MMA業界の問題点: 契約に関して / 文化が違う?芸能界とも似てる? - 2 | SLEEPTALKER - シュウの寝言
(全てのMMA団体が、NYのMSGで大会を開催できるぐらい余裕のある状況なら話は別だと思うんですが.....)
 
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あれ?と初めて思ったのは、もう25年以上も前の話なんです。
当時私はTV CM制作の仕事に携わっていました。
日本の某大手飲酒メーカーの作ったCMのオンエア期間を更に一年延長したいと言われたので、このCMに出演したNYのタレントのエージェントとギャラの交渉をしていたんです。
このCMはNYで撮影されて、日本でオンエアできるのは1年半だけという契約でした。
タレントに支払ったギャラは日本円で約450万円。
 
さて、同じCMをオンエアするのに、いくらぐらいのギャラをタレントに払うのが妥当なのか?
また打ち合わせをして撮影して、という話ではないんで、実質上タレントさんは仕事をするという訳ではありません。
このタレントの肖像権を1年間延長で使うといくらになりますか?という交渉だったんですね。
 
エージェントが要求した額は700万円でした。
言い分はこうです。
広告主である飲酒メーカーは、1年間CMをオンエアしたい。
新しいCMを制作するとなると、何百どころか何千万はかかる。
それなら広告主は、すでにあるCMを1年間オンエアする事でかなりの予算をセーブ出来てるでしょ。
イメージが大切なタレントからしたら、このCMの仕事を受けたのは、1年半しかオンエアされないという条件だったからね。
 
これ対して450万円でなんとかならないか?とカウンターオファーしたら、速攻で断わらたんです。
なら新しいCM作ってください、と。
こうなるとタレント側は強いです。
ノーと言われたら、広告主は新しいCMを作るしか選択肢が無くなるからです。
 
これを日本側の代理店に相談したら、こちらも即答でした。
それは仕方ないですから700万円でまとめてください。
その時に、私は確認したんです。
同じCMに出ていた日本のタレントの交渉はこの代理店がしていたので。
 
けど、このCMには20人以上のタレントが出てますから、タレントの皆さんに前回の約1.5倍のギャラを払っていくとなると、新しいCMを制作するのとあんまり変わらない予算を用意しないといけない事になるんじゃないですか?と。
 
そしたらこう言われたんです。
 
日本は大丈夫です。
 
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今回は、日本の格闘技団体が、選手に対して契約書上で設定しているペナルティ項目について書きたいと思います。
MMAの興行を管理する政府管轄下の第三者機関が存在しない日本では、いろんなケースがあるんです。
過去25年ぐらいの間に、私が見きた様々な契約書をもとに書きますので、全てのペナルティ項目が一つの団体の話ではないですし、もうすでに存在しない団体の話も含まれています。
 
1)怪我や病気で試合がなくなった時のペナルティ
 
例えば、大会一週間を切った時点で怪我(または病気)により試合ができなくなった場合。
 
日本人選手だったら、自分が手売りしたチケットからキャンセルのでた分はもちろん、相手が手売りしたチケットでキャンセルのでた分も全額補償しないといけない。
外人選手なら、選手とセコンドの往復航空券二枚分のお金を、プロモーターに支払わないといけない。
 
アメリカ人選手のケースだと、例えばファイトマネーが2000ドルぽっきりだったとしても、怪我か病気で試合するのが無理となったら、すでにプロモーターが購入した航空券、しかもセコンドの分も含めてだから、二人分を補償しないといけないという内容の契約でした。
アメリカからの往復航空券二人分ですから、どう考えてもファイトマネーより高い額になります。
自分のために、プロモーターのために、そしてファンのために、良い試合をしようと思い練習して怪我をしてしまったら、そのペナルティはすべて怪我をした選手が負わないといけない。
怪我や病気は不可抗力なのに、です。
似たようなペナルティ項目を日本だけではなく、アジアの団体の契約書でも見た事があります。
 
そして日本人選手の場合は、試合できないとなった時点で、怪我だろうが病気だろうが手売りした分のチケットを返すのは不可。
なんだオマエが試合しないんなら観に行くのやめるわ、チケット戻すからお金返してと言う人が出てきたら、もうその分は自分でカバーしないといけないという事です。
更には、もしもこれで代替え選手も見つからず、相手の選手も試合できないという結果になったら、その相手の選手が売ったチケットの返金分も、怪我(または病気)した選手の方が出さないといけない。
 
普通そこまでのリスクを負ってまでチケット売りますか?試合しますか?とも思うんですけど、多くの選手はチケットの手売りから得られる利益もバカにならないですし、これが今まで続いてきた日本のこの業界のスタンダードだから仕方ないと、リスクに関しても納得し、この条件で試合を受けている。
この団体の場合は、そんなケースがほとんどだったんです。
 
(計量オーバーで有名な選手といえば、やはりボクシングの前WBC世界バンタム級王者のルイス・ネリ選手ではないだろうか?/ 写真:REX/アフロ)
 
2)計量オーバーで試合がなくなった時のペナルティ
 
これには上記1)に加え、もう一つ金銭的補償をしないといけない項目が入ってました。
それは選手の煽りVなどの撮影に掛かったコストも、選手は団体側に支払わないといけないというものでした。
しかも金額は明記されていなかったので、いくらでも言われた金額を払わないといけないとも取れる内容だったんです。
 
ただ、実際にそれだけのペナルティを払った選手がいるのか?というと、1)に関しては結構いるみたいですけど、2)に関しては、団体側が追求しない事がほとんどみたいなんです。
それなら、なぜ契約書にわざわざこういったペナルティ項目を入れるのか?
 
これ、契約に対しての考え方が根本的に日本とアメリカでは違うからだと、私は思うんです。
アメリカの感覚だと契約で約束した事は絶対です。
日本では、まだまだ話し合えば変えてくれるとか見直してくれるもの、という感覚を持っているなと私は感じるんです。
または、契約書ではこう書いてあるけど形式的な事だから気にする必要はない。
こう言われたのは一度や二度ではないです。
 
この温度差、そして感覚の違いはデカいです。
 
1)と2)の項目が入った契約書を出された時に、私は、選手に見せる前に、この項目は無理だから削除してくださいと団体側に言ったんです。
 
大会全体の利益のパーセンテージとかも選手が貰えるのなら話は別ですけど、そうでない限り、そこまでのリスクを負って試合する選手は、少なくともアメリカにはいないと思いますと説明したんです。
 
そしたらすぐにそのペナルティ項目は、契約書から削除されました。
 
3)その他のペナルティ
 
これに関しては、私の住んでいるアメリカの感覚ならありえない項目をみた事があります。
 
まず試合で反則を犯した場合はファイトマネー全額没収💦
 
反則にも色々とあって、例えば、ハビブ・ヌルマゴメドブ選手みたいに、試合後ケージ乗り越えて相手のセコンドに殴りかかり暴動になったりしたら、大きな罰金が課せられるのは仕方ないと思うんですよね。
しかし、例えばですけど、試合中にアクシデント的にグラウンドにいる選手の頭部に蹴りを入れてしまい、それで試合続行が不可で反則負けとなった場合。
これとヌルマゴメドブ選手の一件とでは、ペナルティの度合いも違うべきだと思うんですよね。
それでもこの団体の契約とルールだと、反則負けになったら、ファイトマネーは全額没収。
 
ちなみに、アメリカの場合は、50万ドルの罰金を喰らったヌルマゴメドブの一件を見てもお分かりになると思いますけど、貰えるべきファイトマネー(この場合は、ギャランティと勝利ボーナス)の全額没収というペナルティは、私の記憶では聞いた事がないんです。
(全ての州と国の前例を調べた訳ではないので、絶対に無いとは断言はできません)
 
でもこの団体は、反則なら、アクシデントだろうが故意だろうが問答無用。
 
プロモーターは、選手が試合できる最高の舞台を用意し、そのPRにも尽力しているし、会場を押さえて、運営、演出などの費用も出しているんで、リスクを負っているのもはわかるんです。
けど選手も練習しながら、営業してチケットを売っている訳ですし、このチケットの手売りに関しては、選手側の取り分がフィフティフィフティの50%でないのなら、この場合、プロモーターと選手の関係を考えた上でも、果たして、このペナルティは常識として受け入れるべきものなのだろうか?
ちゃんと計量パスして、試合日も時間通りに会場入りして試合をした選手に、プロモーターが一銭も払わない理由として、これは果たして正当なものと言えるのか?
 
少なくとも、欧米のコミッションの考えはそうではないんですよね。
 
これと似たケースで、ドラッグテストで禁止物の使用が認められた場合。
これも全額没収という項目の入った契約書をみた事があるんです。
 
ドラッグテストで陽性反応がでた選手に対しての私の考えは、他の反則、違反とはちょっと違う、なんです。
まずその選手が勝っていたら試合はノーコンテストになるべき。
これはもう当たり前だと思うんですけど、これも欧米では州や国によりけりで、判定が覆らないことも多々あります。
そして金銭的なペナルティは、テストの結果が出た時点では、欧米の場合はすでにギャランティも勝利ボーナスも選手に支払ってしまっているんで、その時点でペナルティを取り上げるのは難しいという事になるんですね。
ですから何ヶ月かサスペンドして、試合できない、つまりファイトマネーを稼ぐことができないようにするか、もっと悪質な場合は、サスペンドに加え、次に試合する時にファイトマネーからペナルティを差し引くといった対処になるんですけど、それでも全額没収というのは聞いた事がありません。
 
ただ例えばですけど、これがトーナメントの優勝賞金とかでしたら、私は、個人的に全額没収でも仕方ないと思うんですよね。
トーナメント自体がこれでは意味がないものになる訳ですし、その選手は禁止薬物を摂取した状態でトーナメントを勝ちあがってきた事になりますし、試合毎のファイトマネーは貰ってるんだから、いいでしょ、という論理ですね。
 
 
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