とにかく古事記は説明不足。
ならばその行間を妄想で埋めましょう。
そんな菊田の古事記の行間。
第一弾の『スサノオ神楽』は解読アリで未完でありますが💧
今回のお話は、頭に現れた純粋な物語としての行間です。今のところ。
という事で、書く書くと言っていました
猿田彦大神と天鈿女命の物語。
射手座満月の夜に始まり、今夜は2話目。
始まり始まり*
昨日の続きです↓
天孫降臨の旅の再開である。
一行は天鈿女命を先頭に、まだ光を放つ猿田彦神の待つ分岐点を目指した。
「瓊瓊杵命様、私は猿田彦神と共に先導します」
天鈿女命はそう告げると、真っ先に大地に降り立った。
そして一行を待っていた猿田彦神の前に歩みを進めた。
長身の猿田彦神は空から近づく一団を目にして、随分前から立ち上がって迎えていた。
上空から見ている時はさほど分からなかったが、
女神の中でも背が高い天鈿女命にとっても、その身の丈は高かった。
「先ほどは失礼した。私の名は天鈿女。
此度、天照大御神様から御子の天降りのお伴を仰せつかった」
天鈿女命はまず名乗り、続けて一団に猿田彦神の事を説明した。
「高天原も美しい国である事でしょう。
この中津国にはきっと珍しく面白いものが多くあると思います。
高千穂までのこの国の道をお楽しみ下さい」
猿田彦神は笑顔でそう言うと、分かれた中の1本の道を進み始めた。
ふと猿田彦神の足元を見ると、かさ上げするような木製の履物を履いている。
「珍しい履物だな」
天鈿女命は小走りで追いつき、声をかけた。
「ああ。こうでもしないと歩く速さが抑えられないだろうから」
「速さ?」
確かに猿田彦神の履物は均衡がとり辛そうだ。
地上よりも実際の足がかなり浮いている。この履物がより背丈を上げていた。
見るだけでも歩くのに難儀しそうな履物だが、
猿田彦神はすいすいと山道を進んでいく。
天鈿女命はその脚さばきに感心しながら、その背中を追った。
「意外に早いな」
「?」
突然の猿田彦神の一言に、天鈿女命は顔を上げた。
猿田彦神が天鈿女命を見て、微笑んでいた。
「早い?」
「ああ。高天原の神はもっとのんびりとしか動けないと思っていたよ。あ、でも」
そう言って、猿田彦神は背伸びして遠くに目をやった。
「早いのは天鈿女命だけだな」
「え?」
天鈿女命も振り返って、猿田彦神が見ている後ろを見た。
「ああ! みんながいない!」
しまった。歩くのが早すぎたのか、後ろに誰も付いてきていなかった。
「戻った方がいいか……気が付かなかったなんて……!」
「大丈夫だ」
焦る天鈿女命に飄々と猿田彦神は答え、そして続けた。
「ここまでは尾根道で迷う道じゃない。ここから先は谷になるからここで待っていよう」
「でも……!」
おろおろする天鈿女命をよそに、猿田彦神は木陰に腰を下ろした。
「初めて見るこの国の森を楽しみながら、ゆったり歩いているのかもしれないよ。
さっきも言った。見晴らしも良くて迷いようのない道だから大丈夫だ。
天鈿女命だってそれを楽しみがら進んでいたから、後ろに気がつかなかったんだろう?」
「………」
天鈿女命は猿田彦神の脚さばきに夢中だった事に気がついた。
その気づきを打ち消すように、木を見上げた。
青い空は澄んでいて、雲がゆったりと動いていく。
広がった枝を覆う葉が風に揺られ、木漏れ日がちらちらと射す。
小鳥が行ったり来たりしながら、ぴぴぴと鳴いている。
足元の小さな花も初めて目にする……
新しい景色は、確かに物珍しくて興味深い。
そうか。
みんなも案外楽しみながら来ているのかも。
ゆったりと待つ猿田彦神につられてか、
天鈿女命もふうと一息ついた。
「にしても天鈿女命は、山に慣れている者のようだ」
「私は踊るのが好きだから……身が軽い」
「天鈿女命」と何度も呼ばれて、なんだか落ち着かないでいた。
ちらと猿田彦神の方を見ると目が合い、猿田彦神は笑った。
「……なんであの時」
「ん?」
笑顔を見た天鈿女命は、
座っている猿田彦神を見下ろしながら、つい小声で訊いてしまった。
「……笑わなかった?」
「"あの時" ?……とは?」
「初めて会った時だ。なぜ、笑わなかったのだ?」
猿田彦がまばたきをした。
そして訊き返す。
「逆に訊きたい。なぜあのような場で笑う事ができる?」
「……みんなは笑った」
「…………」
「私は不格好でおかしいんだ。だからみんな大笑いした。
奇妙で滑稽。だけどそれがみんなの役に立ったから……」
「どういう事だ?」
猿田彦神は大きな目に眉を寄せて、天鈿女命をじっと見た。
風がまた枝葉を揺らし、足元の影もさわさわとうごめく。
頭上で鳴いていた小鳥たちが、いっせいに飛び立った。
《続く》
この『⛩【菊と稲荷】古事記の行間・導きの神』は、日本神話をベースに降りてきたシーンを
菊田フィルターで書いています。
古事記に限らない日本神話全般がベースなのですが……なんとなく響きが気に入って。
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*2018年冬の連載『コトシロヌシ』はコチラです。
*2019年春の連載『ヒルコノミコト』はコチラです。
*2019年夏のプチ連載『令和の夏越大祓』はコチラです。
*2019年秋の連載『留守神様』はコチラです。
*2020年冬の連載『愛しの狛犬』はコチラです。
*2020年初夏の連載『スサノオ神楽』はコチラです。