MMA業界の問題点: 契約に関して / 文化が違う?芸能界とも似てる? - 4 | SLEEPTALKER - シュウの寝言
 
(飛行機の格納庫をイベント会場にしたのが、このThe Hangar。ここで初めて試合した日本人選手は、多分ですけど、魅津希選手だと思います)
 
3)その他
 
反則の場合は、普通にコミッションの決めたルールに沿って処理されます。
全てはケース・バイ・ケースですけど、ファイトマネー全額没収というのは聞いた事がありません。
前回触れたヌルマゴメドブ選手だって、UFC 299で手にしたファイトマネーは200万ドルなんで(注:PPV収益からのシェアやリーボックのフィーは別)、あれだけの大事件を起こしても貰ったファイトマネーの25%を没収されただけなんです。
それと比べると、故意ではなくアクシデントで反則負けとなった選手からも、ファイトマネーを全額取り上げるのは、団体側の究極の上から目線と言われても仕方ないのでは?と私は思うんです。そしてそんな契約に納得する選手側にも多少の非はあると思うんです。
おかしいと思う所は、しっかりと言わないと何も変わらなし、それが自分自身、そして他の仲間たち、つまり選手たちですね、その仲間たちの権利を守るという事にもなると私は信じているんで。
 
ドラッグテストにひっかかった場合も、ファイトマネー全額没収はないですけど、ご存知の通り、欧米では2年ぐらいの出場停止、つまりサスペンドは簡単に喰らうんで、そうなると試合ができない、稼げないイコール金銭的ダメージを被るという事にはなります。
 
ただここで敢えて記しておきたいんですけど、あれだけのルールや規則を作り各種ライセンス申請を課している欧米のコミッションだって完璧ではありません。
ザルだな、と思う所も多々あります。
 
例えば選手が養育費の支払いを滞納していた場合。
これなんですけど、選手自らライセンス申請の際に申告すんで、自己申告なんです。
 
とても興味深い実例があるんで、それを用いて説明したいと思います。
 
カリフォルニア州のアーバインにあるマリオット・ホテルで25年もの間ボクシングの興行を行なってきた、ロイ・エングルブレットというボクシングのプロモーターがいます。
エングルブレット氏は、2016年3月12日にラスベガスで元WBA、BBC、IBF世界ウエルター級チャンピオンのザブ・ジュダー選手とジョシュ・トーレス選手の試合を組むと発表し、その準備に取りかりました。
その過程で、ジュダー選手の代わりにライセンス申請書を記入しコミッションに提出したのがエングルブレット氏だったんですけど、ジュダー選手が養育費27万4000ドル未払いである事を書かなかったんです。
で、これがバレたんです。
ネバダ州のコミッションは、虚偽の記述をしたという理由でジュダー選手の出場を認めず、試合はキャンセルとなりました。
 
2016年5月の終わりに開かれた公聴会で、ネバダ州コミッションはこのように説明しています。
2015年と2016年に2度エングルブレット氏はジュダー選手のライセンス申請をネバダ州で行った。
この2つの申請書に記入されたソーシャル・セキュリティー・ナンバー(日本でいうマイナンバー)が全く違っていた。それからジュダー選手のサインも、2015と2016年のとでは別のものにしか見えなかった。これがきっかけで調査した結果、ジュダー選手のニューヨーク州での養育費未払いが発覚した。
ベガス州のコミッションは怒り心頭で、プロモーターのエングレブレット氏には、偽証罪という理由で18ヶ月のサスペンションを言い渡しました。
そしてABCを通じて、カリフォルニア州のコミッションに、このサスペンションを有効にするようにと要請したんです。
 
しかしこの時点で、エングルブレット氏は、2016年6月16日にカリフォルニア州のコスタメサのThe Hangerにてボクシングの大会を開催する事をすでに発表していました。
カリフォルニア州のコミッションが管理する、ライセンス申請やメディカルテストの承認などのプロセスがほとんど終わっていましたし、計量や大会の為のドクター、レフェリー、ジャッジなどに仕事の発注も済ませた後でした。
 
ネバダ州からの要請に対して「さらに調査が必要だ」とカリフォルニア州コミッション事務局長(Executive Director)のアンディ・ファスター氏は公式にコメントし、最終的に下した決断は、ネバダ州の下したサスペンションはカリフォルニア州では有効ではない、というものでした。
エングルブレット氏は、2016年の時点でカリフォルニア州では15年以上にも渡り2ヶ月に1回ぐらいのペースでボクシングの興行を定期的に行ってきたプロモーターでした。
今までカリフォルニア州で1つも問題を起こしてないというのも、ネバダ州のサスペンドを有効にしなかった理由の1つでだったようです。
 
一部のメディアは、ボクシングのプロモーターという存在が実質上枯渇状態のカリフォルニア州で、エングルブレット氏は重宝されている。
エングルブレット氏がカリフォルニア州に今までもたらしてきた、そしてこれからもたらす利益をコミッションが優先したと、この決断を非難しました。
中には、ネバダ州コミッションの事務局長になりたかったけどなれなかったファスター氏は、ベガス州コミッション現事務総局長のボブ・ベネット氏に対して、いい感情を持っていないからでは?と匂わす記事まで出てましたけど、私がこの一件を見てきた感触で言うと、そんなに世間が騒ぐ大事にはなりませんでした。
 
各州(または国)のコミッションは、ABCの管轄下でちゃんと共有できるものは共有していると胸を張って言われても、これでは機能しているとも統一しているとも言えないんですし、これが例えば同じような理由でネバダ州からサスペンドを食らったのが1選手だったら、同じ結論にになりますかね?と私は思うんです。
よく英語で使われる表現で「Money Talks」というのがありますけど、このケースはまさにそれなのでは?
 
申請書に関しても自己申告の部分が多いんで、このジュダー選手の申請も2016年のみだったら、もしかしたらバレなかったかもしれないんですよね。
すべての申請者の申告内容を全部チェックするのは物理的に不可能だすし、その替わりにコミッションには、プロモーターでも選手でもサスペンドする力があるんで、それが抑止力になっているのはわかるんです。
 
ただ政府機関のコミッションがたくさん予算を使って、リサーチして作成したルールや規則でも完璧ではないんですよね。
それなら、第三者機関のない日本では、選手側、つまり選手、道場主、コーチ、そして我々マネジメントですよね、選手側の人間がもっともっと声を大にして、フェアな契約、待遇を求めていかないと、これからも何も変わらないと思うんです。
変わらない、という事は、次の世代の選手たちも、そしてその次の世代の選手たちも、何かがおかしい?と疑問を感じながら、選手生活を送っていかないといけないという事になるんです...............
 
それが果たして我々この業界にいる人間として、何も言わずにそのままにしておくのが、正しい事なのだろうか?
 
これに関しては、いつも疑問に思っているんです。
 
 
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