MMA業界の問題点: 契約に関して / 文化が違う?芸能界とも似てる? -9 | SLEEPTALKER - シュウの寝言
(本名である「能年玲奈」を使わない決断を下した女優のん。今年3月に6年振りの映画復帰作「星屑の町」が公開された / Photo by Business Journal
 
日本での芸能マネジメントだけを任せてくれないか?
 
日本でそれなりに有名になると必ずと言って良いほど、選手には、このようなアプローチがあります。
 
私は「餅は餅屋に任せる」主義なんで、これに関しては常にオープンマインドなんです。
選手の本職である格闘技の部分に関わらないのでしたら、日本の芸能の仕事はそちらに丸投げしますよ。当然それに関してはうちは何もしないんですから、一銭もいりませんし、という考えなんです。
けど、そういうことだから変則的な取り決めになります。だからちゃんと契約しないといけない。それに相応しい契約書をつくりましょう、とその芸能プロダクションとお話をさせて頂くんです。
 
さて、ここから2パターンに分かれます。
 
1つは、その芸能プロダクションが普段使っている契約書を送ってくる。
もう1つは、君と話したいんだ、と選手に直接連絡してくる、です。
 
前者は、悪気がない方が多いです。
普段うちが使っている契約書なんですけど、どうですかね?と言ってきてくれる会社です。
しかし後者の場合は、残念なことに悪意があるケースが大半でした。
 
これに関して詳しい話に入る前に、まず日本の芸能プロダクションから出てくる契約書の話をしたいと思います。
必ずと言って良いほど入っている項目・条件の中で、これはプロ・スポーツ選手には当てはまらないのでは?と私が思うものについてまず書きたいと思います。
 
「芸名」の権利
 
2016年7月28日号の週刊文春に掲載された記事によると、バーニング、ホリプロ、ナベプロ、レプロエンターテイメント(以下レブロ)ら大手芸能プロダクションが加盟する音楽事業者協会(音事協)の統一の契約フォーマットというのがあり、そこには下記のよう文言があるらしいです。

〈乙がこの契約の存続期間中に使用した芸名であって、この契約の存続期間中に命名されたもの(その命名者の如何を問わない。)についての権利は、引き続き甲に帰属する。乙がその芸名をこの契約の終了後も引き続き使用する場合には、あらかじめ甲の書面による承諾を必要とする〉

「乙」がタレントで「甲」は芸能プロダクションです。

 
日本の芸能プロダクションから選手に出してきた契約書の中にも、同じような項目がありました。
 
中には「この契約の存続期間中に命名されたもの」という部分が抜けているものもありました。
契約したら、試合で使ってる名前は本名でもリングネームでも「芸名」とみなされ、その権利は全てその芸能プロダクションに帰属する。
これはかなり悪質だと私は思いました。
日本の芸能プロダクションがアイドルグループなどを育てていくビジネス・モデル上での契約ならわかりますけど、売れてきたスポーツ選手に対して、芸能の仕事はどうですかね?とアプローチしてきた方から出してくる条件ではないと思うんです。
 
個人事業主という観点で考えても、これほどあり得ない条件はないと思います。
例えば会社の経営者が、新規に取引を始めようと思っている会社に、一銭の報酬も、何の見返りもなしに、大事な権利をいきなり渡すでしょうか?
しかも、ここまで悪質な契約書を出してきた会社は、メジャーと呼ばれる芸能プロダクションではない聞いたことないところばかりでした。
これからちゃんと満足するだけの数の仕事を取ってくるのだろうか?それすらもわからないのに、長い間、公に使ってきた名前の権利をいきなり渡すなんておかしい。
そう考えるのが普通だと私は思うんですけど、これに気づかずにサインしてしまった選手を数人知っています。
 
「芸名」の権利で話題になった件といえば、女優の、のんだと思うんです。
彼女は所属する芸能プロダクションを変えたことで、移籍以前の芸名でもあり本名でもある「能年玲奈」を使っていない女優さんです。
前に所属していたレブロから芸名の使用は禁止だと通達され、一部の専門家たちがこれに関しては「法的に無効だ」と論じましたけど、結局能年側は要求を呑んだんですよね。
その理由が「能年玲奈」を使い続けることで一緒に仕事をする相手に迷惑がかかることを危惧したからだと聞きましたけど、これもプロ・ファイターには全く当てはまらない論理だと思うんです。
 
経費について
 
音事協の契約フォーマットに、この項目が入っていうかどうかは定かではないですけど、芸能プロダクションから選手たちに出された契約書の中に、必ずと言って良いほど、この項目は入っていました。
簡単に説明すると、営業やPRなど、タレントの仕事を獲得するにあたり必要な経費はギャラと相殺されるというものです。
この項目で私がいつもおかしいのでは?と思うのは、タレント側にこの経費を使って良いかどうかを承認する権利がないというところなんです。
それがなければ、プロダクション側が好き勝手に経費を使い放題、なんてことも起こり得る。
そう考えると、おかしくない?と思うんです。
 
自動更新
 
例えば今年の12月31日に終了する契約だけど、9月30日までに契約を更新しないという旨を芸能プロダクション側に伝えないといけない。それをしないと自動的に契約が延長するという項目のことです。
今まで見てきた日本の芸能プロダクションが出してきて契約書のほとんどに、この項目が入っていました。
逆に格闘技業界では、レアなんです。
欧米の契約書で、この自動延長の項目が入っているのを見たことがありません。
独占交渉期間やマッチング期間が入っている複数試合契約書に、この項目は必要ないという考えだと思います。
日本の格闘技団体から出る契約書も、自動延長の項目は入っていないほうが圧倒的に多いです。
しかし、まだこの項目が入っている契約書を出してくる団体も、存在していることは確かです。
知らないうちに契約が延長されてた、どうしたらいいだろう?と選手や道場主に相談されたことは一度や二度ではありません。
これ、気づかなかったんですか?と私に自動延長の項目を指摘されて「いやいや、〇〇に出れると思ったらチャンスですから、そんな細かいところは気にしないでサインするのが普通ですよ」と言った人もいました。
 
取引先の選択権
 
これもプロダクションに育てたられたタレントのケースならわかるんです。
どこと取引するのかを決める権利を芸能プロダクション側が持つ。
でも選手にとって、この条件は格闘技の世界で自由を奪われるようなものです。
芸能プロダクションが、UFCでもベラトールでもRIZINでもONEでも、取引しないと決めたらその団体と契約すことができなくなるんで。
そしてこれに関して選手側はまったく何も言えない。
これは誰がどう見ても、選手なら絶対に受けられない条件です。
 
他にもまだ数点あるんですけど、ここまで書けばおわかりになると思います。
日本の芸能界で使われている契約書の特徴は、タレント側が承認するとか、断るとか、選ぶといった権利がほとんど認められてないんです。
どうしてそうなるのか?
これは私の推測ですよ。
欧米はのアーティストや役者さんたちは、基本的にオーディションを勝ち上がっていかないとチャンスは掴めません。
その厳しい競争を生き残ってきた人が集まっているトップの世界に、お金とかコネでチャンスが貰えて入ってきたとしても、本当に実力がない人は、すぐにそのメッキは剥がれ、自然消滅していきます。
しかし日本の場合は、チャンスを掴むためのルートが多岐に渡り、プロダクションの力無しでは、なかなか掴み取れないものが多いように見えるんです。
もちろん才能、実力、努力でトップになった人たちもたくさんいます。ただそれだけではなくて、所属しているプロダクションの政治力とか、例えば視聴率の高い人気ドラマに出ている役者が同じプロダクションにいて、それとバーター取引で同じドラマでいい役を貰えるとか。
 
欧米の場合は、だからこそアーティストたちは、売れれば自分がトップとなり、エージェント、パーソナル・マネージャー、弁護士、会計士、広報、SNSマネージャーなどを自ら雇います。
アメリカの映画やドラマの世界でいえば、前にも書いたクレア・デインズやサラ・ジェシカ・パーカーのように、主演しているドラマがヒットしてシリーズ化したら、次の契約のタイミングで必ずと言っていいほど、主演の役者はプロデューサーも兼任するようになるのと、根源にある考え、フィロソフィーは似ていると思うんです。
だからアメリカでは、アーティスト、タレント、クリエイターたちが個人事業主としてしっかりとキャリアを築いていける土壌が業界内で確立されてるんだと思うんです。
そう考えると、日本の芸能界とは大違いです。
全くの別物です。
けどプロ・ファイターは、日本の芸能プロダクションに育てられたタレントではありません。
そのキャリアの築き方からライフスタイル、そして各団体との契約形態は、どちらかというとアメリカのアーティストたちと同じなんです。
それなら日本の芸能界で使われている契約書を、または、その契約内容を元にして作られたタレント契約書のようなものを、プロ・ファイターに使うべきではないと、私は思うんです。
本気でプロファイターの芸能マネジメントをやりたいのなら、世界の格闘技業界のことを勉強し経験し、格闘技も芸能もしっかりとマネジメントできるようになるか、日本の芸能界オンリーという特殊な条件のもと、現実的に使える契約書を作成すればいいだけのことなのだから。
それすらしないで、これはうち所属のタレントはみんなサインしている契約書だ、悪いようにはしないとか言って、契約書をだして、その場でサインするように選手に勧める。
悪意のある人間の典型的な常套手段が、これだと、私は思うんです。
 
さて次回は、実話を元に、選手たちに近寄ってきた、悪質な日本の芸能プロダクションの特徴について書きたいと思います。
 
 
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