桜木紫乃さん。
愛とは双方向なのかな!
伊澤と紗希との愛しさと愛しみが交互に絡み合って、人を魔性なる狂気に変えてしまう。
そんな危うさと怖さを感じています。
これは現実にもありえるのかもしれない。
全編に漂っているある種の、背中がぞくぞくするような、鬱々とするような、じめっとするような、負の匂いや黒い背徳感。
桜木さんが描くそれらがぼくは嫌いではありません。
終わりには、思いがけない展開がおとずれて度肝が抜かれます。
<目次>
1 新潟・亮介
2 銀座・紗希
3 南神居町・亮介
4 東京・紗希
5 カムイヒルズ
6 南神居町・紗希
7 小木田と春奈
8 釧路・紗希
9 楽園の蜘蛛
10 東京・紗希
11 新潟・亮介
12 新潟・紗希
◎1965年北海道生まれ。「雪虫」でオール讀物新人賞受賞、同作を収めた「氷平線」でデビュー。「ラブレス」で突然愛を伝えたくなる本大賞、島清恋愛文学賞、「ホテルローヤル」で直木賞受賞。
108-109P
「ずいぶんと、イメージが」
その後に続く言葉を失った。陰った天候のせいなのか。身につけるものが質素であればあるほど、白川紗希の色の白さや薄い化粧や首や手足の細さ-ほどよい丸み-が際立つようだ。水商売の水に染まらぬ気配は、そのまま彼女の傷の深さを思わせた。どんな環境に置かれても、人はその場の色に染まったほうが楽に生きられる。紗希にはそうした器用さがほとんど感じられなかった。
172P
伊澤のことを考えると、胸奥に柔らかい風が吹く。彼は紗希よりも老いているぶん不幸であり、そのことを内側に隠しておける大人だった。彼の胸にある傷を素手で撫でてみたい。痛みと癒やしの均衡は、よりいっそう伊澤を輝かせ、紗希を救ってゆくに違いなかった。









