高齢親の囲い込み解消コンサルタント、公認会計士・税理士の白岩俊正です。


私は、高齢になり介護を受けるようになった親を、きょうだいの一人が囲い込み、他のきょうだいに会わせない――いわゆる「高齢親の囲い込み」でお困りの方をサポートしています。

 

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61 きょうだいで「親の取り合い」になる理由

 

— 家族の安全基地を取り戻すためにできること —

 

こんにちは。
家族のことになると、私たちは驚くほど幼い心の痛みや願いに触れます。

 

とくに高齢の親をめぐって、きょうだい同士がギクシャクしてしまう――「親の取り合い」のような状態は、珍しいことではありません。
 

この記事では、誰かを責めるのではなく、「なぜそうなりやすいのか」という背景をやさしくほどき、今日からできる小さな実践を提案します。

読んでくださるあなたの胸のつかえが、少しでも軽くなりますように。

 

 


1. 「取り合い」は“愛の不足”ではなく“安全の不足”から生まれる

 

多くのご家庭で起こるのは、「私のほうが親を大切にしている」「あなたは親を奪うの?」といった“愛の競争”に見えて、実は安全の競争です。
 

心理学では、家族が心の避難所として機能するとき、それを「安全基地」と呼びます。

 

幼い頃、その安全基地に十分に寄り添ってもらえなかった体験や、反対に過剰に密着して境界線が曖昧になった体験があると、成人後も「親を通じて自分の安全を取り戻したい」という願いが強く出ます。
 

だから、親の介護や医療、財産、居場所、面会など意思決定の場面で、“親のため”のはずが、いつの間にか“自分の安心のため”の取り合いになりやすいのです。

 

大切なのは「誰が勝つか」ではなく、「家族全員が安心できる仕組み」をどう作るか。

 


2. よくある4つの“取り合い”パターン

 

① 役割固定タイプ

長女は「しっかり者」、長男は「家督」、次女は「調整役」…といった家族内の役割が固まっているケース。

役割に縛られ、「私がやらなきゃ」と背負い込みがち。周囲は「またあの子が決めた」と反発し、衝突に。

 

② 補償タイプ(過去の埋め合わせ)

子ども時代に親から十分な承認を得られなかったと感じていると、介護や世話で“良い子の自分”を証明しようとします。

すると他のきょうだいの関わりが自分の努力を脅かすものに見えやすく、排他的になりがち。

 

③ 境界線ぼやけタイプ

家族間の距離が近すぎ、親の意思と自分の意思の区別が薄い状態。

「親は本当はこうしたいはず」と善意で決めてしまい、他のきょうだいの提案を“攻撃”と感じてしまいます。

 

④ 囲い込みタイプ(アクセスの独占)

連絡窓口や通院付き添い、通帳、鍵、住まいの出入りなどを一部のきょうだいが握り、情報や面会を独占

他のきょうだいが不信感を募らせ、関係が急速に悪化します。

 

 


3. 争いが深まる“きっかけ”はいつも正当な理由で始まる

  • 病院の説明を聞く人を「効率のために」絞った
  • 親の疲労を考えて面会人数や時間を「いったん制限」した
  • 金銭管理を「間違いがないように」一人に任せた

どれも合理的な配慮です。ただし、情報共有の不足透明性の欠如が重なると、配慮が“排除”に見えます。

 

善意が善意として受け止められるには、「見える化」と「合意」が欠かせません。

 


4. 「親のため」のつもりが「親を道具化」してしまう瞬間

  • 「お母さんは私の家に住むのが一番幸せ」
  • 「父の財産管理は俺がやるのが筋」
  • 「あなたには親の気持ちはわからない」

これらの言葉の裏側には、自分の価値観や不安が入っています。

 

親の本心を丁寧に聴き取る前に結論を出すと、親の意思決定権を奪い、結果として親の尊厳が置き去りになります。

 

まずは「親の意思」を起点に。

私の意見でも、あなたの意見でもなく、「親がどうしたいか」に立ち返ることから始めましょう。

 

 


5. いまからできる小さな実践

 

5-1. “事実”と“解釈”を分けるメモ

各自が持っている情報を「事実(日時・医師の説明・費用)」と「解釈(こう感じた・こう思う)」に分けて記録。
→ 議論が人格批判に流れにくくなります。

 

5-2. 家族ミーティングの定例化(オンライン可)

  • 頻度:2週間に1回/30〜45分
  • 議題:①親の体調・意思 ②支援の分担 ③費用・記録の共有 ④次回までの宿題
  • ルール:途中で新テーマを増やさないタイムキープ発言は「私は」で始める

 

5-3. 情報の“見える化”フォルダ

  • 診療情報・服薬・ケア計画・費用・面会記録を共有フォルダに保管
  • 連絡窓口が一人でも、閲覧は全員。更新日と担当者名を明記

 

5-4. 面会・連絡のガイドライン(簡易版)

  • 面会の上限時間・人数・付き添いの要否
  • 体調不良時の中止基準
  • 緊急連絡先の優先順位
  • 親の希望時間帯を最優先に

 

5-5. 役割は“担当”であって“権限”ではない

「長女が医療担当」「長男が金銭担当」など分担は便利ですが、説明責任(いつ・何を・どこまで説明するか)を必ずセットに。
→ “独占”の疑念を減らします。

 


6. こんな言い方なら、もっとうまく伝わる

 

NG:「あなたはいつも勝手に決める」
OK:「次回の通院先を決める前に、私にも医師の説明を共有してほしい。私が不安になるのは情報がないからなんだ」

 

NG:「面会を制限するなんておかしい」
OK:「母が疲れないための時間調整には賛成。代わりに、面会のルールと例外の基準を文章で共有できるかな?」

 

NG:「金銭は全部私がやる。信用できない」
OK:「担当はあなたにお願いしたい。だからこそ、月末に明細と残高の写真をグループで共有してほしい」

 

目的は“正しさ”の証明ではなく、“信頼”の再構築です。

 

 


7. 「親の意思」を中心に据える3ステップ

  1. 価値観の確認
    「最期まで自宅がいい/痛みを最小に/会いたい人に会いたい」など、親の大切にしたいことを言葉にして残す。
     
  2. 具体的選択肢を“親に”提示
    同居・施設・通所・訪問医療など、メリット・デメリットをわかりやすく伝える。
     
  3. 意思決定の記録
    いつ・どこで・誰が・何を合意したか。のちの誤解を減らします。

親が認知症の初期であれば、意思決定支援の視点で“わかりやすい説明”や“選択の分割”を。

 

意思表明が難しくなっている場合でも、過去の価値観・生活歴を手掛かりに推定し、可能な範囲で本人の尊厳を守ることが大切です。

 


8. それでももつれるときの“セーフティーバルブ”

  • 第三者の同席:ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなど。家族だけでは詰まる話も、他者が入ると流れます。
     
  • 議題の分割:「面会ルール」「金銭」「住まい」を同日に全部決めない。疲労は衝突の燃料です。
     
  • タイムアウト:声が荒くなったら、その瞬間に終了してリスケ。冷却は敗北ではなく、家族を守る技術です。
     
  • 合意文書:短くてOK。「誰が」「いつまでに」「何をする」を箇条書きで。写真で全員に共有。
     
 

9. 小さなケース物語:三人きょうだいの転機

 

Aさんきょうだいは、母の面会をめぐって対立していました。

 

長女は「母の疲労が心配」と面会を制限。次男は「会わせないのはおかしい」と反発。三女は遠方で情報がなく不信感が高まっていました。

 

転機は、週1回の15分ミーティング共有フォルダの導入。

  • 面会は「平日午後、30分、2名まで」「発熱・睡眠不足は中止」という客観基準を作成。
  • 医師説明の要点を写真と箇条書きで即共有。
  • 出費はすべてレシートを撮って月末にまとめてアップ。

3週間後、次男の口癖は「俺に隠してる」から「ありがとう、状況がよく見える」に変わりました。

長女は「守るための制限」が「共有された合意」に変わったことで、心の重荷が軽くなり、三女も「置いていかれている感じ」が減ったと語りました。

“誰が勝つか”から“母が楽で安心か”に、焦点が移った瞬間でした。

 


10. 自分の心も大切にする

 

きょうだいとの衝突の裏側には、自分の痛みや疲れがあります。怒りや苛立ちは、心のSOS。

  • 週に一度、10分だけでも自分のための休息を予定表に入れる
  • 感情のメモを「私は〜と感じた」で書き出す
  • 信頼できる友人・支援者に“話すだけ”の時間を確保する

「私が我慢すれば丸く収まる」は、短距離走の解決です。介護と家族の調整は長距離走。あなたの息継ぎが、家族全体の呼吸を整えます。

 


11. まとめ:取り合いから、“支え合いの設計”へ

  • 取り合いは愛の不足ではなく安全の不足から生まれる
  • 役割固定・補償・境界ぼやけ・囲い込み――背景を理解すると責め心が和らぐ
  • 見える化・合意・定例化が信頼を育てる土台
  • 何よりも、親の意思と尊厳を中心に据える
  • 小さな実践の積み重ねが、家族の安全基地を再建する

もし今、あなたが「もう無理」と感じていたら、それは“あなたがひとりで抱えすぎている”合図かもしれません。

 

できるところから、たとえば「次回の家族ミーティングを30分だけ開く」「面会の基準を3つだけ書き出す」――その一歩で十分です。
 

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

あなたとあなたのご家族が、少しずつ安心を取り戻せますように。

 

必要であれば、具体的な合意文書のテンプレートや共有フォルダの項目例もご用意します。いつでも声をかけてください。

 

 

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