百田尚樹さんが書かれた時代小説です。
「光があるから影が生まれる。影があるから光も映える。」
ここまで書けるかと思うくらい、百田さんの器量の大きさをさらに感じる作品でした。
「武士の勘一と彦四郎は、刎頸の契りをかわした友。
この二人は、あるときから違った人生を歩みます。
一方は、下士から異例の出世を果たし家老にまで上り詰めるが、他方は、貧困のうちで無為に朽ち果ててしまう。
しかし、それにはしっかりとした理由があったのです……。」
◎1956年、大阪生まれ。同志社大学中退。放送作家として人気番組「探偵!ナイトスクープ」など多数を構成。2006年、特攻隊の零戦乗りを描いた『永遠の0(ゼロ)』で作家デビュー。
308P
「実は、今日まで誰にも申さなかったことございます。」
伊登は言った。彰蔵は伊登の顔を見た。
「磯貝さまは、私を抱き寄せた時、耳元で、すまぬ、と仰いました」
「何と―」
彰蔵は思わず声を上げた。
「磯貝様の目は、酒に酔った目ではございませんでした。
私は、この方は正気だと思いました。それだけに余計に怖くなりました」
やはり、という思いであった。予期していたことながら、伊登の証言に、唸った。
