行う。
3.疾病金庫はデータを基に保険医協会(医師の自治組織)と交渉し診療報酬の総額を
  取り決め契約する。診療報酬は総額を保険医の協会に支払う。契約は通常毎年更新される。
4.各々の保険医(開業医の大部分)への診療報酬は保険医協会から配分される。
  その際、専門ごとの偏在などが生じない様に医師協会自身が考えて報酬の調整を行う。
5.一部、患者の自己負担は有り得るが、所得の2%を越える分は戻ってくる。
  継続的な治療を行う慢性患者の場合は所得の1%が上限となる。
  低所得者800万人と18才以下の1200万人は自己負担は免除。
  1997年のデータで年間の自己負担総額は(たったの)0.6兆円程度。
6.診療報酬は「総額」が決まっている為「点数」が増えれば「単価」が下がる。
  医師の仕事は常にあり、一定の年収は得られるが無制限に儲かる商売では無い。
7.疾病金庫は公的機関であるが自由化されており競争原理が働く。保険料率の抑制と
  医療サービスの両立が求められ患者の利益を代弁する。

<医療の質>
1.ドイツでは臨床試験の簡易化をはかり、新規器具・医薬品が早期に保険承認される。
  混合診療という問題自体が殆ど存在しない。負担に見合った医療が実現している。
2.南医師の言葉を借りると「日本では2世代前の日本メーカー製の人口心臓のみが
  保険承認されている。性能も悪く、費用も高い。世界的に遅れている」とのこと。
3.器具や医薬品の評価・審査は保険医協会自身と疾病金庫が中心となって行う。
  「現場の事実」の積み上げであり、ムダが少なく効果が高い。と思われる。
4.通常の裁判所の下位に「医師の職業裁判所」がある。医師会から推薦される
  名誉裁判官(医師)も審理に参加し判決を下す。医師免許の停止等の罰則を課す。
  同じ事件を通常裁判所で扱う場合は職業裁判所は審理を停止する。
5.また医師会には患者の苦情を受け付ける調停機関もある。医師会の内部にあっても、
  ドイツでは医師は信頼・尊敬されているので患者の不満は少ないらしい。
6.医療制度はここ数十年以上、常に選挙の争点になっている。高齢化社会でもある。
  国民の関心も高く、修正を重ね医療費抑制と医療水準の維持を両立しつつある。
実際の医師不足・偏在はどの程度の深刻さか?国民医療費は何に使われているのか?
保険診療の医療水準は?、等の疑問に答える為には先ず「事実の集積と整理」が必須である。

どんな科学・技術、産業でも当然のことであり、戸塚氏もブログの中で「癌データベース」
の重要性を述べている。私も診療評価の手法について記述した経緯がある。

癌患者になって初めて判った事だが、医療器具と技術・クスリは確かに21世紀の
水準にあるものの、国内の医療制度は考えられない程の非効率な状態にある。

本来なら医療者自身が率先してレセプトと診療情報のオンライン化・データベース化を
主導、「事実の収集と整理」を進める事で医療の高度化を目指すべきである。

が、結局、医師会は最期まで「医療の進展」に寄与する事はせず、一貫して自分たちの
利益確保・保身だけに終始してきた。結果として遂に厚労省が「医療費削減の為だけの」
レセプトオンライン化の義務化を打ち出した。(しかも民主は「原則化」に後退するらしい)

オンライン化に反対する立場の1例を紹介する。義務化を不当とした訴訟まで起こし、
現在係争中との事である。「患者を人質に取った偽善」の典型例として本訴状は興味深い。

訴状の中身は極めて稚拙で、
・レセプトオンライン化には全く意義がない。
・情報漏洩の心配がある。
・オンライン化を義務化されると診療行為ができない。
・省令は法令の意図を逸脱しており違法。
・オンライン化費用と精神的苦痛は医師一人当たり100万円以上(原告961名に対し約15億円)。
・弁護士費用は医師一人当たり10万円以上(弁護士1人あたり約1000万円)。、、など。

訴訟を起こすとしても、
・レセプトのみでは不十分であり診療データベース化・透明化も推進すべき、
・システム発注とデータ解析・利用のあり方に関する情報公開と意見集約をすべき、
等々の訴えなら判るが、完全に「真逆方向にキレている」様である。

こういった訴訟に現役の医師1000人近くが参加している現実は重大である。
医療者自身の倫理による医療制度改正が不可能な事を示唆する1例と考える。
混合診療解禁の立場の1例として長坂健二郎氏(日銀から万有製薬へ天下り。今年退任)
の「最悪な御意見」を例示する。(客員である大阪経済大の論文集?)

長坂氏の論点をまとめると、
・高齢化を迎え、医療は自己負担を中心にすべき。米国型の自由化をめざす。
・保険診療は(費用面から)限られた質・量に縮小し、混合診療による自己負担で補う。
・医療の自由化が進むと公費負担分?の13兆円程度の経済効果がある。など。

主張したい事は「医療自由化」らしく、それを補足する為にあれこれ述べられているが、
「医療」を全く御存知ない上、論理的な矛盾と飛躍が殆どで読むのに大変苦労する。
査読付き論文なら確実に「不受理」だろうし、学生なら説教が必要なレベル。

これほどデタラメな例以外でも、例えば厚労省が「診療報酬包括化」の延長線上に
イメージする「混合診療容認」は結局、患者負担増と医療費抑制策の方便に過ぎない。

反面、厚労省は現状「混合診療は認めない」立場を崩しておらず、民主に政権交代後も
「清郷裁判」の結果については「国の方針が認められた」(長妻昭厚労大臣)程度の認識、、。

長坂氏の例の様に、「解禁したい側」にも様々な立場・意見分布がある。
1.医療自由化による産業界の利益拡大
2.保険診療の縮小による医療費削減
3.病気自己責任論
4.そもそも混合診療を否定する法的根拠が無い

一方(長妻大臣は明らかに勉強不足だが)「禁止したい側」の懸念は、
5.地域、貧富、病院による医療格差が生じる
6.デタラメな医療に引きずられ医療費が増大する
7.医師・病院の格付けに繋がる
8.必要な治療法の保険適用が遅れる。など。

財界、厚労省、医師(会)、患者、がそれぞれに1~8の理由を都合良く組み合わせ、
「解禁しろ」と言ったり「禁止すべき」と言ってみたりする。全者が「患者の為」、
という建て前を並べるが清郷氏以外は殆どウソで、恐らく正しいのは「4.」のみ。

結局、混合診療に関する私の考え方は今のところ、
・科学的な判断をすれば混合診療の問題は起きないか、非常に小さいハズ。
・司法的な判断をすれば混合診療は認めざるを得ないハズ。
・ただ残念ながら、現状の医療(者)レベルと医療制度の下では混合診療解禁は困難?。
という程度。

混合診療の問題も「医療制度」と「診療報酬」の不具合が引き起こしていると考える。
一方、介護保険導入の時に旧自民党が必死で守ろうとしたモノが「大規模私的病院」。
恐らくは日本医師会等の「ボスキャラ」が隠れている場所である。
自民党は最期には「日本古来の美徳である家族愛が壊れる」などと反対していた。

「ボスキャラ」達は地元の大学病院や政界にも顔が利く。また公立病院を追い出された
年寄りも入院させてくれる。「地域の名士」であり庶民には「仏様」の様な存在である。
国内「病院」約160万床のうち約90万床(平均150床)が民間医療機関。

後期高齢者医療制度(厚労省の初期の説明。資料2-1)
は介護保険の延長に過ぎない。
・高齢者の自己負担(率・額)を上げる。
・公的負担の分散化。及び広域連合の維持に基金(初期は0.5兆円)を裏付ける。など。

そして少しタイミングをずらし、後期高齢者診療料を示した。
・終末期の管理を「医療」から「介護」に移行させる。
・各患者の管理を1元化し重複・頻回診療を避ける。
・老人個々の診療情報を公開・共有化し社会的入院を減らす。など。

一般には言い難い事なので、最も重篤な私があえて言うならば、
・半ボケの年寄りを抱える家族からすれば「病院に棄てる」のが最も安くて楽である。
・一方、糖尿や高血圧などの「管理」名目の入院は、「名士」にとっても利益がある。
 気楽で儲かるし、ベッドを埋めれば面倒な救急や難病患者を受け入れずに済む。

ボケ患者のワガママに対応させられる看護師だけが被害者で、医師、病院、そして
厄介払いのできる家族の利益は一致している。当然、厚労省もこの現実は熟知している。
知っているからこそ、後期高齢者医療制度で「聖域を削り」に行った。(様である)

厚労省からの「ささやかな」御願いは、
・皆保険制度は堅持します。高齢者負担を増やしてでも維持します。
・ですから、ある程度商売が済んだら介護業界に廻してやって下さい。というモノ。

これに対し「仏様達」は相談した結果、
・高齢者医療は9割を税金で負担せよ。これまで通り好きなだけ搾取させろ。
・この際、使えない自民は切る。公費負担させやすそうな民主支持に乗り換える。
事にした様である。(下図参照)
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-ishikai200805

高齢者に命が有る限り搾り取りたい医師会と、庶民が搾取されるのに反対する
民主(組合)が、「無制限な公費負担」で一致している皮肉が非常に面白い。
10年後に破綻するのは医療制度だけでは済まなさそうである。
9月10日付で「医療施設動態調査結果」が出された。こちらは平成21年6月現在の値
全国の病院施設数や、形態別の施設の増減などをまとめたものである。

「一般診療所」とは病床数19床以下の小規模医療施設を示している。
その中でも表2の公益法人、医療法人、個人病院、などが概して「開業医」にあたる。

平均病床数「3弱」の医療法人が約35000病院。
平均病床数「1弱」の個人病院が約48000病院。
殆ど病床の無い社会福祉法人や会社経営が約9000病院。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-doutaih19

国内にある約11万の「病院」の内、約10万施設が小規模な「診療所」に過ぎず、
かつ、9万3000施設が医師数が1人~数人?程度の「私的」病院である事が判る。

財務省資料に拠れば、平成18年時点での医師数は約26万人(うち研修医1.4万人)
なので、全医師の約40~45%が既に「開業医」になっている事が推定される。

結果、12万人?~15万人程度の勤務医が約1万カ所の「病院」で診療をしている。
国立(がんセンターなど)の大病院や大学病院に人的資源が集中している事を
考えると、多くの施設で平均医師数は10人前後という状況になる。

開業医は救急も手術も夜間診療もやらない。そのしわ寄せは勤務医に集中し、
地方病院などでは「1年中、たった数人の医師で当直を廻す」破綻状態にある。
日本の医療は実質的にはOECD平均の「半分以下」の医師数で持ちこたえている。

国民医療費推計によると平成19年度の場合で、こういった「一般診療所」に
支払われた医療費は約8.3兆円にものぼる。公的診療所も僅かに含まれるが、
1施設あたりの「売り上げ」は全国平均で年間約8300万円と計算される。

日本では医師の開業は「完全に自由」で専門性や技量、経験など一切問われない。
診療内容や経営にも実質的に制限やチェック機構は無い。原則「何をやっても良い」。

極端な場合ホメオパシーや超低量抗癌剤など、詐欺もしくは殺人に近い行為で
あっても医師免許さえ所持していれば免罪される状態になっている。

国民の医療に実質的に殆ど貢献せず、かつ診療内容も極めて不透明な「開業医」に対し
直接経費だけで8.3兆円、薬局調剤費も含めると10兆円規模の国民医療費が投入され、
不良債権化し消失している。このロスは今後も確実に増加してゆく。

仮に国民医療費に10兆円以上の公費を投入しようが、あるいは医師の数を
10万人増員しようが「開業医制度」と「無制限な医師報酬」を放置したままでは、
殆どドブに捨てるのと同じだと考える。

本当に治療が必要な患者は大病院に流し、低リスクかつ高収益な患者だけを取り込む。
開業医「機構」は官庁にぶら下がる天下り法人や公共事業における丸投げゼネコンと、
そのムダの「規模」と「質」において酷似している様に見える。
9月2日付で厚労省から「平成19年度の国民医療費の概況」が発表された。
国民医療費の総額は約34兆円。今後1兆円/年ペースで増加傾向。19年度内訳は、
・一般医療費:約25.6兆円
・歯科医療費:約2.5兆円
・薬局調剤費:約5.1兆円
・  その他:約0.9兆円。、、確かに10年後には国が破綻しそうな勢いである。

私自身も末期癌患者として3年近く治療を継続し、相当に医療費を消費してきた。
「これ以上は絶対ムリ(笑)」と言うぐらい治療を繰り返した。費用は膨大である。
が、私が受けた給付金合計はこれまでに支払ってきた保険料の実費にすら到達していない。

言わば私の様な重病人?ですらモトも取れず終わるところだった訳である。

確かに老人は医療費が掛かる、例えば癌の場合も罹患するのも殆どは高齢者である。
・初回治療:手術    100~300万円×1回
・再発  :抗癌剤   20~40万円×6~12コース
・再々発 :放射線   60万円×2回
・    :入院・検査 50~200万円
安くても200~300万円。フルコース(笑)だと1000万円?。大変な浪費である。

が、まとも?に働いてきた「高齢者」は健康保険を長期間、一応は払ってきている。
仮に年平均30万円(半分は事業主負担)を30年払っていれば900万円である。
国保の負担割合は低いが、「保険」という性質上それほど不足だとは思えない。

例えば平成19年度も事業主・被保険者の支払った保険料合計は約16.8兆円。
患者負担も約4.8兆円であり直接的な医療費だけで約21.6兆円は「納めて」いる。
(下図は国民医療費概況のp4「制度区分、財源別国民医療費」を抜粋)
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-iryohip5

問題は現状ですら不足し、公費で補っている12.5兆円が「一体何なのか?」
また「今後どうすべきか?」という点にある。

厚労省は「診療報酬の引き下げ」や「回数制限を超える診療行為の自己負担化」など、
小手先案も考えたが医師会や族議員にも反発された上、結局は焼け石に水だった。

結果、厚労省は医療費問題解決の切り札として「後期高齢者医療制度」に行き着いた。
この制度の是非を議論する時に「姥捨て山だ」とか「年金の天引きは酷い」などの
情緒論を持ち出すのは適切ではない。本質的な問題は別にある。

一方、与党になった民主党も医療費問題の解決策としては「公費負担増で賄う」という
立場に立っており、5年から10年程度の「延命」がせいぜいと考える。

(自民は論外として)結局、厚労省も民主も公費負担の12.5兆円に対し、
「今後どうするか?」という観点しかもっておらず、「何処で消えているのか?」について
は意図的に触れようとしていない。次回はその「聖域」の予算規模について記載する。
2009衆議院の開票速報中、難治癌である胸腺癌で亡くなった山本孝史議員が思い起こされた。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-ytakashi

民主党参議、2005年12月に胸腺原発・肺、肝転移確定診断。2007年12月永眠。
ステージIVaの確定診断から24ヶ月の長期生存。ギリギリまで議員活動を続けた。

同様の症例報告としては世界的にも最長?レベルに近く、初回治療は国立がんセンター。
私と同じカルボプラチン+パクリタキセルによる化学療法を受けた。その後平岩正樹医師
の元で抗癌剤治療を続けた。平岩氏曰く「癌治療を国政で改善してもらいたい」との事だった。

写真は山本孝史氏の遺稿「救える「いのち」のために」。亡くなる2日前に書き上げたとの事。
Amazonだと新品1冊、古本8冊が残っているが、今まで書店で見かけた事は1度も無い

巷では帯津氏や梅澤氏、安保氏などの「全く読むに値しない本」が山積なのに、
こういった「癌関係者にとって必読な本」は殆ど売られてない。皮肉なねじれ現象である。

情緒的なタイトルとは異なり、本の中身は癌医療、関係者への重要な提言が網羅されている。
真面目で正直、かつ粘り強い人格が滲み出ており「国会の良心」という表現に相応しい。
また苦学の故か「世間も判っており」現実的な感覚も備えた有益な人物と見受けられる。

内容をかいつまんで挙げると、
・癌治療の地域間格差、院内格差などの是正
・がん登録事業の必要性、情報公開、情報収集の推進
・がん医療・研究費の増額、医師、技師の拡充
・費用対効果の低い粒子線治療よりもX線施設・人員の拡充
・専門医制度への疑問、修正の必要性
・検診制度の充実とたばこ対策・たばこ税の導入
・抗癌剤治療の充実、未承認薬治験制度の改善
・緩和ケアの拡充、切り捨てへの懸念
・患者の声の重要性、政策への反映
・混合診療、回数制限の改善
・必要な保険料・公費負担増の国民的合意

どれも常識的で「当事者として正しい情報」が簡潔に整理されている。
患者、医療従事者、および政府関係者は一度は目を通すべきである。

ただ「常識的でなく」かつ「真面目でもない」私の観測による医療現場の現実を
考慮すると、残念ながら山本孝史氏の提言は実行性と効率の面でイマイチに感じる。
いくつかの微修正は可能だと思うが、恐らく根本的な医療制度改革にはならない。
私は韓国や中国の映画やドラマが昔から嫌いで滅多に見ない。時代錯誤的な演技と、
「アホみたいな筋書き」に耐えられず、昨今の韓流ブームもヘドが出るほどである。
随分昔に「冬のソナタ」がNHKで放映された時も偶然15分ぐらい見て、完全に呆れた。

が、8月頃?病院で抗癌剤をやってる時に偶然「宮廷女官チャングムの誓い」を見た。
TBSの再放送で、まだチャングムが宮中に上がってすぐの頃、「黄砂」のくだり、、あたり。
が、どういう訳かこれが異常に面白い。DVDを全巻買うか今悩んでいる程である。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-cyangumu

ハン・サングンが最高サングンになったあたりで最終回かと思ってたら、
アヒルの冤罪で大逆罪に!済州島に島流しになり道中で力尽きて死んでしまう。

この段階でやっと「前半」が終わった程度らしく?ストーリーの厚みに驚かされてしまう。
先週の放送で遂にチャングムは「宮中の医女」に合格した。その時のシン教授の「教え」は、

(チャングム):「知識があるからと、畏れを抱くこと無く、思い上がっておりました、、」
(シン教授 ):「、、、、これで悟ったと錯覚するな。人間そう簡単に変われるものでは無い。
         特に聡明な者ほどそうだ。医者は聡明な人間ではなく深みのある人間が良い。
         深みを持て。骨に刻み、血に流れる様にせよ。」

むーーん、なんと含蓄のあるセリフな事か。
医師国家試験でも是非シン教授に面接して頂きたい。恐らく9割くらいは落第しそうである。

医師不足、混合診療(保険外併用療養費制度)、国内未承認薬、国民医療費削減、、、。
癌患者なら誰でも感じる疑問・問題を今後数回に渡り思いつくままに記載してみる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに、余りに面白いので奥さんに教えたところ「とっくの昔に観た」との事。
悔しいので九州の母親に電話するも「とっくに観た。BSでも地上波でも観た」とのこと。
観てなかったのは私だけだったらしい、、、。
欧州、米国、ロシア、日本、の4極に中韓、インドを加え2007年にITER協定はスタートした。
何度も挫折しかけたが最終的に「建設地」と「初代機構長など」を日欧が分け合う事で決着した。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-ITER
(図はITER建設地フランスのカダラシュ。勿論立地的には六カ所村とは雲泥の差ではある)

方式の是非や2500億の建設地負担、大量の放射性廃棄物、、など小柴さんや立花隆氏にも
さんざん批判され、最後の最後に2000億円が惜しくなり財務省が「手を引く」と判断した。
私はITERと利害が対立する立場にあったが、それでも国内誘致には賛成だった。が、
結局は「政治判断」により1つの貴重な財産が失われた。

物理に限らないと思うが、EUと米国の間には研究者間の垣根は殆ど無い。能力ある人が
自由に行き来し成果を出してゆく。もしITERを茨城あたりに作ればプラズマや核融合に
関連する優秀な人材が集まる「世界の中心」になったはずである。

予算的には「がら空きの大分自動車道40~50km分」程度の公共事業と同等である。
が、むしろ財務省的には北海道や九州の高速道路よりも優先度は低かったらしく、
失ったものは余りにも大きかったと考える。

見返りに得た「初代機構長ポスト」に誰がなるか?も当時研究者の間では話題になった。
私は核融合分野の人間では無いが、メーリングリストなどで「国内に適任者がいるか?」
と疑問を投げかけ、特に若手の皆さんから「猛反発」を浴びた経験がある。(^_^)v

研究分野こそ違うが、欧州原子力研究機構CERNの所長・機構長人事の歴史を見ると、
象徴的な人事とは言え、最低でもノーベル賞級のそれなりの顔ぶれが並んでいる。
初代ITER機構長も「世界の歴史」に名を残す人事である事には間違い無い。

が、後日官僚出身の池田要氏が「天下る」ことが決定した。いわば「国際天下り」である。
副機構長にSNSのN. Holtkamp氏が就いたのも驚いたが、根本的な意味合いは全く異なる。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-Holtkamp

民主党が作る?「国家戦略局」にどの程度の見識と精度があるか見物である。
こういった数百億円前後の「中規模予算」の裏側と将来性をどこまで見透す
能力があるか?に真の政策センスが反映されると考える。

当時「セコい縄張り争い」で必死だった小柴さんや立花隆氏の見識も残念ながら、
「結局は1兆円以内&10年以内」の程度でしか無かった、と言わざるを得ない。

ーーーーーーーーーーー以下、池田氏の略歴ーーーーーーーーーーーーーーーー
池田 要       昭和21年 1月 1日生
学歴: 昭和43年3月 東京大学工学部原子力工学科卒業
昭和 43年4月 科学技術庁原子力局調査課
  46年4月 通商産業省公益事業局計画課
  50年7月 科学技術庁原子力局核燃料課課長補佐
  52年10月   同  計画局計画課専門官
  54年1月   同  課長補佐
  55年1月   同  原子力局政策課課長補佐
  58年4月   同  政策課政策企画官
  59年11月   同  核燃料課長
  60年4月 外務省在アメリカ合衆国日本国大使館参事官
  63年8月 科学技術庁科学技術振興局国際課長
平成 元年6月 工業技術院標準部材料規格課長
  3年6月 科学技術庁研究開発局企画課長
  4年6月   同  長官官房秘書課長
  5年6月 通商産業省大臣官房審議官(通商政策局担当)
  7年6月 科学技術庁長官官房審議官(科学技術政策局担当)
  8年6月   同  原子力安全局長
  10年6月   同  研究開発局長
  12年6月   同  科学審議官(13.1退官)
  13年1月 宇宙開発事業団理事
 15年     クロアチア大使
 17年11月  ITER機構長予定者として選出
衆議院選挙前の旧政権が総合科学技術会議で「最先端研究プログラム」という
競争的資金の公募と採択を行った。それを民主党は白紙?に戻そうとしているらしい。

今年度の補正予算は15兆円という国際公約?が先行し、どの省庁も使い切れずドブに
捨てている。科学技術費も政権が変わる前に滑り込みで2700億円をばらまいた様である。

スケジュールと主な仕様は、
・7月3日広報、7月31日公募〆切。書式自由10ページ以内
・8月下旬に採択決定
・1件あたり30億~150億円を目安
・3~5年で世界のトップに立つ、中長期的な底力アップ、成果の社会への確実な「還元」
・中心研究者は日本国籍を有すること
結果的に以下の30件が採択され9月4日に報告された。平均すると1件あたり90億円。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-saiyo2

転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-saiyo3

(本ブログの転載資料では解像度が低いかも知れませんが、、)
詳細は総合科学技術会議のホームページ(資料3の別添「選定結果」)
http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu84/haihu-si84.html


最近流行のキーワードは「環境」と「高齢化社会」。ちょっと前はナノテク、バイオ、、
などだったので、今回はそれらを組み合わせれば採択された様である。

直接知っている分野も数件あるが、なにより貧しい点はド素人の私がたった3行の説明文
を読んで想像がついてしまう事だろう。しかも20件くらいは「インチキ」とは言わないが、
拡げた風呂敷の1/10の成果も出ないで有ろう事が明らかな様に見える。

私自身は(自分が研究者だというバイアスを差し引いても)日本の科学技術費は低すぎる
と考えてきたし、ITERですら「国内誘致に賛成」の立場でいた。
研究費というのは9割くらいはムダになっても当然と思っている。

しかしこの30件の多くは、明らかに項目と予算規模が釣り合っていない。
「先ず1億円以内(それでも充分過ぎるくらいだが)で様子を見るべき」モノが多々ある。

また「中心研究者に企業の人が就いた方が良いモノ」もあるし、そもそも代表者の
「国籍」を規定する事自体、既に終わっている感がある。
企画と選考が「不透明」「不公正」「不公平」、かつ「大慌て」だった事が伺える。

民主の「見直し」には賛成だが、何をどう見直すのかは重要である。この30件には、
・金額を増額し、かつ国策でやる項目
・金額を1/10くらいに減額し、2~3年様子を見る項目
・不採択にすべき項目
が混在している、と私には思える。民主党がこれまでの「御用学者」を廃し、どれだけ
「スジの良い」人と相談できるのかが、この見直し論議で測れる。愉しみが1つ増えた。