ドイツでは「医療者の報酬」と「器具・薬品業界の利益」及び「医療水準」の3要素が同じ
テーブル上で包み隠さず議論され、科学的、合理的に配分が取り決められている様である。

当然「いずれも医療費の範囲で有限」だが、議論の過程でムダと不正が削られる為、
結果的に「負担に見合った医療水準」が国民にも供与されている様に思える。

日本や米国では医師(会)と業界の取り分が大きく、さらに所管官庁OBと族議員に利益が
還流される。政・官・業・医の関係者からするとドイツの公正で、合理的で、科学的な、
透明性の高い医療制度だけは死んでも取り入れる訳にはいかない。

岡嶋道夫氏(東京医科歯科大名誉教授)の報告には参考となる点が多い。
また心臓血管外科医の南和友氏講演資料なども非常に的確だと思う。
他に財務省・厚労省資料も沢山あるが恐らく上記2氏の報告が最も「正直」に思える。

前提として、
・ドイツ(人口8200万人)の国民医療費の対GDP比は約10%で日本よりも2%程高い。
(「保険料率は日本の2倍」と揶揄されるが、実際は所得制限がありそれほど高くない)
・殆どの国民(90%以上)は医療に満足しており医療制度は機能している。
・常に医療制度改革と補修を繰り返しており、エンドレスに修正を重ねている。
・医師(会)は国民から尊敬されており、国家ではなく医師主導で医療制度は統制されている。
・医療は公的なモノと考えられており、医師の待遇は(苦労の割には)良くない。
などの点が日本とは違う様である。以下に(受け売りですが)ドイツの医療制度を羅列する。


ーーーーーーーーーーーーー<以下、ドイツの医療制度>ーーーーーーーーーーーーーーーーー
<医師・病院>
1.就業中の医師総数は約31.5万人。保険開業医は約12万人、病院医は約15万人
2.「病院」数は約2000施設。「平均医師数75人/施設」(日本の4~5倍)
3.医師の年収は開業医がやや高いが大体700~1000万円程度(ほぼ日独の研究者レベル)
4.医師の就労時間は「週間54~57時間程度」
  (ドイツでは相当に働く部類だが日本の研究者と比べると「普通以下」)
5.医学部で6年+専門教育で更に5~7年を要する。開業には専門医の資格が必要
6.開業できる医師数は専門・地域ごとに「数値的に」調整され、偏在は生じない
7.開業医は救急業務に協力する義務がある。医師の定年は68歳。
8.さすがに最近はやや医師不足気味なので医師の労働条件は緩和される傾向にある
9.医局制度や学閥は無い。臨床的に優れた医師は「臨床教授」と認定され指導にあたる
10.病院の診療の質・コストは第三者により全て評価され、優劣が公開される。
11.日本に比べ、医師数は多く、病院の施設数は少ない。つまり病院の集約化と
   専門化が進んでおり「24時間365日のアクセス」が可能となっている。
12.患者は専門病院に集約される為、専門医教育と技術力維持が効率的に実現している。

<診療報酬>
1.国民は「疾病金庫」と呼ばれる保険者(日本で言う健康保険組合)に加入する。
2.疾病金庫は日本の様に「診療報酬を言われるがままに病院に支払う」事務ではなく、
  診断の相談、予防医学の推進、病院の評価+選別(推奨)、病院評価の公開、
  組合員の勧誘、レセプトのチェック+審査、医師協会との交渉、、などを行う。
3.疾病金庫はデータを基に保険医協会(医師の自治組織)と交渉し診療報酬の総額を
  取り決め契約する。診療報酬は総額を保険医の協会に支払う。契約は通常毎年更新される。
4.各々の保険医(開業医の大部分)への診療報酬は保険医協会から配分される。
  その際、専門ごとの偏在などが生じない様に医師協会自身が考えて報酬の調整を行う。
5.一部、患者の自己負担は有り得るが、所得の2%を越える分は戻ってくる。
  継続的な治療を行う慢性患者の場合は所得の1%が上限となる。
  低所得者800万人と18才以下の1200万人は自己負担は免除。
  1997年のデータで年間の自己負担総額は(たったの)0.6兆円程度。
6.診療報酬は「総額」が決まっている為「点数」が増えれば「単価」が下がる。
  医師の仕事は常にあり、一定の年収は得られるが無制限に儲かる商売では無い。
7.疾病金庫は公的機関であるが自由化されており競争原理が働く。保険料率の抑制と
  医療サービスの両立が求められ患者の利益を代弁する。

<医療の質>
1.ドイツでは臨床試験の簡易化をはかり、新規器具・医薬品が早期に保険承認される。
  混合診療という問題自体が殆ど存在しない。負担に見合った医療が実現している。
2.南医師の言葉を借りると「日本では2世代前の日本メーカー製の人口心臓のみが
  保険承認されている。性能も悪く、費用も高い。世界的に遅れている」とのこと。
3.器具や医薬品の評価・審査は保険医協会自身と疾病金庫が中心となって行う。
  「現場の事実」の積み上げであり、ムダが少なく効果が高い。と思われる。
4.通常の裁判所の下位に「医師の職業裁判所」がある。医師会から推薦される
  名誉裁判官(医師)も審理に参加し判決を下す。医師免許の停止等の罰則を課す。
  同じ事件を通常裁判所で扱う場合は職業裁判所は審理を停止する。
5.また医師会には患者の苦情を受け付ける調停機関もある。医師会の内部にあっても、
  ドイツでは医師は信頼・尊敬されているので患者の不満は少ないらしい。
6.医療制度はここ数十年以上、常に選挙の争点になっている。高齢化社会でもある。
  国民の関心も高く、修正を重ね医療費抑制と医療水準の維持を両立しつつある。