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Shudder Log

* このブログの内容はすべてフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。

破滅の予兆か、唯一の切り札か。
すべてはこの世界の幻なのか。
それが君の運命のかたちなら、僕は―――。
 
 *
 
Songfic?にするならスチームパンクファンタジーで。
 
大陸の果てには軍事帝国Zがあり、一方、辺境は辺境で万年小競り合いをしている。
金髪のKEは、そんな辺境にある小国Yのパイロット。
軍人に育てられた孤児で、今は航空部隊に所属している。
争いには倦みながらも、同僚のHMや密輸商の友人KSたちとそれなりの日々を送っていた。
 
ある夜、KEたちが警備する国境の森に船が落ちる。
その船に乗っていたのは、辺境の国XからZ国へ移送される捕虜。
ひどい事故だったが、DHという青年が奇跡的に生き残っていた。
KEとHMはひとまずDHを保護し、回復を待つことに。
 
その頃、帝国と対立する国家Wの宰相ELと、宰相付きの将官SHは、船が落ちたという知らせを聞いて、DHを探し始めていた。
実はDHは、数十年前に革命が起こるまでZ国を治めていた一族の直系で、特殊な感応能力を持っている。
その能力を持つ者だけが、Z国深部にあるエネルギー制御装置を動かすことができる。
一族は革命の混乱でほとんど死んでしまったため、今その能力を持っているのはDHだけになってしまった。
DHの一家は辺境の国Xに隠れて生き延びていたけど、ついにZ国に見つかって捕らえられた。
装置を使わせたくないW国はその状況を注視していて、移送のタイミングでDHを救出するつもりだったけど、その前に船が落ちてしまったのだった。
 
DHは深く事情をKEたちに話すわけにもいかず、辺境の別の国Vに親戚がいると偽って、Z国から逃れようとする。
Y国とV国の間には他にも国があって、あまり仲も良くないけど、KEとHMはKSの手を借りて、DHをV国へ連れていくことにする。
道中で知り合ったのが、KSと同じ密輸商を名乗るJS。最初は反発しつつも協力してV国を目指す。
しかしV国を目前にしてZ国の特殊部隊に発見される。
SHが助けに現れるも一足遅く、DHが捕らえられてしまう。
 
5人はDHを救い出すためZ国へ向かうが、途中でJSがZ国のスパイであることが分かる。
スパイというか、2重スパイ? Z所属なんだけど、反乱勢力の一人。でもDHの情報を漏らしたのはJS。
JSの目的はDHの力を使って、エネルギー装置の制御部を破壊すること。
そうすれば、大陸のどこでもエネルギーを使えるようになる。
SHは、そんなことをすれば戦争が拡大するだけだと反対する。
JSは、完全に制御できなくても、Z国はエネルギーを独占して使っているから強いのだ、それを崩すべきだと言う。
 
5人がZ国に着くと、首都は厳戒令下にあった。
DHが捕らえられたという報せを聞いて、ELが制御装置の封印しに乗り込んできていた。
W国とZ国の交戦中、KEたちはなんとかDHを助け出す。
逃げる中でバラバラになり、海まで辿りついたのはKEとDHの二人。
Z国と大洋を挟んで向かい合うU国は、大陸よりも貧しいけど平和。実はKEの故郷でもある。
 
DHはU国へ渡るという。
いつかZ国の封印が開放されれば、また追っ手がかかるだろうから、それまでできるだけ遠くへ逃げるために。
そして、一緒に来て欲しい、とKEを誘う。
KEは答える。
 
僕は戻るよ。
君を、運命から解き放つために―――。
 
 *
 
長いうえに、うん、これジブリだ。全部混ざってる。
でも元々アニソンっぽいよね。

* 2013-01-22 国名めちゃくちゃだったのを修正
私はゲームはやらないので勝手なイメージですが、JSのタラントはFinal Fantasyのようだと思い、JJのMineティーザーはDevil May Cryっぽいと思いました。
世界観というよりむしろ、本人たちがゲームキャラクターのようだという意味で。
DMCはRPGじゃないけど。
YCは役者やってるから歌でソロはないんだろうけど、やるなら何かな。配管工かな。
タイトル落ち。
もちろんKSが竹井。それがすべて。似てるよね。
あと他は一応、ELが久太郎、HMが初山、DHは当然ながら千秋、SHはお父さんか沢田さん。
一樹さんはJS。横領するJS。公式サイトの登場人物に名前がないので、きっともうすぐ退場するのでしょう。
「馬鹿ってたくさん言ってごめん」
 
昼間のインタビューを思い出して僕が謝ると、キソプは笑って首を振った。
 
「ううん、気にしてないよ」
「本当に?」
「うん」
 
視線は目の前の画面に落とされたまま。
ファンカフェにメッセージを書き込んでいる。
僕はキソプの後ろに回って、椅子ごと抱きしめた。
 
悪戯しても、馬鹿にしても、キソプいつだって許してくれる。
調子に乗るのは、自分でも悪い癖だと分かってはいるのだけど。
 
「ありがとう」
「うん?」
 
生返事をするキソプの関心は、書き込む内容の方にある。
身体を起こして、キソプの肩に両手を置いてその様子を眺める。
途中で何度か考えながらも、すらすらと書いていく。
 
「どうかな?」
 
書き終わった文章の頭に戻り、キソプは振り向いた。
僕は肩越しに覗き込んでそれを読む。
 
「うん、いいと思う」
「じゃあこれでポストっと」
 
書き込むボタンをクリックし、画面遷移を待つ。
数瞬の後、更新されたページにはさっきの文章が表示された。
 
「よしオーケイ」
 
キソプは軽く伸びをしながら再び振り向いた。
 
「パソコン、貸してくれてありがとう」
「どういたしまして」
「助かったよ。僕のも早く直るといいんだけど」
 
困った、という声を出しながら、でもその表情は明るい。
数日前から調子が悪いらしい、としか聞いていない。
 
「原因は?」
「まだ全然。手つけられてないんだ」
「そう」
「詳しい人に見てもらおうかな」
 
僕はキソプのパソコンを思い出す。
 
「あの壁紙、変えてからにしなよね」
 
デスクトップに自分の写真というのは、キソプらしいけれど。
 
「どうして?」
 
ピンと来なかったらしいキソプは、素直に聞き返す。
 
「せめて、みんなで写ってるとか、アルバムのアートワークとか」
 
僕は笑いをこらえきれずに答えた。
 
「なんで笑うの?」
「なんでもないよ」
 
キソプは立ち上がり、僕はキソプを抱きしめる。
馬鹿にするのは、僕の悪い癖だけど。
今度は違う。
 
「僕の壁紙って変だった?」
「いや、やっぱりそのままでいい」
 
だって。
こんな風によく分かってない時に見せる顔が。
ちょっとぽかんとした表情が。
スマホの待ち受けがセルカなのも隠さないところが。
変だ、という言葉なんてまったくに気にしないことが。
 
「キソプらしくて好きだよ」
 
そう言って、僕は頬にキスをした。
ふと思い出したDavid ArchuletaのCrush。  
コーラスの前半(Do you ever~crush)がKE視点で、
後半(Do you catch~away)がEL視点な感じ。


さすがに投げっぱなしな気がしたので、EL視点で続き。
これで本当に終わり。
 
 
 ***
 
3分はとっくに過ぎていた。
渡すものの準備はできたし、部屋もどうにか片付いた。
もう上がってきてもいい頃なのに。
AJと話でもしてるだけならいいんだけど。
何かあったんじゃないかと、少し心配になる。
別に重いものでもないし、持って出るか。

そう思ってバッグを手に取ると、丁度チャイムが鳴った。
そのまま出るつもりで、靴に足を入れながら玄関のドアを開けると、ケビンが立っていた。
 
「ごめん、遅くなって。ジェソプが車で待ってるって」
 
すっきりした顔で、ケビンは笑みを浮かべていた。
しかし。
 
「泣いたのか?」
 
真っ赤になった目と、濡れた跡のある頬。
どう見ても泣いた後だ。
 
ケビンは困ったように眉を下げ、首を傾げた。
 
「うん、少しね」
 
少し?
目を腫らしているのに?
 
「ジェソプと何かあった?」
「ちょっと話しただけだよ」
「ケビンが泣くような話?」
 
責めるつもりはないが、自分の声が厳しくなるのが分かった。
 
「うーん、まあそうかな? 大学の話を聞いてたら、寂しくなっちゃって」
 
大学の話。
グループを離れる話。
 
「それが言ってたやつだね。僕、持つよ」
「ああ」
 
ケビンに貸す荷物を渡し、電気を消してドアと鍵を閉める。
俺を待って、ケビンはエレベーターの方へ向かう。
横を歩きながら顔を見つめていると、 ケビンが笑った。
 
「もう大丈夫だって」
「だって、泣くなんて」
 
寂しいとか、そういうことで。
ケビンが泣くなんて、珍しい。
 
「大丈夫」
 
エレベーターの前につき、綺麗な手で「下」のボタンを押す。
振り向いたケビンは、天使の笑顔だった。
 
「イライが一緒にいてくれるから。そうでしょ?」
 
空いている方の手で俺の手を取り、ぎゅっと握ってそのまま手を繋ぐ。
 
「その通り」
 
俺は手を握り返した。
ケビンが天使なら、守護者なんて必要ないんだろうけど。
俺は絶対に、ケビンの傍を離れない。
 
「仰るとおりです、天使様」
「なにそれ」
 
甲高い笑い声がすると同時に、エレベーターが到着を告げる。
乗り込んでドアが閉まるのを待ち、俺はそっとケビンの頬に口付けた。

寒い夜は、星が綺麗だ。
めいっぱい着込んで屋上に出ると、俺とドンホは空を見上げた。
 
「あれ、オリオン座だよ」
 
指差した先には、いくつもの明るい星がある。
 
「どれ?」
「あの砂時計のかたち」
 
もう一度よく見ると、確かに砂時計が見えた。
ひときわ明るい長方形と、その真ん中に三つ並んだ星。
 
「あれがそうなんだ。初めて知った」
 
感心して呟くと、ドンホは笑った。
 
「ヒョンたちの曲なのにね」
「鼻で笑うなよ」
 
叩こうと手を伸ばすが、身をかわして逃げられる。
倒れそうなくらい反り返って、上を見上げたままなのに。
 
「となりのもっと明るい星がシリウス」 
「シリウスは星の名前?」
「そう。おおいぬ座」
「本当によく知ってるな」
 
別に、と答えた横顔は、照れているようには見えない。
当然ということか。
星が好きだなんて聞いたことなかったけど。
 
「綺麗だな」
「うん。よく晴れてる」
 
だから寒いんだ、と言わんばかりに、ドンホは肩を竦めた。
つられて身を震わせ、俺は言う。
 
「寒いな」
「うん」
「そろそろ戻ろう。凍りそう」
 
促すつもりで歩き出してみても、ドンホは空を見上げたまま、動こうとしない。
 
「ドンホ」
「うん」 
 
見つめているのは、オリオンか、シリウスか。
ドンホの視線を追ってみても、空しかない。
 
「あと1分だけ」
「わかった」
 
もちろんドンホは俺を見ていない。
頷いて傍まで戻り、俺は横からドンホを抱きしめる。
そして同じように空を仰ぎ、砂の落ちない時計を見つめた。
Elhoonのカップルネームで、「Bunny & Birdie」というのはどうだろう。
うさちゃんと小鳥さん。本当は鳩だけど。
Sooseopは「Lion & Unicorn」で。
SHがライオンで、KSがピンクのユニコーン。本当は熊だけど。
KEは天使様だけど、実在の生き物だと魚になるっぽい。
分かりにくかったので適当に題を振りました。
CPってるのか?ってのもいくつか。
 
1. 探した (Soojae) 300字
2. 手の甲 (Jaehoon) 300字
3. 冷蔵庫 (Jaeli) 500字
4. 嘘 (Jaevin) 200字
5. しかめっ面 (Jaeho) 300字
6. Pour Homme Soir (2Seop) 1 2 3700字

7. A Dream not a Nightmare (Vinseop) 900字
8. 精一杯 (2Seop) 300字
9. コーヒー (Elseop) 600字
10. 冬の夜 (Sooseop) 300字
11. ゲーム (Dongseop) 900字
12. 鏡 (Hoonseop) 300字

13. セルカの後 (Hoonseop) 500字 *12から続く
14. 皿洗い (Elhoon) 700字
15. 好み (Soohoon) 600字
16. 騒音の中 (Jaehoon) 500字
17. 英語 (Hoonvin) 600字
18. 抱きしめる (Donghoon) 300字

19. 椅子 (Dongli) 100字
20. 縫い止める (Jaeho) 500字
21. 撃たれる (Dongseop) 500字
22. ビズ (Donghoon) 400字
23. ダンス (Dongvin) 600字
24. 出かける (2Shin) 300字

25. 甘えてるのは (Soovin) 500字
26. エレベーター (Sooseop) 500字
27. 目 (Soojae) 400字
28. See the Vibration (Soohoon) 800字
29. どれくらい (2Shin) 400字
30. 寝る前に (Sooli) 400字

31. 寝ぼける (Sooli) 500字
32. ショーウィンドウ (Jaeli) 400字
33. 飲酒運転 (Elseop) 500字
34. 起きない (Dongli) 300字
35. タブレット (Elhoon) 300字
36. Make Your Wish 1 (Elvin) 1300字

37. Make Your Wish 2 (Elvin) 1400字 *36から続く
38. 飛行機 (Hoonvin) 400字
39. 運転手 (Dongvin) 400字
40. 髪を拭く (Vinseop) 400字
41. Let me baby you, baby (Soovin) 900字
42. Nicer than Angels (Jaevin) 1 2 3 4700+800字 *4から続く

 
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それを告げたとき、真っ先に祝う言葉を口にしたのがケビンだった。
 
自信を持って、自分に正直に。
それがやりたいことなら、応援する。
 
声は明るく前向きで、しかし無理が感じられた。
安堵ではなく。
その奥には、間違いなく動揺があった。
 
もちろん動揺するのは当然だ。
他のメンバーのようにはっきりと、行くな、と言ったっておかしくない。
しかし肯定の言葉には裏を感じられなかった。
 
つまり、ケビンが飲み込んだのは、引き止める言葉ではない?
 
深く考える間もなく、数週間のうちにケビンの態度は急速に軟化した。
少なくとも絡む前に避けられることはほとんどなくなり、時には笑顔を見せることさえあった。
 
一方で、二人きりになることは極端に減った。
それまでなら、無表情を通しつつも会話できる時間があったのに。
撮影や練習の合間の一瞬であっても、見事に逃げられるようになった。
その巧みさは目を見張るほどだった。
かえって面倒なんじゃないかと思えるくらいに。
 
理由は分かっていた。
 
できれば、追加公演が始まる前に。
日本へ行く前に。
動揺の原因を聞き出したいと俺が思っていたからだ。
 
それを察したケビンの働きは成功し、俺が期待するようなチャンスはなかなか訪れなかった。
 
 *
 
「じゃあ、気をつけて。また明日」
 
別れの挨拶を交わすと、メンバーは各々帰途につく。
俺はイライと飯でも食おうという話になり、並んで駐車場へ向かう。
 
「ケビンに渡すものがあるから、俺の部屋に寄っていい?」
 
イライの言葉に、俺は頷く。
 
「じゃあ車置いてきたら。一台の方が楽だろ」
「そうだな」
 
駐車場に着くと、ケビンがイライを待っていた。
俺を見ても、表情は崩れない。
笑顔ではないが、硬くもない。
 
「そういや、ケビンはどうやって帰んの?」
 
イライについて車へ歩き出すケビンに、俺は尋ねる。
 
「イライの部屋までは乗ってきゃいいけど、その後は?」
 
前を向いたまま、ケビンは笑った。
 
「別にもう子供じゃないし、一人で帰れるよ。タクシーでも何でも」
 
イライの車に着くと、ケビンは助手席に乗り込む。
俺はその横を通り抜けて、自分の車に乗る。
エンジンをかけ、イライの部屋の場所を目指して走り出す。
 
送って行ってもいい。
飯を食べるのはその後でも、あるいは、一緒に食べに行ってもいい。
もしこの後、予定がなければ。
いや、予定なんてあるわけない。
今日はスケジュール変更があってこの時間に終わったのだから。
ただ単に、誘えばよかったのだ。
 
ハンドルを握って、俺は思い直す。
 
悔やむことはない。
イライの部屋に着いてから訊いたって遅くない。
もしかしたら、すでに車中でイライが誘っているかもしれない。
 
慣れた道を行けば、あっという間に車はイライの住むマンションへ到着する。
通りに車を停め、建物へ入る。
駐車場へ続く重い扉の前に立っていたのは、ケビンだけだった。
 
「イライは?」
「散らかってるから、3分待ってから上がってきてって」
「なんか物を渡すだけだろ?」
「そのはずなんだけど」
 
ケビンは肩をすくめた。
 
「この後、飯食いに行くけど、一緒にどう?」
 
俺は単刀直入に言った。
 
「うーん、やめとく。早く帰るって、さっき連絡しちゃったし」
 
そう、と返事をして、しかし俺の落胆を読み取ったらしい。
ケビンは笑みを作った。
 
「でも、ありがとう」
 
口を開いて、俺は何故かそのまま固まる。
何を言おうとしたんだっけ。
そうだ。
 
「家まで送ろうか?」
「ううん、大丈夫。食事、楽しんできて」
 
笑顔のままケビンは言い、それから歩き出す。
 
「もう上に行ってもいいよね」
 
エントランスを抜け、廊下を曲がったところに、エレベーターがあった。
「上」のボタンを押して、1階に下りてくるのを待つ。
 
食事には行かず、この後は車にも戻らない。
今しかない。
俺は心を決めて、声をかけた。
 
「ケビン」
 
身体ごとケビンに向いて、言葉を準備する。
 
どうして態度が変わったのか?
グループを離れることを、本当はどう思っているのか?
そもそも、今までのあの態度はなんだったのか?
 
「何?」
 
またしても、ケビンは笑顔を見せた。
意味するのは、もちろん拒絶。
 
聞くな。
聞いても答えない。
答えるつもりはない。
 
そんな強い意志を湛える、笑っていない目。
我ながら、怒りを覚えても良さそうなものなのに。
 
追い込まれた猫が毛を逆立てるような緊張を感じて、俺は口を噤んだ。
 
「いや、何でも」
 
ゆっくりと言って視線を逸らし、なんとか付け加える。
エレベーターの到着を告げる音が鳴り、ドアが開いた。
 
「車で待ってるって、イライに言って」
「分かった」
 
ケビンはエレベーターに乗り込み、ドアが閉まる。
俺は息を吐いて、踵を返した。
 
せっかくのチャンスだったのに。
何を気圧されて引いたんだか。
ああ、まったく。
 
舌打ちしながら角を曲がり、違和感を覚えて立ち止まる。
数歩戻って、歩いてきた方を見た。
何の変哲もない。
マンションの廊下。
その先には、ケビンが乗ったエレベーター。
 
違和感の正体に気付いて、俺は身体の向きを変えた。
ゆっくり進み、再びエレベーターの前に立つ。
「上」のボタンを押すと、扉はすぐに開いた。
中には、もちろんケビンがいた。
 
突っ立ったまま、涙を流すケビンが。
 
「ジェソプ? なんで――」
 
答えるより先に、俺はケビンを抱きしめた。
 
「どうして」
 
ケビンの小さな声が震えているのが分かる。
どうして、なんて。
 
「そんなの、俺が聞きたい」
 
抱きしめる腕に力を込める。
 
どうして。
どうして、ケビンが泣くんだ。
 
「ジェソプ」
 
発された声は、さらに小さくなっていた。
 
「今までごめん」
「何が」
「ずっと、ごめんね」
 
こみ上げるものを飲み込んで、俺は尋ねる。
 
「謝るなら、理由を教えてくれ」
「好きに」
 
言葉が止まって、ケビンがしゃくりあげる。
 
「好きに?」
「好きに、なりたくなかったんだ」
 
好きになりたくなかった?
 
「好きになるも何も、ずっと嫌ってただろ、俺のことは」
「嫌いだよ。自信過剰で意地悪で」
 
泣きながら、ケビンは俺を罵倒する。
 
「しつこくてウザくてムカついて。それに」
 
途中で何度も詰まりながら、ケビンは続けた。
 
「いなくなるんじゃないかって怖くて。だから好きになりたくなかったんだ。だけど」
 
嗚咽が聞こえて、俺は促さずに待つことにする。
 
いなくなる、つもりはあった。
抜けるつもりで入ったというのは確かに気に入らなかっただろう。
それも一緒に努力してきたメンバーは辞めさせられたのに、だ。
 
「だけど、こんな風に離れることになるなら、もっと」
「分かった。もう言わなくていい」
 
俺の背中に回ったケビンの手が強く握られる。
 
「戻ってくるから」
 
これからも時間はあるから。
だから。
俺のことも、許して。
 
「ごめん、ジェソプ」
「謝らなくていい。大丈夫」
 
そう、大丈夫。
 
「別に気にしてないから」
 
笑顔じゃない顔にしてやりたくて、ちょっかいを出していたのは俺だから。
メンバーにくらい作らない顔を見せて欲しいと思ったのは、俺のわがままだから。
 
「ありがとう」
 
安堵が滲み出た声で、ケビンは言う。
顔は見えないが、きっとまた笑っているのだろう。
まるで、天使の真似をするように。
それが癖なら、俺はきっと受け入れるべきなのだ。
 
「君を愛してるよ、ジェソプ」
「俺もだよ」
 
祈るように、確かめるように、もう一度強く抱きしめる。
 
「愛してる」
 
言い含めるように俺は呟いて、抱きしめたままケビンの髪にキスをした。