晩年/カラビンカ
1. 遺歌
2. 鉄風雷火
3. 与太郎哀歌
4. 不浄
5. 天井裏発電機
6. 彼は誰
7. 赫い花
8. 蝶に古疵
9. 太陽の牙
10. 彼岸花
11. 春を逝く人
カラビンカの1stフルアルバム。
Vo&Gt.工藤鬼六、Ba.松島ティル、Dr.悠介による3人編成になったのは2016年。
実に8年を費やして、遂にキャリア初のフルアルバムがリリースされました。
ブックレットにバンド名や作品タイトルの記載はあるものの、表面が内向きに綴られているので、ジャケット上からは何の文字情報も読み取れない仕様になっています。
これは、歌詞を縦書きにて掲載しているので、そのお作法から考えれば、表紙が内側にくるべきだという日本語へのこだわりによるもの。
ライブ会場とオフィシャル通販限定での販売なので店頭での誤認を心配する必要はないですし、彼らならではのギミックになったのでは。
白塗りに和服、あるいは学ランという出で立ちは、どうあがいてもアンダーグラウンド。
音楽性についても、ひたすらにどす黒い怨念を込めた呪い歌や、因習村に伝わるわらべ歌のような泥臭く、おどろおどろしさすら感じ取れる和風ダークネスが大半で、閉塞的な息苦しさや逃れられない絶望感に包まれています。
もっとも、和を感じさせるのは、方言も織り交ぜて土着的な民謡風に仕上げる歌メロの部分。
サウンド面では、シューゲイザー、ブラックメタル、オルタナ風のギターロック、その他諸々、想像以上に引き出しが多くて驚かされますよ。
ラテン調のダンスチューンや、ムーディーなジャズまであるとは思わないじゃない。
細く枯れた歌声で陰鬱な世界観を助長する「遺歌」でスタート。
あえてシンプルな言葉を使うことで、呪いの対象に向けた執念を表現すると、終盤ではヴォーカルスタイルが豹変。
降霊術でも使ったのかと思うほど鬼気迫る、工藤さんの歌声の迫力たるや。
その勢いのまま「鉄風雷火」、「与太郎哀歌」と続けて、あっという間にアルバムを真っ黒に染め上げていました。
落ちるところまで落ちた先には、代表曲という言葉がまったく似合わない「天井裏発電機」。
食欲がなくなるほどの薄気味悪さで、後味悪く前半戦を締めくくっています。
インストナンバーの「彼は誰」でひとつ空気をリセットすると、幅の広さを示そうかという後半戦のはじまりです。
松島さんが作曲を担当した「赫い花」の再録版で違いを作ると、飛び道具とも言える「蝶に古疵」や「太陽の牙」を差し込んで、バラエティ性を広げていくアプローチ。
「彼岸花」では変拍子を駆使したテクニカルな一面も見せつつ、土着的な世界観に帰ってくると、最後に構えているのは、もうひとつの代表曲「春を逝く人」。
恨み、妬みの方向に尖った楽曲がインパクトを持つのはある種の必然として、工藤さんの繊細かつ純真な感性は、切ない恋慕の念に振り切れたとて鋭さを失うことはなく。
加えて、年齢を重ねて深みを増した表現が、その純粋さに不変性を上乗せ。
望みが永遠に叶わないことに、重たすぎる説得力を与えているのですよね。
生半可な覚悟で聴くと精神力をガリガリ削られる作品。
しかし、その念の強さは過去の作品すら凌駕するものであり、聴くことで浄化される想いがあるのも事実。
何なら、そこらのパワーストーンよりも、お守りとしてのご利益はありそうです。
アルバムというより、"呪物"と捉えたほうがしっくりきそうな1枚。
<過去のカラビンカに関するレビュー>