夏の季語でつながる11人の少女の短い物語。
ぼくは「すいかの匂い」と「影」が気に入った!
この本は、埃のにおいではない。
すいかのような甘い匂いでは全くない。
これは何の匂いなのか。とふと考える。
ぼくは、こういう結論に達した。
長年、図書館の倉庫で誰にも手に取られずひっそりと保存されていたようなカビ臭い本のような匂い。
ぼくはこんな匂いなかでずっと我慢することができない。
けれども、この雰囲気から解放されたい気持ちがありつつも、時間を忘れて最後まで読んでしまった。
「すいかの匂い」
小さいころには感受性が強く、不思議な体験をすることがある。
それが成長するにつれ、亡くなっていくように少しずつ無くなっていくと聞いたことがある。
両親にも友達にも話せないこともあるだろう。そんな秘密を知りたくなる。
「影」
自分の前を歩いて先回りするように手を差し出してくれる、このMさんのような人が珍しくて羨ましい。
「私たちは店をでて、全然知らない者の同士のような顔をして、それぞれの場所に戻る」
じつはこんな人がいると、けっこう、うっとおしいかもしれないくらい、またきっとお互い時々出会うだろう。
<目次>
すいかの匂い 7-24
蕗子さん 25-44
水の輪 45-58
海辺の町 59-76
弟 77-94
あげは蝶 95-116
焼却炉 117-138
ジャミパン 139-158
薔薇のアーチ 159-178
はるかちゃん 179-200
影 201-224
◎1964年東京都生まれ。目白学園女子短期大学卒業。児童文学作家、小説家。著書に,「きらきらひかる」「こうばしい日々」「落下する夕方」など
29P 蕗子さん
蕗子さんは不思議な人だった。男の子のように短い髪をして、お化粧っけのない顔はどちらかというと色が黒く、しかしそれは、健康的な印象では決してなかった。表情が変化しにくい上、ぼそぼそと話すせいかもしれないが、蕗子さんには、どこか闇の匂いがした。身体の中に深い井戸をもっているような、夜の静寂を抱いているような、得体の知れない野生動物のように注意深く、およそいきいきしたところにない人だったが、ごくたまに、少年のようにあっさりとした顔で笑うことがあり、そういうときの蕗子さんはひどく子供っぽく、むしろ粗野な生命力に満ちていた。
49P 水の輪
私は七つで、姉とさきちゃんは九つだったが、みんな、自分たちの混沌の重みをもてあましていた。死にそうに怠くて、事実、みんなまだ死にとても近い場所にいた。人間にとっては生きていることの方が不自然なのだと、生理的に知っていた。









