栗、小布施、マルーン5、クリストファー・クロス、布施明、大きな栗の木の下で、島崎藤村、長野県、小布施町、桜井甘精堂、小栗旬、長野市、毬栗、アディダス、adidas、歌謡曲、ロック、洋楽。

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歴音116.叡智の栗(秋粧ふ.4)



今回は、連載「秋粧ふ(あきよそおう)」の第4回「叡智(えいち)の栗(くり)」です。

連載「秋粧ふ(あきよそおう)」では、「秋」に関連した内容や音楽で書いております。
過去のコラムを追加修正するかたちで連載させていただきます。

* * *

この連載名「秋粧ふ(あきよそおう)」は、山や里が、秋の紅葉で美しく色づいている様子をあらわしている、俳句の季語表現の「山粧ふ(やまよそおう)」を転じて表現しました。

俳句には「季語」がありますね。
山の季節ごとの情景をあらわした季語表現は…
春は「山笑う(やまわらう)」
夏は「山滴る(やましたたる)」
秋は「山粧う(やまよそおう)」
冬は「山眠る(やまねむる)」

連載の第一回「秋風のせいだニャ~」の中で、古代中国の山水画に由来する、この季語表現の説明を書きました。

2024年(令和6)の秋 まっさかり!
さあ、秋粧ふ(あきよそおう)!


◇小布施の栗

連載の第2回と第3回のコラムでは、信州(長野県)の小布施町(おぶせまち)にある寺院「岩松院(がんしょういん)」に関連した内容や人物について書いてきました。

「信州・小布施(おぶせ)」といえば、数ある日本の栗の名産地の中でも、随一の場所ですね。
まさかの「丹波(たんば)」をさしおいて…。

今回は、「栗」をテーマに、歴史や音楽などについて書いていきたいと思います。

* * *

江戸時代に、将軍に献上される「徳川三大果(とくがわ さんだいか)」というものがありました。
「紀州みかん」、「甲州ぶどう」、そして「小布施(おぶせ)栗(くり)」です。

長野県の小布施町には、今でも、栗の銘菓店がたくさんありますね。

* * *

小布施の栗は、六百年ほど前の室町時代に、丹波(たんば / 今の京都と兵庫の一部)から栗の樹木を移植したところから始まります。

江戸時代以前から、丹波の栗は、日本中に移植されてきており、日本中に和栗の名産地が点在しているのは、そのためです。

江戸時代は、特に、大名の「国替え」や「おとりつぶし」である転封・改易(てんぽう・かいえき)が頻繁に行われ、お殿様たちは自慢の地元の栗を持参して、新転地へ!
日本中が、栗だらけ!

江戸時代は、栗だけでなく、蕎麦(そば)、米、茶、各種花々、野菜、果物など、自慢の特産品を持参して移転しました。
つまり、地場産業をかかえたまま、地元民の一部も連れて、移転したのです。
地場産業が新天地で実らなければ、新しく作るまで…。

栗の出来具合は、気候や土壌、地形に左右されますので、必ずしも、最高級の栗が新天地でも栽培可能とはいえません。
新天地での栗のほうが出来が良いということも 少なからず ありました。

栗どうしで言っているかもしれません…

「あんたも、ルーツは丹波かい?」
「いいえ、サンバです!」

adidas Samba OG MAROON

 

栗好きには、履いてほしい!
この原点回帰のシューズ!
今回は、クツではなく、クリのお話し…。

* * *

この小布施という場所は、信州の北方地域である「北信(ほくしん)地方」の偶然の地形・気象・土壌が生んだ、まさに「奇跡の栗」を産み出す、栗の名産地となりました。

江戸時代から、将軍家に献上する最高級の栗として、日本中に その名がとどろいた「小布施(おぶせ)」でした。

ここでは詳しく書きませんが、栗の名品を産み出す、その独特な地形と土壌の形成については、近代になってから、科学的に証明されましたね。


◇うまいな~

小布施町には、「栗菓子の御三家」と呼ばれる歴史の古い和菓子屋さんがあります。
一茶や北斎も、その味を愉しんだであろう江戸時代創業の「桜井甘精堂」。
明治時代創業の「小布施堂」と「竹風堂」。

この際、小布施に観光で訪れた際は、三軒まわって、「松代街道中 食栗毛(まつしろかいどうちゅう・たべくりげ)」!

* * *

小布施で二百年の歴史を誇る老舗「桜井甘精堂(さくらいかんせいどう)」の名菓「栗かの子」を、東京の百貨店でも よく目にします。

「鹿の子(かのこ)」という和菓子の名称に よく使われる用語は、動物の鹿(しか)の背中にある、かわいい斑点に似た模様が描かれた菓子であることから使われるようになりました。

和菓子用語としては江戸時代からのようですが、もともとは、もっとずっと古くから使われていた言葉「鹿の子」です。

* * *

昭和40~50年代に、俳優の山形勲(やまがた いさお)さんのひと言「うまいな~」で知られた、「桜井甘精堂(さくらいかんせいどう)」の名菓「栗かの子」のテレビCM映像を、ネット上で探しましたが、見つけることができませんでした。
当時、大絶賛されたテレビCMでしたが、その ひと言に、栗菓子の味も、俳優の実力も詰まっていましたね。

「食レポ」のような美辞麗句を並びたてるよりも、名俳優のひと言「うまいな~」のほうが、効果は絶大!

今、有名俳優を起用してリメイクしてほしいCMです。
さて、どの俳優さんが…?

お名前に「栗」の漢字が付く俳優さん… チャーハンを食べた後に、旬の栗菓子は いかがですか?

* * *

小布施にゆかりの、小林一茶も、葛飾北斎も、そして島崎藤村も、桜井家の「栗菓子」を食べていないとは考えにくいですね。

後ほど 島崎藤村の栗の話を書きます。

栗と桜井家の歴史の話しが、その企業サイトに書かれています。
それにしても、この会社の店舗のたたずまいも、栗菓子も、うまいな~!

桜井甘精堂サイト

ちなみに、「甘精(かんせい)」とは、1878年にドイツで発見された「サッカリン」の和名で、昭和の世代に知らない人はいないと思います。
昭和の一時的に使用禁止とはなりましたが、今は安全性や量、成分を調整し、いろいろな食品に使用されています。
どの種類の「甘味(かんみ)」もそうですが、食べ過ぎては いけませんね!

サッカリン発見よりも前の1820年代には、松代藩が江戸幕府に小布施の栗を献上しており、何らかの甘さ(甘味成分)を加えた、いろいろな栗菓子をすでに献上していたかもしれません。

「甘精堂(かんせいどう)」という言葉の響き… なにか完成された感性を感じます!
やはり、うまいな~!


◇「お布施」と「小布施」

さて、「小布施(おぶせ)」という不思議な地名の由来について…

◎二つの川が出会う「逢う瀬(おうせ)」…、
◎傾斜地を意味する「ふせ」…、
◎中世の頃の信濃国にいた豪族の布施氏…、

など「小布施(おぶせ)」の名の由来の説は多くあります。

でも、実は、まったく違うのかもしれません。

* * *

今現代の「お布施(おふせ)」という言葉は、葬儀や法事・法要などの際に、寺院や僧侶にむけての謝礼を意味していますが、本来の仏教での意味は、「施し(ほどこし)を与える」という意味からきているようです。

漢字の「布」は、衣服など布地のことではなく、「施し」と同じ意味で、「ものごとを広く いきわたさせる(普及する)」という意味の「布」です。
「布教(ふきょう)」の「布」です。

本来の「お布施」は、人間が誰かに何かの謝礼を渡す意味ではなく、「仏様が、広く人間たちに何かを施す」という意味のようです。

さらに、「布施」は、サンスクリット語の「ダーナ(檀那、旦那)」と同じ意味で、上の者から、下の者に、いろいろなものを施すという意味もあるようです。

「ダーナ」は、「旦那様(だんなさま)」、お寺の「檀家(だんか)」の言葉の元だともいわれています。

お布施とは、本来は、仏様から人間への「施し(ほどこし)」であり、逆に人間から仏様への「捧げもの」なのかもしれません。

私は個人的に、「小布施」の地名は、仏教の「お布施」からであってほしいと思っています。

ともあれ、小布施(おぶせ)の栗は、自然の神様が人間に与えてくれた、小さな「ほどこし」なのかもしれませんね。

とても、素敵な地名の「小布施(おぶせ)」と、ありがたい「栗」の実です。

小布施町

 

* * *

さて、その小布施町から、自動車で30分ほどの距離にある 長野県長野市の城山公園には、歌手の布施明(ふせ あきら)をモデルにした、彫刻家の朝倉響子(朝倉文夫の娘・朝倉 摂の妹)が作った彫刻像があります。

たしかに、この彫刻のポーズ…、昭和の「青春ドラマ」の主題歌をたくさん歌っていた布施さんをイメージさせます!

石原慎太郎の小説「青春とはなんだ」のドラマ版(1965・昭和40)の挿入歌。

 

布施 明
♪貴様と俺(ドラマ「青春とはなんだ」より)

 

布施 明さんの「秋の曲」を一曲…
♪落葉が雪に(1976・昭和51)

 


◇落ちるまで、待ってクリ!

日本でも、縄文時代には、すでに栗が食用とされていたようですので、毬栗(いがぐり)が割れて、立派な栗の実が顔を出している様子は、縄文人も見ていたはずです。

「栗拾い」という人間の行為は、縄文時代も現代も、それほど違っていないのかもしれませんね。

でも、栗拾いの時に、縄文人は、いったい どんな「カゴ」を手にして、拾っていたのか…?
風呂敷のような布で包んだのか…?
おまけに、裸足かも…!痛っ!

大昔より、自然の森から、大きな「恵(めぐみ)」を受け取っている人間たちであり、動物たちですね。

栗は、木から 手でもいで採ってはいけません!熟してない!
栗は、拾うもの! 落ちるまで待ってクリ!

 

 


◇栗が大好き! 僕ってネズミ?

人間の「栗拾い」と同様に、大昔から変わらないのが、動物のリスたちの行動!

リスたちは、栗を拾って食べますが、一部は、どこかの土の中に、しっかり埋めてくれます。

「しめしめ… リスくんたちが、また埋めてくれている!それに、埋めたことを忘れちゃう!」

* * *

動物のリスは、漢字で「栗鼠」と書きます。
「くりねずみ」と書いて、今は「りす」と読みます。

かつての日本語の発音では、「りっす」「りっそ」です。

もちろん、「栗の実」大好き…、団栗(どんぐり)大好き…の、ねずみのように見える動物だから、漢字で「栗鼠(くりねずみ)」ですね。

栗のビタミンCは、熱にも強い!
カロリー豊富、食物繊維豊富!
リスが食べまくるのも 納得っす!

よろしクリっす!

 

人間は、調理された栗でないと食べませんが、動物たちは、生(ナマ)の栗しか好みません。
大昔から、生(ナマ)しか食べてきていませんから当然ですね。

僕にも、栗の実 ちょうだい!

僕のことを、イガグリって言うな!

 


◇誤解しないでクリ!

本コラムでは、誤解が起きないように、「栗の実」「毬栗(いがぐり)」などの言葉を使って書いていますが、栗もまた、人に誤解されている「木の実」のひとつです。

栗は、野菜のような食品ではなく、りんごや梨、柿などと同じ果物の一種です。

ですから、栗のとげとげの「毬(いが)」の部分が、りんごの皮に相当します。
栗は、他の果物の樹木には ないような、とてつもない防衛力と攻撃力を持った皮に守られているのです。
皆さまも、秋に栗の木の下に行くときは、帽子かヘルメットか傘を!

* * *

そして、毬(いが)の内側にある、赤茶色の硬い皮の部分「鬼皮」が、りんごでいう「果肉」に相当します。

さらに、その「鬼皮」の奥にある、薄い「渋皮」と、それに包まれた白い硬い部分が、りんごでいう種(たね)に相当します。

ですから、人は、皮と果肉を捨てて、大きな種(たね)だけを食べているということになります。
栗は、大きな種(たね)の中に、とてつもない量の栄養を蓄えていますね。
豆類に近い仕組みにも感じます。

農林水産省では、こんな解説ページを開設していますよ。

解説1

解説2

 


◇藤村の栗

さて、信州(長野県)には、当時の信州・木曽の「馬籠(まごめ)」出身の作家の「島崎藤村」がいます。
長野県内の学校教師でもありましたし、長野県の特に小諸(こもろ)の地とは、深い関係性があります。

ですが、今、「木曽の馬籠」は岐阜県・中津川市に組み入れられましたので、今は「岐阜県出身」「当時の長野県出身」というほうが正確かもしれません。

むしろ、小説「夜明け前」の冒頭「木曽路はすべて山の中である」のとおり、「藤村の出身地は、木曽の山の中」のほうが いいのかも…。

* * *

彼の文学作品「力餅(ちからもち)」は、子供たちの教育に主眼が置かれた、すぐれた教育用文学作品ですね。
私も好きな児童文学作品です。

その第一章「十の話」」の中に、三番目の話として「くりの子供」があります。

朗読「くりの子供」

 

力餅・全文

藤村の この「くりの子供」は、古くからある「ことわざ」を参考に作られたのかもしれません。
「毬栗(いがぐり)も、内(うち)から割れる」という「ことわざ」です。


◇毬栗(いがぐり)も、内から割れる

「毬栗(いがぐり)も、内(うち)から割れる」という ことわざ表現の中では、「毬栗も…」とありますね。
「も」とは、「毬栗も」そして「人間も」という意味です。

ツンツンとした鋭い針のような「毬(いが)」に包まれている栗の実ですが、知らないうちに、自然に、毬栗(いがぐり)のかたちのまま地面に落ちたり、枝にぶらさがったまま、その「毬(いが)」が勝手に割れて、中身の大きな実が顔を出すという仕組みを表現しています。

「栗」を「人間」に置き換え、「幼い子供たちも、待っていれば、自然と大きく成長し、自我が目覚め、大きくなる。そして自我が自然と外に出る」という意味で、この ことざわを使いますね。

人間の成長に関連付けた、この「ことわざ」が、中国から伝えられたものなのかは、どうも、よくわかりませんが、栗拾いをしながら、誰かが、うまい例え話を思いついたものです。

上手い!美味い!


◇「くり」と「栗」

さて、「歴音fun」ですので、ここからは、栗にまつわる、いろいろな歴史のお話を、じっ栗と…。

そもそも、日本独自の呼び方「クリ」って、なんか妙な言葉!?
この言い方には諸説ありますが、少しだけ…。

硬くて小さい石を意味する古語「くり」…、
梵語の「黒」を意味する「くり」…、
毬(いが)の中に複数の実が並んでいる様子をあらわす「く(組み合わせるという意味)」と「り(ものの状態の意味)」という言葉…
など諸説あります。

人の顔にある「目」を「くりくりした目」と表現したり、「くるくる回る」と表現したりしますが、これは丸いものが、よく動く状態を意味していますので、ひょっとしたら、栗とも関係している可能性もあります。

* * *

日本では、中国から漢字が渡って来るまでは、日本語発音しかありませんので、まずは「くり」があり、そこに、意味が合致している漢字をあてはめたということです。

漢字の「栗」ですが、木の上に、「西」のようにも見える漢字が乗っていますね。
でも、これは方角の「西」ではありません。

「栗」という漢字は、中国の漢字の大元になった 古代の象形文字(甲骨文字)を見ると、まさに、木に、とげとげの毬栗(いがぐり)が大量に付いている、まるで栗の木の絵画のような文字です。

そんな絵画のような文字を、毎回、描いていることなどできません。
絵画のような文字が、時代を経る中で、段階的に、現代の漢字のように収れんされていきました。

ですから「西」のようにも見える部分は、とげとげの毬栗(いがぐり)のかたちが、スッキリとしたかたちに落ち着いたともいえます。
漢字「栗」の中に、ちょっとだけ、毬(いが:表面のとげとげ部分)の「とげ」を感じさせるような部分も残っていますし、大量の栗の実が入れられた「ざる」のようにも見えます。

いずれにしても、木の上に乗った「毬栗(いがぐり)」が漢字の「栗」です。

* * *

もともと、漢字は、人間の行動や仕草、目に見える物のかたちを、そのまま絵のようなものに表現した「象形文字」から始まりましたね。
「象形文字」が、完成された「漢字」に進化しました。

漢字では、「木」に何か別の形が組み合わされて、その樹木の種類をあらわしていることが多いですね。
栗、柿、梨、梅、桜、杏、桃、胡桃、柚子、檸檬、林檎、蜜柑…。

おいおい、「歴音fun」で他の「木」関連の漢字のお話しも書いていきます。


◇火中(かちゅう)の栗を拾う

今の日本の世の中でも、時折、耳にする「ことわざ」ですね。

永田町での政争の中でも、政治家が、政党や派閥のための自己犠牲の精神をあえて示すような話の中で、このことわざが登場することがあります。

政治家ですので、純粋な自己犠牲だけで済ませるはずもないので、いろいろな意味が込められていますね。

* * *

このことわざの元は、17世紀のフランスの寓話(ぐうわ)の「猿と猫(Le singe et le chat)」からきています。

(寓話の概要)
ご主人様の家で、いっしょに暮らしている猿と猫がいました。
ある日、ご主人様が、火の中に栗を放り込み、調理を始めます。
ご主人様が目を離した隙に、栗を頂戴しようとする猿と猫です。

でも、火の中の栗は熱くて、手にすることができません。
猿は、猫にいいます。
「猫くんのほうが、栗を、素早く手でひっかき出すのがうまいよね!」
「ひっかき出してくれたら、僕(猿)が、上手に分けて、むいておくよ!」

猿の口車(くちぐるま)にのってしまった猫は、熱い火の中に手を入れて、次々に栗をひっかき出しました。
猿は、猫が見ていないことをいいことに、つぎつぎに食べてしまいます。
結局、猫は、手に大やけどを負っただけで、栗を食べることができませんでした。

「火中の栗を拾う」ということわざは、ここから きています。

危険を承知で、あるいは、誰かに強く指示されて、何かのたいへんな行為を行うことを意味しています。
そして、それは間違いなく危険すぎる行為として、その危険行為を行った者(栗を拾いにいった者)が深い痛手を負います。

そこまでやるには、それなりの犠牲と覚悟が必要ですね。

誰かに「火中の栗を拾ってきてくれ」と言われても、ダメダメ!
「火中の栗」に、ご用心、ご用心…。


◇毬栗毛(ひざくりげ)

江戸時代の人気小説に「東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅう ひざくりげ)」があります。

十返舎一九(じっぺんしゃ いっく)が、本業の絵描きの傍らに、半分 冗談で書いたら、超大ヒット!
実は、彼は、絵師であるほかに、文学でも卓越したチカラを持っていました。

「東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅう ひざくりげ)」は、今現代も、多くの映画やテレビドラマ、舞台演劇などで描かれますね。

主人公は、「弥次郎兵衛(弥次さん)」と、「喜多八(喜多さん)」の二人。

「こんちきしょうめ」と、二人で江戸を出発し、厄落し(やくおとし)とばかりに「いざ、お伊勢参り」!
マヌケな野郎ふたりの東海道の珍道中物語です。

* * *

この本のタイトルの「膝栗毛(ひざくりげ)」の「栗毛」とは、栗色をした馬の意味です。
「膝(ひざ)」とは、もちろん人間の足の膝の意味です。
つまり、馬ではなく、人間の足で歩いて旅する東海道物語という意味です。

当時、長距離の徒歩での旅の際は、足の膝を伸ばしきらずに、少し曲げたままの状態で歩くと、疲労がたまりにくいとされていました。
「飛脚走り」の徒歩版のようなことです。
まるで、馬の頭のような、足の膝!

江戸時代の庶民男性の旅人の多くが、暑い時期になると、汚れた黒い生身の膝小僧(ひざこぞう)を外に見せていました。
寒い時期は、股引(ももひき)を履いていましたので、膝小僧は外からは見えません。

江戸弁で…
「野郎たちの 汚ねえ膝なんざ 見たくもねえさね!」
「栗毛の馬なら、まあ 通んな!」

それにしても、「膝栗毛(ひざくりげ)」…実に しゃれた言葉表現ですね!

おもしろ解説動画

 


◇怖~!リツリツ…!

「栗栗」という「栗」が二つ並んだ漢字表現が、古い歴史書の中に登場することがありますが、この読みは「くりくり」ではありません。
読み方は「りつりつ」です。
「慄慄」と書くこともあります。

今の日本では、「栗栗(慄慄)」という言葉表現は、まず使用しませんね。
ですが、他の熟語の中に残っています。

「戦慄(せんりつ)」、「慄然(りつぜん)」、「戦慄く(わななく)」、「恐れ慄く(おそれおののく)」の「慄(りつ)」です。
とにかく怖い時の言葉表現です。

* * *

漢字の「慄」とは、恐ろしさ・寒さ・衝撃などで、身体がブルブルと震える様子をあらわしています。

「慄」という漢字は、左側が りっしん偏で「心」をあらわし、右側が「栗」で構成されています。

つまり、栗の「毬(いが)」の恐ろしい姿を見て、心の中で、何かの恐怖心で身体が震えることを意味しています。

皆さま… 相手から、自分に向けて、毬栗(いがぐり)を投げつけられる時の恐怖心を想像してみてください。

怖~、怖いがな!リツリツ…。
毬(いが)を投げないで!


◇毬栗(いがぐり)

さて、「毬栗(いがぐり)」とは、栗の実を「とげとげ」だらけの表面の皮「毬(いが)」が包み込んでいる、その全体を言いますね。

ちなみに、海にいる、見た目が「毬栗(いがぐり)」そっくりの「ウニ」は、漢字で「海栗」と書きます。

「海栗(ウニ)」は生きている生物のウニ…、
「海胆(ウニ)」は中身を取り出した生のウニ…、
「雲丹(ウニ)」は食用として加工されたウニ…、
日本では、漢字を使い分けますね。

陸にも、海にもいる…「毬栗(いがぐり)」です。
「いや、海はウニでしょ!」

* * *

「いがぐり」と読む漢字「毬栗」は、漢字を逆にした「栗毬」にすると「りつきゅう」と読みます。
意味は、毬栗(いがぐり)の「毬(いが)」部分のことをさします。

この漢字「毬」は、栗では「毬(いが)」…、松や栃の「木の実」の場合は「毬(かさ)」…、女の子が手にする場合は「毬・鞠(まり)」…となります。
つまりは、「毛の生えたボール」!

* * *

漢字「毬打」の読みは「いがうち」でも「まりうち」でも ありません。
「ぎっちょう」と読みます。

毬栗(いがぐり)」のような大きさの、木製の球体(玉)を、野球のバットのような棒で打ちあって行う、日本の大昔のスポーツ競技のようなものです。
現代のホッケーやクリケットのようなものを想像しますね。

今放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」の中で、このめずらしい球技シーンが再現されていましたね。
藤原道長(演:柄本佑)が、馬に乗って、軽快に 毬打(ぎっちょう)打法!

「ぎっちょう」という言葉の漢字が「毬杖(ぎっちょう)」に変わると、そのバットのような「杖(つえ)」の道具の意味になります。
つまり、競技名と道具名が、漢字が異なる、同じ発音の読みなのです。

ちょっと ややこしいですが、つまりは「毬(まり)」を棒で打つ競技です。


◇クリちゃん

「毬栗頭(いがぐりあたま)」という言葉は、短髪とは限りませんが、ツンツンした髪型のことですね。
短髪は誰でもなれますが、髪の毛が長くなってもツンツン状態のままには、なかなか なれません。

最近、大阪中心の あの政党の中に、ものすごい立派な「毬栗頭」の国会議員の方がいますので、そのお顔を見るたびに、「ここまでの毬栗頭は、そうそういない」といつも目が髪にいきます。
「ご立派な、クリちゃん!」(褒めてます!)。

* * *

ここで、「毬栗頭(いがぐりあたま)」ではなく、天然パーマのクリクリ頭の、昭和時代に大人気だった「クリちゃん」を…。

1951年(昭和26)から、1965年(昭和40)まで、新聞連載された 根本進の、台詞なしの4コマ漫画の主人公の「クリちゃん」です。
クリちゃんは、作者の根本さんの息子さんがモデル!
私も、クリちゃんが大好きでした!

アメリカに「ベティちゃん」がいるなら、日本には「クリちゃん」がいる!

クリちゃんは、1960年代の三菱信託銀行(現:三菱UFJ信託銀行)のイメージキャラクターでしたね。

クリちゃん

 

クリちゃん、サザエさん、コボちゃんが生まれてきた昭和の戦後… なんか、ホッとする いい時代でした。

日本は、大きな国になっても、このような、愛すべきキャラクターたちが生まれる国のままでいてほしい… 大きな国の木の下で!


◇大きな栗の木の下で

楽曲「大きな栗の木の下で」の原曲は、大昔からある英国民謡です。
作詞作曲者は不明。

日本語バージョン
日本語歌詞の1番の訳詞者は不明。
2番と3番の訳詞者は、やはり、あの阪田寛夫。

♪大きな栗の木の下で

 

日本では、昭和の戦後に、GHQによって、この楽曲が普及しましたが、何といっても、NHKによる1960年代のテレビ放送内での、アクション付きの歌唱が絶対的な存在であったと思います。

私もそのアクションをやったことがあるような記憶が… 下記映像を見たら、数十年ぶりに思い出した!
今も変わってないような気がしますが…たぶん。

横山だいすけ
♪大きな栗の木の下で

 

グレン・ミラー楽団 & マリオン・ハットン(歌手)
♪The Chestnut Tree(1939・昭和14)

 

チェコの作曲家 ヤロミール・ヴァインベルゲルは、壮大な管弦楽組曲に編曲!
すごい栗の木になったものです。
♪「大きな栗の木の下で」による変奏曲とフーガ


栗の「小ネタ」は、講演や、スピーチ、出前授業、交渉などで、結構ウケますよ!
皆さん、栗がお好き!
とにかく「マロン」に目がない!
ポケットに、栗の「小ネタ」を 一つ 二つ 入れておくと、結構 便利!

「ちいかわ」だって、栗まんじゅう!


◇マルーンとマロン

さて、この栗バンドのお話し…。

今や、世界のトップ・ミュージシャンになった、「マロン 5(ファイブ)」じゃなくて、ロックバンド「マルーン 5(Maroon 5)」の楽曲です。

このバンド名の由来は、シークレット!
「マロン」との関連も、数字も、秘密! シー栗ット!

* * *

「Maroon(マルーン)」とは、名詞の場合は「濃い赤茶色(栗色)」のことです。
栗の実の表面のテカテカした濃い赤茶色・赤紫色のことですね。
日本的に言うと「栗色」「えび茶色」「あずき色」など。
「栗色の髪」というと、なんとも美しい「栗色ヘアカラー」!

「Maroon(マルーン)」は、フランス語「marron(マロン)」の語源です。

「Maroon(マルーン)」は、もともとは スペイン産の大粒の栗の名前で、その後、その栗の実の表面の赤茶色の意味に変化しました。

* * *

実は、フランス語の「マロン」の意味は、日本人が想像する「栗」ではなく「マロニエの木の実」です。
「マロニエの木の実」は、日本の「とちの実」に近いものです。

どうも日本では、「とちの実」よりも、料理や菓子で、「栗の実」のほうが圧倒的に多く使われており、菓子作りに「栗」を多く使ったのが、日本で「マロン=(イコール)栗」になったのかもしれません。

日本の「和栗」は、世界三大「栗」品種のひとつですので、もはや「ワグリ(waguri)」の呼び名でいい気もしますね。

フランスでも、「マロン」という言い方は、結構 いろいろな「木の実」がごちゃごちゃのようだとも聞いたことがあります。
種類がわからなかったら、とりあえず「木の実」「マロン」って言っときゃ…なんとかなる?

* * *

栗は、英語で「chestnut(チャスナッツ)」、フランス語で「châtaigne(シャテーニュ)」。

フランス語などヨーロッパの言語「marron(マロン)」の意味は、「マロニエの木の実」「濃い赤茶色」などですが、英語の「marron(マロン)」にはザリガニの意味での使い方もあります。
ザリガニの表面の妙な茶色から「マロン」名に!
結局、あの茶色か!

米国で「マロンの料理」と耳にしたら、「木の実」と「ザリガニ」では大違い!?
耳をそばだてて!

綴りには、「r(アール)」の数がいろいろありますよ!
「malon」「mallon」…「l(エル)」になったら、また意味がみな違う!
昔の日本には「麻呂」「麿」もいた!

「美容師さん… とりあえず、僕の髪の毛を、マロンにして!」
「髪の色ですか…、髪型ですか…」
「いいえ!麻呂でお願いします…」

* * *

はてさて、ロックバンド「マルーン5(ファイブ)」のメンバーたちは、栗はお好きでしょうか?

マルーン5が、クリスティーナ・アギレラとデュエットした、2011年(平成23)の曲で、世界中で超大ヒット!

下記の映像の暫定映像段階で、あのミック・ジャガーは、「いくらなんでも、オレが映像に出過ぎだ。バンドのお前らの映像が少なすぎる。オレの露出を減らせ!」と言って、作り直させた映像です。
ですが、この楽曲は、歌詞に「ミック・ジャガー」が何度も登場する…、まるでミック・ジャガー讃歌!

マルーン5
♪ムーブス・ライク・ジャガー(2011・平成23)


毎朝が、日曜日の朝なら いいのになあ…
マルーン5の、2021年の演奏
♪サンデー・モーニング

 

さて、マルーン5の その地図に、北信地方の小布施は 載っている?
♪マップス(2014・平成26)

 

メンバー5人だったり、6人だったり、7人だったりの、栗ちゃんバンド!
とうとう、結婚披露宴 行脚!

♪your sugar
♪yes please

maroon please!
僕にも、甘~い 栗を ちょうだいな!

♪シュガー(2015・平成27)

 


◇英知の栗・叡智の栗

さて、今回のコラムは、やっと、ここで締めくクリ…。

平安時代の日本では、朝廷から、新しく要職に任官された者に、「甘栗」と「蘇(そ:今のチーズに似た乳製品)」を授ける「しきたり」があり、甘栗と蘇を持っていく担当の「勅使(ちょくし)」を「蘇甘栗使(そあまぐりのつかい)」と言いました。

それは それは ありがたい、「甘栗とチーズの詰め合わせセット」でした。
今現代でも、そんな「秋の詰め合わせセット」があってもいいのに… 蘇甘栗(そあまぐり)セット!

* * *

さて、中国の栗は、「天津甘栗(てんしんあまぐり)」として利用される「板栗(ばんりつ)」が主流で、日本の「和栗」とは、だいぶ味も形状も違っていますね。

中国の「板栗」は、甘くて、手ごろな大きさで、むきやすい!
日本の「和栗」は、料理に最適! あの独特な 渋さが たまらない!栗まで、わびさび!

世界には、それぞれの気候・土壌・地形にあわせた栗があります。
見た目はもちろん、味も千差万別!

それぞれの地域に、それぞれの栗にあわせた 食べ方がありますね。

* * *

それにしても、あんなに恐ろしい姿の「毬(いが)」の中にある、硬い硬い、石のような「栗の実」を、どうしても食べたいと思う、大昔からの人間の執念には、ビッ栗!

でも、その執念こそが、今の現代人が、栗を美味しく食べていられることにつながっていますね。
人間の「執念」に、感謝!

そして、人間の「英知(えいち:すぐれた知恵)」と「叡智(えいち:知恵の先にある、さらに深い智恵)」にも感謝!

* * *

そろそろ一曲っす!


栗ストファー・栗ス!
間違えました!


クリストファー・クロス
♪英知の言葉(Words of Wisdom)(1983・昭和58)

 

(歌詞の一部)
♪All the words of wisdom
♪They never seem to ease the pain
♪All the words of wisdom sound the same

すべての、英知に満ちた すばらしい助けの言葉であっても、
簡単には、僕の心の痛みを癒してくれないよね。
なんだか、みんな同じに聞こえてしまうのさ…。

そんな歌詞の歌ですが、いつかきっと、癒してくれる「言葉」に出逢えるよね!

人が、あれほど硬い栗を調理して食べる「英知」と「叡智」を持っていたように…。

* * *

2024.11.24 天乃みそ汁

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連載「秋粧ふ」第1回

 

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