空の香りを愛するように 著:桜井亜美
- 空の香りを愛するように
桜井亜美:著
幻冬舎 ISBN:4-344-00486-8
2004年3月発行 定価1,365円(税込)
桜井亜美って、いっつもカバー買いってヤツだなぁ。今回も、表紙の韓英恵が目にとまって、思わず買ってしまった。
OLの綾渡紅葉は、自分の不注意で集団レイプ事件に巻き込まれてしまった。それが原因で、奇妙な生命体をお腹に宿してしまい、医師から一生妊娠できないかもしれないと診断される。おまけにAIDSへの感染も気になる。人と接することが苦手だった紅葉が唯一心を許せる相手、最愛の恋人コウを苦しめたくないという思いから、真相が伝えられず、彼との破局を恐れながら…レイプ犯たちへの復讐の機会を窺う。そんな時に、紅葉の前に不思議な美少年が現れ助言を与える…その少年の顔にどこか見覚えがあるのだが…。
桜井亜美は3冊目かな?この前に読んだのは、「チェルシー」という集団自殺をテーマに描いた作品だった。正直、前回読んだその「チェルシー」は、死を選ぶことと、生きることの選択が、あまりにも安易すぎちゃって…物凄く自分勝手なキャラクターたちにあまり共感ができなかったのだが…今回は、どん底に追い詰められた人間が、もう一度、生きる気力を掴むという似たテーマでありながら、「チェルシー」ほど嫌悪感は感じなかった。
他人を思いやる気持ちと、自己中心的な考えの紙一重なところ…人を愛する気持ちというのを主人公がしっかりと悟っていくところが良かったかな。愛を貫くってどういうことなのかを考えさせられる。
個人的採点:60点
サマー/タイム/トラベラー2 著:新城カズマ
- サマー/タイム/トラベラー2
新城 カズマ
早川書房 ISBN:4-15-030803-9
2005年7月発行 定価693円(税込)
この間読んだ、「サマー/タイム/トラベラー」の続きで、完結編の第2巻をようやく読み終わる…。
時空を跳ぶ能力をだんだんと制御できるようになってきた悠有…また連続放火事件など不穏な空気が漂う辺里市。卓人たちのプロジェクトは佳境に差し掛かり、悠有の力を利用して、ある計画を実行しようとする…。
1巻目のまったりとした雰囲気から一変して…放火事件や行政の不備やらと話はきな臭い方向へ、怒濤の展開をみせる。 ただし、結末は1巻の最初から暗示しているので、あっと驚く展開ではない。
悠有が時空間の移動ができる点と、やたらと少年・少女たちがSF談義に話を咲かせる以外は、SFというよりはサスペンス小説のような印象も受けていたのだが…段々とらしくなってきて、最後で一気にSF度が加速!?見事ワープ成功という感じでしょうかね(笑)
ただ、読んでいる最中の雰囲気などは1巻目の方が好みだな。SFのこと詳しい人だったら、途中のタイムトラベルについての講釈なんかが楽しくてしょうがないんだろうけど…そういう専門的な部分を抜かしても青春小説としてそれなりに堪能できた。
個人的採点:70点
サマー/タイム/トラベラー1 著:新城カズマ
- サマー/タイム/トラベラー1
新城カズマ:著
早川書房 ISBN:4-15-030745-8
2005年6月発行 定価693円(税込)
鶴田謙二のイラストに惹かれて、思わず買ってしまった1冊。なんか似たようなタイトルの映画も最近ヒットしましたが…田舎のSF好き高校生が遭遇する、不思議な夏の出来事…。作中キャラが語る薀蓄の3分の1くらいは、なんか小難しくて理解できない部分もあるんだけど、物語はちょっとノスタルジックでいい感じです。
辺里という辺境の町で暮らす高校生の“ぼく”こと卓人の幼馴染、悠有が、ひょんなことから時空を跳んだ!その話を聞きつけた、全寮制の女学校に幽閉されている響子が…その謎を解明するべくプロジェクトを発足。卓人と悠有と同じ学校に通う涼とコージンを交えた5人の高校生は、夏休みを利用し、SF小説を資料にタイムトラベルを分析し、幾多の実験を繰り返していた…。
1巻ということで、話はまだ全然完結していません、中途半端です。2巻も一緒に100円コーナーでGETしてあるので、続けて読むつもりだ。ということで、最後まで読まなきゃ、感想らしい感想も書けないんだけどね…。
最初にもちょこっと書いたけど、タイムトラベルの能力を持った悠有ちゃん以外は、頭がメチャクチャ良すぎる高校生で、彼らの会話を理解するのが一苦労。でもまぁ、難しい事は深く考えないで、とりあえずすっ飛ばしちゃっても、物語の方は問題なく楽しめる。難しいことを語ってるんだけど、会話の心地よさみたいなものは感じられる。
SFなんだけど…タイムマシンが出てくるわけでもなく、いまのところはSFっぽさはあまり感じない。完結編である、2巻でどんな展開になっていくのか、予想もつかないけどね。なんか、辺里という架空の町(多分)に関わる、田舎特有の閉鎖的な問題を描いてみたり、環境問題について語ってみたり…はたまた冒頭から思わせぶりに登場している“放火事件”というミステリアスな事件が起きたりと、その他にも色々と大風呂敷を広げているのですが…これが今後、タイムトラベル少女とどう関わってくるのかが気になってしょうがない。とにかく、高校生の男女の青春モノとして、なんだか楽しいです。それでいて、なんとなく悲しげな結末を予感させる流れもあるんだなぁ。
資料集めに、ブックオフの100円コーナーを活用し、Amazonでも検索するっていうところが、なんだか良いですね。まさに100円コーナーで買ってきて読んでいる自分が、作者に見透かされているような妙な気分にもなるけど(笑)
とりあえず続きを読もうっと!?
個人的採点:75点
扉は閉ざされたまま 著:石持浅海
- 扉は閉ざされたまま
石持浅海:著
祥伝社 ISBN:4-396-20797-2
2005年5月発行 定価880円(税込)
昨年末に発表された“このミス”で2位に入ったことで、増刷もかかり、本屋で平積みされていましたが…我慢した甲斐があったってもんです、いつものように古本の100円コーナーでGETです!?
成城の高級住宅街に建つ豪華なペンションで行われた、大学時代のサークル仲間による同窓会。それを利用して伏見亮輔は、密室に仕立てた客室で後輩の新山和宏を殺害した。中に入れない仲間たちは新山の安否を気遣う…。伏見の計画通りに事態は進行していたが…参加者の一人、碓氷優佳は鋭い洞察力で疑問を持ち、何かを見抜いているようだ…。
犯人もわかっていれば、冒頭でトリックも明かしてしまう…事件自体は物凄く地味なのに、息詰まる展開で引っ張り、きちんとした伏線と意外な真相を提示する、計算された見事な演出力。さすが、石持浅海だなって関心させられる、まさに正統派の本格推理。
犯人の心理描写を巧みに描きながら、飄々とした探偵役の美女との心理的な対決を描くという…「刑事コロンボ」的な展開が、シンプルだけど魅力的。
浮世離れした碓氷優佳というキャラクターが、ちょっと森博嗣の作品に出てくる、萌ちゃんにも似ているかな?って思ったり(笑)
個人的採点:75点
復讐執行人 著:大石圭
- 復讐執行人
大石圭:著
角川書店 ISBN:4-04-357211-5
2005年7月発行 定価620円(税込)
「処刑列車」と同時期にGETした、角川ホラー文庫、大石圭の「復讐執行人」を読了。前回読んだ「処刑列車」は旧作の文庫化だったので、やや文体などが最近と印象が違うなぁって感じでしたが、これは発刊時の書下ろしの新刊なので…いつものリズムに近かった。
美人の妻と可愛い娘に恵まれた香月健太郎を突然襲った悲劇!自宅に何者かが侵され、子供を惨殺。自分も腹部に深い傷を負いながら監禁を受け…目の前で妻が陵辱されている姿を見せつけられた。香月は幸いにも命を取り留めたが、妻の意識は戻らず…。復讐を誓う香月は執念で犯人を追う!一方、犯人の“僕”は…ある復讐を実行するために企てた犯行だった。この家族に、ここまでする、どんな恨みがあるのだろうか?
家族を殺され、人生をメチャクチャにされた平凡な男の復讐劇でありながら…異常な犯人の、逆恨み的な復讐でもある。お互いが復讐を成就させようとする姿、その執拗さが切々に描かれている。毎度ながら、ストーカー的な犯行に及んでしまう犯人の異常さに怖さを感じるわけだけど、彼の内面的なものにチクリと共感を得るものがあったりするのが、いかにも大石圭らしい。
「処刑列車」では、なんともいえないいや~なラストだったんですけど、陰惨な事件であり、復讐というテーマを描いているわりに、ラストでホッとさせられてしまうのは何故なんでしょうね? いくつかの復讐をテーマにした衝撃的な韓国映画のノベライズも手がけている大石圭だけに…あの韓国映画の鬼畜さとは違う、人間らしさを残した結末が、なんか良かったですね。
個人的採点:70点
ビーストシェイク 畜生どもの夜 著:戸梶圭太
- ビーストシェイク 畜生どもの夜
戸梶圭太:著
光文社 ISBN:4-334-07603-3
2005年1月発行 定価840円(税込)
前に読んだ「クールトラッシュ 裏切られた男」の続編?クールな犯罪者・鉤崎が登場するシリーズ第二弾!
鉤崎は、同時に二人の仲間から、同じ内容の仕事を誘われる。最初は乗る気ではなかったのだが…いつのまにか説得させられて、その仕事に関わるようになっていく。今回のターゲットは、希少動物を違法に収集し、コレクターに競売をしている男。彼の主催するオークション会場では、毎回のように数千万単位の現金が動くという…。一方、オークションに参加する動物ジャンキーの客たちもつわもの揃いだった…。
相変わらず変な人間大集合ですが、「クールトラッシュ」同様に、戸梶にしてはまともなクライムサスペンスとして楽しめる。 周りのバカキャラに比べて、鉤崎の仕事に対する冷徹な姿がカッコイイ。
意外なオチの後に、結末は読者の想像に委ねる感じになっていたが…個人的には鉤崎が活躍する続編が読みたいぞ!この作品で描かれていた結末を、切り抜けるような展開があってもいいように感じるが、そこがちょっと物足りない。前回とは違った結末を描きたかったんだろうなぁって感じです。
個人的採点:65点
処刑列車 著:大石圭
処刑列車
大石圭:著
角川書店 ISBN:4-04-357210-7
2005年5月発行 定価700円(税込)
また、久しぶりの更新になってしまった。結局、先月は2冊しか読んでないし(^^ゞさぁ、気を取り直して、今月こそたまっている積読本を少しでも減らしましょう!
大石圭の「処刑列車」をようやく100円コーナーで発見(一緒に「復讐執行人」もGETだ!)。他社でハードカバーで出版された作品が昨年、角川ホラー文庫に仲間入り。確かにおそろしいお話ではあるし、人もいっぱい死ぬが、思ったほど血みどろスプラッター感覚ではなかったかなぁと。
朝の通勤ラッシュを過ぎた、東海道線上り列車、快速アクティーが平塚、茅ヶ崎間にある鉄橋で突如停止。何者かによって列車が占拠されてしまった。運転手や車掌は次々と射殺され、犯人グループは乗客を限られた車両に閉じ込めてしまった。乗客に紛れ込んだ犯人たちが次々と現れ、犠牲者は増えるのだが…犯人側からは金銭的な要求も出てこない。いったい何が目的なのか?TVを通じて全国、いや全世界が見守る中…処刑は続く。
殺戮は行われるんだけど、かなり淡々と描かれているので、まるでスピルバーグの大量虐殺映画を見ているかのごとく、人間の死が当たり前になってくる。人が死ぬという怖さを感じなくなってきて…人間の生に対する執着、醜さといったものがどんどん浮き彫りになり、そういった部分の方が末恐ろしくなり始めるのだ。究極の選択…もし自分がこの列車に乗っていたら生き残ることができるのだろうか?
過去に出版されたものの文庫化であり、近作の大石作品を先に読んでしまっていたので…若干作品の印象が異なる。しかし多くの大石作品に共通する、誕生、出生という生きている人間全てが、誰もあがなう事の出来ない運命が根深く関わっているあたり、思わずニヤリとさせられるか?
出だしに比べて全体的なインパクトもテンポも、今のところ一番好きな大石作品の「自由殺人」と比べると、やや劣るかなって気持ちもあるが、なんとなく読み終わった後に、色々と考えてしまう要素は今までの中で一番多い作品であった。
個人的採点:75点
トカジャクソン 著:戸梶圭太
- トカジャクソン
戸梶圭太:著
光文社 ISBN:4-334-92405-0
2003年9月発行 定価1,680円(税込)
忙しくて本も読めなかったし、ブログも書けませんでした。20日ぶりの更新ですが、さぼっている間に何人かの方に読者登録をしていただいたり、コメントをいただいたり、ありがとうございました。
さて、今日から仕切りなおしで、なるべく本を読もうと思います。で、前回に続き戸梶を読みました。短編集です…いつも以上に変な小説です(笑)とりあえず、お馬鹿すぎて笑えるのですが、個人的にはもうちょっと真面目な要素が入っている戸梶作品の方が好きです。前に「トカジノフ」という短編集を読んだことありますが、あっちの方が面白かったです。この短編集の作品は、どれもやりすぎだっちゅうねん、戸梶センセ!?きっと簡単なあらすじとか書いても、読んでない人には内容が伝わらないでしょうね(爆)
涙でベストセラー
弱小出版社の新しく就任した社長に「ベストセラー」を出せと言われた社員一同。ネタを探すのではなくて、作れということで、アイデアを出し合い、お涙頂戴感動秘話満載の、偽のノンフィクション自伝を考え出すのだが…。
ろくな内容じゃないのに、ブームを築いてしまうベストセラー本。そういった世間の風潮をギャグという形で皮肉っていて、面白いのだが…何故かラストが近づくにつれ、アクションホラー風になってしまう。
Alexander
殺人事件の捜査中にも関わらず、捜査本部長が変わるという。後任はどうやら公安らしいという噂が流れ始め…実際にアレキサンダーと名乗る公安外事二課のアレキサンダー警視がやってきたのだが、なんと警視は猫だった。彼の推奨する猫式捜査術を実践すれば、どんな難事件も瞬く間に解決するという…。
ニューニュー言ってて意味不明。殺人事件のはずが…知らず知らずにスカイアクションへ(笑)どこまで飛んでいくのか、ネコ警視。一番面白かったのは、レンタルビデオの履歴を調べるところかな?
映画監督ゆみこ
映画監督志望のゆみこは、水商売で貯めた1,278,513円でビデオ映画を作ることに!カメラを買い、助監督のデイブを従え、「アクション映画」を撮るという。偶然出会ったジーン・ハックマン似の謎の男を俳優として無理矢理スカウト…撮影中に起きた爆弾テロも映画の一部に利用し、どんどん撮影は過激になっていく!
ノリの良さは、この本の中で一番かな。どこまでいくんだ度も、その代わり半端じゃなかったけど(笑)これ、実際に著者の手で映画化(ビデオ撮影のアマチュア映画)されて上映されたらしい…映像化できたのかよ本当に?
110番通報倶楽部
東京110番通報倶楽部…どんな些細な犯罪でも警察に通報し、逮捕に貢献すれば倶楽部での地位がどんどん上がっていく。また、毎年1回行われる…年間110番通報大賞を受賞すれば、賞金も出るのである。なんとしても、賞を受賞したい会員の神谷康太郎は、ライバルを牽制しながら…手柄を立てようと奮闘する。
戸梶作品って血気盛んなジジイがよく出てきますよね、これもそんな1本。実はジジイとババアのラブストーリーだったりするからビックリ。お願いだから、これは映像化しないでください(爆)
君に会いたくて
小劇団の売れない舞台演出家、団長の奥野は、ステージを見に来ていた美女、かおると出会う。後日、バイトの休憩中にかおるから携帯に連絡が…。夢中で話し込む奥野だったが、そこへ一台の車が突っ込んできて、はねられてしまう。幸い大事には至らなかったが、事故を口実にバイトをサボり、かおるとデートしようと考えた奥野は、車の運転手を脅し、かおるとの待ち合わせ場所まで連れて行くよう命令する!
演劇系の話なのかなって思ったら、最初のフリとは全く関係のない方向へストーリーは暴走…。次から次へと変な登場人物があらわれ、大団円を迎える。キャラクターが多すぎて、愛しの君に会いに行く奥野の存在をすっかり忘れてしまうのが、ちょっとマイナスか?
木岐ノ町貝塚組
山の中でヤンキー仲間をリンチで殺してしまった伸之たち…一度は逃げ帰ったが、死体をそのままにしておけないと思い再び現場に戻る。しかし、今度は伸之本人が死体と共に埋められてしまった…首だけ土の上に出した状態で。殺されるのかと思った刹那…人の声が近くで聴こえ、伸之をそのままにして仲間たちはまた逃げていってしまった。一人残された伸之が目撃した光景は…同じようにヤクザ者に地中に埋められた老人だった…。
埋めたヤツラの末路も凄いことに…。内容はともかく…一応オチはつき、暴走したままで終っていないところが救いか?
歌舞伎町スラッシュ
容疑者を尾行中の公安刑事たち…他の警官たちには理解できない符牒が無線を飛び交っていた。一方…家族でドン・キホーテに買い物来たが、痴呆の祖父とはぐれてしまった永井一家…心配する父と娘をよそに、母親は不倫相手の若い男のことを考えてばかり。そして肝心の祖父は…歌舞伎町を徘徊中に、バッタリと昔の恋人に出合ったのだが、相手のことを理解していないようすだ…。
一見、バラバラにみえた物語が、歌舞伎町という舞台でピッタリと合致する…。公安刑事の意味不明な符牒だらけの冒頭を読んだ時は、最後までこのテンションなのかと絶句しかけたけど…途中からなかなかスリリングな展開。戸梶作品には、よく登場する…別のものを追っているキャラクターたちが、それぞれ交差して新たな物語が生まれるという、タランティーノ映画チックなノリの作品。短編なので、この手法を描かれた長編に比べると、カタルシスが薄い。
ジャック・ザ・ナスティー
類い稀な美貌の美形裁判官、白鳥亜津摩…そのルックスの良さからマスコミでも取り上げられ、女性ファンから圧倒的な支持を得る。それだけではなく、彼の下す判決はどれも奇抜であり、注目を集めていた。
普通なら有罪確定みたいなヤツを、ヘンテコリンな理由をつけて無罪放免にしちゃったりするんだけど…裁判の矛盾点を戸梶流の解釈で皮肉っているのかなって思っておきますか。
いたずらクルッパー
薬の売人・大橋は…金をちょろまかしていたのがバレ、元締めの細野に呼び出された。許しを得ようと必死に懇願すると…「なんでもいいから俺を気持ちよくさせろ」と言われた。追い込まれた大橋は、思わず「切腹します」と言ってしまい、本当に腹を切らされてしまうのだが…なんと、割いた腹の中から、「クルッパー」という泣き声と共にイルカみたいな生き物の頭が出てきた!
えっ、ホラーですか?エイリアンみたいな生き物が人間の腹の中に寄生していたって話しみたいだけど…。その場違いな行動と、相変わらず容赦ないグロテスクな描写が、不思議な可笑しさを誘う。ただ…物語的には、やはり意味不明な感じ?奇妙な雰囲気を楽しむだけかな…。
好みなのは「映画監督ゆみこ」と「歌舞伎町スラッシュ」かな?
個人的採点:60点
グルーヴ17 著:戸梶圭太
グルーヴ17
戸梶圭太:著
新潮社 ISBN:4-10-475401-3
2005年4月発行 1,575円(税込)
昨年発売になった戸梶をGET!?積読のまま読んでいない戸梶いっぱいあるのに、これは面白そうなので、思わず先に読んでしまった。
峰尾学園には普通科と芸能科がある。普通科のやつらは馬鹿ばかり…芸能科のやつらは多少ルックスがいいだけ。両方の生徒に共通するのは、教師や大人を見下し、頭の中はSEXのことしか考えていないってことだ。普段は関わりになることが少ない両科の生徒だったが…普通科の生徒・友樹と隆弘が、街で怪しげな男に誘われたパーティーへ、芸能科の女子を連れいく約束してしまったことから、なんとか女子を連れ出そうと躍起になる(もちろん下心大ありで!)。一方、芸能科の悠伍はテクノ好きのDJ志望…ひょんなことからそのパーティーでDJを務めることになるのだが…。少年少女の様々な思わくが交錯し、何かが起きる!?
相変わらず、馬鹿で、下品で、安い人間大集合。格好つけていなくて、庶民的な妄想をそのまま文章化したような作品です。表現がエロイし、映像の世界では放送禁止用語になってしまう言葉を連呼しまくっているのですが、エロさを感じさせなく、むしろ清々しい。
セカチューみたいな高校生は嘘だと思って冷めてみちゃうくせに、こっちの方がよっぽどリアルで共感できてしまうのは何故?(笑)下品だと思うかもしれないけど、あなたもあるでしょ、こんな妄想に駆られたこと?すました顔してても、心の中では“やりたい!”って叫んでいたことが。戸梶センセイ流の、生きるってなんだろうって教えですよ、コレは。
だからといって…他の戸梶作品のように物語も面白かったのか?と問われると、ちょっと微妙かな~。映画好きの戸梶センセらしい、独特のギャグのツボで、今回も笑わせていただきました。
個人的採点:65点
TVJ 著:五十嵐貴久
TVJ
五十嵐貴久著
文芸春秋 ISBN:4-16-323650-3
2005年1月発行 定価1,890円(税込)
真保裕一の「ホワイトアウト」を彷彿させる、小説版「ダイハード」な1冊。
お台場にそびえる25階建てのツインタワー“ニューミレニアムビル”の中にあるTV局、テレビジャパンが武装集団に占拠された!居合わせた局関係者を人質にする犯人グループ。経理課の女性社員・高井由紀子は犯人たちの拘束を運良く免れたが…フィアンセの岡本佳が捕まってしまった。逃げる場所もない、助けも来ない状況で…由紀子は自然と犯人たちと対峙していくことになる。一方…警察は犯人グループのリーダーである“少佐”と名乗る男と、事件解決のために、交渉を繰り返していた。
ミステリー作家が書くくらいだから、ただ単にアクションを見せるだけでないのは予想でき…なんとなく展開は読めるものの、女性が主人公であり、普通のOLだったりするところが…既存の似た作品とは違った面白さがでていて、よく描けている。イメージもしやすいし、単純にエンターティメントとして面白い。直球すぎる内容だけに、そういうものだとわかって読むのが望ましい。
「交渉人」という作品も過去に書いている著者だが…今回も交渉人は、重要なキャラクターの一人でしたね。テンポも良いし、自分はけっこう好きだ。
個人的採点:70点