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流離の翻訳者 日日是好日

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

「現代の金融政策-マネー・サプライをめぐる理論と実証-」(石川常雄著・東洋経済新報社)を年明けから読み始めて8割ほど読み終えた。石川氏は大学2年時の「金融論」の教官で、自分なりに真面目に受けた講義だった。

 

本のタイトルは「現代の金融政策」となっているが昭和60年(1985年)発行なので昭和期の金融政策史という感じで読み進めてきた。

 

私が中学から高校に在学中だった①1973年4月~1975年4月までの時期、また大学に在学中だった②1979年4月~1980年8月までの時期の2回にわたり、日銀は金融引締政策を実施した。

 

①は第1次石油危機により誘発された物価暴騰、2桁のインフレ鎮圧のためのもの、②も第2次石油危機による原油価格の80%程度の上昇を受けてのものだったが、これにより日本経済は「安定成長」への「軟着陸」に成功したと著者は述べている。

 

また、この2回の金融引締政策を通じて、マネー・サプライのコントロールがきわめて適切に行われたこと、すなわちマネタリスト的な推論が成立しうるケースが多いと結論付けている。

 

自分が中学⇒高校⇒大学と「ボーっと生きていた」間に裏側で様々な金融政策が実施されていたことを知ったことは有意義だった。新聞記事が少しは面白く読めるかも……という気がする。

 

 

 

 

パートナーからある英語の質問を受けて except という前置詞(接続詞)を辞書で引く機会があった。そこに妙な文例を見つけた。

 

She is never cross except when she is tired.

「彼女は疲れている時以外は決して怒らない」

 

 

形容詞の cross はこの歳になって初めて見た。早速英英辞典で確認してみた。

 

Cross:

Someone who is cross is rather angry or irritated.

「人がかなり怒っている、またはいらいらしている様子」

 

綴りから想像しえない意味を持つ単語はまだまだたくさんある。

 

夜中に目が覚めて書斎に行き、コーヒーを飲みながら本棚の整理をする。それから読みかけの本を読み始める。そんな生活が続いている。何となく高校2年頃の生活を思い出す。

 

 

昨日の日経のAngle欄にドイツのハイパー・インフレに関する興味深い記事があった。

 

今からちょうど100年前の1923年、ドイツで発生したハイパー・インフレは経済史に残る悲劇だった。ドイツ・マルクの価値は1923年末までに戦前と比べて1兆分の1以下に落ち込んだ。

 

1杯5000マルクのコーヒーが、飲み終わったときには8000マルクになっていると形容されていた。

 

 

 

政府が野放図に国債を発行し、中央銀行がお札を刷って引き受ける。それを続ければ通貨は信用を失い、やがて紙くずになる、ハイパー・インフレは必然だったらしい。

 

人々も政府もモノの価値が上がっているのか、それとも通貨の価値が下がっているのか、コインの裏表のどちらかがわからなくなった。

 

政府は裏表の判断を誤り、国民の生活を奈落の底に突き落とした。

 

 

昨今の消費者物価指数(CPI)の上昇と150円を超える急激な円安、以後の為替相場の乱高下。一旦円安には歯止めがかかったようだが、政府が発行した国債を日銀が買い続ける構図は変わっていない。果たして円は価値を保つことができるのか?

 

記事は「100年前のドイツからくみ取るべき教訓は多いはずだ」と締めくくっている。

 

「初夢」は1月1日の夜から2日の朝にかけて見る夢となっているが、何を見たのか忘れてしまった。いつものことである。

 

 

昔読んだ本に「夢を思いだすためには夢のしっぽを捕まえることだ」とあった。

 

夢のあるシーンを覚えておき、目が覚めたら忘れないうちに何処かに書きとめておく。このシーンから夢の全体が芋づる式に思い出せるらしい。何度かやってみたが確かに夢の大部分を思い出すことができた。

 

 

 

「英文表現法」からもう一本英訳に挑戦したい。今回は「演習」「学芸・文化に関する表現」からの問題である。

 

 

(演習問題)

「詩や小説の中で人間が眠っているときに見る夢を、ありありと描くことはじつにむずかしいようである。なぜなら夢には、独自なリアリティがあり、短さ、あいまいさ、非合理さ、あるいは主観的な無類の真実さなどそれらのいずれを欠いても夢らしい自然は失われてしまうからである。」(清岡卓行)

 

 

(拙・和文英訳)

It seems truly difficult to describe a dream vividly in a poem or a novel when we dream while sleeping, which is because a dream has its own reality. Therefore, without either of the shortness, ambiguity, irrationality, or subjective unique authenticity of a dream, the naturality of the dream would be lost.

 

昨日は宇佐神宮へ参詣。少し遅い初詣となった。それから安心院(あじむ)へ。すっぽん鍋を堪能した。

 

東椎屋の滝近くの「滝見苑」は風情溢れる民宿である。女将さんのコレクションの伊万里や波佐見の焼き物が店内に展示されている。雑炊を食べ終わると体の中からポカポカになった。

 

 

 

 

「英文表現法」(戸川晴之著・研究社)は学生時代に購入し、少しかじった後卒業後に手放し、昨今Amazonで再度中古品を入手した代物である。

 

中をパラパラとめくっていると懐かしさがこみあげて来た。少し高級な英作文の参考書のように思えてくる。本稿では同書の「演習」「自然に関する表現」から今の季節に因んだ問題の英訳に挑戦する。これを2023年の書初めとしたい。

 

 

 

(演習問題)

「雪がちらちらと降りはじめたかと思うと、その重い雪雲が、低くたれこめたまま、幾日も、京都の町並を、くろくとざしつづけた。思いだしたように、ちらちらと降ってはやみ、やんでは降っていた雪が、霙になり、雨になり、やがてその雨もやんだと思うと、今度は、晴れ上がった凍てつく寒さの日々が、続くのであった。」(田宮虎彦)

 

 

(拙・和文英訳)

Once a light snow began to fall, the heavy snow cloud kept on lying low over the streets of Kyoto for days, blocking the city gloomy. The light snow, which was falling on and off sporadically, turned sleet or rain. When the rain seemed to stop, the sky cleared up in a short time, carrying a freezing fine day. Thus Kyoto would usually suffer such cold weather day after day.

 

 

実に難しい。受験英語のレベルではない。なお、田宮虎彦氏(1911-1988)は昭和の小説家で、旧制第三高等学校(現・京都大学総合人間学部)文科から東京帝国大学文学部国文学科卒。「落城」「鷺」などの歴史小説のほか「足摺岬」「絵本」「沖縄の手記」など多くの作品を残している。

 

年末年始の暴飲暴食に「七草粥」のほろ苦さが胃に優しい。「芹(せり)薺(なずな)御行(おぎょう)繁縷(はこべら)仏の座(ほとけのざ)菘(すずな)蘿蔔(すずしろ)これぞ七草」昔の人はよく考えたものだ。

 

 

 

 

年末から「現代海上保険」という本を読んでいる。以前途中まで勉強して挫折した分野だ。前回は保険からではなく英文契約書からアプローチして契約書の英文の内容のみ理解しただけで終わった。今回は正面から挑戦する。

 

 

同書に「危険」を表す英単語のペリル(peril)ハザード(hazard)リスク(risk)の違いについての記載があった。

 

同書にはこんな例が記載されている。洪水の可能性がある河川の土手に建てられた家屋を想定する。「事故である洪水がペリル、家屋が河川に近接していることがハザード、そして洪水が発生する可能性(機会)がリスクである」と説明している。

 

 

併せてこんなことも書かれている。「保険者がある一定のリスクを引き受けるべきか否か、また引き受けたリスクにいくらの保険料を課すかを決定する際にはハザードについて斟酌することが重要である。ハザードは物理的ハザードまたは道徳的ハザードのどちらかでありうる」とある。

 

 

さらに物理的ハザードは保険の目的物の物理的または有形的な側面に関係し、道徳的ハザードは人の態度および行動に関係する」とあった。

 

 

3つの「危険」ペリル、ハザード、リスク。損害保険会社に在籍した人間として言葉の使い方にもう少し神経質になるべきだと感じた年明けである。

 

年末年始一冊の本を読んだ。佐和隆光著「経済学とは何だろうか」というものである。1982年2月発刊だから私が大学を卒業する寸前のものである。佐和氏は大学2年時に「計量経済学」を担当されていた教官である。テキストは「数量経済分析の基礎」というものだった。

 

 

 

この本を読んで知ったこと。

 

「新古典派経済学」「ケインズ派経済学」を折衷して成立した「近代経済学」は世界恐慌後の1930年代以降米国で制度化され1950年代に日本に移植された。そして1960年代には隆盛を誇ることになった。

 

しかしながら、その前提となる仮定の非現実さなどから1970年代に入ると批判と反撃にさらされた。批判した側にはマルクス経済学者などを含むが同書では総称して「ラディカル派」と呼ばれている。

 

私が大学に在学した1978年~1982年という時期は、まさに「近代経済学者⇔ラディカル派」の論争の真っただ中にあった。

 

京大では大学2年から学部講義を受講できた。確かに「経済原論」が近経とマル経で1年毎に交互に講義されるとか、原論総論がマル経で原論各論が近経などといった一貫性のない講義が続けられていた。

 

経済政策に至っては、日本経済の成長化政策とか安定化政策ではなく、大野英二教授のドイツの金融資本成立史的な講義が行われていた。講義にやたらドイツ語が出てきて、何処が経済政策なんだ?と疑問に思いながら毎週受講していた。要は、各教官が自分の専門分野を好き勝手に講義している状況だった。

 

 

そんな混沌とした状況の中で、受験勉強程度の知識しかない自分が、如何に専攻分野を見いだし将来に向けて勉強していくかの判断がどれほど難しかったかを同書を読んで痛感した。当時の自分を正当化するわけではないが、それを知っただけでも同書を読了した価値があったと思える。

 

今のようにネットで情報が取得できたならばそんな苦労は無かっただろうが。

 

日経新聞の1月3日朝刊のLOUIS VUITTONの広告ではないが、新年第一稿はカラフルにゆきたい。翻訳会社勤務時に送付していたメルマガから「色の名前を含む慣用句(イディオム)」を取り上げる。

 

日本語でも「赤っ恥」「青息吐息」など色を含む慣用句があるが、英語圏での「色」に対する感覚はやや異なるようだ。以下に例文を挙げて記載する。

 

 

 

1.・青

1) The company went into the red again.

「その会社はまた赤字になった

 

2) Let’s paint the town red tonight!

「今日は大いに飲もうじゃないか!」

 

3) While the police followed a red herring, they let the true criminal escape.

「警察が替え玉を追っている隙に、彼らは真犯人を逃がした。」

 

4) Official business is open to the charge of red tape.

「役所の事務は、とかく官僚的で面倒な手続きとなりがちである」

 

5) The boy was born with blue blood.

「その少年は名門の家に生まれた」

 

6) The news hit me like a bolt from the blue.

「その知らせは全くの寝耳に水だった」

 

7) She cried blue murder.

「彼女は金切り声をあげた」

 

8) That kind of chance comes once in a blue moon.

「そんなチャンスはめったに来るもんじゃないよ」

 

9) I am sorry for having said those things out of the blue last night.

「昨夜は突然にあんなことを言ってごめんね」

 

10) The president installed his true blue advisers to important posts.

「社長は自らの信頼できる側近を重要なポストに配置した」

 

 

2. 黄色・緑

1) That press is just a yellow journalism, don't believe what it says.

「あれはただの扇情的な雑誌に過ぎないから、何を言おうと信じることはないよ」

 

2) The suspect showed a yellow streak.

「その容疑者は臆病なところを見せた」

 

3) The students colored the excellent boy green with envy.

「生徒たちはその優秀な少年をとても羨ましがった

 

4) The grass is always greener on the other side of the fence.

隣の芝生は青い≪諺≫」

 

5) My grandmother had a green thumb (or had green fingers).

「私の祖母は園芸の才能があった」

 

 

3. ・黒

1) The politician had to make his name white about the bribery in the past.

「その政治家は過去の贈収賄について汚名を晴らさねばならなかった」

 

2) The event should be marked with a white stone.

「これは記念すべき出来事だ」

 

3) She told a white lie out of necessity.

「彼女は止むに止まれずたわいのない嘘をついた」

 

4) The hall became a white elephant although it cost the city a huge amount of money.

「市は莫大な費用を掛けてそのホールを建設したが、無用の長物となった」

 

5) The consultant blackmailed the director about his embezzlement.

「そのコンサルタントは横領をネタに部長を脅迫した

 

6) Those prisoners were transported to another jail in a Black Maria.

「あの囚人たちは護送車で別の刑務所に移送された」

 

7) The boy used to be a black sheep of the family.

「その少年はかつては家族の厄介者だった」

 

8) The bureaucrat proved that black was white.

「その官僚は黒を白と言いくるめた

 

9) The president succeeded in turning the company into the black.

「社長は会社の黒字転換に成功した」

 

 

4. 紫・ピンクグレー茶色

1) Finally, the youngest prince was raised to the purple.

「結局、最年少の王子が帝位に就いた

 

2) The poor girl married into the purple.

「その貧しい少女は玉の輿に乗った

 

3) Who goes a-mothering finds violets in the lane.

親をたずねて里帰りする者は、小径にすみれの花を見出す≪諺≫」

 

4) Then, my grandfather was quite in the pink of health.

「その時、祖父はとても元気だった」

 

5) He drank so much as to see pink elephants at the farewell party.

「彼は送別会で酩酊して幻覚を見るほどまで酒を飲んだ」

 

6) There was a gray area between personal and business expense in the report.

「その報告書には、個人支出か業務上の支出かはっきりしない曖昧な部分があった」

 

7) Reportedly, someone sent a graymail to the Press yesterday.

「報道によると、昨日何者かが政府機密を暴露するという脅迫文をマスコミに送ったとのことである」

 

8) That executive was surrounded by many brown nosers.

「あの取締役は多くのご機嫌取りたちに囲まれていた」

 

9) The hunter fired into the brown.

「その猟師は、鳥の群れに向かって手当たり次第に発砲した

 

昨年12月は来客も多く楽しい中で過ぎ去り、今日は晴天にも恵まれ穏やかな年明けとなりました。拙ブログの読者の皆様、2023年、新年明けましておめでとうございます。

 

昨年5月から「続・英語の散歩道」シリーズを掲載してまいりましたが、年頭からは「新・英語の散歩道」と題して引き続き英語・その他の記事を掲載していこうと考えております。本年も拙ブログをどうぞよろしくお願いいたします。

 

また、本年が皆様にとって幸多き年となりますようお祈り申し上げます。

 

2023年1月1日

 

流離の翻訳者

 

 

「古書への旅」を始めて2か月。随分と心境が変わってきた。学生時代の不勉強を懺悔するかのような巡礼の旅である。

 

専門書の文章の中に心が浄化されてゆく心地がする。これからも果てしない旅路は続く。

 

 

今年最後の投稿は少し明るい曲で終わりたい。随分昔のCM曲だ。何故かしら心が癒される曲である。

 

今年は「地政学的リスク」という言葉をよく聞いた。米中の対立、ロシアのウクライナ侵攻によるリスクを指している。

 

本来「地政学」とは政治現象と地理的条件の関係を研究する学問のことで、主にドイツにおいて第一次大戦後の政治的関心と結びつき発展した。ナチスがこれを支持したらしい。

 

 

「地政学的リスク」とは、ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、もしくは世界経済全体の先行きを不透明にするリスクのこと、をいう。

 

地政学的リスクが高まれば、地域紛争やテロへの懸念などにより、原油価格など商品市況の高騰、為替通貨の乱高下を招き、企業の投資活動や個人の消費者心理に悪影響を与える可能性がある、らしい。まさに現在の経済情勢に通じるものがある。

(以上、野村証券「証券用語解説集」より引用・一部改訂)

 

 

 

 

The geopolitical risk (GPR) index spiked around the Gulf War, after 9/11, during the 2003 Iraq invasion, during the 2014 Russia-Ukraine crisis, and after the Paris terrorist attacks. High geopolitical risk leads to a decline in real activity, lower stock returns, and movements in capital flows away from emerging economies and towards advanced economies. When we decompose the index into threats and acts components, the adverse effects of geopolitical risk are mostly driven by the threat of adverse geopolitical events. Extending our index back to 1900, geopolitical risk rose dramatically during the World War I and World War II, was elevated in the early 1980s, and has drifted upward since the beginning of the 21st century.

 

(拙・日本語訳)

地政学的リスク(GPR)指数は、湾岸戦争前後、9・11(アメリカ同時多発テロ)後、2003年のイラク侵攻中、2014年のロシア・ウクライナ危機中、およびパリ同時多発テロ後に急上昇した。高いGPRは、実質経済活動を低下させ、株式リターンを低下させ、また新興国から先進国への資本の移転を引き起こす。GPR指数を脅威と行動という構成要素に分解すると、GPRの悪影響が主に地政学上の好ましくない出来事の脅威により齎されることがわかる。本指数を1900年まで遡ると、GPRが第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に劇的に上昇したこと、1980年代初頭にも上昇したこと、また21世紀初頭から上昇し続けていることがわかる。