流離の翻訳者 青春のノスタルジア -36ページ目

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

今、中野信子さんの新刊「脳の闇」を読んでいる。いつもながら辛辣な内容だが目から鱗が落ちる思いをしばしばする。脳の働きは実に不思議なものだ。

 

今回、同書の第二章「脳は、自由を奪う」から一節を取り上げてその英訳に挑戦してみたい。

 

 

 

 

(原文)

そもそも脳は、怠けたがる臓器である。脳は、人間が身体全体で消費する酸素量のおよそ4分の1を使っている。そのため人間の体は本能的に、脳の活動量を抑えて負荷を低くしようとする。ところが、「疑う」「慣れた考え方を捨てる」といった場面では、脳に大きな負荷がかかるのだ。自分で考えず、誰かからの命令にそのまま従おうとするのは、脳の本質ともいえる。

(中野信子著「脳の闇」p.55より引用)

 

(拙・和文英訳)

In the first place, human brain is an organ which is apt to spare itself. The brain consumes about one-quarter of the total amount of oxygen consumed by the entire human body. For this reason, the human body instinctively tries to restrain the brain activities in order to reduce its load. However, in cases where a person has to “doubt” or “abandon one’s experienced idea,” a heavy load is applied to the brain. Therefore, it can be thought that it is the real nature of the brain to tend to follow someone’s instructions without thinking by itself.

 

社会人になってからは大抵「多数派」(マジョリティ)に属していたつもりだった。それが変わったのが翻訳会社に勤務するようになってからである。

 

 

地場の翻訳部門を有する技術系会社に10年ほど勤務したが、私のような大卒文系は明らかに「少数派」(マイノリティ)だった。周りは殆ど工業系(大学・高専・高校)出身だった。話が合わず何かと苦労した。

 

 

ただ結局のところ、多数派に属していても何か自分の個性を発揮しようとすれば、良きにつけ悪しきにつけ、浮きあがってしまうものである。それが羨望の目で見られたり仲間外れにされたりすることに繋がる場合もある。

 

結論から言えば、他人と自分を比較することはくだらないことである。

 

 

 

以下の京大の問題は、男性中心の会社の中で女性が「マイノリティ」になり得ることを提言したものである。因みにLGBTなど「性的マイノリティ」という言葉が公文書でも使われるようになったのは、2006年7月「モントリオール宣言」以降のことらしい。

 

 

(問題)

「マイノリティ」という言葉を聞くと、全体のなかの少数者をまず思い浮かべるかもしれない。しかし、マイノリティという概念を数だけの問題に還元するのは間違いのもとである。人種あるいは宗教のような属性によって定義づけられる集団は、歴史的,文化的な条件によって社会的弱者になっている場合、マイノリティと呼ばれる。こうした意味で、数としては少なくない集団でもマイノリティとなる。例えば、組織の管理職のほとんどが男性である社会では、女性はマイノリティと考えられる。

(2019年 京都大学)

 

(拙・和文英訳)

If you hear the word “minority,” you might first imagine a small number of people of the whole. Nevertheless, it could be a source of error if you regard the concept of minorities only as a matter of numbers. Groups of people who are defined by the properties, such as races or religions are called minorities if they become socially weak by virtue of historical or cultural conditions. In this sense, even a group of people who is not small in number could be a minority. For example, in a society where most of administrative positions of an organization are occupied by men, women are thought to be a minority.

 

中学生くらいまでは、たまの休暇で父が日中自宅に居ると何かと鬱陶しかった。くだらないテレビ番組を観ていたりブラブラしたりしていると文句を言われた。そんな時は友人の家にしけこむのが得策だった。夕食時に帰宅して家族が揃うと何となくほっとできた。

 

 

父は私にも弟にも厳しかった。幼い頃に父親(私の祖父)を亡くしており、4人の弟たちを従える長男として随分と苦労したらしい。何処かに「父(祖父)のような理想的な父親にならねば」という気持ちがあったように思われる。

 

ただ、父が思い描く「理想的な父親」とは、父が幼い頃の父親(祖父)から創造した虚構の父親像だったのかも知れない。愛情を表現するのが下手な人だった。

 

 

「英文解釈難問集」から京都大学の過去問である。まるで自分のことが書かれているように思えてくる。

 

 

 

(問題)

As a boy, I had been rather frightened of my father, since his ideas of what a healthy boy should like did not agree with mine. The hardships of his childhood had shaped his character in a very special way. His driving ambition was to do what his father would have done if he had lived, and he was inspired by the image which he had made of a father whom he lost when he was a small boy. The image was somewhat larger than life.

(京都大学・1978年以前)

 

 

(拙・英文和訳)

少年の頃、私は父をかなり恐れていた。というのは、健全な男子がどうあるべきか、ということについて、父と私の考え方が一致しなかったからだ。父の少年時代の耐えがたい苦難が、父の性格を非常に特別な方法で形作っていた。父の精力的な野心が、父に自分の父親(私の祖父)が生きていたならば、したであろうようなことをさせていた。そして、父は父が幼い頃に亡くした父親(私の祖父)の偶像に奮起させられていた。その偶像は実物よりもいくぶん偉大なものだった。

 

久しぶりに文法に関するテーマを書いてみる。これも以前のメルマガの刷り直しだが、以前から疑問に思っていたがなかなか調査しきれなかったものだ。

 

 

和訳でも英訳でも「It is+形容詞…+for人+to不定詞」(「人が~するのは…だ」の意味)の構文は非常によく使われている。

 

It is difficult for early high school students to solve this differential equation.

高校低学年がこの微分方程式を解くのは難しい

 

この文のto不定詞の目的語(this differential equation)を主語にして書き換えた文、すなわち、

            ↓

This differential equation is difficult for early high school students to solve.

「この微分方程式は(高校低学年が)解くには難しい」

 

を「循環構文」または「難易構文」(Tough Construction)と呼ぶ。今回、この「難易構文」(以後「難易構文」に統一)に焦点を当て、英文例を挙げて使い方などを見てゆく。

 

1. 難易構文をとる形容詞

難易構文をとる形容詞は以下のようなものである。

意味

形容詞の例

難易

Tough, hard, difficult, easy, …

快・不快

Comfortable, uncomfortable, pleasant, unpleasant, horrible, painful, …

危険

Dangerous, hazardous, insecure, unsafe, …

不可能*1

Impossible, not possible, …

適不適・寒暖・重量・醜美*2

Good, bad, nice, beautiful, hot, cold, heavy, light, …

*1: 形容詞possibleは単独ではこの構文をとれない。

*2: この分類の形容詞は「It is+形容詞+for人+to do」の形に戻すことはできない。

 

2. 難易構文の構造、使用上の注意点など

(1) 上の例でthis differential equationが解かれるものだからといってto不定詞を受動態にして、

            ↓

This differential equation is difficult for early high school students to be solved.(×)

とするのは誤りである。何故なら主語が動詞solveの後ろの目的語と同じため省略できるという難易構文の本来的な構造に反するからである。

 

(2) 動詞の後ろに前置詞が必要な場合がある。これは動詞と目的語の関係を保つためである。

a) This fountain pen is difficult to write with.

≒ It is difficult to write with this fountain pen.

「この万年筆は書きにくい」

 

b) This lake is dangerous for children to swim in.

≒ It is dangerous for children to swim in this lake.

「子供がこの湖で泳ぐのは危険だ」

 

c) This bed (pillow) is comfortable to sleep in (with or on).

≒ It is comfortable to sleep in this bed (with or on this pillow).

「このベッド(枕)は寝心地が良い」

 

d) The up-and-coming fashion designer was hard to work with.

≒ It was hard to work with the up-and-coming fashion designer.

「そのやり手のファッション・デザイナーは一緒に働きづらい奴だった」

 

(3) 上記文例で記号「≒」を使っているが、これは難易構文が主語(例えば「この万年筆」)について記述しているのに対して、書換え分は「この万年筆で書くこと」について記述しており、本質的に同義ではないと考えられるからである。

 

(4) 1.の表下の*1:形容詞possibleは単独では難易構文をとれないとは、動詞の後ろにpoorly, well, badlyなど様態を表わす副詞や形容詞を付加しなければならない、という意味である。

 

e) His translation reads well.(〇 ∵能動受動態)

≒ His translation is possible to read well.(〇 ∵難易構文)

≒ It is possible to read his translation well.(〇)

「彼の翻訳文は読みやすい」

 

e’) His translation reads.(× ∵非文法的)

≒ His translation is possible to read.(△ ∵非文法的?)

≒ It is possible to read his translation.(△ ∵非文法的?)

 

3. 難易構文のその他の英文例

f) That physics teacher is easy to talk to.

「あの物理の先生は話しかけやすい」

 

g) The veteran movie director is tough to please.

「その老練の映画監督を喜ばせるのは難しい(その老練の映画監督は気難しい)」

 

h) That female section manager is uncomfortable to watch.

「あの女性課長の顔を見るのも不愉快だ」

 

i) As a matter of fact, the trading firm was horrible to work for.

「実際のところ、その貿易会社はブラック企業だった」

 

j) The story in her elementary school days was painful to hear (listen to).

「彼女の小学生の頃の話は聞くに堪えないものだった」

 

k) The sales plan presented by the director was impossible to attain.

「部長が提示した販売計画は達成できないものだった」

 

l) The scent from the flowers is impossible to describe.

= The scent from the flowers is beyond description.(成句)

「その花の香りは言葉では表現できない(筆舌に尽くしがたい)」

 

m) The college student didn’t know how much alcohol was good to drink.

「その大学生は、酒の飲み方を知らなかった」

 

n) Indeed snow is beautiful to look at, but cold to touch and tough to clear away.

「確かに雪は見るには美しいが、触ると冷たいし掻くのも大変だ」

 

o) This knock-down furniture is light to carry, and easy to keep clean.

「この組立式家具は運ぶのも楽で、掃除も簡単です」

 

 

梅棹忠夫著「知的生産の技術」を読み終わった。ワープロが無い時代の原稿執筆者が如何に大変だったかがわかった。また、複写機なども普及しておらずコピー一つするにしても随分苦労したことが理解できた。

 

 

 

同書に日記を書き続けることの意義についての面白い表現がある。梅棹氏「日記は自分という他人との文通」だと定義している。

 

これを段階を追って説明すると、まず「記憶と記録」について、

「記憶というものは本当にあてにならないものである。どんなに記憶力の優れた人でも、時間とともにその記憶はたちまち色褪せて、変形し、分解し、消滅してゆくものなのである。記憶の上にたって、精密な知的作業を行うことは、不可能に近い。記録という作業は、記憶のその欠陥を補うためのものである。」との記述がある。

 

そして「日記を書き続ける意義」について、

「『自分』というものは、時間とともに、たちまち『他人』になってしまうものである。日記の形式や技法を無視していたのでは、すぐに、自分でも何のことが書いてあるのか、わからなくなってしまう。日記というものは、時間を異にした『自分』という『他人』との文通である、と考えておいた方が良い。」と記載されていた。

 

 

すなわち、記憶を失ったら自分は他人と同じなので、日記の記録形式や技法は決めておかねばならない。そうすれば、過去の日記を見て、その時の自分の経験を知ることができ、過去の自分と文書でやり取りする(文通する)ことができる、ということである。

 

 

 

 

パソコンがある現代では、業務日報や月報など、決まった形式でデータを残すことがビジネスでは当たり前になっているが、ワープロすら無かった1969年に「日記」に関してこのような発想をされていることに深い感銘を受けた。

 

 

梅棹忠夫氏(1920-2010)の晩年の著作についても読んでみたくなった。

私の場合、旅は行き先を決めたら泊まるところだけを確保して、あとは行き当たりばったり、成り行きに任せることが多い。事前にガイドブックなどを調べることは殆どない。元々スケジュールに拘束されるのが嫌いだからだ。

 

父は私とは異なり、きちんと旅程を立てる人だった。いつも時刻表やガイドブックを見ながら楽しそうに計画していた。「段取り」を考えるのが好きだったのかも知れない。私は母親に似たようだ。

 

 

とは言っても出張などの場合は、行き先が決まったら何かとそれに振り回されて計画を立てるのは確かである。「支配されている」と考えるか「楽しい」と考えるか。まあ主観の問題である。

 

 

 

(問題)

あなたがどこかの場所を訪れるとすると、当然のことながら土地が主人公となる。ガイドに案内されようと、ガイドブックを持って歩こうと同じことなのだ。まず、どこへ行こうかとプランを立てるそもそもの始まりから、場所が主導権を握り、あなたは従順な奴隷となってしまう。

(1993年 京都大学)

 

(拙・和文英訳)

If you make a visit to a place, the land itself becomes the leading character as a matter of course, which applies to every case, whether you are guided by a guide, or you walk while carrying a guidebook with you. From the very beginning where you plan to go somewhere, the destination takes the initiative, while you become an obedient slave to it.

 

昨今、鶏卵(卵)の値上がりが止まらない。1パック200円ほどで買えたものが300円半ばまで上昇している。卵は以前から「物価の優等生」と呼ばれてきたが、価格高騰の原因は、①ニワトリの餌代の高騰②鳥インフルエンザによる供給量の減少である。

 

これを「卵クライシス」とも呼ぶようである。

 

 

 

ここのところ、英作文と英文解釈の記事が続いているので、今回は気分を変えて「卵」に関するイディオムを取り上げる。本Articleは翻訳会社勤務時に発信したメルマガの記事を若干改訂したものである。

 

1. 卵に係わるイディオム・慣用句

(1) 名詞として

a) He’s a good egg (bad egg).

「彼はいいやつ(悪人)だ」

 

b) Don't kill the goose that lays the golden eggs.

金の卵を生むガチョウを殺すな」

 

c) That client’s person in charge is a tough egg to crack.

「あの取引先の担当者は扱いにくい人物だ」

 

d) The grandfather must have hidden a nest egg somewhere.

「祖父は、まさかの時のための蓄えをどこかに隠したにちがいない」

 

e) It seemed that his work this time was somewhat of a curate’s egg.

「今回の彼の作品は、幾分か玉石混淆(良いところも悪いところもあるよう)に思えた」

 

f) In his splendid mansion, the bed room was especially an egg in his beer.

= In his splendid mansion, the bed room was especially the lap of luxury.

「彼の豪邸の中で、特に寝室は贅沢の極みだった」

 

g) The twin sisters are as like as two eggs (as like as two peas in a pod).

= One of the twin sisters is a mirror image of another.

「その双子の姉妹は瓜二つだ」

 

h) The young engineer will rise in the company as sure as eggs are eggs.

「その若いエンジニアはきっと会社で出世するだろう」

 

i) Go fry an egg! (Go suck an egg!)

とっとと失せろ!あっちへ行け!黙れ!クソくらえ!)」

 

j) Last one in is a rotten egg.

最後に中にいるの(置いてきぼり)は腐った卵だ早く来いよ!行こうぜ!

※子供たちが遊びで使う決まり文句。

 

k) The experienced mathematics teacher had (was left with) egg on his face when a female student pointed out his errors.

「ある女子生徒から間違いを指摘されて、ベテランの数学教師は大恥をかいた

 

l) Do I have egg on my face?

「何かへまでもしましたでしょうか」

 

m) Yesterday I had eggs on the spit all day long.

「昨日は一日中忙しくて手が離せなかった

 

n) In order to inaugurate an enterprise, she put all her eggs into one basket.

「起業するために、彼女は全財産をつぎ込んだ

 

o) Regarding the foreign bond, the investor obviously brought his eggs to a bad market.

「その外国債券について、その投資家は明らかに見込み違いをした

 

p) Children’s bad habits should be crushed (checked) in the egg.

「子供の悪癖は芽のうちに摘んでおく必要がある」

 

q) The employees were always walking on eggs lest they should hurt the female president’s feelings.

「その女性社長のご機嫌を損ねないように、従業員たちはいつもはらはらしていた」

 

r) The negotiation with the customer was felt as if he were treading on eggs.

「その顧客との交渉は、彼にはまるで薄氷を踏んでいるかのように感じられた」

 

s) I’m afraid she has laid an egg as the leading part of this drama.

「彼女は、このドラマの主役としては失敗だったんじゃないかな」

 

t) It was such outlaws who had laid the eggs of the rebel army that overturned the corrupt bureaucracy later.

「後に腐敗した官僚制を打倒した反乱軍の礎を築いたのは、そんな無法者たちであった」

 

u) That’s as good as teaching (telling) your grandmother to suck eggs.

「それは、釈迦に説法も同然だよ」

 

(2) 動詞として

v) A drunken supporter egged the team’s manager out of the stadium.

= A drunken supporter pelted the team’s manager with eggs out of the stadium.

「酔ったファンがスタジアムの外でそのチームの監督に卵を投げつけた

 

w) The bad crowd egged the boy on to shoplift.

= The bad crowd enticed (allured, tempted) the boy to shoplift.

= The bad crowd inveigled the boy into shoplifting.

「不良グループがその少年をそそのかして万引きをさせた

 

x) Egged on (Goaded on, Instigated, Set on) by my friends, I jumped from the top of the rock into the water.

「友達にけしかけられて私は岩の上から水の中に飛び込んだ」

 

※w), x)の動詞eggは綴りは同じでも卵のeggとは語源が異なる。

 

時節は啓蟄を過ぎて水道の水の冷たさが少し緩んできた。まさに「水温む春」である。

 

 

英作文の面白さは、基本ちょっとひねった日本語を如何に手持ちの構文や語彙で処理していくかにある。とくに動詞や形容詞の選定が面白い。

 

予備校の頃の英作文の講師は、覚えたばかりの難易度の高い妙な語彙を使って英文を作成することに対して我々を厳しく戒めた。そんな英文に限って意味が頓珍漢なものになっていた。

 

「スッキリした構文で適切な語彙を使って書く」ことを英文の「膿を出す」と呼んでいた。かなり印象的な講義だった。

 

 

受験英作文の場合、こなれた日本語なので意味不明なところはないが、これが産業翻訳となると全く異なる。原稿に誤字・脱字もあれば意味不明な箇所も多々ある。これを逐一顧客やコーディネーターに問い合わせていたのでは仕事にならない。

 

よほど不可解なものでない限り、翻訳者がある程度の推定や創作によって製品化する。そのような処理を行った箇所は「訳者コメント」として一覧表にして提出する。そんな作業を行った頃が今は懐かしい。

 

 

以下はいかにも京大らしいかなり古い問題である。日本語の語彙もさほど難しくはない。京都やフローレンス、ヨーロッパの大学に思いを馳せながら処理したい内容である。

 

 

(A)

(問題)

京都とフローレンスは類似点が多い。いずれもよく知られた古い都市である。双方とも丘に囲まれ、冬はひどく寒く、夏は耐えがたいほど暑い。ともに自国の文化の中心とみなされ、観光客にとっては尽きせぬ宝庫である。

(1972年 京都大学)

 

(拙・和文英訳)

There are many similar points between Kyoto and Florence. Both are well-known and old cities. Because the both cities are surrounded by hills, it is terribly cold in winter, while it is intolerably hot in summer. As the both cities are regarded as the cultural centers of Japan and Italy, they have been playing a part as everlasting sightseeing reservoirs for tourists.

 

 

 

 

(B)

(問題)

ヨーロッパの古い大学の多くは大都市の喧騒を離れた美しい田園か小さな町にあった。時代の目まぐるしい変化から一定の距離を保ち、思想と瞑想のうちに過去の文化遺産を検討し、次第に新しい文化をつくりあげていった。

(1992年 京都大学)

 

(拙・解答例)

Many universities in Europe were in beautiful countryside or small towns away from the busy and noisy environment of large cities. Scholars in the universities had studied cultural heritages in the past amid the thoughts and meditation, and gradually developed a new culture, while keeping a certain distance from the hectic changes of the times.

 

ハイデルベルク大学(ドイツ)

 

ソルボンヌ大学(フランス)

 

古書への旅の一環として、梅棹忠夫(1920-2010)著「知的生産の技術」を読み始めた。まだ「はじめに」を読んだところだが、とても1969年の著書とは思えない未来への深い洞察が感じられた。

 

確か、東京で勤務していた頃、同期の部屋で見かけた本である。いずれは読みたいと思っていたものだ。「知的生産」とは梅棹氏の造語で「頭を働かせて何か新しいこと――情報――を人にわかる形で提出すること」を言う。

 

「知的生産」の対立概念に「知的消費」がある。例えばマージャンや将棋を楽しむこと趣味としての読書もこの「知的消費」に当たるらしい。

 

 

 

以下の問題にはたくさんの諺が隠れている。「転ばぬ先の杖」「見る前に飛べ」「失敗は成功のもと」……などなど。全体としては”Never give up!”という趣旨のようである。

 

そろそろ「サクラサク」の時期になった。受験生諸君!!君こそがヒーローだ!!

 

 

(問題)

Ⅲ.次の文章を英訳しなさい。

言うまでもなく、転ばぬ先の杖は大切である。しかし、たまには結果をあれこれ心配する前に一歩踏み出す勇気が必要だ。痛い目を見るかもしれないが、失敗を重ねることで人としての円熟味が増すこともあるだろう。あきらめずに何度も立ち上がった体験が、とんでもない困難に直面した時に、それを乗り越える大きな武器となるにちがいない。

 

(2021年 京都大学)

 

 

(拙・和文英訳)

Needless to say, it is important to keep it in mind that prevention is better than cure. However, it is occasionally necessary to have the courage to take a step forward before warrying about the results vaguely. Indeed such a step may be painful to you, but repeated failures will sometimes ripen yourself as a person. The experience that you have stood up many times without being discouraged must be a strong weapon to overcome unexpected difficulties you will face in the future.

 

前回「鏡」に関するArticleを書いたが、あることを思い出した。一つは高校3年時の物理の教師のことである。

 

彼の試験には正規の問題以外に「番外」という問題があった。正規の問題が零点でも「番外」が解ければ合格点を与える(欠点とならない)というものである。

 

この「番外」の問題で今も覚えているものがある。以下のような問題だった。

 

「鏡は左右が逆にうつるのになぜ上下は逆にうつらないのか?」

 

私はこの問題には挑戦しなかったがクラスで一名だけ正解した生徒がいた。その答えは「実は上下も逆にうつっている」である。

 

試験終了後の解説の授業で先生は朝永振一郎著「鏡のなかの世界」という本を紹介した。この本を読めば答えがわかるらしい。教科書よりは遥かに難しい(笑)。

 

 

 

もう一つは「鏡」に関して東大の英作文に面白い問題がある。以下に紹介する。

 

 

(問題)

下の絵に描かれた状況を簡単に説明したうえで、それについてあなたが思ったことを述べよ。全体で60~80語の英語で答えること。

 

 

(2015年 東京大学)

 

 

(拙・解答例)

A boy is surprised to find his face appeared on the mirror, and the face on the mirror is poking its tongue out at himself. Now, they are facing each other.

The face on the mirror is actually a guardian spirit for him. To tell the truth, that day, he has got a terrible score in the test at school, and was so disappointed. The guardian tries to make him laugh by poking its tongue out at him. (78 words)