産経の社説
【主張】広島女児殺害 地域一体で安全高めよう(産経新聞2005/12/1)
(前略)
来日外国人による犯罪は、年々増加し、わが国の治安悪化の大きな要因となっている。警察庁によれば、今年上半期に摘発された外国人は前年同期(一-六月)に比べ3・4%増加、約一万八百人で圧倒的に中国人が多く、次にブラジル人となっている。
外国人の来日は増えこそすれ、減りはしまい。法務省や警察当局にとっての課題は、来日外国人の就労先や居住地などをいかに把握して、犯罪防止につなげるか。それには、治安の最前線に立つ交番の役割は大きい。また、これからは地域社会が彼らとともに安全・安心をどう守るかを考えることが必要な時代になったといえる。
(引用ここまで)
警察庁(http://www.npa.go.jp/toukei/#safetylife
)によると、2005年1-6月の刑法犯検挙件数は316,084件10,145人(前年同期313,437件7,349人)である。
このうち来日外国人の検挙件数は15,528件4,257人(前年同期17,240件4,263人)である。産経の記事では、摘発人数約10,800人となっているが、これは特別法犯を含んでいるものと思われる。2005年1-6月の特別法犯のデータは見つけられなかったため、2005年1-10月のデータから類推しようとした。
2005年1-10月の来日外国人の特別法犯検挙件数は12,227件10,380人(前年同期11,838件10,182人)
(この情報から1-6月の検挙人数を推定すると約6,000人となるため、刑法犯検挙人数と合わせると約10,000人となり産経記事とほぼ一致する)。
しかし、これに対応する全特別法犯検挙件数が見当たらなかった(特別法犯の送致件数はあったが、検挙しても送致しない場合が考えられるため比較データとしては使えない。)。特別法犯に含まれる罪種は、売春や麻薬などがあり決して無視してよくはないが、来日外国人の特別法犯中最も多いのは入管法に関する罪種である(ほぼ9割:2003年送致人数11,282人中9,211人)。したがって、国内刑法犯全体との比較のため、特別法犯は対象外とする。
すると、2005年1-6月と2004年1-6月の比較は以下のようになる。
・国内刑法犯検挙件数:316,084件(313,437件)2647件増0.845%増
・国内刑法犯検挙人数:10,145人(7,349人)2796人増38%増
・来日外国人刑法犯検挙件数:15,528件(17,240件)1712件減9.93%減
・来日外国人刑法犯検挙人数:4,257人(4,263人)6人減0.14%減
こうしてみると、国内刑法犯は増加傾向にあるが、来日外国人刑法犯はほぼ横ばいであると言える。すなわち治安の悪化に来日外国人が関与しているとは言えないことになる。(ただし、来日外国人数の2004年と2005年の変化も加味すべきだが、データが見つからなかったので変化なしとして判断した。)
産経の記事のように、来日外国人の増加と治安の悪化との間に因果関係があると主張するためには、少なくとも、来日外国人とそれ以外の人々について総数と検挙人数の経時変化くらいは調べる必要がある。単に検挙件数・人数の増減のみ、しかも来日外国人検挙人数の増減のみで治安の悪化が来日外国人によるものとの決め付けは、統計的には全く評価に値しないレベルの低い判断と言える。
また、来日外国人検挙人数のうち中国人が圧倒的に多いとのことだが、これも来日外国人全体に占める中国人の割合の記載がなければ、何の意味もない記載である。
外国人に対する危機感を煽るのは、ナショナリズムを煽る基本的な方法である。正確な判断をするために必要な情報を制限することは、「ロックオン」と呼ばれる洗脳・人格改造手法の一つである。
産経にその意図があったかどうかはわからないが、少なくとも記事を書く記者は基礎的な統計の知識くらいは踏まえて書くべきだろう。