続・英語の散歩道(その63)-「連句」への招待-MoonlightとMoonshine | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

台風一過。朝晩少し寒く感じられるようになった。蝉の声は聞こえなくなり秋の虫の音が一世を風靡している。台風が夜半にこんな情景を残していった。

 

百人一首 No.79

「秋風にたなびく雲の絶えまより もれ出づる月の影のさやけさ」

左京大夫顕輔(=藤原顕輔(ふじわらのあきすけ))

 

(現代語訳)

「秋風に吹かれてたなびく雲の切れ間からこぼれ出る月の光の何と澄み切って美しいことか」

 

この歌についてもの幾つか英訳が見つかった。訳者不詳のものもある。

 

1) See how clear and bright

    Is the moonlight finding ways

    Through the riven clouds.

 

2) Sleepless wind creeps through nocturnal skies,

    Sweetly cool is its autumnal feel,

    Silent radiance of occasionally appearing moon.

 

3) Autumn breezes blow

    long trailing clouds.

    Through a break,

    the moonlight—

    so clear, so bright.

    (Translated by Peter MacMillan)

 

 

「月光」を表す moonlight と同義の moonshine という単語がある。この単語、辞書を引くとちょっと変わった意味を持っている。

 

Moonshine:

1) Strong alcoholic drink that is produced illegally

「不法に醸造された強いアルコール飲料(密造酒)」

 

2) An idea or statement that is silly or wrong and does not deserve serious attention

「愚かなまたは誤った考えまたは申立てで、真面目に耳を傾けるに値しないもの(戯言)」

 

本来の「月光」の意味は辞書の第3義にある。「密造酒」の意味の moonshine は18世紀末の米俗語(スラング)で、農民たちが山間に逃れて月光の下でひっそり酒を密造したことから「月光」という単語を使って洒落て呼ぶようになったらしい。

 

The villagers had been distilling moonshine as long as fifty years.

「その村人たちは50年もの長きにわたり密造酒を蒸留していた」

 

The project manager regarded his eccentric idea as romantic moonshine.

「プロマネは彼の奇抜な発想を非現実的な戯言とみなした」

 

 

 

 

2016年の暮れの翻訳者・通訳者有志の忘年会は八幡東区の中央町で開催した。有志5名が集まった。一次会は焼き鳥が美味しい「ちんちくりん」。二次会は折尾のカラオケスナック「てんとう虫」へ。

 

 

 

その時ベテラン翻訳者のKTさんからあるお誘いを受けた。「連句」である。

 

連句とは俳諧の連歌のことで3~4名で五七五(長句)→七七(短句)→五七五→七七…と順番に句を連ねて詠んでゆくもので、普通の俳句とは異なり一句で独立して鑑賞されるのではなく、前後の句との繋がり具合が重視される。言い換えれば俳句の連想ゲームのようなものか。

 

句の詠み方には作法がありこれを式目という。また句の数により歌仙(かせん・三十六句)、四十四または世吉(よよし・四十四句)、百韻(ひゃくいん・百句)などの形式がある。

 

歌仙の三十六句を詠み終えることを「歌仙を巻き終える」という。一巻中に春・夏・秋・冬すべての季節が詠み込まれ、句の連想の流れの中に四季の移ろいを感じることができる。

 

 

テレビ番組の「プレバト」ではないが、歳時記を持ち歩くような風流な遊びがそれから2年ほど続くことになった。