前回の記事に書いたメルマガ「翻訳ひとくちメモ」では本論に入る前の書き出し部にショートエッセイを掲載していた。
その中で「翻訳における人間と人工知能の対決」について記載したものがある。以下は「翻訳ひとくちメモ」第9号の書き出し部を若干改訂したものである。
「アルファ碁」などの人工知能(AI = Artificial Intelligence)と人間の棋士との対決が巷の話題となったのは2017年春先のことだった。
囲碁、将棋、チェス、チェッカー、オセロなどのゲームは「ゲームの理論」(Game Theory)では「二人零和有限確定完全情報ゲーム」(Two-players, Zero-sum, Logical Perfection Information Game)に分類される。
このようなゲームは相手の手を完全に先読みすることが理論的に可能であり、それに基づき双方のプレーヤーが最良の手を打てば必ず先手必勝・後手必勝・引き分けかが決まるという特徴を持つ(もちろん完全な先読みが人間には不可能なためゲームとして成立する訳であるが ……)。
これが人工知能等のソフトウェアが開発しやすい理由と思われる。
翻訳の世界でも、そんな人間と人工知能の対決が国際通訳翻訳協会と世宗大学(韓国)の主催で2017年2月にソウルで開催された。
対決は人間の翻訳士4名とAI翻訳ソフト3機種が同じ課題を翻訳し、それを同協会の会長を含む3名の専門家が採点する方式で、その課題(翻訳言語方向)はハングル⇔英語(文学分野)、ハングル⇔英語(非文学分野)の合計4パターンだった。
人間側は30歳から55歳までの専門翻訳士の男・女4名で、対する人工知能はグーグル翻訳(Google Translate)、ネイバーのパパゴ(Naver Papago)およびシストラン(SYSTRAN)のAI翻訳ソフトという顔ぶれとなった。
結果は30点満点で人間の翻訳士の平均が24.5点、翻訳ソフトが10点と人間の圧勝となった。ただ、本イベントは勝敗よりは機械(翻訳ソフト)が人間と協業する水準程度まで進化したことが認識されたという点で評価されているようである。
その時の勝敗はともあれ ……。以来早や5年余り。AI翻訳ソフトは日々進化を続けてゆき我々翻訳会社にとって一大脅威となっていったのである。