426-427P
「野球ってのは、いつもこんなにハラハラドキドキしてなきゃいけないのかい」
打ち取られた相手打者の藤本が、自軍ベンチ前でヘルメットを地面に叩きつけるのを見届け、志眞がきいた。
「いい試合だろ」
青島がいった。「ルーズヴェルト・ゲームだ」
そういえば、と細川は、バックスクリーンを見上げ、以前、青島からきいた話を思い出した。
野球好きのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が、一番おもしろいといった試合のことだ。
「なんだい、それは」
志眞がきいた。
「八対七の試合のことさ」
青島がいうと、「あんたの会社みたいだねえ」と志眞一流の嫌味で応える。
池井戸さんマジックにはまりますね。
ぼくは、池井戸潤さんが人気のある理由がわかります。
読み終わってスカッとしますよね。
気分は爽快です。
世の中こんなにうまくいくことがあまり多くないのではと思うほどにすごい結末。
これまでもかこれまでかとガンガンと金槌のようなもので叩かれつづけ、重石で押さえつけられて、相手の理不尽な要求にも我慢し続け、最後にはなんとかそれらを克服して、奇跡の逆転劇を演ずるんですからね。
物語が面白いしスッキリとして気持ちがいい!
出演者たちの熱い気持ちにも同化してしまいますよね。
まるで自分がそこでいっしょに行動しているかのように感じてしまう!
青島製作所の細川社長、笹井専務、青島会長、神山部長、三上部長、ピッチャーの沖原選手、大道監督らと、坂東ミツワ電器社長、諸田ジャパニクス社長、磯部白水銀行支店長……等々、テレビで見た蒼々たるメンバーの姿を思い浮かべながら読んでいます。
著者の言いたいことを自分に代わって主人公らに語らせることができるって楽しいだろうなあ。
それって著者さんならではの醍醐味だろうと思います。
池井戸さん。これからも主人公らに名言を語らせてください。
この時代には、人生に役に立つ名言が必要なんですよ。
夢と希望と感動をぼくらに与え続けてください。
次の作品も期待しています。とても楽しみにしています。
<目次>
プロローグ 5
第1章 監督人事 9
第2章 聖域なきリストラ 49
第3章 ベースボールの神様 87
第4章 エキシビションゲーム 127
第5章 野球部長の憂鬱 181
第6章 6月の死闘 241
第7章 ゴシップ記事 279
第8章 株主総会 327
最終章 ルーズヴェルト・ゲーム 381
エピローグ 433
◎1963年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学文学部・法学部法律学科卒。1998年、『果つる底なき』(講談社文庫)で第44回江戸川乱歩賞、2010年、『鉄の骨』(講談社文庫)で第31回吉川英治文学新人賞、2011年、『下町ロケット』(小学館)で第145回直木賞を受賞
188P
「そうか」と大道はうなずいた。
「やりたいことがあるってのは、いいことだ。お前の人生だから、どう生きるかはお前が考えて決めろ。だが、これだけはいわせてくれ。野球をやめたことを終点にするな、通過点にしろ、いままでの経験は、必ずこれから先の人生でも生きてくる。人生に無駄な経験なんかない。そう信じていきていけ」
大道は立ち上がると、右手を差し出した。
「いままでよく頑張った。ありがとう」