MMA業界の問題点: 契約に関して / 文化が違う?芸能界とも似てる? - 8 | SLEEPTALKER - シュウの寝言
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(トライハードジムの代表代行のHIROYA選手が、弁護士と一緒にK-1との契約に関して記者会見を開いたのは2年前の事だ / photo by DropKick
 
これまで契約期間、拘束市場、延長項目について書いてきましたけど、最後に少しだけ触れる事ができるのは、これです。

保険

コミッションのある州や国では、必ずプロモーターは試合での怪我をカバーする保険への加入を義務付けられるので、試合で負った怪我の治療費などを選手が負担することは、100%に近い確率でありません。
更にUFCの場合は、練習中の怪我もカバーしてくれる保険に入っていますから、年間1500ドルまでは自己負担になりますけど、それ以上はどんなに高い手術でも全額保険がカバーしてくれます。
これは、業界でも画期的な事で、UFCだからそれだけ保険に予算を費やせる、というのが現実でもあるとは思います。
 
これが日本の場合は、まず保険会社かMMAの試合に関しての保険を作ってくれないんで、結局はプロモーターか選手負担になってしまう事が多いんです。
私は保険業界の事に関しては全くの無知なので、なんでアメリカでできて日本でできないのかわからないんですけど、日本の保険会社も普通のスポーツ保険だけではなく、格闘技など大怪我をする危険性の高いスポーツのために各種保険を考えて頂きたい所です。

さて、これ以上は、私も実際に契約の交渉に携わっている当事者なんで守秘義務が発生する部分もありますから、契約書に関しての話を続けますけど、ここからは日本の芸能界の契約書と比較しながら、私の思う所を書く、という方向にややシフトチェンジしたいと思います。

日本の芸能プロダクションのシステムは、アメリカでは存在しないと言ってもいいぐらいのビジネス・モデルです。
素人の中、高校生に歌とダンスを教えて、プロになるために必要なすべてを叩き込み、鍛え上げ、中には衣食住まで提供し、作曲家と作詞家を雇い曲も用意して、PR・宣伝までやっているんですから、ハリウッドのシステムと日本の芸能界は比較できないと思うんです。
しかし契約という観点で考えると、プロ・スポーツの場合は、特に個人競技には、この日本の芸能界のシステムに併せた契約書を用いるのには無理があると私は思うんです。

まずプロ・アスリートは、何度も書いてますけど、個人事業主です。
アスリートがトレーナー、マネジメント、会計士などを雇って、それぞれにフィーや収入からのパーセンテージを払うので、どちらかというと、そのシステムは、日本の芸能プロダクションよりもアメリカのアーティストたち近いと私は思うんです。
そう書くと、いやいや、ハリウッドと比べられても、と思う方もいるかもしれないですけど、稼ぎが違うとか市場のデカさが違うというのは関係なく、根本的なアスリート側の必要最低限のニーズや権利を守る、という点で、似ているという事なんです。
(スポーツの場合は、それなら幼い頃からずっと選手を練習を見てきて、アマからプロへと育てたトレーナー・コーチはどうなるんだ?というハリウッドとは異なった点がありますが、これについては後で書きます)
 
ファイトマネーの支払いのタイミング

さて、これに関しての欧米のプロモーターや選手たちの考えはこうなんです。

メインとか話題の試合なら、大会の二ヶ月から三ヶ月前にカードは発表されます。
そしたらポスターを刷り、いろんな所に配って貼って。カードのグラフィックやバナーを作りSNSで拡散させて、TVやネットで宣伝流して、と色々とプロモーターはやる訳です。
当然ですよね。
チケット売らないといけなんですから。
でもここで大事なポイントは、ポスターでもグラフィックでもバナーでも宣伝でも選手の写真と名前が載るという事なんですよね。
それなら選手側には肖像権があるので、それを使わせているという観点も成り立んです。
そしてそれは契約書でも明記されているんです。
要はこういう事です。
どの団体が選手と交わす契約書でも、宣伝の為に、肖像権に限らず、選手の声からコメントから、どんな風に使ってPR、宣伝しても良いという事になっていますから、全然問題ではないんです。
ポイントは、契約書の中で約束されているのは、計量をパスして試合をするという事以外に、このような肖像権などの使用もOKにしているからなど、色々な要素を全て含めての報酬、それが「ファイトマネー」なんです。

プロモーターがチケットを売るために、そしてスポンサーを集めるために、日々東奔西走している間に、選手たちは、試合の準備に入ります。
練習はもちろん、アメリカのフィーダー・ショーや日本の場合は、選手はチケットも売る訳ですから営業活動して、その他にも各媒体の取材に応じたり、記者会見があれば出て、試合が近づいてきたら公開練習して。
それをしながら体重調整して、計量パスして、とやっていく訳ですから、もう試合の前の二ヶ月から三ヶ月の間、十分に団体の利益に繋がる事のための労働してますし、肖像権などの権利も使用させている。
そういう考えも成り立つと思うんです。
だからこそ、試合をしたら24時間以内に「ファイトマネー」を支払うのがスタンダードなんです。
もっと厳密にいうと、コミッションの試合合意書に記載されている「Purse/Show Money」であるギャランティと「Win Bonus」と書かれた勝利ボーナスに関しては、24時間以内に支払うという意味です。
(他の名目の支払い、例えばUFCなら各種ボーナスやPPV収益からのシェア、他の団体で時折ある、契約金やアドバンス、またはPRファーなどは団体それぞれです)
 
これはMMAの世界では、日本と一部のアジアの国以外では万国共通なんです。

日本の団体の日本人選手への支払いに関しての業界スタンダードは、試合をした次の月の末です。
例えばライターが記事を書いたら、そのギャラの振り込みは、雑誌が出た次の月末というのがほとんだと思います。
タレントがイベントや番組に出たら、取っ払いの時もありますけど、大体の場合は、その次の月末です。
芸能界でも出版業界でも、ほとんどの業界でも仕事をしたら、その次の末とかに支払いが振り込みされる事の方が圧倒的に多いでしょう。
それなら当然、MMAの団体に入ってくる放映権料や協賛金などの支払いも大会を開催した月の末、30日後とか、その次の月末というケースがほとんどだ、というのもわかります。

でもあえてここで、試合した次の月末の支払いに関して、MMA業界での問題点を書きたいと思います。

まず、日本でもどこの国でも、MMA団体は、1年に6回から10回ぐらいの割合で大会を開催するケースがほとんどで、大体の場合は、週末が祝日に開催される事が多いです。
(もちろん現在のコロナ禍での話は別ですから、その前までの話です)

今年の日本の暦でいえば、これは例えばですけど、5月5日に大会で試合をした選手のファイトマネーの支払いは、6月30日になるんですよね。
もしも同じ団体が、6月28日に大会を開き、5月5日に試合をした選手がそこでも試合をしたい場合はどうしたらいいのか?
リスクとして考えないといけないのは、6月28日の大会を最後の団体が潰れたら、2試合分取りっぱぐれもあり得るんですよね。
前のK-1がダメになった時に、結局俺は未払いだった!と公に訴えた選手たちの中に、1試合分だけでなく、数試合分が未払いだと言っていた選手もいたのは、しっかり取り立てないのに次の試合をしたのも悪いという見方もできるとは思いますけど、この支払いのタイミングの遅さも原因の一つだったと思うんですよね。
普通の感覚なら、仕事して金貰ってないのに、そこでまた仕事しますか?という話ではあるんですけど、今までちゃんと支払ってくれた長年の信頼関係もあったからというのもわかるんです。
でもプロモーター側が破産宣告したら、最終的に涙を飲むのはファイトマネーが貰えない選手側です。
これを防ぐには、支払いのタイミングをもう少し早めて貰うしか解決策はないと私は思うんです。

いやいや選手も営業してるじゃん仕事してるじゃんと言われたって、手売りの分は選手にバックがあるじゃないか?という意見もわかりますけど、それを言うのなら、選手へのバックは50・50にしないと、論理的に成り立たないのでは?と私は思うんですよね。
だからこそ別に50・50でなくても良いと私は思うんです。
今のままのバック率でも構わないと思うんです。

けど、それならファイトマネーの支払いのタイミングは早めるべきなのでは?と思うんです。
だってチケットのお金はすぐに入ってくる訳ですし、メジャーと呼ばれる所以外の日本の団体の主な収入源はチケットの売り上げなんだし、と思うんです。
もちろん選手の手売りや当日券だけではなく、チケット・エージェンシーを通して売っているチケットに関しては、お金が入ってくるのに少し時間がかかるのはわかります。
協賛金だってすぐに振り込んでくれる訳ではないでしょう。
それでも、選手側としては、これは言い続けて交渉しないと、何も変わらないと思うんです。

例えばですけど、せめて試合したら30日以内とか。
これも本当に1つのアイディアですけど、前座、メインカード、セミ、ファイナルと分けて、前座までの選手は今までの同じで次の月末のままだけど、メインカードになったら30日以内、セミなら14日以内、メインなら24時間以内にして貰うとか。
解決策を見出すための話し合い、交渉すら行われていないのが現実なんで、これに関しては、私も含め他のマネジメントや道場主の方々、全ての人たちに非があると思っているんです。
だからこそ、私もそうしていきますから、選手側の皆さんや他のマネジメントや道場主の皆さんには、これをもっともっと言い続けて、少しでもいいから選手側の権利も勝ち取るようにして頂きたいと思っているんです。
ハリウッドみたいに組合が強いなんていうケースとは真逆で、どうしても仕事をくれる方の都合に合わせないといけない。
これ、仕方ない部分があるというのもわかっているんです。
更に日本の芸能界では、TVに出してあげるんだ、使ってあげてるんで、育ててあげたんだから、という観点が成り立つというのも、少しだけは解るんですけど、MMAの世界は違うと思うんです。
それに昔は存在していたかもしれないですけど、使ってやってるんだ、という完全上から目線のプロモーターは、私の感触では今の時代、もうほとんどいないと思うんですね。
だからこそ、ちゃんと理詰で交渉をし契約書上で、選手の権利を少しずつでも良いから獲得していかないといけない。
そんな時代なのでは?と私は思っているんです。
 
 
(続く)
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