統計結果を誤読する方法を産経に学ぶ | 誰かの妄想

統計結果を誤読する方法を産経に学ぶ

産経社説のつっこみ、続く。


(2006/4/14産経新聞社説・引用は赤字部分)

この社説の内容は最後の
「それより自転車の運転者がマナーを守り、交通ルールを順守するのが先決だ。これが実行されれば、自転車事故は大幅に減少する。」
につきるし、これだけなら特に反論すべきだとは思わない。しかし安易な厳罰化や警察庁による「自転車対策検討懇談会」の設置など、公権力の無用な強化や無用な外部機関には、ちょっと待て、と言いたくなる。
産経社説は、厳罰化に賛成しているが、この根拠をよく読むとおかしな点がいくつも出てくる。以下それを述べていこう。


■【主張】無謀自転車 マナー順守が事故減らす

 無謀な自転車の運転で、歩行者がケガをする交通事故が増えてきた。このため、警察庁は有識者らを交えた懇談会を設置、十二日に初会合を開き、安全対策などの検討に入った。

 交通事故といえば、自動車による死傷事故と思いがちだが、政府や自治体の事故撲滅運動が成果を上げ、自動車による人身事故は減少傾向にある。


(つっこみ)自動車による人身事故が減少傾向にあるとのことだが、これは全くの間違いである。事故件数そのものは増加傾向にある。減少傾向なのは警察庁発表の交通事故死亡者数であり、これは事故発生後24時間以内の死亡しかカウントされない。したがって、事故が増えていても救急医療技術が発達すれば、死亡者数は減少することになり、「事故撲滅運動が成果を上げ」ているかどうかは定かではない。
ただし、この社説の眼目は「自転車事故」であるので、上記のような誤りは、本論の導入として許容できなくもない(誤りは誤りであるし、「進出」「侵略」に関する教科書検定についてあれほど朝日新聞を叩いていた以上、自らについても許容されることは望まないとは思うが)。


 これとは反対に、昨年一年間の自転車走行中の事故による死傷者は約十八万五千人で十年前の一・三倍、歩行者との衝突事故は四・六倍の約二千五百人と激増している。警察庁によると、これは記録を取り始めた平成十一年以降最高という。


(つっこみ)こちらの疑問として、警察庁の統計は平成11年(1999年)以降しかないのに、「十年前の一・三倍」と言っているのはどんなデータと比較しているのか、がある。統計のとり方が変われば、数値が変わるのは言うまでもないので、比較する以上、統計方法が同等であることが求められる。この書き方では、本当に増えているのかわからない。
にもかかわらず、以下のように続ける。


 なぜ、こんなに増えてきたのか。最近のレジャーやスポーツの影響で、自転車を利用する人が増加していることもあるが、無謀で悪質な運転が大きな要因とみられる。


(つっこみ)とりあえず、自転車事故が増えているとの主張を認めたとしても、自転車利用者数の増加(これだって根拠不明だ)より「無謀で悪質な運転が大きな要因」としているのは全く根拠を欠いている。文脈から類推すると、以下が根拠として出てくるのだが・・・


 歩行者通路をわが物顔で、スピードを出して走る自転車をよく見かける。また、信号無視の自転車運転者も多い。さらに酒を飲んでの運転や夜間、無灯火での走行なども目立つ。


(つっこみ)自らの体験なのだろうが、根拠としては説得力を欠くことこの上ない。また、この状況が事実だったとしても、”10年前に比べてこのような状況が悪化した”ことの証左にはならない。少なくとも私は10年以上前にも上記のような自転車運転者を見かけたことがあるし、現在それが取り立てて増えているとは感じない。
この文章は、現在こういう人を見かける、という内容に過ぎず、過去に比べて増えている、悪化しているという説明にはなっていない。


 警察はこれまで、自転車の交通違反については、指導や注意、警告などですましてきた。しかし、もう無視できないとして今後は、取り締まりにも本腰で取り組むことにした。当然のことであろう。

 これからは、悪質な運転者には刑事処分などの厳しい態度で臨む方針だという。自動車の運転者に対しては、危険運転致死傷罪の新設や罰則強化などの厳罰化が効果を発揮している。


(つっこみ)厳罰化の方向に対し、産経は手放しで賛成しているが、公権力の強化についてはそのデメリットも考慮する必要がある。産経はその視点を全く欠いている。第一に「悪質な運転者」を判断するの誰なのか。別件逮捕の手段とされる可能性はないのか。そのくらいは考えておくべきだろう。


 政府は十五年に交通事故死者数を五千人以下とし、「世界一安全な道路交通の実現を目指す」との目標を掲げている。それには、自転車事故を減少させなければならない。


(つっこみ)まあ、自転車事故が減れば、交通事故死者数も減るだろうが、それが最優先なのかどうかは全く不明。事故の内容を検証して、優先順位を決めてリソース配分を決めるの筋でしょう。


 指摘したように、警察庁は自転車の走行方法や歩行者の安全確保などをどう実現すべきかなどについて、幅広く意見を聞くための「自転車対策検討懇談会」を設置した。専門家や業界の代表者ら七人と同庁で構成する。速やかに結論を得て、今後の交通行政の参考にしていく必要がある。

 まず、それより自転車の運転者がマナーを守り、交通ルールを順守するのが先決だ。これが実行されれば、自転車事故は大幅に減少する。


(つっこみ)結局、警察権力を強化しろ、という結論になる。


これだから、産経は・・・