三千世界に鴉鳴く / カラビンカ | 安眠妨害水族館

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三千世界に鴉鳴く/カラビンカ


1. ナナシノ唄
2. 宵待草
3. 老いた兎
4. 不浄
5. 三千世界に鴉鳴く
6. 天井裏発電機

カラビンカによる2ndミニアルバム。
11月に開催された第二回単独公演 「きまぐれサンダーロード」より、販売が開始されました。

ドロリドロリとおぞましく、怨念めいた楽曲の数々。
土着的なメロディと、ポストロックサウンドとのミスマッチ。
従来の彼らにあった強みはそのままに、よりディープに、より濃密にカラビンカの世界観に迫ったのが、本作、「三千世界に鴉鳴く」である。

1曲目の「ナナシノ唄」から、"死んじまえ"の連呼でインパクト大。
呪いの儀式のようなミドルテンポのリズムに乗せて、こんなフレーズが何度も繰り返されるのだから、古いしきたりが残る人里離れた村に迷い込んでしまったのではないかと錯覚してしまいます。
続く「宵待草」は、入手困難となっているシングルのリテイク。
ロックテイストが強まるも、歌メロはやはり童謡チックで、不気味さを帯びる。
全体的にザラザラした音質の仕上がりなのですが、それが、リアリティのある時代感を演出しているようでもあり、この作品においてはハマっているような気がしますね。

「老いた兎」は、Ba&Vo.髙橋サヲリーナさんが作詞・作曲を担当したミディアムナンバー。
本人がボーカルも担当しているのですが、工藤さんに負けず劣らずの力強い迫力があり、女性だからこその説得力に。
おどろおどろしくも、切なさがよぎるのは「不浄」。
サビの終わり、無音になって工藤さんの歌声だけが響き渡る構成が格好良いです。
直後に入る、ジュン月影さんのドラムのキメも含めて、ツボの一言。

キラーチューンを選ぶとしたらこの曲、というのは、表題曲の「三千世界に鴉鳴く」。
エキゾチックなギターのリフと、ダンサブルなリズム。
ノリが良いのか、陰鬱なのか。
アッパーなのか、ダウナーなのか。
これまでのカラビンカにはなかったアプローチで、かと言って作品の中で浮くこともない、「春を逝く人」とは異なるタイプの名曲なのである。

そして、ラストには、まさかこれを持ってくるのか…
そのドギツさに嫌悪感を覚えるリスナーがいてもおかしくない、「天井裏発電機」。
昭和文学のような語り口で、生理的に吐き気を催すような歌詞をヌラヌラと。
この後味の悪い終わり方こそ、カラビンカというバンドの、工藤鬼六というミュージシャンの真骨頂ではなかろうか。

聴きやすさ、とっつきやすさは、前作のほうがあったと思う。
ただし、精神的に潜っていくような深みがあり、リスナーをズブズブと感情の渦に飲み込んでしまおうとするパワーは、前作以上に強烈になっています。
そのうえで、ライブ感があるというのも面白い。
ひたすら内向的なのに、ライブで聴きたいという気持ちが高まってくるのだよな。

間違いなく聴く人を選ぶが、間違いなく名盤。
現時点で、あまり入手しやすい音源ではないのがもったいないのですが、今後流通したりはするのでしょうか。

<過去のカラビンカに関するレビュー>
春を逝く人
ひとでなし