レヴォリューションNo.3 著:金城一紀
レヴォリューションNo.3
金城一紀:著
講談社 ISBN:4-06-210783-X
2001年10月発行 定価1,239円(税込)
先日、このシリーズの最新作「SPEED」を先に読んでしまったのだが、キャラクターに関することなど、こちらの作品とリンクしているようで、理解しにくい部分もあり、読む順番を間違えたと後悔したんですけど(笑)積読コレクションの中にコレもあったので、順序が逆になってしまったが続けて読んでみた。表題作ほか、3編の連作短編…。
レヴォリューションNo.3
有名新学校に囲まれた、おちこぼれ学校に通う“僕”とその仲間ザ・ゾンビーズの面々が、お嬢様学校の文化祭へなんとか忍び込み彼女をGETしようと、悪戦苦闘する!奇抜な作戦で、毎回成功の一歩手前までいくのだが…詰めが甘く、惨敗。高校生の彼らにとって3年目の今年が…最後の挑戦となるのだが…果たして成功するのだろうか?
最初、僕って誰だろうと思ったのだが…先に「SPEED」を読んでいたので、名前が出てこないヤツのことなんだなぁって理解できた。また、「SPEED」で繰り返し語られていた、ヒロシという友人の事もわかったし、彼に何が起きたかも、この作品で詳しく語られていた。順番を逆に読んじゃったので、どんなことが起きたか分かっちゃっていたのだが…それでもせつない気分にさせられますね。
ラン、ボーイズ、ラン
文化祭襲撃から3ヶ月…“僕”にも彼女ができたが、いまだ清い交際のままで、なかなか仲が進展しない。高校卒業を控えて、ゾンビーズの仲間と沖縄旅行を計画するが、みんなで貯めた旅費を仲間の一人がカツアゲにあい奪われてしまう。“僕”を中心としたゾンビーズのメンバー…旅行資金を調達するため日夜アルバイトに励む一方で、カツアゲ犯を探して金を奪い返すそうとする…。
「レヴォリューションNo.3」の後日談的なエピソード。友人ヒロシのことで悩む僕、恋のことで悩む僕…他の作品では高校生らしからぬ言動、行動も多々見られるが…なんかこの作品では普通っぽい一面も描かれていた。
異教徒たちの踊り
ゾンビーズの井上の姉の友人がストーカー被害を受けているので助けてほしいと頼まれた僕こと、南方は…最初は変態探しと安請け合いしてみたものの、ガードする自分自身も犯人から狙われ、俄然犯人探しに本気になっていく…。いったいどんな人物がストーカー行為を繰り返しているのか?とりあえず被害者の関係者から探ることになったのだが…。
ここで“僕”が、やはり南方だという記述がはじめて出てきた。3つの中では一番新しく書かれた書下ろしなのだが、時系列的には「レヴォリューションNo.3」よりも前の話になるんだね。あえてこういう順番で収録し、さりげなくヒロシという人物の背負っているものを、読者に突きつけるあたり、やはり構成の上手さを感じますね。
ゾンビーズが企んでる計画を、最後の最後まで読者に気取らせないという構成の仕方は、シリーズみんな共通してるんですね。推理小説で名探偵が確実な証拠を掴むまで、推理を出し渋るのと同じくらい…思わせぶりにひっぱるのが、なんか心地いい。
凄く面白かったんだけど…ただやはり自分は先に読んだ「SPEED」の方が長編なので好きかもしれない。理解しにくかったゾンビーズの意味深な発言があっても、長編の方がクライマックスへの盛り上げ方が丁寧なので、ドキドキ感が自分は増した。何度も悔やむけど、こっちを先に読むべきでした…残念。
機会があったら、他の金城一紀作品を読んでみようと思う(でも、今さら「GO」とか買うのもなんかなぁ)
個人的採点:70点
SPEED 著:金城一紀
SPEED
金城一紀:著
角川書店 ISBN:4-04-873626-4
2005年7月発行 1,155円(税込)
金城一紀は映画を見ているけど、小説を読むのは初めて。なんと…映画「フライ,ダディ,フライ」の高校生たちが活躍シリーズものだったとか…。そんなもん知らないので、読み始めちゃったんですけど、探したら積読本の中に「レヴォリューションNo.3」も発見。ヤバイ、読む順序を間違えた?
16歳の普通の女子高生、岡本佳奈子は、慕っていた女子大生の家庭教師・彩子の突然の自殺にショックを受ける。単純な自殺だと諦めきれない佳奈子は、死の真相を探ろうとするのだが、その行動を邪魔しようとする輩がいた。ひょんなことから知り合った他校の男子高校生の協力で、次々と明らかになる意外な事実。彩子の為にも、自分の手で落とし前をつけようとある計画を実行する…。
映画を見ていたので、高校生たちのイメージは脹らましやすかった。ただ、間の「レヴォリューションNo.3」を読んでいないからか、どうも思わせぶりな記述も多く、ちょっと気になった。なので、続けて「レヴォリューションNo.3」を読んでみることにする。
そういうマイナスの部分もしょっ引いても…まさに女子高生版“フライ,ダディ,フライ”といった感じで、テンポの良い展開と文章で一気に読める。 確か映画も原作者本人が脚本を書いていたと思ったが…構成の仕方なんかも、そのまま映画にできるような面白さが出ていますよね。頭の中で、女子高生の佳奈子役は誰が似合うだろうかなどと、想像しながら楽しく読んでしまった。ぜひ、これも映像化してもらいたいですね。
本当に、女子高生が成長していく姿が、生き生きと描かれており…読了後は、爽快感も味わえた。きっと、作者のこのシリーズを順番に読んでいたら、もっと面白かったのだろうと後悔しているところだ。
個人的採点:75点
警視庁幽霊係 著:天野頌子
警視庁幽霊係
- 天野頌子:著
祥伝社 ISBN:4-396-20808-1
2005年10月発行 定価860円(税込)
この間、普通の本屋で新刊本を見かけたばかりなのに、もう105円のコーナーで発見した!著者のデビュー作だそうで、霊媒体質の刑事が、幽霊や仲間の霊媒師と協力しながら、事件を解決してゆくという、全5話の連作短編になっている。
ある時から、他の人には見えないものが見えるようになってしまった柏木雅彦警部補。自分ではまっとうな刑事の道を夢見ていたのだが、「特殊捜査課」という一般には知られていない部署に配属させられてしまった。仕事といえば、事件の現場に出向き…成仏できずにこの世をさ迷っている被害者の霊とコンタクトをとり、事件を解決に導くというものだ。いつかは花形の捜査一課に配属できることを願いながら、幽霊たちへの事情聴取の日々が続く。さらに、5年前の通り魔事件で命を落とした女子高生の霊が、柏木の守護霊を気取って付きまとっている…。
第一話 洋館の人びと
豪邸に住む、資産家の老婦人が何者かに突き落とされて転落死した!当時、家に居た家族とその友人に疑いが…。通常捜査では一向に事件が進展しないので、特殊捜査課の出番がやってきた!
幽霊という非科学的な設定が出てくるのだが、証言や証拠から推理を働かしていき、犯人を当てるという…わりとオーソドックスに推理小説していて面白く読めた。
第二話 沈丁花の家
通り魔に殺された男性の霊にコンタクトをとった柏木は、逆にその霊に身体を乗っ取られてしまった!犯人に心当たりがあると思われる犯人が、もしかしたら柏木の身体を使って相手に復讐しようと画策しているのか?
この話は事件を推理するというような感じではなかったですね。コイツ何をするんだろうっていう展開を楽しむお話だった。
第三話 幽霊が多すぎる
墓地で見つかった身元不明の白骨死体。手がかりを探そうと…墓地に出没する他の幽霊たと接触を試みる柏木だったが…信憑性の薄い話ばかりが飛び交って、一向に手がかりがつかめない。
第二話よりもさらに酷くなったかな?もう推理小説じゃなくてもいいかもって思い始める。だんだんとコメディタッチのオカルト小説といった内容になってきた印象。
第四話 幽霊はブラームスがおすき
若いOLが自宅で殺された。かつて交際していた元恋人の男に疑惑の目が集中し…柏木が被害者の霊に話を聞いたところ、彼女もその男がやったに違いないと証言をするのだが、アリバイが成立してしまった。残る手がかりは…被害者の部屋に場違いなクラッシックのCDにあると検討をつけるのだが…。
2話、3話で横道にズレはじめたが…ようやく1話のような、推理小説としても楽しめる話に戻ってきた。事件そのものは、2時間サスペンスみたいな安っぽい内容だが…オカルト風のお話との按配がちょうど良い。
第五話 五年目の月夜
先輩の清水刑事の愛娘が誘拐された。行方不明になった現場付近で遭遇した幽霊の目撃情報から、柏木たちは、ある有名霊媒師に疑いを持ち始める…。犯人の目的はいったいなんなのか?
今まではこの話を語るための前フリみたいなものかな?少しずつ語られていた、柏木にへばりついている守護霊の女子高生幽霊に関する事件が絡んでくる。もうちょっと各話で上手に伏線のようなものが貼ってあれば、驚きもあっただろうが…どんでん返しも中途半端だった。
あとは、最初と最後にプロローグとエピローグがつく。
推理小説というよりは…奇抜な設定とキャラクターで読ませる、ライトノベルに近い作品かな?読みやすい事は読みやすいけど…事件の内容がだんだんショボクなっていった感じ。ほんと、第一話あたりはけっこう面白く読めたのだが…テンションが最後まで続かなかったなぁ。まぁ、デビュー作ということで、これからに期待しましょう。最近はもっと酷い新人作家もいっぱいいますから…テンポよく文章が読めるところは、評価します。
個人的採点:60点
晴れた空から突然に… 著:田中芳樹
晴れた空から突然に…
田中芳樹:著
徳間書店 ISBN:4-19-850641-8
2004年7月発行 定価840円(税込)
1990年に発表された作品で、その後何度も色々な出版社で文庫化もされているらしいのだが…田中芳樹はそんなに読んでいないので、新作だと思って買ってしまった(笑)でも、今読んでも古さを感じさせないからさすがである、巻末の解説を冲方丁が担当していた。
900人の乗客を乗せて、処女飛行の旅に飛び立った豪華飛行船「飛鳥」…しかし何者かから爆弾を仕掛けたとの脅迫が!さらに乗客の一人が不審死を遂げる…。これらは事件の幕開けにしか過ぎず、テロリストやモンスターが現れ、飛行船内は大パニックに陥る。乗客の一人として乗り合わせた考古学者の梧桐俊介は、姪の日記と共に事件を関わっていく。
(ダイハード+インディ・ジョーンズ+バイオハザード+タイタニック)×ヒンデンブルグ…といった感じのノンストップアクションサスペンス。爽やかな主人公、萌え萌えなヒロイン、ちょっとキザな悪役と…相変わらずキャラクターの配分も上手ですね。俊介の姉であり、日記の母親である美奈子さんが、なんとなく薬師寺涼子シリーズの涼子様に似ている。
悪役たちが、芝居がかった小難しいセリフを喋ったりするのだけど…話の内容は頭を空っぽにして楽しめるエンターテイメント作品。本当に、映画かアニメでも見ているようなノリでスルスルと読めます。感想としては、単純に楽しかったとしかいいようのない作品ですね。
個人的採点:65点
青空の卵 著:坂木司
- 青空の卵
坂木司
東京創元社 ISBN:4-488-01289-2
2002年5月発行 定価1,785円(税込)
外資系の保険会社に勤めるサラリーマン坂木と、ひきこもり気味のプログラマー鳥井…子供の頃からの幼馴染の2人の間にある、友情を通り越した関係。そんな2人が日常の中で出会う、不思議な事件を綴った連作短編集…。殺人事件とかは出てきません。
夏の終わりの三重奏
ひきこもり気味の鳥井を誘って、スーパーまで出かけた坂木…そのスーパーである女性とおかしな出会い方をする。初めて会った時は愛想もなく、その自分勝手な振る舞いに鳥井は苛立たせてしまったのだが、次に再会した時は急に愛想がようなって彼女から2人に近づいてきたのだ。勘の良い鳥井は、何か魂胆があるのではと考える…。そんな時、自分たちの住んでいるすぐ近くで、通り魔事件が頻発しているという情報を耳にするのだった…。
一番、事件らしい事件だったかな?その後のエピソードにも絡んでくるのだが、警察官の友達という設定なんかは、ちょっと話が上手くいきすぎじゃない?しっかりと推理小説にもなっているしね。作品の導入部としてはキャラクターも魅力的によく描けていた。
秋の足音
坂木はが偶然知り合った盲目の美少年塚田…。何者かに尾行をされているので助けて欲しいと相談をもちかけられたので…いつものように鳥井の知恵を拝借する。
これはなんとなく察しがついたかな。でも、ラストのカミングアウトはびっくり仰天。そこまでは、推理できなかったです。
冬の贈りもの
盲目の美少年塚田の友人で、歌舞伎役者・石川助六の元へ、ファンらしき人物から、古臭い亀の置物など、奇妙な贈りものが繰り返し送られてくる。不審に思った助六は、坂木&鳥井に助けを求めるのだが…。
春の子供
坂木が偶然知り合ったまりおという名の少年。迷子か?家出か?家庭の事情で父親を訪ねてきたらしいのだが、その父親も不在。必要以上のことを口にしないまりおが、何かの障害を持った子供なのではないかと心配になり、父親が戻ってくるまで面倒をみようとするのだが…。
ほんわかとした作品なのに、けっこう騙される快感という、推理小説の醍醐味が味わえる。人が死ななくても、犯人とか出てこなくても、推理小説って書けるんだって、あらためて実感させられた。
初夏のひよこ
ある事件で知り合った熟年夫婦が、小料理屋をオープン…その祝いに、坂木は鳥井を連れ立って店を訪れるのだが…。
オマケみたいな感じの10ページ程度の短い話。それぞれの事件で知り合ったキャラクターの思い出話みたいな、この巻のエピローグ的なエピソードだろう。
なんか、出てくるキャラクターが、とってもホモっぽくみえるんだよね。少女漫画みたいな…綺麗すぎる、臭すぎる友情話。好きな人はそういうところがツボなんだろうけど…。坂木司の視点で描かれていくのだが、自分のことは“僕”だし、出てくる人は“さんづけ”“くんづけ”で、お行儀の良さが、ちょっとむず痒いよね(爆)
作者と劇中人物の名前が同名なので、てっきり作者は男だと思っていたんですけど、巻末に原作者のインタビューが載っていて、「男か?女か?」という問い掛けがしてあった。それをあえて、語らず…素性明かしてないんだよね。そういえば、この少女漫画的な雰囲気は、もしかして女性作家なのか?話の内容よりも、正体を明かさない作者の方が、ちょっと気になる…。
キャラクター同士の関係の描き方は個人的に微妙なんだけど…各エピソードのゲストキャラみたいなのが、そのまま次のエピソードにも関わっていくという方法は、けっこう好きかもしれない。
実は「仔羊の巣」という続編を入手してあるので、近いうちに読んでみる。
個人的採点:60点
NR ノーリターン 著:川島誠
NR ノーリターン
川島誠:著
角川書店 ISBN:4-04-873572-1
2004年11月発行 定価1,470円(税込)
この著者の本を読んだことはなかったのだが、映画化されたものは見たことがある。読み始めてから「800 TWO LAP RUNNERS」の原作者であることを、巻末の著者紹介で知った。
事故により記憶喪失になった…高橋進。両親を失ったらしいのだが、記憶が全くない。陸上の選手だったらしいのだが記憶にない。バルセロナから後見人として、15歳の叔母さんと称する少女がやってくるは、怪しい中国人、セクシーな美女、ヤクザと怪しげな奴らがたくさん近寄ってくる。進を救世主と崇める、MSUという組織の正体は何なのか?その前に高橋進っていったい何者なのだ?
記憶喪失の進くんの視点…で描かれていくから、なんだかよくわからない。ミステリータッチに、ちょっぴりHに、ドタバタコメディな展開で話を進めながら、少しずつ真実が明かされていく。なんかハリウッド映画みたいな壮大なストーリーを、ちょっと下町風にしてみましたって、感じのノリかな?話の展開が無理矢理すぎちゃって、ちょっとひく…。
最後の方で急に“人生って何?家族って何?愛って何なの?”…っていうのに答えを出そうと、さらに支離滅裂な展開になっていく。
あまり真剣に読むよりは、コメディか何かだと思って読んだほうがいいかもしれない。MSUの正体、さらにそれに対立するもう一つの組織の正体…滝本竜彦の「NHKにようこそ!」の“NHK”の意味と同じくらい、くだらなすぎてビックリした。
エロ描写はバカバカしくて笑えました。
個人的採点:60点
名探偵はもういない 著:霧舎巧
名探偵はもういない
霧舎巧:著 原書房 ISBN:4-562-03480-7
2002年2月発行 定価1,890円(税込)
講談社ノベルスで出ているのは、全部読んでいるのだが…このハードカバーには手を出していなかったんだけど、ようやく100円でGETできた!ただ期待が高かった分、雰囲気とキャラクターを楽しむ程度にしか至っていなかったのが残念だなぁ。
山奥にひっそりと佇むペンション“すすかげ”…普段は閑古鳥が鳴いているような状態だが、この日ばかりは何故かお客でいっぱいだった。訳ありの、怪しげな人ばかりが集まったこのペンションで、不可解な連続殺人事件が起きる!
嵐の山荘、名探偵による推理合戦という懐古趣味な雰囲気は良いのだが、いつもの霧舎巧らしい小気味良さが、文体から全く感じられない。キャラクターでおおって思わせるあたりは、島田荘司の「龍臥亭事件」みたい。ただ、こちらの作品はそのためだけに読まされたような印象が拭えないな。
霧舎巧の他の作品を読んでいる人なら、あるキャラクターたちが関係してくるので、読んでおくのもいいかもしれないが、それだけだな。どうせなら、時代設定までも読者を欺くくらいの大仕掛けがあっても良かったかもしれないね。それか、いつものメンバーで、もう少し軽い読み物にすべきだったか…。
個人的採点:60点
モップの精は深夜に現れる 著:近藤史恵
モップの精は深夜に現れる
近藤史恵:著
実業之日本社 ISBN:4-408-50448-3
2005年2月発行 定価860円(税込)
前に読んだ「天使はモップを持って」の続編。清掃員のキリコが遭遇する様々な事件を綴った短編集。殺人事件っぽいものもあるのだが…ほとんどは日常的な些細な出来事。前作では…一貫して新人サラリーマンの視点で語られていたが、今回は全て語り手が違う。中には前作に登場したキャラクターが再登場するものもある。
悪い芽
あるソフト会社の中年課長の栗山は、家では娘、会社では若い部下とのコミニケーションが上手くいかず悩んでいる。さらに親会社から新部長が乗り込んでくるというから大変だ。そんな時に、清掃員のキリコと出会い、自分の悩みを相談するようになる。逆に、今度は環境の変化から何かを感じ取ったキリコが…社内で不正が行われているのではないかと栗山に対処方法を示唆するようになる。
前作のオフィス小説っぽさが一番出ている感じの作品。サラリーマン社会にありそうな人間関係、常識・非常識が上手に描かれており、それが事件に繋がっていく。
鍵の無い扉
小さな編集プロダクションに務める編集兼ライターのくるみ。クライアントのセクハラにも耐えながら、なんとか仕事をこなしていたのだが…尊敬する社の女社長が自室で変死した。猫アレルギーによる喘息の発作が原因と判明し、事故として処理されたのだが…たまたま仲良くなった清掃員のキリコから、それが故意に引き起こされたのではないかと打ち明けられる。キリコは掃除中に、証拠になるあるものを社内で発見していたのだ…。
一番、推理小説らしい作品…人が死ぬし(笑)容疑者、動機、証拠など…上手に伏線が貼られていて、めずらしくフェアに推理を楽しめるようにもなっていた。
オーバー・ザ・レインボウ
モデルの葵は、事務所に内緒で…同じモデル仲間のケンゾーと交際していた。しかしケンゾーが他のモデルと二股交際をし、妊娠させてしまったことから…自然と関係が消滅してしまう。失恋のショックで仕事にも集中できなかったのだが、清掃員のキリコに愚痴を聞いてもらっているうちになんだか落ち着きを取り戻す。しかし、今度は葵の名前を語って、ケンゾーの交際相手に嫌がらせをしている人間がいるということで、ケンゾー本人から攻められショックを受ける。いったい、誰が、何の為にそんなことをするのか?
犯人に関しては、なんとなくめぼしはつけられるよう伏線が貼られていたが、真相や動機が…とってつけたような感じがしないでもない。推理小説としては「鍵の無い部屋」の方が面白かったか?
きみに会いたいと思うこと
家事に加え、祖母の介護までを妻に押し付けてばかりいる大介。気にしていながらも、妻にばかり頼りっきりになっていたのだが…急に妻から「1ヶ月間旅に出たい」と相談される。彼女のためだと快く認めたものの、1ヶ月という期間の長さから不安を抱きはじめる…。
前作に収録されている「史上最悪のヒーロー」の延長にあるような作品。前作の語り手、大介がこのエピソードで復活。自分の結婚生活に疑問や不安を抱きはじめるといった感じの内容だ。前作はどんでん返しの仕掛けが用意されていたが…今回はそれを読んでいるというのが大前提のようなお話です。いなくなった妻を捜すという、ミステリー小説っぽい構成・仕掛けはしてあるものの…結婚生活というものでぶつかるリアル悩みだったり、介護問題を中心に描いている。自分はまだ独身だが…自分の祖母が似たような境遇なので、出てくる話がすごくダブってしまい、推理小説としてのカタルシスはイマイチ味わえなかったのだが…なんか嫌いになれないエピソードだった。
一番、面白かったのは…最も推理小説らしくない最後の「きみに会いたいと思うこと」かな?
個人的採点:65点
Fake 著:五十嵐貴久
- Fake
五十嵐貴久:著
幻冬舎 ISBN:4-344-00679-8
2004年9月発行 定価1,785円(税込)
昨年のこのミステリーがすごいの、十何位かに入っていた作品。帯には“名画「スティング」を超える驚愕の大仕掛け”というキャッチコピーがあり…どんでん返し系の作品ではないかと期待が高まる。
個人で調査事務所を経営する宮本剛史の元へ、浪人生の息子をなんとか美大へ合格させて欲しいと奇妙な依頼が舞い込む。実は宮本は、過去に親類に頼まれ、ハイテク機器を駆使しカンニングの手助けをしたことがあったのだ。もちろん…そのことは当事者以外にはバレていない筈なのだが…どこで噂を聞いてきたのか、その親子はカンニングの件を知っていた。渋々ながら依頼を引き受けた宮本は…パートナーである東大生の加奈と共に綿密な計画を立て、万全の体制で試験に挑どむ。しかし成功目前で…どこからか情報が漏れたらしく…カンニングがバレてしまった。完璧だったはずの計画が何故ばれてしまったのか?実は、この依頼には思わぬカラクリがあったのだ!自分たちを罠にはめた人物に、復讐してやろうと…逆に大仕掛けの罠を思いつくのだが…。
「スティング」へのオマージュだそうだが、香港映画の「ゴッドギャンブラー」や007シリーズみたいな雰囲気もあったなぁ(笑)確かに、ラストはハリウッド映画みたいな大どんでん返しの大仕掛けが用意されていて、すげ~って驚いたけど…映画なんかでは普通にあるパターンだよね。それを気取らせない文章力・構成力はたいしたものです。
ここまで克明に、カンニングやイカサマ博打の方法が載っていると、実際にできるんじゃないかと錯覚してしまいますよね(笑)
あとは、キャラクターが面白く描けているので飽きないですね。主人公とヒロインの関係なんかも新しくていいなぁって思った。自分の幼馴染が高校時代につくった娘という…一回り以上も年の離れた男女の微妙な関係が、なかなかよく描けていました。兄と妹とかっていうオタクが好きそうなパターンってちょっと飽きちゃったじゃないですかぁ。なんか新鮮でよかったなぁ。
個人的採点:75点
各務原氏の逆説 見えない人影 著:氷川透
各務原氏の逆説 見えない人影
氷川透:著
徳間書店 ISBN:4-19-850660-4
2005年1月発行 定価860円(税込)
数ヶ月前に読んだ、氷川透の「各務原氏の逆説」の第二弾を105円で見つけたので早速読んでみた。学園ミステリーの類いで、お馴染みのキャラクターもでてくるシリーズものだが…語り手は前作と違います。
無気力な今時の女子高生、栗林晴美は…ひきこもりだが、スポーツ観戦好きの兄の影響で、サッカーに詳しくなってしまった。その知識を、サッカー部のマネージャーで同級生の島本梓に見抜かれてしまい、自分もサッカー部のマネージャーをやるハメに…。インターハイの目前に、サッカー部のエースフォワードのリョーこと不破了介が謎の失踪。学校の敷地内で、死体となって発見された。明らかに他殺なのだが、偶然その場に居合わせた軽音部の桑折亮は、警察に知らせる前に…用務員の各務原氏に今後の対応を相談しよと提案するのだった…。
ひねくれた逆説で…真実を見抜いていく、用務員の各務原氏。前作は作品全体にもある仕掛けが施してあったのだが、今回はその手のトリックはなしです。まぁ、同じ手は二度使わないだろうなぁ。真相は“そんなのかよ”という拍子抜けなのは前作同様。相変わらず、フェアに伏線を貼っているところは好感が持てるが、意外性は少ないです。
語り手が女の子になったので、印象はだいぶ変わった。もし、シリーズが続くのなら、このまま毎回、語り手が変わっていくという方法も面白そうだ。
個人的採点:65点