高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。


私は、高齢になり介護を受けるようになった親を、きょうだいの一人が囲い込み、他のきょうだいに会わせない――いわゆる「高齢親の囲い込み」でお困りの方をサポートしています。

 

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77.「今日も、会いに行けなかった」日記風ポスト

 

――はじめに
 

行けない理由は、人の数だけあります。

体力、仕事、距離、家族内の調整、施設のルール、そしてあなた自身の感情の波。どれも本物です。

 

それでも夜になると、胸のどこかに「今日も、会いに行けなかった」という短い一文がのこり、枕元で静かに灯のように揺れ続けます。

 

専門家の立場からまずお伝えしたいのは、その一文を“書く”こと自体がケアになる、という事実です。

 

会えない日を隠さず、そっと言葉に置く。

その日記風のポストは、あなたの罪悪感を薄め、関係の温度を保ち、次の一歩を探す灯台になります。

 

 


なぜ「日記風ポスト」が効くのか

 

人の心は、名づけられた感情から順に静まっていきます。

未処理の思いや言えなかった言葉は、夜に増幅しがちですが、短い現在形の文章にして外へ出すと、からだは「今日はここまででいい」と学びます。

 

ポイントは、出来事・気持ち・小さな願いの三つを、無理のない語彙で並べること。

完璧な近況報告でも、長文の物語でもなくていいのです。

「会えなかった」という事実を、静かな現在形に戻すだけで、心は翌朝の居場所を取り戻します。

 


エピソード①:三行だけの夜(沙耶さん・仮名)

 

沙耶さんは、母の入所先で面会が制限されてから、「会えない日」を数え続けるのがつらくなりました。

 

ある晩、彼女はSNSに三行だけ置きました。
「今日も、会いに行けなかった。風が強くて、洗濯物を部屋に戻した。次に会えたら、あなたのセーターを干したい。」


反応は派手ではありません。けれど、不思議なことに、その夜は久しぶりに深く眠れたと言います。

翌日も、また三行。

 

やがて職員の方との電話も柔らかくなり、短い近況が届くようになりました。

変わったのは世界ではなく、沙耶さんの呼吸。

三行の“現在形”が、彼女の見張りすぎた心を座らせてくれたのです。

 

 


日記風ポストの素描

 

日付や時刻があるだけで、言葉は“疲れた記録”から“生きた航海日誌”に変わります。

ためしに、今日のあなたの一日を、どこか一瞬で切り取ってみてください。

長くしなくて構いません。以下は、臨床でよく提案する書き方の雰囲気です。

 

【10/1 夕方】
駅へ向かう道、金木犀の匂い。今日も、会いに行けなかった。ポケットの中で、あなたの鍵が少し温かい。

 

【10/3 夜】
味噌汁の味が決まらない。会えなかった日ほど、塩加減が揺れる。次に会えたら、あなたの“ひとつまみ”を教えて。

 

【10/6 朝】
曇り空。洗濯機を回して、窓を一枚拭いた。行けなかったけれど、台所だけは整えた。ここで、あなたを待つ。

 

この程度の長さで十分です。比喩はいらない日もあるし、事実だけが並ぶ日もいい。

大切なのは、あなたの生活の温度が一行の中に残っていることです。

 


エピソード②:並走する19時(直人さん・仮名)

 

直人さんは単身赴任で、父の家から新幹線で三時間。

彼が始めたのは“19時の並走”でした。

毎晩19時に湯を沸かし、父とよく飲んだ番茶を淹れる。

たとえ会いに行けない日でも、その時間だけは父と同じ湯気を見つめる。

 

ポストはいつも短い。
「19:00。湯のみの底に小さな渦。今日も、会いに行けなかった。だけど、ここにいる。」
 

月末、久しぶりに父と電話がつながったとき、父は言いました。

「この頃、七時になると湯気を見たくなるんだ」——ふたりは、会えない日を“同じ時間”でつなぎ直していたのです。

 

直人さんの言葉は誰かを責めず、何かを誇らず、ただ“居合わせる”ことを選び続けました。

 

 

怒りと罪悪感の置き場所

 

「行けない」には、必ず“行きたかった”が併走します。

そこに、誰かへの怒りや自分への責めが混ざってしまうのは自然な反応です。

 

日記風ポストでは、その混ざりを無理に分解しなくていい。

ただし、主語は“私”。「連絡がないから腹が立つ」よりも、「連絡を待つ自分の肩が固くなっている」。

この言い回しが、読み手の防御を下ろし、あなた自身の痛みを柔らかく包みます。

 

ときに「今日は書けない」と書く夜があっても大丈夫。沈黙もまた、正しい記録です。

 


書けない夜のための“最小形”

 

どうしても指が止まる夜は、五感をひとつだけ拾って終わりにしましょう。
「今日も、会いに行けなかった。雨の匂い。」
ただこれだけで、心は“記録した”と理解します。

 

記録は、明日の自責を減らす小さな盾になります。

翌朝、少し余裕があれば、その匂いにまつわる思い出をひとつ足してもいいし、足さなくてもいい。

日記は“続けるために縮められる”と知ると、長く続きます。

 


公開・非公開、どちらでも

 

SNSに載せるのが怖い夜は、鍵アカウントや下書き、あるいは紙のノートで構いません。

公開は義務ではなく、選択です。

 

大切なのは“あなたが名づける側でいること”。状況や誰かの都合に、あなたの気持ちの名前を奪わせないでください。

もし公開するなら、個人が特定される情報や、後で誰かを傷つけ得る描写は避け、あなたの内側で起きたことに焦点を置く。

それが、関係の尊厳を守る最短距離です。

 

 


日記が“会い直す力”に変わるとき

 

「今日も、会いに行けなかった」——この一文は、敗北宣言ではありません。

あなたの生活が続いている証であり、関係を手放さない意思表示です。

 

しばしば、日記を続けていると、不意に行ける日がやってきます。

そのとき、過去の短いポストが背中を押します。「私は待っていたし、準備していた」と。

 

たとえ行けない日が続いても、あなたは毎晩“会い直して”いる。

言葉は、距離を縮めるだけでなく、距離の中に橋をかける営みなのです。

 


おわりに

 

今夜、あなたが言えるのは一行かもしれません。それで充分です。
 

「今日も、会いに行けなかった。」
この一行に、あなたの愛情の厚みがすでに宿っています。

 

もし、もう一歩だけ足せそうなら、息を整えて、こう続けてみてください。

「でも、ここにいる。あなたを想いながら、灯りをひとつ残しておく。」
小さな灯は、必ず明日へ渡ります。

 

書ける夜も、書けない夜も、どちらもあなたの生活。

その連なりが、いつか必ず“会える日”に光を当ててくれるはずです。

 

 

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