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昨年からお茶の間で流れているこちらのCM、
ご覧になったことのある方も多いのではないでしょうか。
そしてこのCMを見て、なんだかもやっとした気持ちになった人も、いますよね…。
「液体洗剤(自社の過去製品)の7割が水だったよ~」って、ただの告白というか自虐というか、
『そんなの売ってたのかよ!』って総ツッコミを入れられるようなCMの構成だと思います。。
まぁこれって他社製品を例に出すと「他社誹謗」「比較広告」と言って景品表示法で罰される内容になってしまうため、
それを回避するために自社製品を例にとっているのですが
そうでなくても
『水が7割も入っている』=【良くないこと】
という認識を植え付けるには十分な効果のあるCMだと感じます。
実際水7割くらい入っている洗剤というのはLION社以外にも多数あって、
(LIONの既存商品にももちろんある)
じゃあそういった洗剤は水でかさ増ししてぼったくっている悪質な商品なのか?
と、疑問に思った消費者も多かったのではないかと感じます。
そしてこの一件について、
昨日木村石鹸の木村祥一郎さんがツイートしていたので、僕も補足のツイートをしていたのですが、
かずのすけ@kazunosuke13
そう…。 市販の液体洗剤に水が7割程度入ってるのは、普通に洗剤成分を水に溶かすと20〜30%くらいで最高濃度になるからです。薄めてぼったくってるのではなく「それ以上溶かせない最高濃度」がこれ。 じゃあ「濃縮液体洗剤」はどうしてるの… https://t.co/l2zpHDKQrq
2021年02月01日 19:07
意外と反響があったので、より詳しい話をしておきたいと思ってブログを書いています。
これについては洗剤を専門でやっている人間ほど一般の方以上にモヤッとポイントがありまして、
本当は昨年のこのCMを見たそのときに「すぐ取り上げたいなぁ~」と思っていた内容なのですが、
タイミングを逃してしまっていつ書こうか考えていたんですよね…。
◎「液体洗剤の7割は水」は本当?
まず、「液体洗剤の7割は水」というのは本当です。
え~驚愕の事実!と思う人ももしかしたらいるのかもしれませんが、
洗剤メーカー各社はそんなこと別に隠してなんかいないんですよ。
例えば手元にあった洗剤で、「無添加さらさ」の背面を見ますと
「界面活性剤」が27%と書いてあります。
この「界面活性剤」というのが洗剤成分なので、
つまり洗剤成分は3割程度です。
他にもいくつか安定化剤とか成分を添加してはいますが、多くてせいぜい5~10%程度ですので
それらの成分を除いた約7割は「水」になります。
他にも、
例えば「アラウベビー」の液体洗剤も、
背面に「純石けん分:30%」とありますね。
石鹸は洗浄成分で、
この洗剤は石けん成分以外入っていないので残り70%はまるまる水です。
冒頭のCMの論調で言うと、
水でかさ増ししてたなんてぼったくりだ!重い!運ぶ際の労力を返せ!
…って話になりますよね。
しかし、これは洗剤についてよく知っていれば決してボッタクリではありませんし、
皆さんも不要な水を運んでいたわけではありませんので、ご安心ください。
◎元々洗剤には『水』は入ってなかった?「液体洗剤」が生まれた理由
そもそも「水」が不要というならば、液体洗剤ではなくて『粉末洗剤』を選べば良いんです。
古く時代を遡ると昔の洗剤はすべて「粉末」でした。
当時使われていた洗剤というと「粉石けん」で、
粉石けんはなんと100%が洗剤です。
水が不要なら粉石けんを選べばいいじゃないという話になります。
しかし、この粉石けんというのも色々デメリットがあります。
石けんはミネラルを含む水道水だと洗浄効果が落ちるため、一度に大量の洗剤を必要とするし、
粉が溶けにくくて衣類に残存したりするリスクも大きいです。
しかもアルカリ性で洗えない衣類だっていっぱいあります。
粉石鹸は現在主流の合成洗剤に比べると扱いがとても難しいんですよね。
それで、そのデメリットを克服するために「液体洗剤」というのが開発されました。
現在では合成洗剤を主成分にしたものが主流ですよね。
溶け残りが起こらないし、洗浄力も高いため使用量もとても少なく済むように設計されています。
石けんも液体石けんというのがありますが、これは粉末とは同じ成分ではありません。
(先程のアラウベビーとか)
石けんにも色々種類があって、水に溶けやすい石けん成分(カリセッケン)を配合しているんです。
あ、ちなみに合成洗剤の粉末洗剤も結構ありますが、
実は合成洗剤の粉末洗剤は主成分が粉末成分が5~7割くらいを占めていて、
洗剤成分は3割以下になっています😅
合成洗剤の粉末洗剤は、何なら普通の液体洗剤の方が断然洗剤成分が濃いです。
ちなみに界面活性剤って原料そのものから粉末のものあるにはあるのですが、
ものによっては「高粘度の液体」で原料ほぼ100%などの超高濃度だと容器に注げなかったりして使い物にならないんですよね…。
放っておくと水分吸収して固まっちゃったり、温度によって液体になったり固体になったりするとかもザラにあります。
水抜きで商品化するというのは、そう単純な話ではないのです。
◎水に溶かせる洗剤量には限界がある
液体洗剤というのはつまり、洗剤の主成分である『界面活性剤』を水に溶かしているものですが、
どんなものでも、水に溶かせるその物質の容量には限界値があります。
これは「溶解度」という、中学校の理科で教える内容ですね😅
大体の界面活性剤は常温の場合、
水に溶かせたとしても20~30%が限界です。
例えば先程のアラウベビーとか、さらさなどは、
ほぼこれ以上溶かせないギリギリのラインを攻めています。
これ以上高濃度にすると、ちょっと温度が下がった時に結晶化してしまって使い物にならなくなったり、様々なクレームの原因になります。
なので、さらさやアラウベビーは、決して水でかさ増ししてぼったくっているわけではなく、
これ以上高濃度にできないギリギリの製品をちゃんと出しているんです。
みなさんが運んでいた「水」は、決して不要なものではありません。
◎液体洗剤をこれ以上高濃度にするには?【濃縮液体洗剤】の秘密
しかし、
最近の液体洗剤はこの「30%」の限界量を超えて高濃度に配合されているものがあります。
これを【濃縮液体洗剤】と言います。
ご覧のように、この「スーパーナノックス」は、
液体洗剤にも関わらず、界面活性剤の濃度が57%と非常に高濃度です。
これは利用されている界面活性剤の溶解度を考えると、本来はあり得ない濃度なのです。
これは後述する【濃縮化】の技術を使っているため可能となっています。
ただ、この濃縮液体洗剤は、
昨年LIONのナノックスで世界で初めて開発されたのかと思うほど妙にデカデカと広告をしていましたが、
全く新しい技術でも何でもありません。
例えばナノックスよりだいぶ前に発売している花王の【アタックゼロ】も、
界面活性剤濃度は「56%」と、かなり濃縮されていますね。
更に言うと、アタックゼロは2年位前の製品ですが、
こちらの既に廃盤になっている
【ウルトラアタックネオ】は、5年以上前に開発された製品ですが…
界面活性剤は「59%」と、既にこのときから濃縮の技術が採用されているんです。
ちなみにさらに歴史を遡り、
液体洗剤で濃縮化を国内で最初に実現したのは10年以上前(2009年)に発売している花王さんの「アタックネオ」で、
かなり昔から普通にやっていました。
もちろん「他の液体洗剤は7割水!」なんて怪しいCM一切せずにね。
(ただ最近のアタックゼロの広告は僕は嫌いでしたが笑)
だからこのことを知っている僕らからすると、
花王が10年以上前からやっていることをさも画期的な新技術みたいに言ってるのがとても不思議で、
「いや、今頃何を言っているの…?」
というモヤリもあったんですよね…😅
※追記※
その後コメントで教えて頂いたのですが、LIONも2010年発売の初代「ナノックス」から既に56%くらいの濃縮液体洗剤を発売していたので、CMの意味は益々よくわかりません…。汗
◎液体洗剤の濃縮は「化学溶剤」を配合することで実現している
で、この液体洗剤の濃縮というのは
特殊な「化学溶剤」というものを利用することで実現しています。
有名な成分としては、アタックゼロにも配合されている
- クメンスルホン酸塩
- ブチルカルビトール
などですね。
大体の溶剤成分は「安定化剤」とぼんやり書かれていると思います。
簡単に言うと、水への界面活性剤溶解度を高める成分ということです。
(昔から使われている成分としては「キシレンスルホン酸ナトリウム」などもその一種で、専門的には「ハイドロトロープ」と言われたりしますね。)
これらの化学溶剤を配合することで、界面活性剤の溶解安定性がアップするので、
通常30%程度までしか溶かせない界面活性剤が50%以上溶かせるようになると。
結構単純ですよね。
こういった溶剤はいろんな種類がありますので、これに限らず他にも各社様々な溶剤を使っていると思います。
あとは、界面活性剤の種類にも縛りがあり、濃縮しにくい成分も多々あります。
かつて花王は濃縮しやすい界面活性剤を新しく作ったりもしています。
例えば、溶剤を使っても「液体石けん」は石けん成分のみを50%以上まで濃縮することはできないでしょう。
液体石けんはどう頑張っても「水7割」が最高濃度です。
おしゃれ着洗剤の「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」もあまり濃縮できない洗剤のようです。
エマールとかも昔よりちょっと濃くなっているんですが、それでも20%ちょいが関の山のようです…。
という感じで、濃縮できない成分も普通にあるので、そういう意味でも水7割だから悪いというわけでは決してないですよね。
ちなみにスーパーナノックスは何を使っているのか?調べてみたものの…、、
なんとすべて「安定化剤」としか書いておらず、何が入っているかは不明…。。
(家庭用品品質表示法のルールでは「界面活性剤」の成分名以外は書かなくても良いことになっています…。。)
多分クメンスルホン酸かブチルカルビトールかその両方はポピュラーなので使っていると思いますが、具体的に何かは分かりませんでした。
◎「添加物」が増えることを嫌って濃縮をしないメーカーもたくさんある
そして、この化学溶剤はやはり『添加物』なので、
添加物をあまり入れたくない、という認識のメーカーは避けたりもしますよね。
濃縮することで濃度が上げられるけど、
何の成分が身体に合わないかなどは人それぞれ体質によって異なりますから、
無添加系で頑張っているメーカーだと
その配合のリスクを考えて濃縮をしないという選択をすることももちろんあるわけです。
一つの成分を追加するだけで、これまで使えていた人が使えなくなるなんてことも予期されますからね。
無添加さらさとか、(元々無添加と言えるのかどうかは怪しいところありますけど、苦笑)
一応濃縮剤は入れないスタンスみたいですし、
アラウとか無添加石けん系のメーカーが化学溶剤入れだすのも変でしょう?
あと一応今の所この化学溶剤が健康に悪いとかそういう情報は出てきていないものの、
確実に安全という情報もありません。
そんなに長く使われている歴史はないし、界面活性剤じゃないためあまり注目もされていないですからね。
ただ、界面活性剤は肌につかなければ別に毒性とかもないので衣類洗う分には何の問題もないですが(残留さえしなければ)
ブチルカルビトールとかの化学溶剤は「気化」しやすい性質があって、
体内に化学物質を吸入した時に体調不良起こす「化学物質過敏症」の方などには、
僕は基本的には推奨していないです。
僕も溶剤が入っている洗剤は自分自身ではあまり使いたくないです。
極力添加物を避けたい消費者のことを考えて
あえて「水7割」を選択しているメーカーも沢山ある
ということはぜひもっと多くの方に知ってほしいところです。
◎かずのすけが感じた「ナノックスCM」のモヤッとポイントまとめ
- 『水7割』が悪役に仕立て上げられていたが、実際には決して悪いことではない
- 過去の自社商品を自ら下げていくスタイルってどうなの?
- 他社品にも水7割の製品は多数あるのに、それを暗に否定している印象を受ける
- そもそも濃縮技術は過去10年以上前から採用されているものなのに、今更感
- (ナノックスの濃縮剤が何か不明)
- 濃縮には特殊な添加剤が必要なので、ブランドコンセプト的に使えない製品やそれを嫌う消費者もいる
というわけで、
濃縮をするのも輸送とか洗剤のコスパ向上の観点ではとても素晴らしいことだから全然良いことだと思うのですが、
利用者のことを考えて成分のシンプルさとかを追求するために濃縮しないという選択をするのも、
決して悪いことではないですよね。
どっちもそれぞれに正義があることですので、
一概に片方を非難するような広告の仕方は本当に良くないと思います。
製品が悪いというつもりはないですし、今回洗浄成分とかについてはノータッチですが、
Twitterでも同じような印象を持っている消費者が沢山いらっしゃるようですので、
LIONさんもこの広告の仕方はもう少し考えた方が良かったのではないでしょうか。
ちなみに一応ですが、広告塔の嵐の二宮さんは一切悪くないです。
なんかイマイチなCMに起用されて気の毒なくらいです…。。
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