共謀罪の成立見送り
ま、とりあえずは、よかったということで。
共謀罪については、ネット上でも肯定的な意見はほとんど見かけなかったが、まあ、その気になったら国家が誰でも合法的に逮捕できる権限なんて与えたらいけないに決まってるわけで、議論の余地はなかろう。
民主党提案内容がどうの、という意見は散見できたけど、政府与党が目指していたのは与党案なんだからあんまり意味のない批判でしかない。だったのだが、「民主党案丸呑み」とは姑息な手を自民党も採ったものだ。結局、自らの失言で、民主党に拒否の選択肢を与えてしまったわけだが、もし成功していたらと思うとゾッとする。
武部くんが、民主党が拒否したことについて、「党利党略だ」と非難していたが、おまえらが言うかあ?って感じ。
妄想記事はこうやってつくろう
妄想記事と言えば、3K、というわけでこんな例をあげてみる。
(ここから引用)
イラン核問題 ウラン濃縮原料は中国製か
【ロンドン=蔭山実】イランの核問題で濃縮ウランの製造に中国製の良質の原料が使用され、濃縮技術の確立を早めている可能性が浮上している。BBCテレビが18日、欧米外交筋の話として伝えた。イランが独自に作った原料は不純物が多いとみられ、その問題を解決するためにかつて購入した中国製の原料を使っているという。
ウラン濃縮は原料の六フッ化ウランという気体を遠心分離器にかけて行う。六フッ化ウランはウラン鉱などから転換されて作られるが、BBCテレビによると、イランは独自に転換作業を進める一方で1991年に中国から輸入した六フッ化ウランを保有している。
当時は中国が核拡散防止条約(NPT)に加盟する前で、規制を受けることなくイランに輸出された。ただ、中国は数年後、国際原子力機関(IAEA)にイランに六フッ化ウランを売却したことを報告し、イランの核開発の解明を進める上でも役立ったとされる。
イランはウラン濃縮作業が順調に進んでいることを主張し、核兵器製造につながることへの懸念に拍車をかけている。その背景に中国製の原料があったとすれば、国際社会で一致してウラン濃縮作業の停止に向けて動く中で中国の立場はさらに微妙になりそうだ。
(05/19 10:08)
(引用ここまで)
前提としては、下記のBBC記事が産経のソースとなったと想定している。
事実としては、イランには高品質の六フッ化ウランを精製する技術に乏しく、中国がNPTに加盟する前の1991年に、イランは中国から六フッ化ウランを輸入した、との記事がBBCに載っている。そして、中国がNPTに加盟した際、その取引を報告し、それがイランの核開発を解明する上で役に立った、とも。
その後、原子力の専門家の言として、初期に中国製原料を使っていても驚くべきことではないし、イランがイラン製の原料を使っているかどうかはわからない、としている。
ここをどうひねったら、「その背景に中国製の原料があったとすれば、国際社会で一致してウラン濃縮作業の停止に向けて動く中で中国の立場はさらに微妙になりそうだ。」になるのか。
要するにこの部分は、BBCの見解ではなく、産経の見解に過ぎない。しかも、かなり願望が入っているように思う。
中国製の原料がイランに輸出されたことは、他ならぬ中国自身によって公表された周知の事実であり、この公表がイランの核開発の解明に役立っているのである。しかも取引自体はNPTに抵触しない。
一体なぜ、中国の立場が微妙になるのか、全く意味不明である。
そもそもBBCの記事自体、中国がメインではなく、イランがメインである。イランの核開発(ウラン濃縮)にはプロパガンダとしての要素があるが、2003年のイラク侵攻のようにならないようにする必要がある。というイランへの警告が記事の趣旨であり、中国は記事に出てくる必要性すらほとんどない話である。
では、なぜ記事内で言及しているのか、というと、イランの核問題を「Chinese Puzzle」(訳:判じ物、難問)であるとの認識から、中国を引っ掛けた言葉遊びである。BBCの記事タイトル「Iran enrichment: A Chinese puzzle?(イランのウラン濃縮:(中国の)難問)」はまさにそれをあらわしたシャレのある表現なのだ。
しかし、産経の記者にはそのシャレが理解できなかったようだ。ロンドンにいるのだろうけど、何やってんだか。あるいは、意図的な妄想記事かな?
(引用ここから)
Iran enrichment: A Chinese puzzle?
By Jonathan Marcus
BBC Diplomatic correspondent
A little over a month ago, Iranian President Mahmoud Ahmadinejad proudly announced that Iran had joined, as he put it, those countries which have nuclear technology.
He was speaking in the wake of a series of successful experiments in which Iranian scientists had taken uranium hexafluoride gas, introduced it into a small number of centrifuges, and produced a small quantity of low enriched uranium.
The message was simple. Iran's enrichment programme was under way and there would be no going back.
But Iran's technical capabilities may not be quite as advanced as they would have the world believe.
Western diplomatic sources have told the BBC that there is a very strong probability that the uranium hexafluoride gas used in these experiments was not made by the Iranians at all.
Iran says its nuclear programme is peaceful
They say that it may well have come from a small stock of material sold to Iran by China back in 1991.
This sale took place just before China itself joined the Non-Proliferation Treaty regime; hence before it was bound by the strict export controls that the treaty demands.
Indeed, diplomats say that it was China's decision to inform the International Atomic Energy Agency of this sale a few years later, that helped to start the process of unravelling what the Iranians were really up to.
Nuclear experts say that, in many ways, it is not surprising that Iran should use the Chinese material in its initial experiments.
Iran is widely believed to have had some problems with impurities in its own production of uranium hexafluoride gas.
Hence it would be logical to use the good quality Chinese material to test out its enrichment machinery.
Whether or not the experiments also used Iranian-manufactured feed-material is unknown.
'Propaganda move'
The Iranian move clearly had great propaganda value.
Iranian President Mahmoud Ahmadinejad is clearly proud of the Iranian scientists' achievements.
But there may also have been a clear political purpose: to demonstrate that the Iranian enrichment programme is now a reality and to put down a marker that in the event of any future deal, Iran's right to conduct at least some enrichment activity will have to be acknowledged.
Think tanks and policy experts have produced a variety of plans to resolve the nuclear row with Iran.
Increasingly these do tend to allow the Iranians the right to limited enrichment activities: bowing, if you like, to the "fact" that Iran has seemingly already mastered the necessary technology.
The uncertainty surrounding Iran's technical progress underscores the broader questions about its overall nuclear ambitions.
Iran, of course, strenuously denies having any desire to develop a nuclear bomb.
But opinion differs as to how long it might take the Iranians to develop a "break-out" capability: that is to have a sufficiently capable civil enrichment capacity to allow them to renounce their treaty obligations and to push at full speed for a bomb.
And the uncertainty also highlights another fact, admitted by Western officials at least in private - that their hard intelligence on Iran's nuclear programme is as limited as their knowledge of Iraq's nuclear activities prior to the 2003 US-led invasion.
(引用ここまで)
統計結果を誤読する方法を産経に学ぶ
産経社説のつっこみ、続く。
(2006/4/14産経新聞社説・引用は赤字部分)
この社説の内容は最後の
「それより自転車の運転者がマナーを守り、交通ルールを順守するのが先決だ。これが実行されれば、自転車事故は大幅に減少する。」
につきるし、これだけなら特に反論すべきだとは思わない。しかし安易な厳罰化や警察庁による「自転車対策検討懇談会」の設置など、公権力の無用な強化や無用な外部機関には、ちょっと待て、と言いたくなる。
産経社説は、厳罰化に賛成しているが、この根拠をよく読むとおかしな点がいくつも出てくる。以下それを述べていこう。
■【主張】無謀自転車 マナー順守が事故減らす
無謀な自転車の運転で、歩行者がケガをする交通事故が増えてきた。このため、警察庁は有識者らを交えた懇談会を設置、十二日に初会合を開き、安全対策などの検討に入った。
交通事故といえば、自動車による死傷事故と思いがちだが、政府や自治体の事故撲滅運動が成果を上げ、自動車による人身事故は減少傾向にある。
(つっこみ)自動車による人身事故が減少傾向にあるとのことだが、これは全くの間違いである。事故件数そのものは増加傾向にある。減少傾向なのは警察庁発表の交通事故死亡者数であり、これは事故発生後24時間以内の死亡しかカウントされない。したがって、事故が増えていても救急医療技術が発達すれば、死亡者数は減少することになり、「事故撲滅運動が成果を上げ」ているかどうかは定かではない。
ただし、この社説の眼目は「自転車事故」であるので、上記のような誤りは、本論の導入として許容できなくもない(誤りは誤りであるし、「進出」「侵略」に関する教科書検定についてあれほど朝日新聞を叩いていた以上、自らについても許容されることは望まないとは思うが)。
これとは反対に、昨年一年間の自転車走行中の事故による死傷者は約十八万五千人で十年前の一・三倍、歩行者との衝突事故は四・六倍の約二千五百人と激増している。警察庁によると、これは記録を取り始めた平成十一年以降最高という。
(つっこみ)こちらの疑問として、警察庁の統計は平成11年(1999年)以降しかないのに、「十年前の一・三倍」と言っているのはどんなデータと比較しているのか、がある。統計のとり方が変われば、数値が変わるのは言うまでもないので、比較する以上、統計方法が同等であることが求められる。この書き方では、本当に増えているのかわからない。
にもかかわらず、以下のように続ける。
なぜ、こんなに増えてきたのか。最近のレジャーやスポーツの影響で、自転車を利用する人が増加していることもあるが、無謀で悪質な運転が大きな要因とみられる。
(つっこみ)とりあえず、自転車事故が増えているとの主張を認めたとしても、自転車利用者数の増加(これだって根拠不明だ)より「無謀で悪質な運転が大きな要因」としているのは全く根拠を欠いている。文脈から類推すると、以下が根拠として出てくるのだが・・・
歩行者通路をわが物顔で、スピードを出して走る自転車をよく見かける。また、信号無視の自転車運転者も多い。さらに酒を飲んでの運転や夜間、無灯火での走行なども目立つ。
(つっこみ)自らの体験なのだろうが、根拠としては説得力を欠くことこの上ない。また、この状況が事実だったとしても、”10年前に比べてこのような状況が悪化した”ことの証左にはならない。少なくとも私は10年以上前にも上記のような自転車運転者を見かけたことがあるし、現在それが取り立てて増えているとは感じない。
この文章は、現在こういう人を見かける、という内容に過ぎず、過去に比べて増えている、悪化しているという説明にはなっていない。
警察はこれまで、自転車の交通違反については、指導や注意、警告などですましてきた。しかし、もう無視できないとして今後は、取り締まりにも本腰で取り組むことにした。当然のことであろう。
これからは、悪質な運転者には刑事処分などの厳しい態度で臨む方針だという。自動車の運転者に対しては、危険運転致死傷罪の新設や罰則強化などの厳罰化が効果を発揮している。
(つっこみ)厳罰化の方向に対し、産経は手放しで賛成しているが、公権力の強化についてはそのデメリットも考慮する必要がある。産経はその視点を全く欠いている。第一に「悪質な運転者」を判断するの誰なのか。別件逮捕の手段とされる可能性はないのか。そのくらいは考えておくべきだろう。
政府は十五年に交通事故死者数を五千人以下とし、「世界一安全な道路交通の実現を目指す」との目標を掲げている。それには、自転車事故を減少させなければならない。
(つっこみ)まあ、自転車事故が減れば、交通事故死者数も減るだろうが、それが最優先なのかどうかは全く不明。事故の内容を検証して、優先順位を決めてリソース配分を決めるの筋でしょう。
指摘したように、警察庁は自転車の走行方法や歩行者の安全確保などをどう実現すべきかなどについて、幅広く意見を聞くための「自転車対策検討懇談会」を設置した。専門家や業界の代表者ら七人と同庁で構成する。速やかに結論を得て、今後の交通行政の参考にしていく必要がある。
まず、それより自転車の運転者がマナーを守り、交通ルールを順守するのが先決だ。これが実行されれば、自転車事故は大幅に減少する。
(つっこみ)結局、警察権力を強化しろ、という結論になる。
これだから、産経は・・・
国は好きだが、愛国心と言う言葉は嫌い
3Kの社説は、UFOやネッシーと同じようなもんだと思えば面白い。
(産経新聞2006/4/14社説・引用は赤字部分)
■【主張】教育基本法改正 「愛国心」はもっと素直に
教育基本法改正案に盛り込む「愛国心」の表現をめぐり、与党検討会の大島理森座長が示した案を自民党と公明党が了承し、ようやく合意に達した。
座長案は「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」という長い文言だ。
自民党は「国を愛する心」という表現を主張していたが、「国」と「郷土」を併記し、他国の尊重もうたい、「心」を「態度」に変えるなど、公明党への配慮がにじむ妥協の産物といえる。「国を愛する」は明記されたものの、含みが多く、簡明な文案とはいえない。
「愛国心」の表現で、これだけもめる国は、おそらく日本だけだろう。愛国心は、どの国の国民も当然持っているものだ。そして、愛国者であることは最大の誇りとされる。国の根本法規である教育基本法は、もっと素直な表現であってほしい。「愛国心」以外の与党合意についても、多くの問題点が残されている。
(つっこみ)愛国心をどの国の国民も当然持っているものならば、別に法律に記載する必要はないだろう。法律に記載するということ自体、立法者の意図する「愛国心」は、国民が現在既に持っている愛国心とは別個のものであり、法律では立法者の意図する「愛国心」の方を国民に強制したいという現れである。
自民党は「宗教的情操の涵養(かんよう)」の盛り込みを求めたが、これに反対する公明党の主張に譲歩し、条文化が見送られた。この文言は、現行の教育基本法が制定される前、日本側の原案にあったが、GHQ(連合国軍総司令部)の指示で削除されたものだ。
その結果、給食前の合掌や座禅研修などが次々と排除され、修学旅行では伊勢神宮などの神社仏閣が避けられるようになった。宗教的情操の欠如が、オウム真理教などのカルトに若者が入り込む一因になったといわれる。
(つっこみ)筆者は、1970年代生まれだが、座禅研修はなかったが、給食前の合掌くらいは小学校でやった記憶があるし、修学旅行で神社仏閣が避けられた記憶もない。そもそも修学旅行で神社仏閣に行ったからといって宗教的情操が身につくというものでもないだろう。非難が先にあって後から理由を付けている感じが否めない。また、「宗教的情操の欠如」と「カルト」の因果関係も信頼性に欠ける。むしろ「インテリジェンスデザイン」のような似非科学の存在が、「カルト」を助長しているのではないか(「オウム真理教」も「統一教会」も「幸福の科学」も、宗教的なものを怪しげな科学用語で隠している感がある)。科学的・論理的思考の教育こそ優先すべきだと思うし、UFOや心霊現象など超自然現象を面白おかしく提示する一方で科学や論理をつまらないもの・役に立たないもののように提示するメディアの姿勢にも問題はあろう。また、論理的一貫性を欠く政治家やそれを批判できないマスコミの姿勢も同様ではないか。
また、現行法の「教育は、不当な支配に服することなく」という規定は、残されることになった。だが、この規定は、国旗・国歌などをめぐる国や教育委員会の指導に反対する一部教職員らの運動の根拠に使われ、逆に、過激な教師集団による不当な支配を招いてきた一面を持っている。
(つっこみ)そもそも国旗国歌法の導入時に、強制ではないことを政府が明言していたにもかかわらず、「国旗・国歌などをめぐる国や教育委員会の指導」を罰則付きで行っていること自体、「不当な支配」と言われて当然であろう。
これまでの与党合意には、家庭教育の充実など評価すべき点も多いが、現行法より後退しかねない部分は、なお修正が必要である。戦後教育の歪(ゆが)みを正し、子供たちが日本に生まれたことに誇りを持てるような格調の高い改正案に仕上げてもらいたい。
(つっこみ)自国そのものならともかく、自国の教育基本法に誇りを持っている子供なんて世界にどのくらいいるのやら。
書評・再軍備とナショナリズム
- 憲法改正に関する話題の多い昨今、特に9条をめぐる論争をネット上でも多く見かける。その中でも、9条改正・反中・中国脅威論・押し付け憲法反対・大東亜戦争正当化の右翼さんたちや完全非武装中立・9条原理的護持・自衛隊破棄の左翼さんたちを除くと、「自衛隊の存在は違憲だけど、防衛力は必要」という人が結構いるようです。
- 私自身、そういう意見で、付け加えて「現有自衛隊戦力で防衛力は十分で、違憲状態の解消は将来的には望ましいが、現在の自民党案のように米英並みに海外での戦争参加の可能性を高くする改憲案には反対」という立場です。
- 「違憲だといいながら、自衛隊を認めるなんて矛盾じゃないか!」という人もいますが、この矛盾は私が生まれたときには既にあったんで、言わば現代日本の抱える持病のようなものだと思う。直せるに越したことはないが、直ちに死に至る病というわけでもない。何も急いで劇薬を飲む必要はないだろうということ。
- 大嶽 秀夫
- 再軍備とナショナリズム―戦後日本の防衛観
もうどこから突っ込んでいいやら・・・
2005/11/17の産経抄は、突っ込みどころ満載で、わけのわからない闘志がわく反面、うっとうしいことこの上ない。
(ここから引用)
言葉は乱用されると内容を失うものだという。敗戦このかた、憲法は護憲が正義であり、原水爆禁止運動は廃絶が正義であると進歩的文化人にいわれ続けた。しかし、米国製の原爆は「悪」でソ連製は「善」であるとのウソがばれて、以後は誰も信用しなくなった。
▼この六十年、戦争を知らない日本が、首相の靖国参拝をもって「軍国主義だ」と大陸から罵声(ばせい)を浴びても大方は信じない。中越戦争、チベット制圧がどこの仕業だったか腑(ふ)に落ちないからだ。まさか、日米に照準を向ける中国の核が「平和の核だ」などとは言うまい。
▼数日前、中国の李肇星外相が、「ドイツの指導者がヒトラーやナチスを参拝したら欧州の人々はどう思うか」と声を荒らげた。ホロコーストと戦時下の徴用を一緒にしている。日本は戦争もやっていない都市から市民を連れ出し、ガス室に送るようなことはしていない(屋山太郎著『なぜ中韓になめられるのか』)。
▼国営新華社の雑誌はさらに品がない。日本が「米国の妾(めかけ)から愛人へ昇格した」などと罵(ののし)った。ブッシュ大統領の訪日で、日米同盟が堅固になることがよほど気に入らないらしい。内容がないから言葉ばかりが激しくなるのは、あの進歩派と同じだ。
▼ブッシュ大統領、そこは巧みだ。アジア歴訪前、中国人記者の「靖国」質問に「日米は戦ったが、いまは友人としてここにいる」と未来志向だ。韓国人記者が手を挙げると、「同じ質問だろう」とちゃかす余裕さえある。
▼大統領が京の秋を堪能した後の演説は、主に中国向けであると聞いた。三十五分間の演説に「自由」を七十八回も織り込んだ。中国による言葉狩りには、繰り返し言葉で打ち返す手か。「乱用」にも効用があると知った。
(ここまで)
最初から最後まで突っ込みどころ満載で、どこから手を付けていいか迷ってしまう。
まず、「憲法は護憲が正義であり、原水爆禁止運動は廃絶が正義である」という文化人はいただろうが、「米国製の原爆は「悪」でソ連製は「善」である」など誰が言ったのか。ごく一部の極論を全体に当てはめる洗脳手法があるが、まさにそれである。続きの2文でこの展開は無理がありすぎる。「原水爆禁止運動は廃絶が正義である」ならば、「ソ連製」の原爆も「悪」であろう。
ありもしない妄想から出発して、これを「ウソ」だとし(妄想なんだから当然ウソである)、「以後は誰も信用しなくなった。」と結んでいる。一人相撲で「勝った勝った」と喜んでいるようなもの。
「▼この六十年、戦争を知らない日本が、首相の靖国参拝をもって「軍国主義だ」と大陸から罵声(ばせい)を浴びても大方は信じない。」大方というが、どこを指すのか不明瞭。とりあえず、産経を含む一部集団を指しているのだとは思うが、自分の意見が大多数であるかのような印象を与えるレトリックである。
「中越戦争、チベット制圧がどこの仕業だったか腑(ふ)に落ちないからだ。」この点、確かに中国に非があろうが、だからといって日本が免罪されるわけではない。
「まさか、日米に照準を向ける中国の核が「平和の核だ」などとは言うまい。」そんなこと誰も言っていない。産経の妄想である。
「ホロコーストと戦時下の徴用を一緒にしている。」戦時下の徴用ではなく、強制連行や日本軍などによる組織的な犯罪行為と比較すべきである。産経はそんなものはなかったといいたいのだろうが、それも妄想である。
「日本は戦争もやっていない都市から市民を連れ出し、ガス室に送るようなことはしていない」産経の意見としてはそうなのかも知れないが、強制連行・虐殺・人体実験についてはあったという説が少なからず存在する。(まったく逆にホロコースト否定説だって存在はしているが一般的とは言い難い。)その辺、まるっきり無視である。都合の悪いものは見えないのだろう。
「▼国営新華社の雑誌はさらに品がない。日本が「米国の妾(めかけ)から愛人へ昇格した」などと罵(ののし)った。」品がないのは確かだが、日本のスポーツ新聞や週刊誌などを考えると一方的に言えることではない。
「ブッシュ大統領の訪日で、日米同盟が堅固になることがよほど気に入らないらしい。」前述文だけでは、そういう意図があるかどうかは判断できない。あくまでも産経からみた考察である。
「内容がないから言葉ばかりが激しくなるのは、あの進歩派と同じだ。」進歩派よりむしろ産経の方に当てはまると思う。
「▼ブッシュ大統領、そこは巧みだ。アジア歴訪前、中国人記者の「靖国」質問に「日米は戦ったが、いまは友人としてここにいる」と未来志向だ。韓国人記者が手を挙げると、「同じ質問だろう」とちゃかす余裕さえある。」親米反中の産経としては、溜飲の下がる思いなのだろう。
「▼大統領が京の秋を堪能した後の演説は、主に中国向けであると聞いた。」誰から聞いたのか不明。
「三十五分間の演説に「自由」を七十八回も織り込んだ。中国による言葉狩りには、繰り返し言葉で打ち返す手か。「乱用」にも効用があると知った。」中国に民主化を求める内容なのだろうが、市場開放と民主化を求める米国の態度は一貫しており、特に新味のある内容ではない。
以下、考察。
全体的な論旨の展開は、靖国参拝の正当性の主張→靖国参拝に反対しているのは中国のみ→中国は民主化されていない、となっており、最終的に民主化されていない中国の言う靖国参拝反対は正しくない。と結んでいる感じである。
「靖国参拝の正当性の主張」は、個々人の意見なので、産経がそう主張しても、賛同はできないが意見の存在は認められる。
しかし、「靖国参拝に反対しているのは中国のみ」という展開は、国内の反対意見を完全に無視した一方的な意見であり、靖国問題そのものを内政干渉という外交問題に矮小化する点でまったく賛同できないし認めることもできない。反対意見という言論を封殺しているに等しいやり方である。
「中国は民主化されていない」のは賛同できるが、それは靖国問題とは関係のない事柄である。
それに繰り返しになるが、中国に直すべき点があるとしても、それが日本を免罪することにはならない。
このような論旨展開は、煽動記事と呼ぶにふさわしい。
イタイイタイ病
イタイイタイ病も発生か=湖南省のカドミウム汚染-中国紙 【北京11日時事】中国湖南省を流れる湘江が有害物質カドミウムに汚染された問題で、イタイイタイ病と酷似した症状の死者が流域住民から出ていることが明らかになった。中国紙・中国青年報(10日付)が報じた。中国では河川などの汚染事故発生は逐一伝えられるようになったが、汚染による健康被害まで踏み込んだ報道は異例。
(時事通信) - 1月11日19時1分更新
イタイイタイ病は、カドミウムの慢性中毒による腎機能障害から、骨軟化症を起こす病気である。最後には骨折が頻発し、少し体を動かしただけでも激痛が走るようになる。
カドミウムは、亜鉛鉱に含まれるので、亜鉛鉱山の下流域の地域でイタイイタイ病が発現することになる。
日本では、神岡鉱山の下流域である富山県で発生した。
鉱毒被害説は古くからあったが、カドミウム原因説は1961年に発表された。しかし、厚生省がこれを認めたのは1969年、おそらくは経済的な理由により鉱毒被害者を法的に救済するのが少なくとも8年(単に鉱毒としてならそれ以上)遅れることになった。
中国で同じことを繰り返してほしくはない。中国政府は汚染防止の対策を、日本は過去の経験を持って支援を行ってほしい。
前原氏に続き、麻生氏も中国にびびる
「中国は軍事的脅威」 麻生外相、透明性確保求める (産経新聞12/22)
前原氏だけじゃなく、麻生氏も中国にびびっていることが明らかになった。軍事費ベースで世界2、3を争う軍事大国日本の外務大臣が隣国におびえている状態が、今後の外交にどう影響を及ぼすかが懸念される。
米国との同盟を軸に考えると、対中国包囲網は日本・在日米軍・台湾・韓国によって形成されその戦力は、現在の中国軍とは比較にならないほど強大である。外交の失敗から韓国は距離を置きつつあるとはいえ、圧倒的である事実に変わりはない。
にもかかわらず、野党党首のみならず政権与党の外務大臣までが臆病風に吹かれているのは、彼ら自身の精神的脆弱性によるのかもしれない。
産経の社説
【主張】広島女児殺害 地域一体で安全高めよう(産経新聞2005/12/1)
(前略)
来日外国人による犯罪は、年々増加し、わが国の治安悪化の大きな要因となっている。警察庁によれば、今年上半期に摘発された外国人は前年同期(一-六月)に比べ3・4%増加、約一万八百人で圧倒的に中国人が多く、次にブラジル人となっている。
外国人の来日は増えこそすれ、減りはしまい。法務省や警察当局にとっての課題は、来日外国人の就労先や居住地などをいかに把握して、犯罪防止につなげるか。それには、治安の最前線に立つ交番の役割は大きい。また、これからは地域社会が彼らとともに安全・安心をどう守るかを考えることが必要な時代になったといえる。
(引用ここまで)
警察庁(http://www.npa.go.jp/toukei/#safetylife
)によると、2005年1-6月の刑法犯検挙件数は316,084件10,145人(前年同期313,437件7,349人)である。
このうち来日外国人の検挙件数は15,528件4,257人(前年同期17,240件4,263人)である。産経の記事では、摘発人数約10,800人となっているが、これは特別法犯を含んでいるものと思われる。2005年1-6月の特別法犯のデータは見つけられなかったため、2005年1-10月のデータから類推しようとした。
2005年1-10月の来日外国人の特別法犯検挙件数は12,227件10,380人(前年同期11,838件10,182人)
(この情報から1-6月の検挙人数を推定すると約6,000人となるため、刑法犯検挙人数と合わせると約10,000人となり産経記事とほぼ一致する)。
しかし、これに対応する全特別法犯検挙件数が見当たらなかった(特別法犯の送致件数はあったが、検挙しても送致しない場合が考えられるため比較データとしては使えない。)。特別法犯に含まれる罪種は、売春や麻薬などがあり決して無視してよくはないが、来日外国人の特別法犯中最も多いのは入管法に関する罪種である(ほぼ9割:2003年送致人数11,282人中9,211人)。したがって、国内刑法犯全体との比較のため、特別法犯は対象外とする。
すると、2005年1-6月と2004年1-6月の比較は以下のようになる。
・国内刑法犯検挙件数:316,084件(313,437件)2647件増0.845%増
・国内刑法犯検挙人数:10,145人(7,349人)2796人増38%増
・来日外国人刑法犯検挙件数:15,528件(17,240件)1712件減9.93%減
・来日外国人刑法犯検挙人数:4,257人(4,263人)6人減0.14%減
こうしてみると、国内刑法犯は増加傾向にあるが、来日外国人刑法犯はほぼ横ばいであると言える。すなわち治安の悪化に来日外国人が関与しているとは言えないことになる。(ただし、来日外国人数の2004年と2005年の変化も加味すべきだが、データが見つからなかったので変化なしとして判断した。)
産経の記事のように、来日外国人の増加と治安の悪化との間に因果関係があると主張するためには、少なくとも、来日外国人とそれ以外の人々について総数と検挙人数の経時変化くらいは調べる必要がある。単に検挙件数・人数の増減のみ、しかも来日外国人検挙人数の増減のみで治安の悪化が来日外国人によるものとの決め付けは、統計的には全く評価に値しないレベルの低い判断と言える。
また、来日外国人検挙人数のうち中国人が圧倒的に多いとのことだが、これも来日外国人全体に占める中国人の割合の記載がなければ、何の意味もない記載である。
外国人に対する危機感を煽るのは、ナショナリズムを煽る基本的な方法である。正確な判断をするために必要な情報を制限することは、「ロックオン」と呼ばれる洗脳・人格改造手法の一つである。
産経にその意図があったかどうかはわからないが、少なくとも記事を書く記者は基礎的な統計の知識くらいは踏まえて書くべきだろう。