いつもどこかへ -14ページ目

カントリーソングを聴きながら

RUTA40

セニョール・マルチェロは首周りの筋肉がやたら発達し、歩く姿は熊を連想させる。彼にもまた「今日はきついぞ!遠いからな!!」と地図を見ながら念押しされ、町を出た。


荒地が始まり、乾燥した土地のうねりとトゲトゲの植物が続く。やがて道は舗装から砂利道へと変わり、砂埃が舞う。さてさて憧れのこの道、これまで数人に遠い遠いと脅かされて(?)来たが、私にとってむしろそれは期待であり、言われれば言われるほど嬉しい。だだっぴろい土地を地平線を眺めながら走れるのは、それだけで快感であり、片道500kmということは札幌から根室まで走るようなもので「それくらいなら」と思っていた。しかし数時間後、その考えは甘かったことを知る。

それにしてもBGMが渋い…アルゼンチン版カントリーソングのようなのが好みらしいマルチェロ。サイドブレーキの下に英会話集が置いてあり、道中は英語でのおしゃべりとなった。



auto

約束の時間まではまだ20分ほどある。外の空気を吸おうと表に出ると、宿の前に車が一台。状況から察するに、これが今日用意された物か。しかしどっから見てもフツーの車。さしづめ日本なら、営業に使う小回りのききそうな白いやつ。



「うぅむ…もしかして今日はこれで往復するのかしら。」



免許は持っているけど車はよく知らない。

「まぁ少々興ざめだけど、これで4駆なら走ればいいや。」と自分で自分をなぐさめ宿に戻る。が、どうしても目線は窓の外の丸っこい車を見てしまう。どう前向きに考えても、アレがエンジン全開で荒野を疾走するのはギャグにしかならない。





「あれか・・・。」






そう思っていたところへドアが開き、がっちりした体格のセニョールが入ってきた。この一日お世話になる運転手さんであることは見当がついた。


「Hola!Cueva de Las Manos?」

「Si!!」


着いてこい、という合図で宿を後にし、さっきから頭を離れない疑問をたずねるとクックッと笑われる。指差された方を見ると、用意されていたのはJeepのチェロキー。ここから往復19時間のドライブが始まった。
auto

1週間


ことば

一人でふらふらしていると日常の単語くらいは自然と覚えてくるもので、書き出してみたのがコレ。今確認するとけっこうスペルミスや意味の取り違えがあるけど、絵はナマモノなので敢えて修正せずに載せることとします…。

南と北

11月18日(金)

早朝、汗ばむほどに暖かい部屋で目が覚めた。

前の晩、宿に戻る頃には頬が赤くなるくらいに冷え、「Yuki, Flio?Flio?」と気遣ってくれたおねえちゃんがガス暖房の目盛りをぐるりと回し、温度を上げてくれたためである。ちなみにスペイン語読みだと「yuki」は「ジュキ」と発音され、名前を書くたび相手のスペイン語読みがどうにも可笑しく、そのたびに正しい読み方を教えていた。


さて、北半球に住む日本人の感覚で言うと、「『北国』の家は暖かいから…といいそうになるけど、ここは南半球、『南国』の家は暖かいなぁ…」ということになる。そんなわけでで両者の公約数「寒冷地」の家は暖かい。レンガで造られた家はがっちりとしていて包容力があり、北海道の家を思い出す。

カラファテの町は南緯51度になるため、稚内よりも緯度が高い。気候については海流なども関係してくるので一概に緯度だけで判断はできないけど、日没の遅さがそれを物語る。
mapa

それにしても、「こんなのんびりしていて期限までにウシュアイアに着けるのだろうか。」他人事のようにそんなことを考えつつ、コーヒーと甘くずっしり重たいクロワッサンを食べ約束の時間を待った。

相場

とてもおいしかったアルゼンチンのりんご。日本のものより小ぶりで実がしまっている。これが後でやっかいな事態を引き起こすのだけど…。
りんごとヨーグルト

値段を聞く前から腹は8割方決まっていた。が高い、相場がわからない。メモを手にいくつかのオフィスを訪ね歩いた。


「4WD貸切なら、それくらいね。」

「いや、それなら自由に動けるよ。高いけど、それくらいだろうね」

「うちは扱ってないから…」


たしかにAR$1600は高いけど、これを数人でシェアすれば一人当たりの金額は安くなり妥当な額になる。一人で使えば高くつくのは当たり前だ。さらにバスツアーは3日間かかる上に次の出発までは数日ある、とても待ってはいられない。書店でロンプラを立ち読みし、ネットカフェでググって数時間が過ぎ、プンタ・ワリチュへ向かうバスの中で決めた。


薄暗くなり始めた町を早足で歩き、「RUTA40」のオフィスへ入る。がま口おばさんはおらず、今度はやたらと目のでかいお姉ちゃんがカタコトの英語で対応してくれる。私の英語も相当インチキなので作業は難航したけど、パスポート番号を控え一通りの手続きが終わった。一息つくと、お姉ちゃんも会話集に興味があるようなので簡単な日本語を教え、メモを置いてオフィスを後にした。


出発は明日の朝7:00。

夕飯を買いにスーパーへ寄り、へとへとになり宿への道についた。

not easy

ここ

プンタ・ワリチュに行った日、もうひとつ考えていることがあった。町に並ぶ土産物屋や看板で目にする「手」、Cueva de Las Manos(手の洞窟)である。この日使ったツアー会社で聞いたところでは「すっごく遠いわよ!!うちでは扱ってないわ。」と何もそこまでというくらい真顔で否定され、別のオフィスを紹介された。


メインストリートをまっすぐ進み、左手の建物の階段を上がる。


「RUTA40」何とも魅惑的な社名。パタゴニアに来るなら一度はぶっ通しで走ってみたい全長5,200km、パタゴニア地方だけでも2,829kmの長い長い道。

と、ドデカイ国道に思いを馳せるのはいいけど、時計を見て気づいた。ちょうどシエスタが始まる時刻である。これから午後の休息時間というときにお邪魔するのは気が引けたけど、そろそろ次の町へ向かわなくてはならないし、「聞くだけ聞いてみよう。断られたら出直せばよい」とノックをした。


ドアが開かれ、雑談を済ませこれから帰るらしいお兄さんが出てきた。「シエスタだけど…」身振りで聞くと「いいよ入りな」と構わない素振りで中へ招かれる。


さてCueva de Las Manos、ここでも「遠いわよ!」と始めに念押しされる。カラファテの町から北へ500km。「簡単じゃないわよ、だけど見に行く価値はあるわ」。がま口に目鼻がついたようなオバサンに、スペイン訛りの強い英語で説明される。バスツアーは数日先までなく4WDを出してもらうとAR$160、意外に安く「これなら行ける。」そう思った矢先






「あ、間違えた」






なんとメモ用紙の数字に0がひとつ増えた。






「はぁ!?!???!!?」





オバサン…。自分の暗算では信じがたく、電卓を借り何度計算してもAR$1600は変わらない。いや確かに$160は安すぎると思ったけど。オバサンは「セニョリータ、焦らないで、落ち着いて」というけど、これを見てビビらない人がいるのだろうか。金額を書いたメモをもらい、もし行くなら明日にでも出発できることを確認し、ひとまず店を出た。たしかに遠い…Cueva de Las Manos, not easy…。

プンタ・ワリチュ

puntawalichu                                   Punta Walichu

壁画はアルゼンチン湖のほとり巨石のゴロゴロ転がる浜の岩壁に連なり、夕方の湖畔は特に冷え込む。壁画も面白いけど、このどうにも奇妙な景色もまた面白い。宝島に上陸したときはこういうイメージでは、と思いたくなる。


ところで自分の専攻は油絵で、学生時代は裸婦や静物、風景の課題を描き、絵を描くのは好きなはずなのに楽しくなく悶々としていた。今ではそのときに養った基礎が役立ってはいるが、当時はその衝動で突発的に北海道をふらふらとし、せっかく借りた奨学金も学生時代の後半はそうしたことにほとんど使っていた。

でもなぜ先史美術やプリミティブアートが好きかといえば、なんだろう?単に造形的な要素が好きなのもある。得意だった世界史の一部に直接触れることができることも理由の一つ。


もう一つは、人が文字を持ち始めた頃からの絵とは、描かれた意味が違うということかもしれない。岩壁に描かれたこれらの絵は、一見稚拙で雑に見えるかもしれないけど、実は大変丁寧に描かれていると思う。


鉱物性顔料や獣脂を手や植物、骨の道具で粗い岩のキャンパスに描くのは簡単なことではない。手やありあわせで作った筆も、すぐにボロボロになるだろうし、でこぼこが邪魔して思うような線はなかなか引けない。Fon de Gaumeの壁画を見たときにその完成度の高さに圧倒されたのは今でも鮮明に覚えている。


要するに、文字発明以後の絵にはみられない要素が好きなのだと思う。それを具体的に表現しろと言われると言葉にできないのだけど…。


とまあ専門分野のマニアックな思いはここまでにして

ここはとにかく風景が面白かった。

岩

壁画

11月17日(木)LagoArgentino
puntawalichu

「今日はどこに行くの?」宿のお姉さんに聞かれた。

「プンタ・ワリチュ」

「・・・?あーあ!!プンタ・ワリチュね!!」


洞窟や岩壁の壁画は世界中にあり、ここカラファテにも先住民が描いた壁画がある。美術を専攻していた私には、日本を含む世界各地の先史・プリミティブアートに興味があった。町から10キロほどで自転車でも行けると書いてあるし、地図を見てもこれなら歩いていける。そう思っていた。


しかし、お姉さんによると、時間が決まっていてガイド同伴でなければ見れないらしい。

湖を眺めながら歩こうと思っていたけど、さんざん歩いた上に「見れません」ということになっては悲しすぎるので(アルゼンチンなら多分そういう場合でも押せば大丈夫だとは思う)、しぶしぶツアー会社を通してバスで行くことになった。


お姉さんからもらったメモ用紙を手にツアー会社を探すけど、例のごとく見つからない。それでもメインストリート沿いには様々なツアー会社が軒を並べている。比較的空いているオフィスで、その日の夕方からのツアーを予約した。

長い一日③

クライマーの一人が持っていたスケッチブックの絵。黄色はたんぽぽの花を使ったそう。

clibmer's skecth

前日とは打って変わり、強い風で土埃が舞う町歩きもくたびれ宿のロビーに戻った。暖かいコーヒーを飲みながらさっき買ったノートに絵を描く。この特技だけは我ながら便利だとつくづく思う。どの国に行ってもカメラを向けるよりペンと紙の方が相手に警戒心を抱かせないし、何気なく暇つぶしに描いた物が、しばらくたって見た時に鮮やかに記憶を呼び起こしてくれる。



ロビーには同じくバスを待つ人たちが集まり、それぞれ午後のひと時をゆったりとすごしている。その中の若いクライマー風の兄ちゃんが声をかけてきた。いかにも「山から戻ってきました」の格好と、鼻水でガビガビの鼻毛。私のノートに興味を持ったようで、そばにいる2人の仲間のうち、一人が同じくスケッチブックになにやら描いているのを教えてくれた。


見せてもらうと小さな厚いスケッチブックには、鉛筆と絵の具で描かれた山や、サイケデリックな色彩の抽象画があり、かなりの枚数である。とここまではいいのだけど、なんせ彼らはスペイン語で、私はいくつかの単語とインチキ英語。持っていた会話帳を見せると、「これは何と読む?」「これは?」と人懐っこく聞いてくる。


そう、彼らに限らずアルゼンチンの人たちはとても人懐こく、気軽に話しかけてきては横で話し込む。


鼻毛くんの気に入ったのは「オレタチハ ナマケモノ」のフレーズで、ローマ字で書いて渡すととても喜んでいた。いつの間にか増えたクライマーたちは、パイを一人で5つも平らげ、バスが発車するまでの残りの時間を楽しく過ごすことができた。


長い一日②


川原の石

昨日、山から見た静かな流れは、思ったよりも早い。薮を抜け、宿から200mほど離れた川原で足もとの小石をいくつか拾い、ポケットにしまった。これは地質が大好きな旦那への土産。こうして各地で拾った石は、ずんずん重さを増し相当な「重荷」にはなったけど、後々比較すると面白い発見があった。