流離の翻訳者 日日是好日 -47ページ目

流離の翻訳者 日日是好日

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

陰暦の八月十五夜の月(仲秋の名月)と並び称されるもう一つの名月に、九月十三夜の月(栗名月)がある。因みに今年の八月十五夜は9月10日、九月十三夜が昨日、10月8日だった。

 

夕刻には水色の澄んだ空に美しい十三夜の月が見られたがは夜半からは残念ながら雲が多く朧に霞む名月となった。いずれかの名月を見損なうことを片見月(かたみつき)と呼び縁起が悪いとする風習もあるらしい。

 

 

 

九月十三夜と言えば詩吟でも有名な上杉謙信の以下の漢詩が思い起こされる。

 

「九月十三夜陣中作」        上杉謙信

 

霜満軍営秋気清                 霜は軍営に満ちて 秋気清し

数行過雁月三更                 数行の過雁(かがん) 月三更(さんこう)

越山併得能州景                 越山併(あわ)せ得たり 能州の景

遮莫家郷憶遠征                 遮莫(さもあらばあれ) 家郷遠征を憶うを

 

(拙現代語訳)

霜が陣営を白く覆って、秋の気配が清々しい。真夜中の月が冴えざえと照り映える中、幾列かの雁が空を渡ってゆく。越後・越中の山々に加え、遂にこの能登の風景も手中に収めることができた。故郷では家族が遠征にある我が身を案じているだろうが、とりあえず今夜はこの十三夜の月を眺めていよう。

 

 

(自作英訳・改訂第二版)

“A Poem on the 13th night at the camp” by UESUGI Kenshin

 

Frost has fully covered the camp amid the crisp autumn air.

Some rows of wild geese are passing under the silent moon at midnight.

Winning a splendid landscape of Noto together with Etchu and Echigo mountains.

For the time being, let me leave it aside the homeland worrying about our expedition!

 

 

以前から読みたいと買っていた本を昨日少しだけ読んでみた。J.M.ヘンダーソン、R.E.クォント著の「現代経済学」(創文社)というものである。

 

学生時代にゼミのミクロ経済学の副読本として読んでいる先輩や同期が多かった。通称「ヘン・クォン」と呼ばれており数学的な説明が多い。昨日読んだところにこんな文があった。

 

「数学は文章による議論を簡潔で矛盾のない形式に翻訳するのに役立つ」

 

銘記すべき言葉である。

 

 

 

以前は円安が進めば株式相場は上昇していたが、昨今はそうなっていない。これに関して昨日の日経にこんな記事(一部改訂)があった。

 

「海外投資家の『日本株離れ』が進んでいる。これはもはや円安が日本企業にとって大きなプラスとは言えないためで、ドル建てでの価値の目減りを嫌い、日本株を売る姿勢を強めているからだ。以前は大幅に円安が進めば輸出企業などの業績拡大が期待され、外国人の買いは増える傾向にあったが、日本企業は生産拠点の海外移転を進め、輸出数量も過去に比べて伸びなくなり、円安のメリットを享受しにくくなっている。また、海外で原材料を調達する企業にとっては円安によるコスト増のマイナス影響も大きく『円安なら海外勢買い』という構造は変わってしまったと言える。」

 

(拙訳)

Foreign investors have remarkably been “staying away from Japanese stocks,” because yen depreciation is no longer beneficial to Japanese companies. So, the foreign investors dislike a loss in the value of Japanese stocks in dollars and have strengthened their stance to sell Japanese stocks. Formerly, a drastic yen depreciation caused investors to expect an expansion in business performance of Japanese export companies, therefore investors tended to buy more Japanese stocks. However, since the Japanese export companies shifted their production bases to foreign countries and their export volumes didn’t so much extend as before, it has become difficult for the Japanese export companies to enjoy the advantage of yen depreciation. Further, a disadvantage of cost increase due to yen depreciation has been serios for such companies that would procure raw materials in foreign countries, thus it can be said that “a formula of Japanese stock buying by foreign investors at the time of yen depreciation” has completely changed.

 

 

 

 

2017年11月、ある通訳案件が入ってきた。北九州市の外郭団体「アジア成長研究所(旧・国際東アジア研究センター)」からのものだった。

 

 

今回はいつもの工業系通訳ではなく、海外から招いた学者たちとの国際会議(シンポジウム)の後の晩餐会の通訳だった。通訳は研究所の理事長および副市長に対するものだった。完全なホワイトカラーの通訳は初めての経験だった。

 

通訳者は2名、理事長および副市長の隣席が与えられて通訳を行い食事も支給されるというラッキー(?)な条件だった。

 

ベテランの女性通訳者がベターと判断した。女性通訳者のMBさんと同じく福岡在住のベテランの女性通訳者をアサインした。私も段取り方々会場のホテルに赴いたが総勢20名余りで和やかな雰囲気の会合だった。彼女たちは卒なく通訳をこなした。

 

 

彼女たちの活躍のおかげで「アジア成長研究所」から信頼を得ることができ、以後同研究所から学術論文や研究所の規程について翻訳(和文英訳・英文和訳)案件を引き受けることになった。

 

http://www.agi.or.jp/

金融英語シリーズが続いているが ……。

 

これも前日の日経新聞から欧州・ユーロ圏に対する欧州中央銀行(ECB)の動きに関する記述である。米国FRBの金融引き締めが世界中に影響を及ぼしている。

 

「欧州はウクライナ侵攻の影響でエネルギー供給の停滞が続くとの観測からユーロを売る動きが加速し、20年ぶりの安値を更新した。通貨安を警戒する欧州中央銀行(ECB)は政策金利を急ピッチで引き上げているが、同じく急速な利上げを進める米国との金利差を縮められていない。」

 

(拙訳)

In Europe, the anticipation that the energy supply would continue to stagnate under the influence of Russian invasion of Ukraine accelerated euro selling, and as a result, euro recorded a new low after an interval of 20 years. Although the European Central Bank (ECB), being on the outlook for the euro depreciation, has been raising the policy interest rate at a fast pace, they have still been unable to reduce the difference in interest rates between the eurozone and the US which has rapidly raised its interest rate in the same manner.

 

最近「金融英語の基礎と応用 すぐに役立つ表現・文例1300」(鈴木立哉著 講談社)を辞書的に使用している。

 

 

 

2017年10月、市内の観光スポット「北九州市立松本清張記念館」から展示品の解説文について和文英訳、和文中訳(繁体字・簡体字)、和文韓訳の案件が入ってきた。

 

原稿の内容は記念館の目的に始まり、松本清張(1909~1992)の生涯、作品の種類(系統)また展示物の紹介が中心だった。大した翻訳量ではなかったが、自社の作品が記念館に展示されるのは光栄なことでもあり緊張感をもって翻訳を遂行することができた。

 

https://www.seicho-mm.jp/

 

 

松本清張については、やはり「砂の器」が最も記憶に残る作品である。「なりすます」を英語では impersonate という動詞で表す。「(人)をまねる、(人)に扮する」の意味である。

 

The poor boy impersonated Eiryo Waga, the the first son who was killed together with his parents in the Osaka Air Raid in 1945.

 

「その貧しい少年は1945年の大阪大空襲で両親とともに亡くなった長男、和賀英良になりすました

 

 

この「なりすまし(Impersonation)」は以後も様々なミステリーで利用されているが、ネットや携帯電話の世界の中では別の意味に使われるようになってきた。

 

今回は昨日の日経新聞の金融記事(若干改訂)から少し長めの英訳に挑戦してみたい。

 

「日銀側が金融緩和の縮小にかじを切る気配はなかった。円相場は投機筋の動きで値動きが荒くなり、底割れして1ドル=200円まで落ちるとの観測も浮上した。………… あるストラテジストは『米国の物価上昇が続けば米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めが続くとの見方が強まり、円安につながった』とも話す。」

 

(拙訳)

In the BOJ side, there was no sign of weakening the monetary easing policy. The movements of the yen-dollar rate became volatile due to actions by non-commercial investors, and thus an anticipation was surfaced that the rate might fall as low as 200 yen per dollar, breaking through the previous lows. ……… Also a strategist said, “A view grew stronger that the monetary tightening policy by the Federal Reserve Bank (FRB) will continue if the prices in the US continue to rise, thereby resulting in the recent depreciation of the yen.”

 

 

 

 

市の外郭団体のコンサルタントの方の紹介で全く未知の分野の製品の製造業のHPの英訳を担当することになったのが2017年秋のことだった。

 

「未知の分野の製品」とは日本の伝統工芸品の「簾(すだれ)」だった。会社は福岡県の筑後地方にあった。とりあえずコンサルタントの方に同行して工場を見学したのが2017年9月の終わり、今から5年ほど前のことだった。

 

工場内では簾の全製造工程が職人たちの手作業で行われていた。工業製品ではなく芸術作品だった。「果たして自社の翻訳者の陣営で対応できるのか?」という不安が頭をもたげてきた。

 

簾のベースには『室礼(しつらい)』という概念があった。『室礼』とは「平安時代、宴や儀式などを行う晴れの日に、寝殿造りの邸宅の母屋や庇に屏風や几帳、御簾などの仕切り具、櫃や厨子などの収納具、また置畳や円座などの座臥具などを置いて、解放された空間を必要に応じて使いやすいように装飾したこと」を言う。

 

かなり難しい概念で、翻訳者の選定には神経を使った。結局2名の翻訳者をアサインした。「室礼」など伝統文化関連は早稲田大・文学部卒の京都府在住の女性翻訳者を割り当て、簾の製造・構造など「伝承技術(Craftmanship)」関連は東大・工学部卒のベテラン翻訳者KTさんにお願いすることにした。

 

HPの構成や遷移も複雑で作業は難航を極めたが、HP制作会社の担当女性エンジニアの活躍もあり何とか2018年1月一杯に納品を終えることができた。

 

 

それから6年近くになるが同社HPは大きく変貌を遂げており当時の面影は残っていない。どこまで貢献できたかわからないが、今後も同社の躍進を祈念するばかりである。

 

 

昨日の日経新聞にこんな日本語があった。

 

「日本は円安を奇貨としてインバウンド消費や対日投資を促す取り組みを強化すべきだ」

 

この英訳を考えてみた。まず「奇貨」が手ごわい。広辞苑によると①珍しい財貨②転じて、利用すれば意外の利を得る見込みのある物事や機会、とあった。

 

と言うことは「奇貨」=rare opportunity か。また句を使うのであれば take advantage of や avail oneself of あたりか。

 

(拙訳)

Japan should strengthen the activities to facilitate inbound consumptions and investments in Japan, taking advantage of a rare opportunity of the recent depreciation of the yen.

 

 

 

 

安田火災の「いいとも会」で「スクラブル(Scrabble)」というゲームが流行った時期があった。メンバーの一人がアメリカの大学院留学に向けて英語を猛勉強していた1986~1987年頃のことである。

 

GMAT や TOEFL などの受験のためにボキャブラリーを増強する必要があった彼は Vocabulary Builder などの他にスクラブルを購入してボキャブラリーの増強を楽しんでいた。効果的な学習法である。しかし、当時の私はこのゲームがからっきし苦手だった。

 

 

先日、このスクラブルを再度購入した。パートナーが英検受験のためのボキャブラリーの不足に悩んでいたからである。やってみるとなかなか面白いが、自分が簡単な単語の綴りすら覚束ないことに呆れもしたし反省もした。今は WORD がスペルを補強してくれるので甘えてしまっていたからである。

 

 

当時はあやふやな単語を投じると即座に Doubt! と周囲から声が上がったが、今はパートナーにはハンディとして英検単語帳の使用を許可しているしそんな緊張感は全く無い。まあ遊びは遊び、それで良しとしよう。

 

 

とは言え、結構長い単語が投入できたときは何となく「どや顔」になる。だが勝つためには2~4文字の短い単語を品詞にかかわらずより多く知っておくことだ。感嘆詞でも何でも構わない。但し固有名詞や略語(省略形を含む)は使用できないので注意が必要である。

 

 

写真の QUILL は何処かで見たような単語だったが一か八かで投入したらたまたま辞書にあったもの。意味は「羽柄(うへい)=鳥の翼または尾にある強くて丈夫な羽根」のこと。また BEAF は私のスペルミス。Doubt! が無かったのでそのままになったもの。

 

 

今はパートナーのボキャブラリーの増強を待ちつつ、このスクラブル、しばらく「独り打ち」をしながらより深く研究したいと思う。

 

 

「北斗七星」は柄杓状をなす大熊座(the Great Bear)の七星をいい、米語では the Big Dipper 英語では the Plough とか Charles’s Wain と表される。

 

この「北斗七星」に対比されるのが「南斗六星」と呼ばれるいて座(Sagittarius, the Archer)の上半身と弓の一部の明るい六星で、英語では Milk Dipper とか Southern dipper asterism within Sagittarius などと呼ばれている。

 

古代中国の道教(Taoism)では北斗七星を「死をつかさどる神(北斗星君)」、南斗六星を「生をつかさどる神(南斗星君)」とする思想があるらしい。

 

 

 

 

岡垣町(福岡県遠賀郡)の海岸では夏から秋にかけて「北斗の水くみ」という天文ショーが見られる。これは北斗七星が海面すれすれを通って再び空に上る姿が、まるで柄杓が海水を汲んでいるように見えることから名づけられたもので九州北岸に限られた現象らしい。

 

http://www.town.okagaki.lg.jp/s027/20151015194458.html

(※福岡県遠賀郡岡垣町ウェブサイトより引用)

 

 

 

 

秋は明るい星座が少なく寂しい夜空だが、時にはこんな天文ショーを楽しむような心の余裕を持ちたいものである。

メルマガ「翻訳ひとくちメモ」の書き出し部エッセイからもう一本。

 

 

以下は、北九州市門司区の「門司港レトロ」とそれに対峙する下関市の「はい!からっと横丁」について2017年7月末に配信したメルマガの書き出し部のエッセイに若干の改訂を加えたものである。

 

 

北九州市内には「門司港レトロ」と呼ばれる観光スポットがあり大正レトロ調に整備された建造物や施設に昨今多くの観光客が訪れている。

 

この対岸の下関市に「はい!からっと横丁」という遊園地がオープンしたのが4年前(2013年)のことある。

 

 

 

園内に設置された大観覧車のLEDイルミネーションは関門海峡の夜景に彩りを添えるとともに、ライトアップの色で翌日の天気予報を表示するという粋な演出を行っている(赤…晴れ、緑…曇り、青…雨または雪)。

 

http://haikarat.com/parkmap/attraction/01.html

※「はい!からっと横丁」ウェブサイト-アトラクションのご紹介より引用。

 

 

 

 

 

観覧車を英語ではFerris Wheelと言うが、Ferrisは設計したエンジニア、ジョージ・ワシントン・ゲイル・フェリス・ジュニア(George Washington Gale Ferris, Jr.)の名前に因んだものである。

 

なお英英辞典の定義は以下の通り。

 

Ferris wheel:

A Ferris wheel is a very large upright wheel with carriages around the edge of it which people can ride in. Ferris wheels are often found at theme parks or funfairs.

 

「観覧車とはその円周端部に人が乗れる客車(運搬車)を取り付けた非常に大きな直立型の車輪でテーマパークや遊園地でよく見られる遊具をいう」

 

 

観覧車はもちろん遊具であり交通機関ではないが、以前観たテレビドラマのプロローグがとても印象的で今でも頭の片隅に残っている。

 

「観覧車は不思議な乗り物だ。どこにも行けない。ぐるっと回って元のところに戻ってくる。でも、一度空に近づいたあの景色はいつまでも胸に残り、下に降りてきてももう忘れることはできない。」

(TBSテレビ「夜行観覧車」2013年放送 - 原作:湊かなえ「夜行観覧車」)

 

 

 

 

先日、観覧車に乗れないという若い女性と話をしたときこのプロローグを思い出した。乗れない理由は「乗る意味がわからない(楽しめない)から」とのことだった。なお、絶叫マシーンは大好きなそうだが ……。

前回の記事に書いたメルマガ「翻訳ひとくちメモ」では本論に入る前の書き出し部にショートエッセイを掲載していた。

 

その中で「翻訳における人間と人工知能の対決」について記載したものがある。以下は「翻訳ひとくちメモ」第9号の書き出し部を若干改訂したものである。

 

 

「アルファ碁」などの人工知能(AI = Artificial Intelligence)と人間の棋士との対決が巷の話題となったのは2017年春先のことだった。

 

囲碁、将棋、チェス、チェッカー、オセロなどのゲームは「ゲームの理論」(Game Theory)では「二人零和有限確定完全情報ゲーム」(Two-players, Zero-sum, Logical Perfection Information Game)に分類される。

 

このようなゲームは相手の手を完全に先読みすることが理論的に可能であり、それに基づき双方のプレーヤーが最良の手を打てば必ず先手必勝・後手必勝・引き分けかが決まるという特徴を持つ(もちろん完全な先読みが人間には不可能なためゲームとして成立する訳であるが ……)。

 

これが人工知能等のソフトウェアが開発しやすい理由と思われる。

 

 

 

 

翻訳の世界でも、そんな人間と人工知能の対決が国際通訳翻訳協会と世宗大学(韓国)の主催で2017年2月にソウルで開催された。

 

対決は人間の翻訳士4名とAI翻訳ソフト3機種が同じ課題を翻訳し、それを同協会の会長を含む3名の専門家が採点する方式で、その課題(翻訳言語方向)はハングル⇔英語(文学分野)、ハングル⇔英語(非文学分野)の合計4パターンだった。

 

人間側は30歳から55歳までの専門翻訳士の男・女4名で、対する人工知能はグーグル翻訳(Google Translate)、ネイバーのパパゴ(Naver Papago)およびシストラン(SYSTRAN)のAI翻訳ソフトという顔ぶれとなった。

 

 

 

 

結果は30点満点で人間の翻訳士の平均が24.5点、翻訳ソフトが10点と人間の圧勝となった。ただ、本イベントは勝敗よりは機械(翻訳ソフト)が人間と協業する水準程度まで進化したことが認識されたという点で評価されているようである。

 

 

その時の勝敗はともあれ ……。以来早や5年余り。AI翻訳ソフトは日々進化を続けてゆき我々翻訳会社にとって一大脅威となっていったのである。

毎年この時期になるとあちこちでヒガンバナが見られるようになる。鮮やかな赤が秋の訪れを告げている。

 

ヒガンバナは別名、曼殊沙華(まんじゅしゃげ(か))とも呼ばれる。サンスクリット語のmañjūsakaを漢字で音写したもので「天界に咲く想像上の花」を意味するらしい。

 

日本では田畑の周辺や川岸また墓地などに群生しているのがよく見られるが、その毒性から害虫や害獣を避けるために人為的に植えられたものと考えられているようである。また死人花(しびとばな)、狐花(きつねばな)、幽霊花(ゆうれいばな)など異名が多いのも特徴である。

 

学名はLycoris radiata、英語ではcluster amaryllis(群生するアマリリス)とかred spider lily(赤い蜘蛛の百合)と訳されている。

 

曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよし そこ過ぎてゐるしづかなる径」

※一むらは一叢(群)の意味(木下利玄『心の花』1925年より)。木下利玄(1886~1925)は日本の歌人。

 

 

(英語訳)

Red spider lilies burn as I pass through the quiet streets under the strong autumn sun.

※訳者不詳

 

 

 

 

2017年2月。幼い頃から私を可愛がってくれた母方の伯父が亡くなった。晩年は認知症が進行し私を認識することもできなくなっていた。伯母は随分前に亡くなっており夫婦には子供がおらず私と弟の二人だけで見送ることになった。あの寂しい葬儀を今も時々思い出す。

 

 

2017年春頃からから既存顧客に対する訪問等の営業を積極的に行うようになった。若手エンジニアの英語力が高まってきており新日鐵関連からの翻訳・通訳の受注は次第に少なくなっていた。新日鐵以外の一般顧客に対する営業を強化する必要があった。

 

2017年5月。あるPR方法を思いついた。メールマガジン(メルマガ)の配信である。当初は登録翻訳者・通訳者向けの送信を想定していたが、既存顧客の翻訳・通訳依頼部門の担当者を含めることにした。

 

「翻訳ひとくちメモ」と題するメルマガの創刊号を2017年5月中旬に配信した。創刊号のテーマは法務分野から「Warranty と Guarantee」を取り上げ「製品の保証」を表す2つの単語WarrantyとGuranteeを比較した。

 

 

以下は、メルマガ創刊号の文面を要約したものである。

 

Warrantyは「担保、保証」の意味で、物品の売買において目的物が価格に見合うだけの品質を備えているかどうか、使用目的に適うどうか、さらに目的物が第三者の権利の目的で無いことなどを売主が保証する場合に使われる。また不動産取引にも使われ、ある不動産に何ら(所有権の)留保が無い権限を保障することをgeneral warrantyとかfull warrantyと呼ぶ。なお英文契約書等で使われるRepresentations and Warrantiesという条項は「一定の事情や事実を表明し、それが正しいことを表明者自身が保証する」ことを意味する。

 

一方でGuaranteeは「保証(人)、保証書、保証契約」の意味で、他人がその債務を履行しないときに代わって責任を負うことを約束する契約を意味する。例えばAがBとの間で「もしBがCに対し100万円を貸し付けるならば、私(A)がCに代わって返済します」と約束するのはindemnity、「もしBがCに対して100万円を貸し付け、Cがその返済をしなかったときは私(A)がCに代わって支払います」と約束するのがguaranteeである。製品の保証についてguaranteeが使われることもあるが、本来は金融取引における(連帯)保証について使われる語である。

 

上記はともに法律英語辞典による定義であるが、英英辞典にはwarranty、guaranteeともに「製品に欠陥があった場合、一定の期間内であれば製造元が無償でその製品を交換または修理することを約束する証書(保証書)」という定義が記載されており、結論的にはguaranteeは歴史的には金融取引における「保証(人)」という意味だったのが現在は製品の保証についてもwarrantyと同様に使用されている、ということだと思われる。これは英国、米国でも違いがある。

 

(英文例)

1) There shall be no warranties which extend beyond the descriptions on the relevant specification.

「当該仕様書の記載事項の範囲を超える保証は一切無いものとする。」

 

2) If and when the bank or other financing institution concerned demands additional guarantee for any such borrowings, the Parties shall provide such guarantee so far as allowed under the law.

「関係する銀行またはその他の金融機関がかかる借入に対し追加保証を要求する場合には、両当事者は、法律で許可される限りにおいてかかる保証を与えるものとする。」

 

 

このメルマガ「翻訳ひとくちメモ」は、主として文法項目の盲点などを取り上げながら2020年8月の第77号まで続き、最終的な配信先数(読者数)は300名を超えることになった。

 

台風一過。朝晩少し寒く感じられるようになった。蝉の声は聞こえなくなり秋の虫の音が一世を風靡している。台風が夜半にこんな情景を残していった。

 

百人一首 No.79

「秋風にたなびく雲の絶えまより もれ出づる月の影のさやけさ」

左京大夫顕輔(=藤原顕輔(ふじわらのあきすけ))

 

(現代語訳)

「秋風に吹かれてたなびく雲の切れ間からこぼれ出る月の光の何と澄み切って美しいことか」

 

この歌についてもの幾つか英訳が見つかった。訳者不詳のものもある。

 

1) See how clear and bright

    Is the moonlight finding ways

    Through the riven clouds.

 

2) Sleepless wind creeps through nocturnal skies,

    Sweetly cool is its autumnal feel,

    Silent radiance of occasionally appearing moon.

 

3) Autumn breezes blow

    long trailing clouds.

    Through a break,

    the moonlight—

    so clear, so bright.

    (Translated by Peter MacMillan)

 

 

「月光」を表す moonlight と同義の moonshine という単語がある。この単語、辞書を引くとちょっと変わった意味を持っている。

 

Moonshine:

1) Strong alcoholic drink that is produced illegally

「不法に醸造された強いアルコール飲料(密造酒)」

 

2) An idea or statement that is silly or wrong and does not deserve serious attention

「愚かなまたは誤った考えまたは申立てで、真面目に耳を傾けるに値しないもの(戯言)」

 

本来の「月光」の意味は辞書の第3義にある。「密造酒」の意味の moonshine は18世紀末の米俗語(スラング)で、農民たちが山間に逃れて月光の下でひっそり酒を密造したことから「月光」という単語を使って洒落て呼ぶようになったらしい。

 

The villagers had been distilling moonshine as long as fifty years.

「その村人たちは50年もの長きにわたり密造酒を蒸留していた」

 

The project manager regarded his eccentric idea as romantic moonshine.

「プロマネは彼の奇抜な発想を非現実的な戯言とみなした」

 

 

 

 

2016年の暮れの翻訳者・通訳者有志の忘年会は八幡東区の中央町で開催した。有志5名が集まった。一次会は焼き鳥が美味しい「ちんちくりん」。二次会は折尾のカラオケスナック「てんとう虫」へ。

 

 

 

その時ベテラン翻訳者のKTさんからあるお誘いを受けた。「連句」である。

 

連句とは俳諧の連歌のことで3~4名で五七五(長句)→七七(短句)→五七五→七七…と順番に句を連ねて詠んでゆくもので、普通の俳句とは異なり一句で独立して鑑賞されるのではなく、前後の句との繋がり具合が重視される。言い換えれば俳句の連想ゲームのようなものか。

 

句の詠み方には作法がありこれを式目という。また句の数により歌仙(かせん・三十六句)、四十四または世吉(よよし・四十四句)、百韻(ひゃくいん・百句)などの形式がある。

 

歌仙の三十六句を詠み終えることを「歌仙を巻き終える」という。一巻中に春・夏・秋・冬すべての季節が詠み込まれ、句の連想の流れの中に四季の移ろいを感じることができる。

 

 

テレビ番組の「プレバト」ではないが、歳時記を持ち歩くような風流な遊びがそれから2年ほど続くことになった。