もうどこから突っ込んでいいやら・・・ | 誰かの妄想

もうどこから突っ込んでいいやら・・・

2005/11/17の産経抄は、突っ込みどころ満載で、わけのわからない闘志がわく反面、うっとうしいことこの上ない。

(ここから引用)

言葉は乱用されると内容を失うものだという。敗戦このかた、憲法は護憲が正義であり、原水爆禁止運動は廃絶が正義であると進歩的文化人にいわれ続けた。しかし、米国製の原爆は「悪」でソ連製は「善」であるとのウソがばれて、以後は誰も信用しなくなった。

 ▼この六十年、戦争を知らない日本が、首相の靖国参拝をもって「軍国主義だ」と大陸から罵声(ばせい)を浴びても大方は信じない。中越戦争、チベット制圧がどこの仕業だったか腑(ふ)に落ちないからだ。まさか、日米に照準を向ける中国の核が「平和の核だ」などとは言うまい。

 ▼数日前、中国の李肇星外相が、「ドイツの指導者がヒトラーやナチスを参拝したら欧州の人々はどう思うか」と声を荒らげた。ホロコーストと戦時下の徴用を一緒にしている。日本は戦争もやっていない都市から市民を連れ出し、ガス室に送るようなことはしていない(屋山太郎著『なぜ中韓になめられるのか』)。

 ▼国営新華社の雑誌はさらに品がない。日本が「米国の妾(めかけ)から愛人へ昇格した」などと罵(ののし)った。ブッシュ大統領の訪日で、日米同盟が堅固になることがよほど気に入らないらしい。内容がないから言葉ばかりが激しくなるのは、あの進歩派と同じだ。

 ▼ブッシュ大統領、そこは巧みだ。アジア歴訪前、中国人記者の「靖国」質問に「日米は戦ったが、いまは友人としてここにいる」と未来志向だ。韓国人記者が手を挙げると、「同じ質問だろう」とちゃかす余裕さえある。

 ▼大統領が京の秋を堪能した後の演説は、主に中国向けであると聞いた。三十五分間の演説に「自由」を七十八回も織り込んだ。中国による言葉狩りには、繰り返し言葉で打ち返す手か。「乱用」にも効用があると知った。

(ここまで)

最初から最後まで突っ込みどころ満載で、どこから手を付けていいか迷ってしまう。
まず、「憲法は護憲が正義であり、原水爆禁止運動は廃絶が正義である」という文化人はいただろうが、「米国製の原爆は「悪」でソ連製は「善」である」など誰が言ったのか。ごく一部の極論を全体に当てはめる洗脳手法があるが、まさにそれである。続きの2文でこの展開は無理がありすぎる。「原水爆禁止運動は廃絶が正義である」ならば、「ソ連製」の原爆も「悪」であろう。
ありもしない妄想から出発して、これを「ウソ」だとし(妄想なんだから当然ウソである)、「以後は誰も信用しなくなった。」と結んでいる。一人相撲で「勝った勝った」と喜んでいるようなもの。

「▼この六十年、戦争を知らない日本が、首相の靖国参拝をもって「軍国主義だ」と大陸から罵声(ばせい)を浴びても大方は信じない。」大方というが、どこを指すのか不明瞭。とりあえず、産経を含む一部集団を指しているのだとは思うが、自分の意見が大多数であるかのような印象を与えるレトリックである。
「中越戦争、チベット制圧がどこの仕業だったか腑(ふ)に落ちないからだ。」この点、確かに中国に非があろうが、だからといって日本が免罪されるわけではない。
「まさか、日米に照準を向ける中国の核が「平和の核だ」などとは言うまい。」そんなこと誰も言っていない。産経の妄想である。

「ホロコーストと戦時下の徴用を一緒にしている。」戦時下の徴用ではなく、強制連行や日本軍などによる組織的な犯罪行為と比較すべきである。産経はそんなものはなかったといいたいのだろうが、それも妄想である。
「日本は戦争もやっていない都市から市民を連れ出し、ガス室に送るようなことはしていない」産経の意見としてはそうなのかも知れないが、強制連行・虐殺・人体実験についてはあったという説が少なからず存在する。(まったく逆にホロコースト否定説だって存在はしているが一般的とは言い難い。)その辺、まるっきり無視である。都合の悪いものは見えないのだろう。

「▼国営新華社の雑誌はさらに品がない。日本が「米国の妾(めかけ)から愛人へ昇格した」などと罵(ののし)った。」品がないのは確かだが、日本のスポーツ新聞や週刊誌などを考えると一方的に言えることではない。
「ブッシュ大統領の訪日で、日米同盟が堅固になることがよほど気に入らないらしい。」前述文だけでは、そういう意図があるかどうかは判断できない。あくまでも産経からみた考察である。
「内容がないから言葉ばかりが激しくなるのは、あの進歩派と同じだ。」進歩派よりむしろ産経の方に当てはまると思う。

「▼ブッシュ大統領、そこは巧みだ。アジア歴訪前、中国人記者の「靖国」質問に「日米は戦ったが、いまは友人としてここにいる」と未来志向だ。韓国人記者が手を挙げると、「同じ質問だろう」とちゃかす余裕さえある。」親米反中の産経としては、溜飲の下がる思いなのだろう。

「▼大統領が京の秋を堪能した後の演説は、主に中国向けであると聞いた。」誰から聞いたのか不明。
「三十五分間の演説に「自由」を七十八回も織り込んだ。中国による言葉狩りには、繰り返し言葉で打ち返す手か。「乱用」にも効用があると知った。」中国に民主化を求める内容なのだろうが、市場開放と民主化を求める米国の態度は一貫しており、特に新味のある内容ではない。


以下、考察。

全体的な論旨の展開は、靖国参拝の正当性の主張→靖国参拝に反対しているのは中国のみ→中国は民主化されていない、となっており、最終的に民主化されていない中国の言う靖国参拝反対は正しくない。と結んでいる感じである。
「靖国参拝の正当性の主張」は、個々人の意見なので、産経がそう主張しても、賛同はできないが意見の存在は認められる。
しかし、「靖国参拝に反対しているのは中国のみ」という展開は、国内の反対意見を完全に無視した一方的な意見であり、靖国問題そのものを内政干渉という外交問題に矮小化する点でまったく賛同できないし認めることもできない。反対意見という言論を封殺しているに等しいやり方である。
「中国は民主化されていない」のは賛同できるが、それは靖国問題とは関係のない事柄である。
それに繰り返しになるが、中国に直すべき点があるとしても、それが日本を免罪することにはならない。
このような論旨展開は、煽動記事と呼ぶにふさわしい。