小池真理子さんらしい哲学的な小説。
だからこそ心して読むことができました。
大人の恋が描かれた作品が入っています。
5、6年ほど少し前に読んでいたら、伝えようとしている意味がなかなかわからなかっただろう。
経験も伴っていないから。
男と女や愛と性、生と死……。
ここに出てくる物語は、当たり前のようであるが、平凡なような生き方じゃない。
一部の人たちの変わった別の人生じゃないかなと。
題名となった「千日のマリア」の義母との関係は難しいな。
そういう立場になってみないとわからない。複雑な気持ちになります。
また、「修羅のあとさき」の多幸症の女性の話は、とても印象深く記憶に残りました。
その状態が幸せともかわいそうとも誰もがそう言えないなと。
考えさせられます。
<目次>
過ぎし者の標 7
つづれ織り 45
落花生を食べる女 79
修羅のあとさき 105
常夜 147
テンと月 181
千日のマリア 195
凪の光 235
◎1952年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「妻の女友達」で第四二回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、1996年『恋』で第一一四回直木賞、1998年『欲望』で第5回島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で第一九回柴田錬三郎賞、2012年『無花果の森』で第六二回芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)、2013年『沈黙のひと』で第四七回吉川英治文学賞を受賞
262P
潔癖さ、寛容さ、感受性、慈愛の精神、素直さ……それらが余すところなく集まって、より子という人間を作っている。真摯でまっすぐで、情は深いが、決して人の道から外れない。
そんなより子を今も深く愛し続けているであろう敏也もまた、より子に寄り添いながら、漣ひとつ立たない穏やかな一生を終えるに違いなかった。ここにいるのは、稀にみる深い信頼と確かな情愛で結びついている夫婦であった。
それは思いがけず、知美をしんと静かな気持ちにさせた。それは甘美な静けさと言ってよかった。めったに手に入れることのできない本物の安らぎ、透明で穢れのない人間の本質を見ているような気もした。
気がつくと、視界がうるんでいた。より子たちに気づかれやしなかったろうか、と慌てた。
