ぺらぺらノート
昼下がりの町はどの店も閉まっている。スーパーも閉まっているので、住宅街の小さな雑貨屋に入り日記用のノートを買った。
デザインが好みかどうかは別として、書くものがなくなったのはペン中毒にとっては死活問題。日本語で自由に話せない時の大切なお友達でもあるノート。
ページ数24枚、紙質は粗悪とまではいかないけど、ペンで書くと裏に透けるし、絵の具の発色もよくない。右寄せの方眼はこれまたラフに印刷してある。
ノートマニアとしてはたまらないツボ的な品物ではあるのだけど、これでAR$2.20とは高い気もする…。
24Hojas
Cuaderno
Papel obra de 65g/㎡
Formato 160×210mm
Hecho San Luis
長い一日①
感じの良いドイツ人パーティを朝見送り、さてカラファテへ戻るバスの時刻まではこれから8時間ほどある。山を見てもいいけどもう一度見るのは興ざめで、ユースのロビーで家族や友達に葉書を書く。
しかしまだ時間はある。たっぷり7時間はある。
朝食はザックに入れてきたパンを食べたけど、目の前のカウンターにならぶパイがどうしても気になる。これまで節約してきた分を考えると結構な値段だけど、コーヒーとパイの誘惑は断ちがたい。食欲もさることながら、ジャムの透明な赤や、メレンゲの波打つ白と先端のかすかに焦げた茶色、パイの温かい黄金色がキラキラと誘惑する。
こういうときは太るなどと野暮なことは考えず、食べたもの勝ち(と自分を励ます)。ペンとフォークを交互に動かし2時間が過ぎた。
温かい食事
フィッツロイを拝んだその日の宿は各国のトレッカーが集まるユース。4人部屋のルームメイトはドイツ人の男女のパーティで、装備から察するにキャンプで数日歩くらしい。シャワーをあびてさっぱりしたところで、この日の夕食は豪勢にすることにした。身体を動かしてすっきりしたこともあるし、日本を出てから機内食以外はパンと水だけで生活していたので、そろそろ温かい食事を摂りたい。
ぶらぶらと店を物色しながら、町の入り口にある洒落たビストロに入った。頼んだのはパタゴニアの鱒のムニエル。
これがうまい。涙が出るほどうまい。ふかふかしたパンとペースト、メインのムニエルと、パタゴニアの何とかというフルーツのシャーベット。これがカラファテの実ならもう一度ここに戻ってこれるなと思いつつ、幸せな晩餐は過ぎた。
忘れ物
カーブ追い越し構わずぶっ飛ばすタクシーは、荒地にぽっかり現れるカラファテのメインストリートを抜け、少しさびれた町外れに止まった。というわけで今夜の宿はそこに決定。
荷物を置いて町に繰り出し、FitsRoyを拝むべく翌日のエル・チャルテンへのバスを予約。その足でネットカフェに入ったまでは良かった。
スーパーで買い物を済ませ、2日分の食料をザックに詰め
さて宿に戻ろうかというときに、なぜかはたと気付いた。
ない。
ないないない。
パスポートがない。
吹き出る冷や汗。
冷静になろうと思いつつも、手は慌しくポケットを探る。が、それらしき冊子の手ごたえはない。
「あれがないとこの先へ進めない。まずい。」
一通りのポケットとザックを探したところで、今度は記憶をたぐり始めた。
宿のチェックインで使った→バスの予約で使った→ネットカフェに…
ネットカフェ?
そういえば、マウスの動きが悪いから、マウスパッド…
ネットカフェだ…。
はやる気持ちそのままに、早足で引き返し店に戻り
自分が使っていたナンバーの台をみると
あった。
次の客にもマウスパッドとして
ゴリゴリと旅券は使われていた。
使い主にそれは自分のパスポートであることを伝え
無事回収。
パスポート、用途はいろいろありそうだけど
マウスパッドはお勧めしません。
10年前からの動機
高緯度地帯になるカラファテの町は、夕方になっても昼過ぎのように明るい。
押しよせる客引きの話もそこそこにタクシーに乗り込み適当に宿を決めた。
ブエノスアイレスの排気ガス溢れる喧騒から乾いた荒地に入り、いよいよパタゴニアに足を踏み入れたことがぞくぞくする。といってもこの土地に関する知識はガイド本レベルしかなく、チャトウィンも読まずにやって来た。唯一つ明確なイメージは、アウトドアブランド「patagonia」のロゴマーク。
10年前、漠然とこの山なみを見れたらと考えつつも「夢だな…」と片付けていたのに、今自分がそこにいることが可笑しいようなくすぐったいような気持ちで、荒野をぶっ飛ばすタクシーの車窓から眺めている。
とてつもなくでかくて
風が強くて
荒地の辺境
パタゴニア。
大地の表情
11月14日(火)
アルゼンチン航空ブエノスアイレス13:20発、バリ・ローチェ経由で南パタゴニアの町カラファテに向かう。あずけた荷物はカウンターの後ろで詰まるたびに足蹴にされ、なんとも裏表がないというか大雑把というか。
さてルートは空か陸か迷ったけど、結果的には広大なパタゴニアを巡るには時間が必要で空の道が正解。地理の教科書のようにめくるめく変わる大地の表情を楽しむことができた。
それにしても、小型機のぐんぐん感じる加速度は何度乗ってもたまらない。大好きなのです。
それでは、空の旅をどうぞ。
赤黒い乾燥した大地を蛇行する流れ
経由地バリ・ローチェで給油。乗客の半数以上が、ここで降りていた。

















