109P「奇跡は起こらないから奇跡なのだ―。」
「蜘蛛と蝶」というタイトルは内容を知るとピッタリだ。
相手を探している人や婚活をしている人だけじゃなく。
こういったシチュエーションはあり得るんじゃないかな!
インターネットやSNS上で知りあいとなるような可能性がある人なら起こりえる出来事・事件なのかも。
毎日、毎回、同じスーツとネクタイであることや、はじめに自己紹介した名前である「一希」ではなく「こうへい」と彼の友人が言ったのを聞いたとき等々。
人の心をもてあそぶような輩は許せない。
客観的に考えるとにかおかしいと感じないのかどうか、などと怒りながら読み進めてました。
多岐川瑠璃子は、この彼の本性を分かってもよい伏線がいくつもありました。
でも、それに気づけなかった。
彼女はそれに気づきたくなかったのかもしれない。
ラストには、スッキリしないような思ったようなうれしい展開が待っています。
<目次>
プロローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章
第八章
最終章
エピローグ
あとがき
◎1961年東京都生まれ。法政大学文学部卒。「履き忘れたもう片方の靴」で第30回文藝賞佳作を受賞しデビュー。ほかの著書に「1303号室」「甘い鞭」など。
17P
彼女の人生には特別な喜びもなかったし、楽しみと呼べるようなものも見当たらなかった。だが、同時に、これといって悲しいことがあるわけではなかったし、耐え難いほどの苦難に直面しているというわけでもなかった。
「幸せか?」と尋ねられたら、「ええ。たぶん」と答えただろう。瑠璃子には家族がいたし、安定した仕事もあった。
それでも、……平凡な日々の繰り返しの中で、なすすべもなく年を重ねていくことを考えると、焦りや不安のような感情が胸に去来した。
68P
その朝、瑠璃子には、目に映るすべてのものが、それまでとは違って見えた。耳に入るすべての音が別の音に聞こえた。
目を覚まし、自室の窓をいっぱいに開けた時-真夏の朝日に照らされた木々の葉の輝きが、それまでとは違って見えた。耳に飛び込んでくる鳥たちの声が、それまでとは別のものに聞こえた。
髪をそよがせる風のにおいが、胸いっぱいに吸い込んだ夏の朝の空気さえもが、きのうまでとはまったく別のもののように感じられた。
133P
瑠璃子の誠実さ、真面目さ、相手へのいたわりや思いやり、努力を続ける力、人を信じようとする気持ち、困難に向き合おうとする心、決して人を裏切るまいとする信念……それらはどれも彼が持ち合わせていないものだった。








