「収録された七編を貫くテーマは、「官能」と「生死」。
人間が常に向き合い続けてきた普遍的なテーマです。」
「官能」側、とくに、艶めかしい甘美な世界に引きずられる衝動を覚えます。
少し感動というのとは違うかな。
言葉に惹かれるという感じが合うかもしれない。
なにかついつい最後まで読んでしまう。
そうしたらよかったわ!!というような感じ。
小池真理子さんの罠にハマってしまったというような感じかな。
だから、小池さんの小説は面白い!
<目次>
鍵 5-40
木陰の家 41-67
終の伴侶 69-102
ソナチネ 103-133
千年萬年 135-169
交感 171-206
美代や 207-246
◎1952年、東京生まれ。成蹊大学文学部卒業。89年「妻の女友達」で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)、96年『恋』で第114回直木賞、98年『欲望』で第5回島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で第19回柴田錬三郎賞、『無花果の森』で2011年度文化庁芸術選奨文部科学大臣賞、2013年『沈黙のひと』で第47回吉川英治文学賞を受賞
◎19P 鍵
微笑み合うとか、ウインクし合うとか、その種の表現は何ひとつ、していなかった。
二人はただ、まっすぐに見つめ合い、周囲の一切を遮断しながら、互いだけの世界に浸っていた。
時間にして、わずか三、四秒ほどの間の出来事だったが、周子にはそれが、視線と視線の、まごうことなき性交のようなものだとしか思えなかった。
嫉妬よりも先に、怒りがあった。卑猥だ、と思った。不潔だ、と思った。
◎125P ソナチネ
佐江もまた、そこにこめられているであろうものを瞬時にして受けとめた。
二人の視線は、無数の目に見えない、細いが強靭な糸のようになって、烈しく絡み合った。
それは決して言葉では説明できない、あえて言うならば、深い共犯者意識に近いものだった。
ただひとえに、肉体の奥の奥、深い闇に閉ざされた部分でのみ、感じられるものだった。
187P 交感
人が現実に生々しく体験したことが、時間によって中和されて、ある化学反応を引き起こし、やがて小説における本質を導き出すのではないか。
経験したことの積み重ねが、作家自身にもわからない法則にのっとって溶け合い、抽象度を増し、その流れの果てに物語やテーマが生まれてくるのではないのか。
そんなふうに思えるのです。
