「ぬか漬け」は英語でrice bran picklesという。私は漬物が好きで、その中でもこのぬか漬けが大好物だ。祖母や母の世代には、家庭に「ぬか床」(rice bran pickling beds)があって、自家製のぬか漬けを作っていた。ぬか漬けにはその家独自の風味があった。
我が家でも、以前妻がこのぬか漬けづくりに挑戦したが、ぬか床の維持・管理が難しく結局断念してしまった。昨今はスーパーなどでも本物のぬか漬けを置いているところは少なく、「道の駅」などで時々見つけると急いで買い物かごに入れていた。
私は、月一回ある病院に通っているが、その近くに古い市場がある。この市場は私が幼い頃からあった。市場には、八百屋、魚屋、肉屋、花屋、総菜屋や食堂などが昭和の雰囲気で営業されている。
この市場の中で、年配の女性が露店で自家製のぬか漬けを売っているのを見つけたのが数年前のことである。安くもあり、とりあえず買ってみた。漬かりは100点満点とは言えないものの、本物であることは間違いない。私はやや漬かり過ぎの酸味が強いものが好きだが、少し漬かりが足らないようだ。しかし、贅沢は言っておられない。
以来、ぬか漬けが食べたくなると、この市場に顔を出すようになった。
以前勤務していた職場で、ある年配の男性が、ぬか床の代わりに味噌とヨーグルトで漬けたキュウリを持ってきて食べさせてくれた。ぬか漬けとほぼ同じ風味なのに驚いた。当時独り暮らしだったこともあり、早速大きなタッパーを買って自家製ぬか漬けに挑戦した。
それなりのものができ上がったが、やはり少し違う気がした。また、味噌とヨーグルトのぬか床は、結構水分が出て、思いのほか維持・管理が面倒だった。2か月くらい続いたが、結局断念してしまった。やはり美味しいものを作るのは、それなりに大変なのである。