AJは僕のことが好きだというけれど、嘘なんじゃないかと思う。
僕をからかっては笑っているし、僕と同じくらい他のメンバーにもスキンシップはするし、僕がケビンと居ると割り込んでケビンを取っていってしまう。
僕のことが好きなら、せっかくケビンと一緒に居るのを邪魔しないでよ!
ケビンにそう言ったら、一瞬目を丸くした後、ケラケラと笑っていた。
「ジェソプも苦労するなあ」なんて言いながら。
僕がAJに苦労している話をしていたんだけど。
でも、ケビンが笑っていたから、まあいいか。
*
いつものように順にピックアップされ、スタジオにつくと、僕がそのことに気付くより早く、イライがAJに声をかけた。
「お、香水変えた?」
「うん、よく分かったね」
「なんてヤツ?」
「ブルガリのプールオム ソワール」
いいね、とイライは笑い、AJは得意気な笑みを返した。
それから僕を見て、笑顔のまま言った。
「気付いてた?」
気付いてなかった。
車の中からずっと隣に居たのに。
素直にそう答えるには気が引けて、僕はとぼける。
「何に?」
「香水変えたこと」
AJが僕に向ける笑顔は、いつだって少し意地悪だ。
ここで膨れたら、余計にAJを喜ばせるに違いない。
立ち昇る複雑で優しい香りを吸い込み、悔しさを抑えて笑って見せた。
「気付いてなかった。けど、ジェソプに似合ってる」
「だろ? ユンジ姉さんのお薦めなんだ」
そりゃ、顔を赤くして照れるなんて期待していなかったけど、せっかく褒めたのに、さも当然のようにされるのはなんだか気に入らない。
それに。
「なんだ、ジェソプが選んだんじゃないんだ」
自分の力じゃないじゃん、と呟くと、思いのほか暗い声になった。
けれど、何が楽しいのか、AJは更に明るく言った。
「確かに。姉さん、俺のことよく分かってるよ」
何。俺がユンジさんを褒めたのが嬉しいの?
朝のミーティングが始まり、マネージャー兄が今日のスケジュールを言い終わると、スヒョン兄がフンに話しかける声がした。
「夕方で終わるなら、飲みにいけるな」
それを見て、AJは僕を振り返る。
「オレたちもどこか寄って帰ろうか」
「え?」
「せっかく早く終わるから、買い物でも一緒にどうかなと思って」
「ああ、うん、そうだね、行こうか」
香水を変えたと知ったせいで、ふと前とは違う香りを感じて気になるようになってしまった。
確かにAJに似合ってる。
ユンジさんはAJのことをよく分かってる。
でもなんだか落ち着かない。
前のだってよく似合ってたと思う。
「前使ってたのってなんだっけ」
「香水? 同じブルガリのプールオム エクストリームだよ」
「もう少しさわやかな感じだった?」
「うん、まあ、そうだね。ソワールの方が甘くて重いかな」
甘くて重い。
なるほど、そう表現するのか。
AJは言葉の使い方も上手だ。
いや、感心している場合じゃないんだった。
「甘くて重い、って、別の言葉にすると『セクシー』じゃない?」
「そう思った?」
僕の顔を覗き込むAJの目は真剣だった。
「一般的に、だよ」
「似合ってるだろ?」
「似合ってるけど、前のも似合ってたよ」
「前の方が好き?」
いつもだったら、僕を馬鹿にしたような笑顔で言いそうな言葉。
それなのに。
「なんで僕に聞くの」
「似合ってる、って言う割りに、気に入らないみたいだから」
「似合ってるよ。ただ」
「ただ?」
「ただ、いつもと違うから、ちょっと慣れないだけだよ」
段々と声が小さくなって、言い訳してるみたいだな、と自分でも思った。
別に気に入ってないわけじゃない。
よく似合ってると思う。
甘くて、重くて、セクシーで。
ユンジさんはよく分かってる。
ただ慣れないから気になるだけ。
ふうん、とAJは言ったけど、納得はしてないみたいだった。